次元海賊船ガランチョウ   作:やーなん

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1-7 引き金

 

 

 

 人間とは不思議な生き物だ。

 中世から二十一世紀にかけて、比べ物にならないほど移動時間の短縮と移動距離を実現させたのに、短くなった移動時間を働くために使おうとする。

 

 じゃあ次は何を削る? 

 そうなった時、一番合理的だったのは睡眠時間だと言うことになった。

 

 艦長席に備わった休眠カプセルの機能で、一時間で半日近い睡眠を取ったのと同じ効果が齎される。

 しかも体感時間も引き延ばされるから、俺は好きなだけゴロゴロできるのだ。

 

 人間は労働しないと生きていけない。

 より豊かに生活する為にはもっともっと働かなければならない。

 生きるために労働をするのか、労働をする為に生きるのか。

 卵が先か鶏が先か。そんな矛盾がこの話には横たわっている。

 

 移動時間を削って、睡眠時間を削って、精神も擦り減らせて、最後は自分の寿命を削るのだろうか。

 俺は体感時間で丸一日分はそんな取り留めのないことを考えていた。

 

「艦長、トラブルです!! 

 対応をお願いしたく!!」

「わかった」

 

 俺は艦長席の操作パネルで、休眠カプセルモードを解除した。

 席を覆うシャッターが解除され、俺は休日出勤みたいな気分で状況を把握する為に周囲を見た。

 

「何があった」

「それが、こいつがこの船から勝手に降りようと……」

 

 俺の目の前で、工廠で合流した技術者の一人がリーパー隊の屈強な面々に床に抑えつけられていた。

 

「メリスは?」

 

 俺が問うと、俺に対応を求めてきた若い技術者が居た堪れない表情で後ろを指した。

 

「は~、酔えるって良いわね!! 

 お酒なんて人体に毒でしかないから取り上げたいけど、お酒を取り上げたら人類は人類じゃなくなるし。

 やってらんないわよ!! ねえ、リネンもそう思うでしょ!!」

「そうですね」

 

 メリスはワインをラッパ飲みしてリネンにダル絡みしていた。

 全肯定マシーンになってるじゃん、やめたれよ。

 

「船を降りたところで、ここは禁忌の地。

 処罰を決めて頂きたく……」

 

 彼も同僚を処罰するのは気が進まないのは表情が語っている。

 確かにここで勝手に船を降りたところで、そこにあるのはあの“門”だけだ。

 

「見せしめに惨たらしく殺しますかい?」

 

 リーパー隊の隊長は俺を見てニヤニヤと笑っていた。

 狂気的に見えて、このコボルト族の男は理知的な瞳で俺を見据えていた。

 ──試されている。俺の器を。

 

「……なぜ、お前は俺の船から降りようとした?」

 

 俺は膝を突いて、床に取り押さえられている技術者に声を掛けた。

 

「…………昔、憧れだった爺さんが、この聖地へ旅立ちました。

 禁忌だと分かっていても、好奇心には勝てなかった、と」

「それでなぜお前は行こうとした。

 分かっている筈だ。あそこに行って帰った者は居ないと」

「でも、艦長は戻られました!!」

「向こうから呼ばれたからだ。都合の良い使いっぱしりの為のな。

 お前が行ったところで、爺さんには会えないよ」

「それでも、それでも!! 

 希望が少しでもあるなら……」

 

 馬鹿馬鹿しい。そう思った。

 生身の人間が溶鉱炉に飛び込んで助かるだろうか? 

 

 コイツ一人が死ぬだけならそれも勝手だ。

 だが、あの“暴君”の機嫌を損ねるのは、そんなレベルで話せる次元の話じゃない。

 

「処罰を伝える」

 

 コイツは俺たち全員の命を危険に晒そうとした。

 こうした艦内の閉鎖的な空間では秩序が何よりも重要だ。

 

 ジョン爺さんも……。

 

「覚悟は良いか?」

 

 俺はレーザー銃を取り、彼の頭に標準を向けた。

 

「……はい」

「じゃあな」

 

 そして、俺は引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

「……あなた、何をしたか分かってるの?」

 

 俺はメリスの詰問を無視した。

 

「あいつはどうなった?」

「モニターに映しますか?」

「頼む」

 

 俺は自分の選択の結果をその眼に焼き付けることにした。

 

『あ、ああ、爺さんッ、俺、爺さんに負けないくらいスゴイものを作ったよ!! ねえ、また昔みたいに褒めてよ──』

 

 あの“門”が開く。

 おぼつかない足取りでその先へと歩いて行った彼は、閉門した彼方へと消えた。

 

 彼は最期、あの“門”の先で何を見たんだろうか。

 

「ねえ、聞いているの?」

「この船のあんたのなんだろうが、艦長は俺だ。

 俺の決定には従うことになってるよな? 文句あるか?」

 

 俺はメリスに言ってやった。

 アイツがどうなろうが、アイツの自由だからだ。

 

「お前の叔父は、かつて自分の船の規律を破った者を処罰する際にお前と全く同じ行動をしたな」

 

