次元海賊船ガランチョウ   作:やーなん

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1-2 初戦闘

 

 

 

「あの、いったいどういうことですか?」

 

 とりあえず俺は切羽詰まってる様子なのでフランツ伯爵に尋ねてみた。

 

「説明をして頂かないとこちらも何も決められないのです」

「その説明している時間が惜しいのだ!!」

 

 彼の表情は強張っており、焦りに満ちていた。

 俺は彼を落ち着かせる意味も込めて対話を試みる。

 

「仮にこの船を接収して、どうするのです?」

「決まっている!! 

 帝国の艦隊の元へ向かい、仲間と合流するのだ!!」

 

 こいつ、帝国の人間か!! 

 確か次元帝国は貴族制を敷いている。

 まさか助けた相手が帝国軍人だったとは!! 

 

「艦長、交渉なら私に任せなさい」

「メリス……じゃあ何とかしてくれ」

 

 正直、もう交渉云々言っている状況じゃない気もするが、まあ自信満々だし任せてみる。

 

「艦長、戦いの準備を」

「え、今メリスが交渉するところだぞ」

「知ってるでしょう? メリスの交渉能力は──」

 

 リネンが俺に耳打ちしている間にも、残念なことに状況は進んでしまった。

 

「改めて名乗りましょう。

 我が名はメリス・フォン・エルリーバ。27代続いた由緒正しい名家の当主にして大貴族。

 私侯爵だったけど、貴方の地位はなんだったかしら?」

「煽ってんじゃねえよてめぇ!!」

 

 そもそもその地位とやらはあんたが人間だった頃の話だろ!! 

 お前の地位を保証してた国も家も、全部没落してんだろ!! 

 

「貴方のような品も格も引く男が私の船を接収? 

 笑わせないでほしいわ。さあ、身の程を知ったら土下座して非礼を詫びなさい」

「ぐ、ぐぐぐ、おのれぇぇ!!」

 

 メリスの上から目線の見下しマウントパンチによって、フランツ伯爵は完全に激高してしまった。

 彼は腰に差していたサーベルを抜いた。

 

「この私を馬鹿にしたことを後悔させてやるぞ!!」

「自分と相手の力量の差も分からないの? 

 あなたの相手なんか、チュートリアルにもならないわ」

 

 メリスは虚空からガンマンのようにリボルバー銃を無駄にくるくる回しながら取り出した。

 お前最初から交渉する気無かったろ!! 

 

 結局、俺たちはフランツ伯爵と戦うことになってしまった。

 

 

 

 §§§

 

 

 結論から言おう。

 

「ぎゃふん!?」

 

 フランツ伯爵はザコかった。

 恐らく見様見真似の剣術なのは素人の俺でもわかってしまうくらい彼の戦いのセンスが無かった。

 ただ装備、というか彼の着ている服は一見貴族っぽい格好だったが、ボディアーマーのような防護服のようで、殆ど怪我はしていなかった。

 

 とは言え、ボディアーマーは致命傷を防ぐための防具で、弾丸の衝撃を消せるわけではない。

 メリスにしこたま銃弾をぶち込まれたフランツ伯爵はボディブローを連打されたに等しいダメージを受けたことだろう。

 

「伯爵殿、知っていることを吐いてもらおうか」

 

 俺はこいつを尋問しなければならない。

 フランツ伯爵は尻もちをついたまま後退った。

 

「ど、ドロテア、た、たすけてくれ!!」

 

 情けないことに、フランツ伯爵は何も言わずにジッと佇んでいる己の妻の足元に縋りついた。

 そんな夫に、妻は淡泊に言った。

 

「なぜ?」

「な、なぜって?」

「私は彼らの元に向かう必要性を感じないわ」

 

 黒い女は、派手な男を冷たく見下ろしそう告げた。

 

「だ、だが、彼らには世話になったではないか!! 

