ウマ娘錆銀ダービー   作:存在Y

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ウマ娘のアプリは、一年以上前の記憶を頼りにしています。
致命的な間違いでもない限り、この時空ではこういうもんなんだなと思っていただければと思います。


ジュニア期
一話・表 出会いと始まり


 日本ウマ娘トレーニングセンター学園中央校、通称トレセン学園。私は今、その入学式の場に居る。

 

 ウマ娘として産まれたからには、トゥインクル・シリーズを目指すんだ。……なんていう崇高な意思は無い。育ての親である孤児院の院長に、貴女脚が良いのだから行ってみたらどうか、と言われたので試験を受けてみたら通ってしまっただけである。

 また孤児院か、などと生まれたときは思ったが、衣食住には困ることもなく、面倒な上下関係などもない平穏な日々だった。ウマ娘、というものが人間に比べて力が強く、少し前世とのギャップで苦労があったが些細なことだろう。

 

 ……ああ、自己紹介を忘れていたか。どうも皆さんご機嫌よう、今世は、名をラスティシルバーとして生を享けました。前世の名は……どうでもいいか、もう関係ないだろうからな。前世の名前が今世において意味がある経歴を持つことなど在り得ない。

 もう少し気の利いた名前を付けることは出来んのかねと、孤児院に私を捨てた実の親を問い詰めたいところではあるが、今どこで何をしているのか。錆びた銀とは、単に蔑称ではないだろうか。

 どうも噂では、ウマ娘は別世界の魂と名前を宿しながら生まれてくるようで親が決めたわけでは無いかもしれないが。ラインズデーモンラインの悪魔とかでないだけマシなのかもしれない。

 

 白い肌、金髪碧眼は前世と変わらず。一二歳になっても身長は変わらず幼女 ロリ ボディのまま。食は足りているのに前世とは違う種族の所為なのか、全く成長する兆しは見えない。

 せめて少しだけでも成長してほしい、と思う反面、もう慣れてきたしこのままでいいやと思っている自分もいる。現役中に身体が大きくなられても、アスリート的には微妙な所だろう。走りのフォームや練習量なども根本から変えねばならんし、良い結果に繋がるとは限らない。

 

 さて、話は戻るがトレセン学園。前前世から数えて幾度目の学生生活だろうか。中等部で現役のうちは学費が無利子で借りれて、レースでお小遣い稼ぎまでできるという。軍学校程ではないが、貧乏人に優しい制度だ。

『Eclipse first, the rest nowhere.』 唯一抜きん出て並ぶ者なしをスクール・モットーに、文武両道を掲げる学園である。

 流石に、勉学において他に遅れを取ることなど無いだろうが、ウマ娘なんて存在もいる上に、

 

「賭け事なんぞほぼやったこと無かったからなぁ。競馬なんぞ知識の欠片も持ち合わせてないぞ」

 

 あの頃、真面目にエリート街道を進んでいた私がそんなモノに触れる機会があるわけでもなく、孤児院でまともな情報を得られるはずもなく。精々が国民的人気スポーツであるということと、レースに勝てば賞金が貰えるということだけである。

 

「まあ、何を思ってこの世界に送り込まれたかは分らんが、魔法も戦争も無い世界だ。好きにやらせてもらうとするぞ、存在X」

 

 いくつかのレースを勝って箔をつければ、グッズ等の不労所得が一生得られると聞くし、職に困っても経験を活かせばトレーナーやサポーター等の就職天下りには困らないだろう。不労所得万歳!コネ就職万歳!