 流石はリネン。いやリェーサセッタ様にはお見通しか。

 

「前居た船で、船員同士で殴り合いの喧嘩をしやがってな。

 そいつは興奮して爺さんにも殴り掛かった。

 船の中では船長が法律だ。ぶっ殺したって誰も文句言えない」

 

 しかもジョン爺さんはアウトローギリギリの商売をしている。

 次元海賊を返り討ちにしたこともあるし、殺しが出来ないなんて甘っちょろい人間じゃなかった。

 

 だが。

 

「だが床に銃弾をお見舞いして、これで裁きは終わりだ、お前は自由だって、そいつを許しちまった」

 

 だから、と言うわけじゃない。

 俺はあいつを殺さなくても良い理由が欲しかったんだ。

 

「俺は爺さんから船長の座を引き継ぐことになっていた。

 なら爺さんのやり方を引き継いで何が悪い」

 

 俺は完全に開き直ってそう言った。

 もう子供の理屈でしかない。

 

「……責任を取って、媚びへつらって釈明するのは貴方よ」

 

 すっかり酔いが覚めた顔でメリスはそれだけを言い放った。

 

「悪い……」

 

 俺は彼女にぼそりと謝罪した。

 彼女らの努力を、無為にしようとしたのだから。

 

 ……だけど、いくら待っても“暴君”の沙汰は何もなかった。

 アレにも、死にゆく者への慈悲ぐらいは有ったのかもしれなかった。

 

 

 

 §§§

 

 

 正直、俺はメリスに好印象は無い。

 だが彼女の方針はいつだって最短ルートで最善だった。

 機動兵器の技術者たちを仲間に引き入れられたのも彼女のお陰である。

 

「酒よ、もっと持ってきなさい!!」

 

 だからこんな酔っ払い状態の彼女に今後の方針を決めさせるわけにもいかなかった。

 

「それで、次は先ほど使者殿に示された座標に行けば良いんですかね」

「それでも良いのだが、恐らくあと二度の転移にこの船のエネルギーが持たないだろう。

 座標が分かっているのだ。私が彼女を召喚しよう」

 

 と、代わりにリネンがそう言ったので、俺は頷くことにした。

 

「じゃあ、リネンの召喚が終わるまで全員休憩!!」

 

 俺が手を叩いてそう宣言すると、船員たちは肩の力を抜くように息を吐いた。

 そして各々自由行動を始めた。まあ、自由行動できるほどこの船の施設の範囲は広くないが。

 

 俺は俺で暇潰しにアニメでも漁っていたら、ウインター博士が俺の前にやって来た。

 

「艦長。ちょっとこの船のエネルギーシステムについて調査していたのですが、あれって別の通常のエネルギーユニットに換装したりはしないのですか?」

「それが、この船に使われているシステムはほぼ全て完全独自のオーダーメイドらしい。

 コスト度外視の人造の“箱庭”なんだと」

 

 だからエネルギー変換システムも独自すぎて、蓄積の為のエネルギータンクも専用なのだ。

 なので俺はこの船をどうしようもない欠陥品だと言っているのだ。

 

「なるほど」

 

 ウインター博士は顎に手を当てて納得したように頷いた。

 休憩タイムだと言うのに真面目な人である。

 

「……艦長はあの先へ行って帰って来れたんですね」

 

 すると、彼女は唐突にモニターに映りっぱなしのあの“門”の方を向いた。

 

「まあ、な……」

「私の師匠は妖精でした。我々人類より上位の次元に至った種族です。

 気まぐれで享楽的、刹那的でお気楽、でもその技術は人類を遥かに超えていた。

 そんな彼らが、“ここ”のことを語る時に真顔になるんです。自分たちの破滅にさえ無頓着な彼女らが、────私達を巻き込むな、と」

「だろうな」

 

 アレには、“暴君”には誰も勝てない。勝とうとか負けるとか、そんな次元では語れない。

 人間はどれだけ技術が発展しても、自分に流れる時間だけは絶対だ。

 アレに挑むのは、それに逆らうようなものだ。自ら呼吸を放棄するような、自害そのものだ。

 

「以前、匿名掲示板である魔王様と交流する機会があったのですが」

「待って。どこからツッコめばいい?」

「彼は言っていました。

 例えば私の居た地球で言うところの、一番普及している神を一軒家の主に例えるのなら、メアリース様やリェーサセッタ様は領主に値する、と」

 

 つまり、某四文字が一軒家の家主なら、神様ランク的に村長や町長が居て、我らの造物主は領主になると。

 まあメアリース様は人類そのものなわけだし、当然と言えるわけか。

 

「今になって、そう表現する理由が理解できました。

 偉大なる領主も、国家で例えるのなら頂点ではないのだと」

「……故に、“暴君”か」

 

 たしかに、それ以外に表現しようがなかった。

 道理でメリスやリネンを呼びつけて顎で使えるわけである。

 

「ふん、何が領主よ!!」

 

 そしてその当人は酔っぱらって荒れていた。

 そうか、これが酔っぱらった人類そのものなのか……。

 

「私は精々、工場長が籍の山よ!! 

