ウマ娘錆銀ダービー 作:存在Y
以降名前付きオリキャラが増えることは無いです。増えたら困る。
以下補足
リギルがどのように新入生を取っているかは、短距離マイル中距離のリギル選抜レースそれぞれ一位に入部許可を与えているという解釈で行きます。
どうも皆さん御機嫌よう。トレーナーと二人、テレビの前で座っているウマ娘。ラスティシルバーです。現在、茜の部屋で、ミークの出走する阪神ジュベナイルフィリーズを見ているところです。
寮でもテレビはついていますが、どうやら美浦寮からは複数が出るようなので、ミークの応援を出来るこの場を茜に頼んで作ってもらった次第です。
「ミークは勝てるだろうか。茜はどう思う」
「うーん、勝てるって信じたいけど、対抗バがなぁ……。リギル所属ってこともあるし、やっぱり強いんだよね……」
『4番、ハーミットスコーピオン。三戦三勝。一番人気です』
『今までの走りは全てが異なる戦法でしたからね。彼女の脚質には大きな期待が持てますね』
『情報によると、あの東条ハナトレーナーのチームリギル所属ですから。今日はどんな走りを見せてくれるのでしょうか』
ハーミットスコーピオン。彼女を言葉で表すとすれば、ふわふわした喋り方をするギャル、だろうか。オシャレ好きで、服やアクセサリー、ネイルや化粧品などに詳しいらしく、よく同期の相談を受けていたりする。桃色のミドルショートヘア、右目はいつも前髪で隠れており、鬱陶しくないのか聞いたことがあるのだが、こーゆーほうが落ち着くんよ、とは彼女の言。
美浦寮から出走するもう一人のウマ娘でもある。彼女は同室のシャイニウプウアウトとともに、チームリギルに所属している。ちなみにシャイニウプウアウトの方は、ホープフルステークスに出走を表明しているので戦うことになるだろう。
話を戻すがハーミットスコーピオン、茜曰く、逃げから追い込みまで走れるらしい。リギル選抜レースにて短距離とマイルでトップを取ってチームの仲間入りを果たしたという。
それにしてもカワイイなぁ……と茜が呟く。彼女の勝負服は、体格に似合わない大きめのパーカーとミニスカート。脚が寒そうだな、という感想しか出てこないんだが。
『8番、ハッピーミーク。四戦四勝。二番人気です』
『安定した走りを見せるウマ娘ですね。ダートも走れる二刀流です』
『その一刀が今日、振るわれるのか。彼女の走りに期待です』
「あ、見て見てミークちゃんだ!二番人気だって」
ミークがパドックに現れた。小さくガッツポーズをしていて、気合は十分そうだ。昨日も元気だったし、今日の結果も期待できるだろう。
画面が切り替わり、他のウマ娘も映るが、やはり二人に比べると脚や身体の鍛え方が少しばかり貧相なように思える。今日みたいな鞘重でも、最後まで全力で走りきれるのだろうか。
『阪神競バ場第一競走、芝1600m。阪神ジュベナイルフィリーズ、雨の中、各ウマ娘、ゲートに向かいます』
「よし気合を入れて応援するぞ、ミーク、頑張れー」
「頑張ってくれ、ミーク」
茜につられてか、応援にも感情が入る。
『さあ、スタートしました。……』
『……後方……一バ身離れてハッピーミークその後をハーミットスコーピオン、一バ身離れて……』
「いい位置だな。外も抑えられてないし、いつでも前に出られそうなポジションだ。どこで仕掛けるか」
「第四コーナーから直線にかけてあたりかなぁ、あそこの坂が勝負所だし」
「それにしても……ハーミットがずっとミークの陰に隠れているな」
『……前半の半マイル46秒で通過しています。先頭は……』
「ホントだ、やっぱり一騎打ちしか見てないんだね。がんばれっ。負けるなっ」
「おっ、やはり仕掛けたか。しかし全く同じ位置で二人とも仕掛けたな」
『さあ最後の直線外からハッピーミークが上がってくる。その横ピッタリ張り付いてハーミットスコーピオンも上がってくる』
「二人して抜けた。最後の勝負だ。いけっ。がんばれっ」
「よし、そのまま差を維持し続ければミークの勝ちだ」
『さあ最後はこの二人、ハッピーミークか、ハーミットスコーピオンか。徐々に詰めてきたぞハーミットスコーピオン、ハッピーミーク逃げ切れるか……』
「惜しかったな。ミークでさえ二着。G1は獲れないのか」
何度か並走トレーニングはしたが、仕掛けのタイミングや上手さは間違いなく自分より上だと思う。ミークや桐生院トレーナーから学ぶことはまだまだ多い。
自分の脚を見てみる。パドックで見た他のウマ娘たちと同じように貧相な見た目だ。触ってみれば硬く筋肉が付いているのが分かるが、そもそもこの体格では限界がある。やはり量を食べるだけでは限界があるかもしれない。
