行動を起こしているのはケンジくんだけではありません。
彼女たちもまた、行動を始めているのです。
ケンジが勇者レティーの元で修行を始めたのと同じくらいの時期の話。
どの町のどの辺かも分からないちょっと薄暗い建物の中、誰かが話をしていた。
「カグヤ様、ご命令に従って連れてまいりました……が、良かったんですか?こんな見るからに弱そうなゴブリンで。」
「かまわない。これは単なる実験だ。」
どうやらカグヤと謎の青年が話をしていたようだ。
青年はカグヤの命令に従ってゴブリンを誘拐してきたというが、一体何を行うつもりなのだろうか。
「さてと…試してみるとしようか。禁じられた魔法『怪人化の魔法』とやらを。」
そう言うとカグヤは両手を前に掲げ、縄で縛られたゴブリンの下には魔法陣が展開された。
魔法陣からは黒いモヤのような物が溢れ出てきた。
どうやら闇属性魔法の一種のようだ。
黒いモヤがひ弱そうなゴブリンを包み込むと、しばらくしてそのゴブリンは明らかに体格がいかつくなっていた。
「おお!これが禁術!素晴らしい技術です!」
「いや、これは失敗だ。言うことを聞かない。メッセージの魔法で指示を送っても反応がない。怪人化の魔法は失敗した。」
そう言うとカグヤは体格がいかつくなったゴブリンを転移魔法で何処かに飛ばした。
怪人化の魔法
上位魔法にして禁術の一つとされる魔法。
まずこの世界における怪人とは、人の邪心やストレスが膨らみ続け、それが一定のレベルに到達する事で変異することがある邪悪そのものとも呼べる存在。
話をすることも不可能では無いが、一度怪人に変異したものは、もう二度と元には戻れず、再び善良な心を取り戻すこともない危険な存在である。
怪人化の魔法はそんな危険な怪人を人為的に生み出し、使役する事を目的に開発された魔法だ。
「部屋の物を壊されても面倒だ。適当な場所に転送しておいた。さて、他にも実験に使える生物を持ってこれるか?」
「はい、勿論でございます。少々お待ち下さい。」
そうして謎の青年が一旦姿を隠した後、もう一人別の人物がやってきた。
「おねえちゃん、あそぼ?」
「邪魔だ。あっちに行っていろ。」
「おねえちゃんまえまでそんなこと言わなかったのにどうしたの?」
「良いから消えろ、鬱陶しい。」
「うん、わかった。またあとであそぼうね。」
カグヤの妹、セーヤは少し寂しそうに部屋を出ていった。
「やっぱりそうだ。あれはいつものおねえちゃんじゃない。きっとわるい人にあやつられてるんだね。わたしには分かるよ。」
セーヤはカグヤより二つ年下の妹で、銀髪に紫色の目をした姉に対して金髪に青い目をしている。
ほぼ毎日笑顔なのだが、大きく開いた目の中の不自然に小さい瞳には一切の輝きが無い。
服は黒を基調として胸元や袖には赤いハートマークが描かれ、袖とスカートの裾の先には魔力を帯びた薄い紫色の布が常にユラユラと揺れている。
その禍々しい服装からか、周囲の人物はどうしても不気味な雰囲気を感じてしまうのだ。
そんなセーヤに最も優しく接してくれていた人物こそが、他でもない彼女の姉カグヤなのである。
そんなカグヤが全く相手にしてくれないのだから、セーヤからすればアレが本当のカグヤでは無い事は火を見るより明らかな事だった。
「おねえちゃん、わたしが助けるからね。」
セーヤは少し前から自分なりに姉を助ける方法を考えていた。
そして考えた末に行動に出た。
「アルム。ちょっといい?」
アルム、さっきカグヤと話をしていた謎の青年の名前だ。
「はい、妹様。どう言ったご要件でしょうか?」
「あのね?わたしたいくつしちゃったからお外にあそびに行きたいの!だからいっしょにお外に行こ!」
「ええ、構いませんよ。丁度今から外へ出る予定でしたので。ですが私の仕事の邪魔はしないでくださいね?カグヤ様から与えられた大事な仕事なんです。」
「えへへ、わたしおねえちゃんをたすけたいんだ!だからがんばるの!」
「フフ、ご協力感謝します。」
禁術である怪人化の魔法を使おうとするカグヤ。
そのために必要な生贄を用意するアルム。
そして何者かに操られた姉を救い出すために密かに動き出した妹セーヤ。
闇は静かに、しかし確実に動き始めていた。
カグヤ「怪人を手駒にしてやろう!」
アルム「カグヤ様バンザイ!(何も考えてない)」
セーヤ「おねえちゃん助ける!(黒幕ぶっ潰す!)」
怪人を生み出して操るなんてとんでもない事を考えたものだ!
世界の命運はセーヤちゃんに掛かっているかもしれないぞ!
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