 ここで逃げ帰るのは道義にもとる!!」

「それで、貴方は死ぬのかしら? こんな船ひとつ持って行ってなにになるのかしら、あれだけの戦力があったというのに」

「ぬ、ぐ……それは」

「義理や人情、それは素晴らしいことよ。

 だけど、貴方の命は取り返しがつかないじゃない」

 

 普通、男性は理性的で女性は感情的になりやすいと聞くが、この夫婦の関係は全く逆らしい。

 これなら、彼女がこの男を大人しくさせてくれるだろう。

 

「そ、それは違う、違うぞドロテア!! 

 これは名誉の問題なのだ!! 

 この命尽き果てても、我が名誉は代々語り継がれ、永遠となるのだ!! 

 お前は当主である私に、恥知らずになれと言うのか!?」

「…………(無言の圧)」

「……」

 

 いや、言い返さないんかーい!! 

 この夫婦、嫁の方がよほどしっかりしているらしかった。

 

「た、頼む、お前だけが頼りなのだ!! 

 私を見捨てないでくれッ」

 

 な、情けなッ。

 これにはメリスも呆れ顔だった。

 

「ふーん。で?」

「領地に帰ったら、か、家族サービスをするぞ!! 

 下の子の面倒も私が見ようじゃないか!! 家族全員で異世界旅行も付けよう!! 

 最近はモルモも口をきいてくれないしな……」

 

 フランツ伯爵の涙ぐましい懇願。

 ずっと冷めた表情をしていた彼の妻が、ニマリと笑った。

 

「そこまで言うなら仕方ないわね」

 

 え、いやおい、なんだよそれ。

 なんであんたやる気になってるんだよ。

 

「艦長、下がっていなさい」

 

 リネンが目を細めて俺に言った。

 

「彼女、見た目通りの年齢じゃないわ」

 

 は、と俺がその意味を測りかねていると。

 ぼうッ、と獣臭い臭いが広がった。

 

 その女は、まるでバトンのように燃える松明を指先で弄んでいた。

 それが軽く目の前を薙いだ。

 

 次の瞬間、炎が津波のように肥大化して襲い掛かって来たのだ!! 

 

「ちょ、おま!?」

 

 即座に二人が魔法障壁を張って、炎を防いだがその熱気は消えはしない。

 

「悪いけれど、夫の為にこの船を明け渡してくれないかしら?」

 

 彼女、ドロテア夫人は折りたたんでしまっていたとんがり帽子を頭に乗せた。

 その姿は、まさしく中世の魔女!! 

 

「ギリシャ神話における女神ヘカテーの象徴である松明かしら。

 あくまで守護神としての側面が強いヘカテーだけど、彼女の持つ松明は巨人を殴り殺したという逸話がある極めて攻撃的な武装なのよね。

 それにこの臭い、松脂に紛れてトリカブトの毒を仕込んでるわね?」

「それ完全に殺しに来てるじゃん!!」

 

 メリスの解説に俺は慌てて壁に取り付いてある空気清浄機の出力を最大にした。

 危険な毒気が異臭と共に消えていく。

 

「へえ、私と同業者だったかしら。

 こんなに簡単に見破られたのは初めてよ」

「生憎、私に分からない魔術は存在しないわ」

 

 松明の炎が荒れ狂い、それに対抗してこちらも守りに徹する。

 ヤバい、あの女、こっちの二人と渡り合える魔法使いじゃないか!! 

 

「なら、これでも喰らいなさい」

「ッ、テトロドトキシン、フグ毒、ゾンビパウダー!!」

 

 え、今、何が起こった!? 

 あの魔女の撒いた毒液が一瞬で気化したんだが!? 

 なんで障壁の中にいるメリスが膝を突いたんだッ!? 

 

「あなたがどれだけ優秀でも、解毒には時間が掛かるわね。これで、あと二人」

 

 嘘だろ、メリスの奴がほぼ無力化されちまった。

 そう言えば、なんでリネンは何の援護もしていないんだ? 

 

 彼女はジッと、あの恐るべき魔女を見ている。

 ただそれだけだった。

 

「は、はは、さ、流石はドロテア、我が妻よ!! 

