ゴブリンが、オークが、人狼が、鬼達が、一斉に押し寄せてきた。
なんなんだ、こいつらは!!
「邪魔よ、ゴミども」
メリスが虚空から無数の手榴弾をバラまいた。
「グレネード!!」
軍服のコボルトが叫ぶ。
だが、ここは狭い通路だ。魔物どもに成す術は無い。
爆炎と煙の向こうに、今度はメリスは軽機関銃を取り出して容赦なくぶっぱなしている。
「だから言ったじゃない、リネン!!
こんなゴミどもはやっぱり最初に処分しておけばよかったわ」
「メリス、彼らは私の管轄だ。
私がお前のやり方に口を出したことは有ったか?」
「いいえ、そうだったわね」
生憎、爆音で耳が馬鹿になっていた俺はそんなやり取りは聞こえなかった。
「おい、何なんだよ、あいつらは!!」
魔物どもは弾幕を搔い潜り、命知らずにもこっちに飛び込んでくる。
俺も必死にレーザー銃で応戦していた。
「わ、私も戦うぞ!!」
「あなた、ここは彼らに任せましょう。先に船に戻っているわ」
サーベルを抜いたフランツ伯爵だったが、その首根っこをドロテア夫人は引っ張って何らかの魔法で消えてしまった。
足手まといが居なくなったと見るか、戦力が減ったと見るべきか。
しかし俺はそんなことを気にする余裕はなかった。
「彼らはリーパー隊。
私が管理下の世界から手ずから集めた地獄にも逝けない快楽殺人者たちだ。
後天的ではない、先天的な殺人鬼の懲罰部隊だ」
「じゃあ何であんたに襲い掛かってるんだよ!!」
「彼らを運用する魔王軍のシステムは中枢ユニットによって賄われている。
あれらは命令に従って戦っているに過ぎない」
無数の魔法弾や矢が飛んでくる。
リネンが魔法障壁を展開し、爆撃の如き猛攻を防いだ。
「あんた達は下がっててくれ!!」
「は、はいぃ」
「じゃあお言葉に甘えて」
主任の爺さんとウインター博士を後ろに庇いつつ、俺はエネルギーの限りレーザー銃を乱射する。
やがて、銃声が終わった。
メリスが銃口を下ろしたのだ。
「ったく、なんだそのマシンガン。
絶対命中する携行できるガトリング砲かよ」
通路は死屍累々だった。
百体以上の魔物どもをメリスはほぼ一人で皆殺しにしていた。
軍服のコボルトの前には、仲間に守られて壁が出来ていた。悪態を付きたくなる気持ちも分かる。
「コスト度外視の、生前の最高傑作よ」
メリス、渾身のドヤ顔だった。
「だが種が分かればやりようはある。
──おい、お前たち、いつまで寝てるんだ!!」
軍服コボルトが廊下に広がる肉塊たちに怒鳴った。
すると、信じられないことが起こった。
まるでゾンビのように、魔物たちが起き上がったではないか!!
「なんだ、あいつら、化け物か!?」
「言っただろう、懲罰部隊だと。
そんな彼らを死なせてやるなんて、対外的にそんな
「確かにそうっすね、俺たちに襲ってこなけりゃ!!」
リネンの考えは俺には意味不明だった。
どうして殺人鬼どもを飼う必要があるんだ!!
「だがしかし、解せないな。
一度倒された部下を丸ごと呼び戻すなど、お前の矜持が許すまい」
「主上よ、これは仕事なんだ。矜持や私情を挟んでどうするよ」
「なるほど、やはり恨んでいるのか。
お前のかつての故郷を滅ぼした、我々を」
おい、やっぱりお前らが大体全部悪いんじゃねえか!!