 

「……という訳で、堅苦しい話はこれぐらいにしておこう。これからの学園生活、楽しいことも苦しいこともあるだろうが、ウマく乗り越えていってほしい。ウマだけに。……ふふっ。

 

 在り来たりな内容の、しかしどこか熱意のこもったスピーチが終わる。

 あれが生徒会長のシンボリルドルフ。最高峰のG1レースを七つ獲った最強と名高いウマ娘。今もなおトゥインクル・シリーズで走り続ける現役選手だ。

 最後に何か変なことが聞こえたように思えるが、気のせいだろう。隣にいる副会長の耳が垂れたが、体調が優れないのだろか。

 

 

 

 

 

 ……なんて考えていたが、どうやら体調が優れないのは私の方らしい。

 新入生を歓迎するために開かれたエキシビション。現在トゥインクル・シリーズを走っている先輩方による模擬レースが開催されている。

 いずれあの場に立ちたい、あのウマ娘達と競い合いたいという気持ちを高めるために行われている恒例行事らしい。お金を払ってでも見たいという人も多いらしく、一度一般入場有料にしたことがあったが、近隣が大渋滞を起こしたらしく翌年からは一般入場不可になったとか。

 私は先ほどからそのレースを見ているのだが、

 

「なんだあれは、光学術式ではない……よな。雷撃を纏った生徒会長が見えた気がしたし、レース中に優雅に紅茶を飲むウマ娘などいてたまるか。人体発火現象など、条件が揃わねば起こらんだろうし、そもそも何事もなかったように突っ立っていられるはずはないだろ」

 

 周りのウマ娘を見ても、特段驚いた様子もなくカッコイイだのカワイイだのと黄色い声を上げているあたり、やはり幻覚を見るほど疲れているのかもしれない、今日はゆっくりと休むべきだな、などと思考を巡らしていると、ふと、別の発想に行き着いた。

 

「まさか……この世界に魔法は無かったと思っていたが、やはり存在したというのは考えられるか」

 

 孤児院の院長は教えてくれなかったが、そういうものがあるのだろう。

 そうなると、まだ魔法を使うことのできない私ではレースに勝つことが難しいのではないだろうか。いやまて、そもそもこの学園に合格はしているのだから、魔法は必須の素養ではないのだろう。トレセン学園は魔法を学ぶ学校だったという訳だ。

 そういったことを知っているウマ娘達が先ほどのレースを見たとしても、驚くわけはないか。精々驚くとしても、自分のタイムを比較してその差に、というぐらいだろうか。

 まだまだ知らないことが多すぎる。やはり情報収集ができるような環境に身を置けてなかったことこそ、不利を齎す大きな要因か。

 

えー、模擬レースなので……は無しですー。この後、新入生は各自寮に向かってくださいねー

 

 一部聞き逃してしまったが、今から自分の寮に向かうみたいだ。荷物は今日届くように送っている。まあ私物などほとんど無いのだが。

 何かを残念がる声と、期待で楽しみを隠しきれていない明るい声に包まれながら、私は寮への道を歩いて行った。

 

 

 

 

 

「203、203、……ここか」

 

 指定されていた、美浦寮にある自分の部屋に着いた。運命作為的な何かを感じるが、きっと気のせいだろう。中からは物音が聞こえるため、どうやら相部屋のもう一人は既に居るみたいだ。

 ノックをして、入ってもいいかと尋ねると、どうぞと返ってきたため、ドアを開け中に入る。中にいたのは、前髪ぱっつんの白いウマ娘。

 

「初めまして、同期で合っているよな。ラスティシルバーだ、よろしく」

 

「よろしくおねがいします。ラスティシルバーさん。ハッピーミークです」

 

 ペコリ、と頭を下げた彼女と握手を交わし、ラスティと呼んでくれと言う。彼女もミークでいいよ、と言って荷解きをしながらお互いのことについて話した。この学園のことやウマ娘としての基本知識がどうやら少ないと彼女に告げると、「わたしが教えてあげます。……ふんすっ」と気合を入れて色々と教えてくれた。

 ぽわぽわふわふわな彼女は既にトレーナーから専属契約の内定を貰っているらしく、多少は余裕があるので頼ってくれても大丈夫とも言ってくれた。既に契約、しかも専属とは、きっと優秀なのだろう。

