ウマ娘錆銀ダービー   作:存在Y

10 / 19
五話・裏 茜/ルドルフ/茜

〇視点変遷:鳴海茜

 

 暗雲に覆われた空、黒煙が視界を歪ませ、轟音に耐えかねて脳が聴覚を遮断する。音も光も制限されたレース場。

 暗く濁ったその世界の中で唯一人、一筋の光を描きながら先頭を進む金色のウマ娘の姿が一際映える。後続を連れて走るそれを例えるなら、まるで戦場ターフに舞い降りた戦乙女。

 

「とっても綺麗……かっこいい」

 

 全力で大差勝ち。彼女にとって前三文字は必要なかったかもしれないけど、私にとってこれを見られたという価値があった。

 大差勝ちを狙いながら、六バ身差以上で勝てればいいな、なんて思っていたけれど。十二、三バ身ほどの大勝ちになるとは予想できていなかった。

 きっと、ホープフルステークスではマークされるだろう。それで負けてしまったら、百パー私の責任だ。ああ、ツラい。契約解除を申し込まれたらどうしよう。

 暗く落ち込んだ気分になるのを自覚した。彼女にそんな所を見せてはいけない。私は明るく元気に、彼女を支えてやるんだ。

 だから元気よく、掲示板をじっと眺める彼女の元へ駆けていく。

 

「おめでとうラスティ!すっっっごくカッコよかった!」

 

 そのままの勢いで抱き着く。信じられないぐらい小さくて、でもその芯には大きな力が確かにあって。

 大差というものが信じられないんだろうか。嬉しそうに尻尾を振るラスティを揶揄うように、どうしたのって聞くと。

 相談したいことがある、と言われて嫌な想像が頭をよぎった。

 

 

 

 杞憂だった。彼女が相談してきたのは<領域>ゾーンについて。

 私だって半信半疑だったけれど、ラスティのそれを見て確信できた。選ばれたウマ娘しか持てないそれは存在したんだ。

 悪影響について聞かれたけど、ゲート難みたいなマイナススキルでもないし、彼女の様子を見ても速度や根性が落ちていた様子もなかった。スタミナを犠牲にはしているかもしれないが、最後まで走りきっているので、心配はないだろう。

 

「とりあえずは、変に脚に負担でもかかっていないかチェックしてくれ、茜」

 

 もちろん、それは私も気になっていたし。視た・・感じ、不調は見られない。だが、それはそれとしてトレーナーの基本として確認せねば。

 でもねラスティ、椅子に座ったまま足を差し出されても。視線を向けてもどこ吹く風。ほら、早く、と目がそう語りかけてくる。

 ワガママな王女様だなぁと思いながら。可愛らしいラスティの足元に跪いて、彼女の脚を手に取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〇視点変遷:シンボリルドルフ

 

 そのウマ娘から一通の書状が届いた。中等部一年とは思えない、いやに堅苦しい書き方で。<領域>ゾーンについて聞きたいという内容だった。

 調べてみると、この前の芙蓉ステークスで大差の一着。確かにこの時期に目覚めているともなれば、この結果も頷ける。デビュー戦の結果を見るに、夏休み中に習得したのだろうか。

 重要なことでもあるし、そのウマ娘に興味も湧いたので、近いうちに場を設けられるように調整を、とエアグルーヴに伝えた。

 

 

 

 約束の日、礼儀正しく部屋に入ってきたのは小さなウマ娘、ラスティシルバー。美浦寮で見かけたときよりも幾らか硬い表情をしている。緊張しているのだろうか。

 まあ無理もないだろう。私もエアグルーヴもウマ娘の中でトップクラスであることは広く知られている。

 ソファへと促し、すぐに本題へと入る。

 

「それで、<領域>ゾーンについて聞きたいことがある。だったか」

 

「はい、私としてはオリエンテーションで見たものを幻覚だと思っていましたが、トレーナーが言うにはどうやら<領域>ゾーンだと」

 

「ふむ、その時点で見えていたのか。早いな」

 