だが、魔物の軍勢に守られた軍服コボルドの笑みは消えなかった。
「まさか。あなたとあろう御方が、見当違いなことを仰る。
──お前ら!! あそこにおわすのは、我らが奉る二柱の化身だ!! どうやら今日の任務の障害となるらしい、お前たちはどう思う!!」
彼の呼びかけに、魔の軍勢が答えた。
「め、女神さまなら、手足と頭ちぎってもおこられないかな?」
たどたどしい言葉の一つ目の巨人が無垢に笑う。
「つまりどれだけ殴っても、ブチ犯しても良いんですよねぇ!!」
下卑た表情のゴブリンが歓喜を上げる。
「文明を司る御方の戦技、その身で試し、そして是非味わってみたかったのだ!!」
刀剣を舐めるリザードマンが嗤う。
「私たちはそっちの男が欲しいっす。
散々搾り取った後、余すところなく食べてあげるっすよ。骨までね」
血の気に満ちたエルフ達が、嗜虐の表情を浮かべた。
「まさか本物のリーパー隊に遭遇するだなんて……」
後ろでウインター博士が震えた声を漏らしたのが聞こえた。
「想像以上にクソ野郎どもじゃねえか」
「だから私は処分した方が良いって言ったのに」
今回ばかりはメリスに同意見だった。
「よい、許す。
戦場の狂乱を誰が咎められよう。
好きなだけ殺し、奪い、犯し、辱めればいい」
「おい、おいおい」
仮に戦場の狂乱によって錯乱したまま悪行を行っても、こいつらの場合はまた別だろうが!!
「無論、できるモノなら、な」
「だ、そうだ。お前ら、やれ」
リネンの奈落の視線が彼らに向けられる。
軍服コボルトの号令が下る。
戦いは第二ラウンドに突入した!!
「シャーマン、矢避けだ!!!」
「もうやってます!!」
メリスの機関銃が火を噴く。
先ほど彼らを一掃した銃火はしかし、上下左右に散らばりがちになった。
「ちッ、必中属性と防御魔法が干渉してる」
銃砲は間違いなく迫りくる敵の軍勢に当たっている。
だが、致命傷だけを避けて彼らは徐々に距離を詰めてきている。
「マズい、じり貧だ!!」
連中は不死身に任せてこちらに雪崩れ込んできている。
まさにゾンビアタックだ。
「リネン!!」
絶え間なく乱射しているメリスも、このままでは徐々に不利だと悟っているのだろう。
相棒に支援を求めた。
「流石に博打ですが、これを使いましょう」
すると、リネンは懐から龍魂石を取り出した。
「それって、専用の施設が無いと使えないんじゃないのか?」
俺の銃撃も効果が無いので、手を止めて彼女に尋ねた。
「いえ、狙い撃ちが出来ないだけで、使うことだけは可能です」
「今から増援は、無理か。仕方ない、頼む」
孤立無援のこの状況で、援軍が来るだけまだマシだ。
「では。──―我が名はリネン・サンセット。
我は求め、訴えたり。我が声を聞く宿命を終えた勇者たちよ。
我が元に集え。我は助力を訴えたり」
リネンの詠唱が朗々と響いて行く。
「危ない!!」
「ちッ」
遂に弾幕を突破し、人狼が飛び掛かって来た。
俺は彼女を庇うことしかできなかった。
人狼の鋭く長い爪が、俺の腹部を貫通した。
血を吐く。だが。
「来たれ、その宿命の続きを描け!!」
詠唱が完成し、魔法陣が現れる!!
「────その声、聞き届けたり!!」
それは自信に満ち溢れた、まるで歌手のようなどこまでも響きそうな女性の声だった。
「さあ、悪漢たちよ。我が名を聞いて恐れ慄け。
我が美しさに見惚れるがいい。
そして、この武勇を見て膝を折れ!!」
「我こそは、楽園最強の騎士!!
超重騎士の称号を頂いた、その名もキャスリーン卿である!!」
現れたのは、美しい金髪を持つ女騎士だった。
……うん、俺は嘘は言っていないな。
「な、なんだあいつは」
その勇壮さに、軍服コボルト達だけでなく魔物たちも呆気に取られていた。
「魔物どもよ、我が暴威にひれ伏すがいい!!!」
轟ッ、と旋風が巻き起こった。
キャスリーン卿が百キロはありそうな鎖付きの鉄球をぶん投げたのである。
ぐわあああぁぁ、と前衛の魔物どもがボーリングのピンのように弾け飛んだ。
「わあぁ、おっきいボールだぁ!!」
身長五メートルはある一つ目の巨人がのっしのっしと近づいてくる。
巨人はその鉄板をも簡単に握りつぶせそうな手で、キャスリーン卿を鷲掴みにした。
だが。
「あ、あれ?」
「どうした、児戯は終わったか?」
不動。
あの巨体に摑まれてなお、キャスリーン卿は眉一つ動かさなかった。
「も、持ち上げられない!?」
「我が肉体は完璧な体脂肪コントロールにより、自在にその重量を操れる。
その範囲、およそ三倍から五百倍以上!!」
キャスリーン卿が一歩踏み出す。
ズシンッ、とまるでこの工廠全体が揺れた気がした。
「巨人よ、カロリーが足りないのだ。もっと食ってから出直すのだな!!」
キャスリーン卿が巨人の手を掴み返す。
その手の大きさは人間に相違無いのに、巨人が総毛立ったのが見えた。
「せや!!」
まさに、怪力乱心。
巨人は真っすぐにリーパー隊の最後方まで投げ落とされた。
「……大当たりだ」
思わずリネンが呟いたのを聞こえた。
俺たちは博打に勝った。まさに最強の騎士を呼び出したのだから。
未知の強敵の登場に恐れおののくリーパー隊たちだったが、違う連中も居た。
「こんなでけえ女、初めてっす!!