 一応彼らは恩人なんだから手心を……」

「わかっているわ、あなた」

 

 己の妻の容赦の無さにドン引きしているフランツ伯爵がドロテア夫人にそう言った。

 

「……術式、コール・サーヴァントを起動」

 

 そんな時であった、リネンがすっと目の前に魔法陣を描き出したのは。

 召喚魔法。数ある種類の魔法の中でも、ずば抜けて難易度が高いとされる魔法を、彼女は息をするように扱った。

 

 きっとこの状況を打開する強力な召喚獣を呼び出すのだろうと、そう思った俺だったのだが。

 

「ぐるうぅぅ、わんわん!!」

「おいで」

 

 魔法陣から現れたのは、黒い大型犬だった。

 普通に人間相手なら頼れる相棒かもしれないが、相手は神の化身相手に渡り合える高位の魔法使いである。

 どうせならもっと強そうな魔物とか呼べばいいだろ、と俺は遠巻きに見ながらそう思ったのだが。

 

「その犬はッ」

 

 愛想よく駆け寄って来てリネンに甘えるワンコを見て、なぜかドロテア夫人はギョッとしていた。

 え、どういうことだ? 

 

「知らぬこととは言え、無礼をお許しください。……我が神よ」

「赦す。夫への献身を、なぜ責められようか」

 

 ドロテア夫人が犬の背を撫でているリネンに頭を下げていた。

 つまり、どういうことだってばよ。

 

「私は当人ではないが、解釈次第で復讐も司っているとされている。

 即ち、女神ヘカテーと同一視されているのだ」

「ええ、地獄の番犬を使役できることこそ、その証拠」

 

 はあ、このイッヌが地獄の番犬? 

 この人懐っこそうな奴が? 

 

「わんわん!!」

 

 地獄って、案外ゆるい所なのかもしれない……。

 

 

 

 §§§

 

 

「はぁ!? あんた帝国の人間じゃないのか!?」

 

 戦闘が終了したところで、お互いの認識のすり合わせが行われた。

 そしたら紛らわしいことに、このフランツ伯爵は全く帝国とは無関係の人間だということが分かった。

 

「帝国は帝国でも我が祖国は神聖ローマ帝国だ。

 今は時空防衛隊の食客として手を貸してやっていたのだ」

「神聖ローマ帝国? 時空防衛隊?」

「我々は地球で言うところの13世紀頃の人間らしいな。

 まあちょっとしたことから連中と縁が出来てな」

 

 どこからツッコめば良いんだ……。

 

「時空防衛隊とは?」

「並行世界移動や時間移動が可能な文明や組織、犯罪者などから歴史改変等の介入を防ぐ為の組織よ。

 ドラ〇もんで言うならタイムパトロールね」

「実に分かりやすいたとえですね」

 

 俺の疑問はメリスが代わりに答えてくれた。

 所謂正義の味方らしい。

 

「先日、時空防衛隊の本部に次元帝国の艦隊が現れた。

 そして連中は問答無用で我々を攻撃してきたのだ!! 

 ……隊長たち正規の隊員たちは私達を脱出艇に乗せ、逃がしてくれた」

 

 ブリッジのテーブルの前で両手を組んで額に合わせて沈痛な表情をしていた。

 

「だからこんなデタラメな座標に漂流していたのね」

 

 メリスは得心がいったように頷いた。

 俺もようやく彼の状況が呑み込めていた。

 

「もうわかっただろう、彼らを救援に行きたいのだ、頼む!!」

「それは無理ね。この船に時間軸移動機能は無いわ。

 今から行ったところで彼らの救援に間に合わない」

 

 メリスの言葉は残酷だった。

 ただただフランツ伯爵に現実を突き付ける。

 

「そんな、そんな!!」

 

 だん、と彼は悔しそうにテーブルを叩いた。

 