 荷解きも終わり、一緒に明日の準備をする。行われる公認選抜レースには出来るだけ出た方がいいといわれたので、出てみようと思う。

 

「チーム毎に開催される非公式のものもあるのか。より良いスカウトを得る為にも出るべきだろうな」

 

 チームリギルという、生徒会長も所属する最強集団と名高いチーム。選抜レースは毎年行われ、一位は無条件で入る資格を得るという。

 ミーク曰くチームは、トレーニングがマンツーマンではない為に適切な指導が受けられないこともあるらしく、リギルのような有名チームでも、早熟なウマ娘が入って全く結果を残せないまま去っていく例もあるらしいので、脳死で入るのは考えた方がいいとのこと。

 ただ、名前の知られていない私のようなウマ娘がスカウトを貰える可能性はかなり低いだろうから、よっぽど自分に向いていないということのない限りは入れるなら入りたいと思っている。

 なんせ新入生は約千名。この中から一勝もできずに六百以上のウマ娘が学園を去っていくという。厳しい世界だ。最悪は、名前貸しして貰うことも視野に入れないといけないか。

 

「……そういえば、ミークに聞きたいことがあったんだが、魔法について教えてもらえるだろうか」

 

「……魔法……ですか?それは、おとぎ話の……?」

 

「いや失礼、言葉の綾だ。今日の模擬レース中に起こっていた現象のことだよ。地面が割れたり、雷が落ちる幻影が見えただろ、あれのことだ」

 

「……?そんなの、ありました?」

 

「……失礼、やはり慣れない環境で疲れてしまったせいか、幻覚でも見たようだ。今日は早く寝させてもらうとするよ」

 

 大丈夫ですか、と、本気で頭の心配をされてしまった。もしかしたらヤツ存在Xに脳でもいじられたのかもしれない。

 その後少しだけ雑談に興じ、私の学園生活の初日は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 短距離、五・三・三・四着。マイル、三・二・一・二着。中距離、四・一・一・一着。長距離、四・三・一・一着。ダート、五・三・二・二着。

 逃げ・先行・差し・追い込みでそれぞれを走った結果だ。

 学園から渡されていた事前適正検査の結果に偽りはなさそうだ。確か、短距離に×、マイル以上に〇。逃げ×、その他〇。芝>ダート。そのように書かれていたはずだ。

 

「思ったよりもいい成績……か。それにしても逃げという戦法はスタミナ消費が激しいな。やはり終盤まで脚を溜める方が性に合っている」

 

「本当に……全部走ったんだ」

 

「信じられるのは結果だからな。いくら優秀とは言え、学園側にミスがないとも限らんからな」

 

 選抜レースには出ないが、暇なのでということで付いてきたミークと話す。

 彼女はこの後、自分のトレーナーとお出かけらしく体操服ではなく私服だ。

 

「嬉しい誤算だな。自分がここまで走れるとは」

 

「すごい…です。ラスティさん。本番ではわたしも負けませんからねっ」

 

 ふんすっ、と鼻を鳴らすミーク。その横で一人男性が歩いてきて私に声をかける。僕なら君を重賞で勝たせてあげられるよ、一緒に頑張らないかと、名刺を差し出して次のウマ娘へと去っていく。

 貰った名刺は5つ。その全てがチームや、チーム設立を目指すトレーナのもの。今までの育成のノウハウがあるとなれば、結果も残しやすいだろう。

 

「だが、なあ……」

 

 このままどこかのチームに所属して練習を重ねた結果、G1なんかに出られたとして。そうなればより一層の激しい練習と一流選手としての生活が続いていくだろう。

 やる気がないわけでは無いが、そこまで本気で頂点を目指す、なんてしたくない。レースに出続ければ故障の危険性だって上がるし、今後の人生に響くような怪我も……少なくはない。

 適度に何勝かして、その後引退。で一生を終えたい私にとって、いい選択肢は……。

 

「あ、あの。そちらの金髪の。お名前はなんていうんですか」

 