隊長、これ私達が殺したら食っていいっすか?」
「お、おう……」
恐らく、彼にしては珍しく困惑しているらしく、部下に生返事で了解を出してしまった。
「我ら、蟷螂の一族。お前を殺して喰らい、その力を我が物とするっす!!
お前たち、全員掛かれ!!」
小柄なエルフが、同胞たちに指示を出す。
蛮族の如きエルフ達の鉈が四方八方から襲い掛かる。
「この私を食す、だと?
目の付け所が良いではないか!!」
キャスリーン卿が全身に力を籠める。
そして闘気のようなオーラを発し、全身でその三次元殺法を受け止めた。
「だが、体脂肪の密度すらこの身は自在だ。
この身を三枚おろしにしたくば、龍殺しの剣でも持ってくるがいい」
無敵か、この女。
「今のうちに、こっちに」
「あう……」
敵勢がキャスリーン卿の存在感に釘付けになっている隙に、メリスが俺を引きずって後方へ退避した。
「今治療します」
「手伝うわ」
「た、頼む……」
ウインター博士とメリスが、俺の治療を行ってくれた。
そして、その間にも向こうの戦いは激しくなった。
「撃て撃て、数で押しつぶすっす!!」
鉄壁の肉体を持つ女騎士に、エルフどもは魔法攻撃やエンチャット付きの弓矢攻撃で絶え間なく発することで足止めに成功していた。
「ふ、浅知恵だな。この私に防御に徹させれば、攻撃は出来ないと、そう思ったな?」
俺からはその背中しか見えないが、彼女がニヤリと笑った気がした。
「知っているか!! 我が異名は超重騎士!!
『超重』と名のついた存在は、防御のまま攻撃できるのだ!!」
カードゲームかよ!!
いやさ、キャスリーン卿はその言葉を有言実行した。
彼女は魔法や矢の連撃を全身で受け止めながら、足のバネだけで突進を試みた。
「ば、化け物……」
一騎当千とは、まさに彼女の事だろう。
リーパー隊が弱いわけではない。彼女が規格外すぎるのだ。
「ふむ、参ったな」
戦神の如き強さのキャスリーン卿は、手短なところに倒れていた人狼を掴み上げた。
「この魔物は、毛皮を剥げば食べれるだろうか」
「ひ、ひえ」
ああ、魔物を食べる文化の人だったのか。
「そこのエルフモドキどもは、産まれた瞬間から人類判定されてない魔物どもだわ。
食べたければ食べて良いわ」
「なにッ、エルフモドキだと、サルのような珍味ということか!!」
メリスの無慈悲な言葉に、キャスリーン卿は満面の、いやまんまるな笑みを浮かべた。
「ぜひ、食してみたいなぁ……」
全長二メートル近い巨体(バスト二m、ウエスト二m、ヒップ二m、詳しい数値はわかりたくも無い)のキャスリーン卿が、尻もちをついて怯えるエルフどもに近づいていく。
「ぞ、族長……」
「ああ、これは……」
エルフどもは一斉に土下座した。
「我らは自分たちを屈服させた者を女王とします」
「これをお納めください」
彼女の族長らしい小柄なエルフが木製の冠を差し出した。
「ふむ、受け取ろう。
これで我が美しさがより一層引き立つ」
……ノーコメントで。
「隊長、どうしましょう」
「あー。ヤメだヤメだ。どうせ気が乗らなかったんだ」
隊長らしい軍服のコボルトは、降参とでも言いたげに両腕を上げた。
こうして、リーパー隊との戦いは幕を閉じたのである。
リーパー隊:シリーズお馴染みの懲罰部隊。どんなに雑に扱っても心が痛まない連中。シリアスからやられ役まで幅広い活躍をしている。
キャスリーン卿:拙作『キモデブヒキニートの唄』の登場人物。作中最強最重の騎士。
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