「帝国は時間までも思いのままにするつもりなのか」

「次元帝国の文明レベルは90。不可能という事柄の方が少ないはずだわ。

 とは言え、連中の時間移動の技術はまだ不完全だったはず。

 時空防衛隊の祖は時間移動技術を窮めた文明が基になっているから、その技術を欲したのでしょうね」

「或いは、邪魔だったのか」

 

 メリスとリネンが所感を述べる。

 どちらにせよ、許されないことだ。

 

「……どうにかできないんですか?」

「そうね、手始めに時空防衛隊を味方に引き入れるというのは悪くないと思うわ」

「私もそれに賛成です」

「だからどうやってそれをやるんです?」

 

 救援は不可能だとメリスが言ったのである。

 

「我が技術の源泉、“次元工廠(アーセナル)”に向かいましょう。

 あそこになら、人類文明の全てがある」

 

 聞いたことが有る。

 女神メアリースに選ばれた人間のみが行くことを許されるという、人類の叡智の最果てだと。

 

「……俺が帝国なら、真っ先にそこを狙うと思うんですが。

 そもそも中枢ユニットが連中の手にあるなら、行くだけ無駄では?」

「実は、あそこは私の趣味の開発ばかりをやらせているロマンの巣窟なの。

 人類の管理運営とは関係ないから、中枢ユニットとは別のシステムで動いているわ」

「趣味っておいおい」

 

 ホントに大丈夫なのか、この神様。

 

「勿論兵器も沢山有るわ!! 

 いつか来るかもしれない外次元からの侵略者を相手を想定した戦闘兵器とかね!! 

 ……まあ、大半は実用性が無いから死蔵してるけど」

「税金の無駄じゃねえか!!」

 

 ダメだ、この神様。思考回路が中学生レベルかよ!! 

 

「なにを言うの。この船も“次元工廠(アーセナル)”で作られたモノなのよ。

 まあコストに見合わないから後継機の製造は見送られたけど」

 

 やっぱり欠陥品じゃねえかこの船!! 正体見たりって感じだな。

 

「あそこなら時間軸移動装置も、艦載機も用意できるわ」

「この船のエネルギー供給は?」

「言わなくても分かってるでしょ? 

 この船のエネルギーシステムは他とは互換性が皆無だって」

 

 やっぱりな!! 

 ちょっとでも期待した俺が馬鹿だったよ!! 

 

「不満そうね。言ったはずよ、これはプロトタイプだって。

 あなたに貸したのだって運用データが欲しかっただけだもの」

「……一応感謝はしてますよ」

 

 嘘は言っていない。嘘は。

 

「すまない。……ありがとう」

「帝国には俺たちも借りがあるんで、気にしないでください」

 

 軽く頭を下げるフランツ伯爵に俺は首を横に振って見せた。

 

「よし、時空防衛隊の救援に成功したのなら、正式に褒美を取らすぞ!! 

 これほどの大恩となると……非常に気が進まないが我が娘と婚約なんてどうだ?」

「結構です」

 

 嫌だよこのダメ伯爵を親父なんて呼ぶの。

 

「なに、遠慮する必要は無いぞ!! 

 ……正直、我が家でも持て余していたしな」

 

 おい、聞こえてるぞ。そんなにボソッと言ったって聞き逃すか!! 

 まさか押し付ける気じゃないだろうな!! 

 

「ふ、安心するがいい。我が妻に似て美しく、そしてとても聡明だ」

 

 全然父親に似なくて良かったですね。

 そしてこの父親は娘を押し付ける気満々なのに、肝心の妻の方は彼の右斜め後ろで最初のように何も言わず目を瞑っている。

 

「とりあえず、次の行動が決まりましたね。

 艦長、出発の号令を」

「……ガランチョウ、発艦」

 

 リネンに促され、俺は艦長席に座って号令を掛けた。

 静止状態だった船が駆動し、次元を突き抜け始めた。

 

 次の目的地は、神の工廠だ。

 

 

 

 

 




ソシャゲあるある:一つの目標を達成するのにかなり回り道をする。

年末年始は時間取れそうです。
ではまた!!
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