「いい物を摂らねばならないな。厳選していこう」
再来週に控えたホープフルステークス。私と茜の力でどこまでいけるだろうか。
「分かったラスティ、私がいい物を選んであげるよ」
「ほう、いいのか。細かい調整は自分でもできるから、他は任せるぞ」
「もちろん、トレーナーだもの。それぐらいは任せて」
そう自信満々に頷く彼女。少し不安だが、トレーナー養成学校ではウマ娘の栄養学を学んでいると聞くし、その手の知識は私より持っているに違いない。
ホープフルステークスの後は期待していてと言われたので、やはりすぐに結果が出るものでもないのか。まあ、言葉通り期待するとしよう。
十二月ももうすぐ終わる。そんな時期に行われるジュニア期最後のG1レース、ホープフルステークス。
今は昼過ぎ。天気は快晴。冬の日差しが細長い影を形。もうすぐ、私の出番が来る。
「同期中距離ウマ娘のお披露目会、か」
負けたくはない、が簡単に勝てるとは思えない。今まで努力はしてきたが、まだ見ぬ天才がどこでその牙を研いで待ち構えているかは分からない。
同期で並走したことがあるのはミークだけだし、たまにどこかで開かれている模擬レースも参加したことはない。見に行ったことはあるが、やはり本気を見せてはくれないようだった。本番まで自分の実力を隠すのは当たり前のことだからな。
「ん?ラスティなら絶対勝てるよ。私は信じてる。神に誓ってもいい」
トレーナーとしての茜は信じられるが、人としての茜は身内贔屓が入ってそうで少し信用ならないんだが。まあどちらにせよ、神には誓わないでくれ。
「じゃあ、行ってくる」
「うん、期待してる」
パドックの順番は後の方とは言え、遅れても困る。少し早めに控室を出て、身体を温めつつ向かおう。柄にもなく緊張しているのかもしれない。
『11番、ラスティシルバー。二戦二勝。三番人気です』
「三番人気か」
思ったよりも皆が評価してくれているらしい。芙蓉ステークスでは大差勝ちとは言え、大差の理由は他のウマ娘の不調も重なったフロックというのが大方の見方だと聞いた。実際それに近いところもある。
パドック内。勝負服で堂々と仁王立ちをして表情を引き締める。せっかくだからカッコよく決めてきてね、と茜に言われた。他のウマ娘みたいに可愛らしい演技を、とか言われなくて少しほっとしている。観客の反応も悪くないようだ。だがどうも一部の視線が下半身に集中するのがムズがゆく、未だに慣れない。
お披露目も終わり、ゲート前に行くと、見知った顔が声を掛けてきた。
「らすちゃん、ちーす。よろしゅー」
「おう、ラスティ。オレサマが勝つ」
前者はハーミットスコーピオン、後者がシャイニウプウアウトである。ハーミットのミニスカートもそうだが、ウプウアウトはホットパンツにへそ出しルックの勝負服である。彼女たちは寒くないのだろうか。
ウルフカットの黒のロングヘアーは風に靡き、翠色の瞳には強い意志を見て取れる。彼女の身長が高いせいで、こちらから見上げる格好になっている。
「よろしくな、ハーミット、ウプウアウト。今日は私が勝たせてもらうぞ」
茜曰く、絶対に勝てるとは言うが。確たるデータもないし、相手は間違いなく世代のトップ。なんせリギルのメンバーなのだから。だが、二人がいるのは好都合。強がりを吐いておけば、向こうは逆にこちらを弱者と見て潰し合いをしてくれる可能性もある。その場合は漁夫の利を得られるかもしれない。
「しかしハーミットが今日出てくるとは思わなかったな。阪神ジュベナイルフィリーズから、そう日は空いていないが」
「はなちゃんに無理言ってねー。うぷちゃんリベンジいっかいめー」
「中距離以上なら絶対に負けねーからな。もちろんラスティ、お前にもだぞ」
そう言ってウプウアウトが離れていく。じゃーねー、と言ってハーミットもそれに続いていく。
茜から貰った他十四人のデータを思い返す。二人で想定されるレースを幾通りか描いたが、ハーミットの戦法だけが読めない、と彼女が言っていた。
私を含めて、逃げ二人、先行四人、差し七人、追い込み一人、そしてハーミット。
半分ぐらいは逃げを選ぶ、というかウプウアウトをマークする、というのが茜と私の予想。それで潰し合ってくれるのが最も良い。
ゴール板近くの茜に目を向ける。茜からは、作戦は変わらずのハンドサイン。それを確認して頷く。
中山競バ場第一競走、芝2000m。私の、ラスティシルバーの、ジュニア期を締めくくる挑戦が、始まる。
いざ、戦場へ。
次は裏なので始まりません。