 わたしに声をかけてきた一人の女性。安物の新品のスーツに、履き慣らされていない革靴。大人びた雰囲気を醸し出す赤い長髪とは対照的に、どこか浮ついた、子供っぽい雰囲気。

 

「ラスティシルバーだ。貴女は?」

 

「あ、わ、私、新人トレーナーの鳴海茜なるみあかねです。是非私と、専属契約を結んでいただけませんか!」

 

「専属というと、私以外に契約しないということか」

 

「はいっ、勿論です。ラスティシルバーさんの根性と、その走りに惚れました!一目惚れです!」

 

 新人トレーナー。現場でのノウハウはゼロ。トレーナー資格を得るだけの最低限の素養を持ち合わせているはずだし、悪い選択肢ではない。結果が悪くても、名義貸しと同じ状態に持って行って、最悪は自分で練習メニューを組めばよい。

 

「一つ聞きたいんだが、私はどこまでいけるだろうか」

 

「G1間違いないです」

 

 ニコニコしながらの即答。根拠がどこにあるのか疑問だが、笑い飛ばそうとした私は、その後に続く言葉に耳を疑った。

 

「凡百のトレーナーなら。私と一緒なら、まずは無敗の三冠を」

 

 最初に脳が理解を示さなかった。数秒して、彼女の言った言葉がようやく脳に染み込んでいく。

 今、何と言ったか。現場を経験したことがないトレーナーが、言うに事欠いて無敗の三冠。今まで歴代で三人しか達成しなかった大記録。大言壮語も甚だしい。

 ……だが、実に好都合。チームであれば除籍等でトレーナー不在、レース出場不可まである。だが、専属契約なら見捨てることは不可能。レースへの出場権は確保できる。

 どうせ新人だし、上手くいってG1勝利で大手を振って引退。失敗しても、主導権をこちらで握って、重賞何勝かして引退の夢ぐらい自力で叶えることにしよう。

 

「……気に入った。契約書を」

 

「ラスティさんっ!?」

 

 隣にいたミークが驚く。そりゃそうだろう、彼女は私の生涯計画ライフプランを知らないのだから。

 数秒しても目の前にいる新人トレーナーは動かない。どうやら受け入れられるとは思っていなかったようで、固まっている。

 

「どうした、もたもたしていると気が変わるかもしれんぞ」

 

「あ、あああ、こ、ここ、これです。書類です」

 

 わたわたと鞄から書類を取り出す。出撃前夜に先輩の奢りで夜の店に連れていかれる新兵ども二つの意味で童貞と緊張度合いはいい勝負か、と少々下品な発想が出てくる。

 私が書き終わった書類を受け取って、諸手を挙げて喜んでいるトレーナー。その脇で、私に耳打ちで心配してくれるミークがいた。

 

「おめでとうございます。でも……大丈夫ですか」

 

「なに、心配いらんよ、ミーク。あれだ、そう……運命だよ。そういった何かを感じたんだ」

 

 本当は違うが。何も感じていないが。運命神の定めとか信じるわけないが。

 

「ふふっ……。なら大丈夫だね。私もトレーナーとは、運命を感じたから」

 

「ほう、そうなのかミーク。また詳しい話を聞かせてくれ」

 

 この後は、ミークも自分のトレーナーとの待ち合わせ場所に向かうということで。ミークと別れることにし、トレーナーと共に書類提出に行く。

 

「鳴海トレーナー、書類提出しにいくぞ」

 

「うんっ、ラスティシルバーちゃん。あと、茜でいいよ」

 

「私もラスティで構わない」

 

 よろしくな、茜、と握手を交わして。

 書類を提出、承認されたことを確認して二人して笑みをこぼす。

 

 

 

「よーし、明日からいっぱい一緒に練習しようね、ラスティ。まずはお出かけだね!カラオケとかどうかな!」

 

 もしかしたら、少し早まった選択だったかもしれない。自分の口から自然と溜め息が漏れ出るのが分かった。

 

 

 

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