 どうしてかわかる? 私は人間とそれの付属品を創る以外の権限が無いからよ!!」

 

 こいつは酔っぱらうと自虐するタイプなのか、少々残念だった。

 

「あなた達にわかる? 私は人間を根幹から作り替えることすらできないの。人間のマイナーチェンジでどうするか、その程度よ。

 人間と言う存在がどういうモノなのか、決めているのは私じゃないの。そんな自由は無いの」

 

 俺にとって、そんなのは酔っ払いの戯言に過ぎなかった。

 だけど、それを聞いた何人かは急に真っ青になって壁や床に頭を打ち付け始めたのだ。

 

 ガン、ガンッ、と狂気的な自傷行為の音がブリッジに鳴り響く。

 

「なにしてる、お前ら!!」

「おい、誰かこいつらを取り押さえろ!!」

 

 すぐに怒声が飛び交った。

 俺は何が何だかわからず、思わず助けを求めるように目の前に居たウインター博士を見た。

 

 彼女も吐きそうな表情で、口元を抑えていた。

 

「自分の知性が憎い……リアルでSAN値チェックするなんて」

「みんな、どうしたんだ?」

「ごめん、余裕ない。あの酔っぱらいを何とかして」

 

 生憎、リネンは別室で召喚の準備中だった。

 俺は言われるがまま原因らしいメリスに対処することにした。

 

「おいメリス。その辺にしておけって」

「うるっさいわね、私の気も知らないグズが黙ってなさい!!」

 

 こいつ、大分深酒してやがる!! 

 

「艦長、こういう時はメアリース様をヨイショすればいいのです」

「ヨイショってお前……」

「メアリース様は承認欲求モンスターなので、みんなでヨイショすれば機嫌を直します」

「こんなのが、人類そのものなのかよ……」

 

 俺はちょっと情けなくて悲しくなった。

 とにかく、俺は他の手の空いている技術者たちとヨイショを始めた。

 

「メアリース様、バンザーイ!!」

「バンザーイ!!」

「メアリース様を信奉したら彼女が出来ました!!」

「貴女様の教育プログラムでAランク大学も余裕で合格、卒業!!」

「メアリース様の良いところ見てみたーい!!」

 

 虚しい。虚しすぎる。

 こんなんで気を良くする奴が居るんだろうか。

 

「ふふふ、分かってるじゃない」

 

 居たよ。誰だよ、こんなのが人類の概念そのものだって言った奴。

 

「気分が良いわ。何でも好きなことを言いなさい」

「では、あちらの脳が破壊された者どもの脳が回復させてもらえないでしょうか」

「お安い御用よ」

 

 やっすい。安いなぁ、女神のお願いごと。

 そうして、さっきから自傷行為をし始めた連中をみんなでこいつの前に連行すると。

 

「うう……」

「さあ、お前たち、メアリース様に聞きたいことを聞くのだ」

「うう……メアリース様ぁ、リェーサセッタ様と貴女様、どちらが攻めでどちらが受け何ですか?」

「うッ、メア×リセなのか、リセ×メア……どちらが真理なんだ……苦しい」

「はあはあ、この千年論議された議題に結論を出さないと、イケません!!」

 

 実はお前ら大丈夫だろ!! 

 あと一人、お前最初から平常だったろうが!! 

 

「ふふ、私が受けよ」

 

 おおッ、と技術者どもが湧いた。

 頭大丈夫か、この酔っ払い。あとこいつら。

 

「やはりリセメア、リセメアが真理なのだ!!」

「はあ!? そんなの当人が言ってるだけなんだが!!」

「はーはっは。公式カプの言質は取った!! 我らが正道、お前たちが敗北者なのだ!!」

「はあ、はあ、取り消せよ、その言葉!!」

「処女神のメアリース様が既婚のリェーサセッタ様相手に攻めなわけないだろ、いい加減にしろ異端ども!!」

「これはもう、戦争しかないっしょ……!!」

「メアリセが公式に否定されて日和ってる奴居るぅ? 居ねえよな!!」

 

 こうして、変態どもの宗教戦争が勃発した。

 これも醜い人間の縮図なのだろうか。

 

 両陣営、自作らしき同人誌を軍旗のように掲げて目の前の邪教を排そうと殴り合いを始めた。

 これが神に選ばれた賢者たちの姿か、これが。

 

「てめえらいい加減にしやがれ!!」

 

 俺の船で乱闘とか許さねえぞ!! 

 だが結局この騒動の収拾にリーパー隊を投入することになった。

 

「まったく、どいつもこいつも」

「むはッ、これは素晴らしい……」

「……」

 

 俺はウインター博士が地面に散らばった同人誌を読み比べているのを視界に収めないように天を仰いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




メリスの発言を聞いて、上位者(作者)の存在をおぼろげながら悟った人はSAN値チェックです。

今回のエピソードですが、元ネタがあります。
それが主人公のモデルでもあります。みんなも知っている偉人です。

キャラストはすこし地に足がついてからにしようと思います。あしからず。
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