 驚くべきことに、彼女はもうその時点で認識できていたらしい。だが、実戦で使えたことがこの前まで無かったということか。

 

<領域>ゾーンとは一体、何なのでしょうか。そして、貴方たちはなぜそれを持っているのでしょうか」

 

 何故持っているか。私にも分からない。ただ広く一般的に言われている解釈を彼女に伝える。

 私とエアグルーヴのことを聞かれたので答えて、そのまま過去の話することになった。彼女は緊張もほぐれたのか、会話は楽しく盛り上がり。そんな楽しい時間もすぐに過ぎて行った。

 

 

 

 生徒会室から出て行った彼女を見送り、エアグルーヴに話しかけた。

 

「エキシビション、やはり行って正解だったな」

 

「ですね。彼女のようなウマ娘がもっと増えるといいのですけれど」

 

「しかし彼女が、か。桐生院トレーナーのハッピーミークがならありえると思っていたんだがな。うちの後輩たちも厳しい結果になりそうだ」

 

「そうですね、心が折られなければ良いのですが。去年はそうでしたから……」

 

「なに、彼女たちもリギルの一員なんだ。そんな弱音を吐くなんて、うちのチームにいる限り、ギル・ ・・ティだ……っふふ」

 

「……」

 

 その日一日、エアグルーヴからの視線は凍り付きそうなほど冷たいものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〇視点変遷:鳴海茜

 

「ふう、はぁ、今日もお疲れさまラスティ。帰ってゆっくり休憩しようね」

 

「毎度毎度思うんだが茜、なぜそこまで疲れているんだ。座っているだけだろう」

 

「ずっと応援で声を出し続けてるし、あそこから降りるのも一苦労なんだよ」

 

「ならば態々登らなくともいいだろうに」

 

 芙蓉ステークスに勝ってから、私たちは次なる戦いに向けてトレーニングをしていた。

 体育館を借りてトランポリンで飛び跳ねたり、器械体操で体を柔らかくしたり、でっかいタイヤを用意してタイヤ引きをしたりと、色々なことに挑戦している。最近ではゴールドシップちゃんも遊びに来たりすることが増えた。面白いアイデアを教えてくれるので、次から次へと試したくなってくる。いつかはスカイダイビングとかバンジージャンプとかも試してみたいな。

 そんな日々を過ごして数日。トレーニングを終え、ラスティとじゃれ合いながら帰っていると、トレセン学園のスタッフが段ボールを持って私の机の前で待っていた。

 

「お疲れ様です。……え、勝負服ですか。ありがとうございます!」

 

 急いで個室の利用状況を見る。運よく空きがあったので、すぐに予約を入れてラスティと一緒に向かった。

 

 

 

「カワイイ系じゃなくって、カッコいい系だったか」

 

 ラスティが開けた段ボールを横から覗き見る。軍服に軍帽。シンプルな作りのそれは、可愛らしいラスティにもよく似合う。

 動きが止まったので何か気になったのかな、と思っていたが、どうやら首元にあるキラキラした装飾に惹かれていた様子。こういう所はやっぱり子供っぽいなぁと思う。

 

「一回着てみてよラスティ、絶対似合うって」

 

 ラスティにそう促す。内心着てみたいと思っていたのだろう。いそいそと着替えだした。

 彼女がベルトを締め、帽子を被る。キリッとした表情を浮かべて耳も尻尾もブンブンと振っていた。

 ふと気になったことがあって、ラスティを視る・・。やはり予感は的中していた。

 

 後から生えてきた固有スキル・・・・・・・・・・・・・が、白く光っている。

 

「どうかしたか、茜」

 

「……ううん、何でもない。ホープフルステークスが楽しみになったなぁって」

 

 誉れ高きその名を讃えよ。

 直観が映し出す文言。次は一体どんなラスティが見られるのだろうか。

 

 

 

 後日、ラスティを視たとき、固有スキルはまた灰色に戻っていた。きっと勝負服の真価とはそういうことなんだなって思った。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。