ウマ娘錆銀ダービー   作:存在Y

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六話・裏 茜/ハーミット/ウプウアウト/二人

〇視点変遷:鳴海茜

 

 今日は阪神ジュベナイルフィリーズの日。葵ちゃんのところのミークちゃんが走る初のG1戦。

 ラスティが一緒に見ようと誘ってきたので、私の部屋に呼んでテレビを見ています。

 

「ミークは勝てるだろうか。茜はどう思う」

 

「うーん、勝てるって信じたいけど、対抗バがなぁ……。リギル所属ってこともあるし、やっぱり強いんだよね……」

 

『4番、ハーミットスコーピオン。三戦三勝。一番人気です』

 

 ハーミットスコーピオン。チームリギルに今年入った二人のうちの一人。いつもフワフワしているけど、リギルでのトレーニングでは滅茶苦茶真剣に取り組んでいた。

 視た・・こともあるけど、短距離とマイルが共にAで、脚質も全部A。ただ、スタミナや適性に不安があるので中距離以上はキツそうだと思う。

 ……というか勝負服カワイイなぁ。萌え袖パーカーにミニスカート。パーカーの紐を指先で弄っている。あざとい。

 まあ、うちのラスティの方がカワイイけどね。

 

『8番、ハッピーミーク。四戦四勝。二番人気です』

 

「あ、見て見てミークちゃんだ!二番人気だって」

 

 ミークちゃんは清楚なカンジの勝負服。お嬢様ってカンジでイメージにピッタリだね。

 ミークちゃんの初のG1。葵ちゃんも現地で応援しているだろう。

 

「よし気合を入れて応援するぞ、ミーク、頑張れー」

 

「頑張ってくれ、ミーク」

 

 ラスティとともに気合を入れて応援する。さあ、レースが始まった。

 

 

 

 

 

「惜しかったな。ミークでさえ二着。G1は獲れないのか」

 

「うう……惜しかった。惜しかったね……」

 

 最後に差され、二着。ミークちゃんを応援していた身としてはちょっと悲しいけど、二着は立派な戦績だ。

 やはりG1、壁は高い。同じG1のホープフルステークス。ラスティは自信満々だけど、新人トレーナーの本心としては、やっぱり怖い。

 

「いい物を獲らねばならないな。厳選していこう」

 

 ラスティが、自分の脚を触りながらそう言う。このレースに触発されたのか、きっと調子が良くってホープフルステークス勝利への意欲が高まっているのだろう。

 厳選……ということは、彼女の欲しいのはG1の冠だけだということか。

 

「分かったラスティ、私がいい物を選んであげるよ」

 

「ほう、いいのか。細かい調整は自分でするから、他は任せるぞ」

 

「もちろん、トレーナーだもの。それぐらいは任せて」

 

 私に任せる、ということは、きっと彼女はホープフルステークスの一着を通過点にしか考えていないのだろう。お祝いのためにいい店も予約しなきゃいけないな。

 そして、今後の彼女の為にもいいレースを選ばなきゃ。細かい調整は自分でするってことは、調整用のG2レースすらも眼中にないんだ。やっぱり無敗の三冠、クラシックではこれしか見てないんだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〇視点変遷:ハーミットスコーピオン

 

 阪神ジュベナイルフィリーズでは一着を獲れた。はなちゃんトレーナーの指示でみーくちゃんに付いたことと、良い・・天気だったからギリギリだが勝てた。

 今日のホープフルステークス。はなちゃんは出す気なかったみたいだけど、体調も悪くないし、強くお願いしたらオッケーしてくれた。無理はしないことを条件に。

 パドックをおりて、自分よりも先にパドックを終えていたうぷちゃんを見つける。

 

「うぷちゃん、きょーもよろしゅー」

 

「オレサマについてくるつもりかぁ?負けるぞ」

 

「だよねー。でもリベンジしちゃうよー」

 

「言ってろ、オレサマの前は誰にも走らせねぇよ」

 

 シャイニウプウアウト。同じチーム、リギルに入った相部屋のウマ娘。リギル選抜レースの中距離戦では彼女にトップを取られてしまった。

 彼女を潰すのは簡単で難しい。早いうちに彼女の前に出る、それだけ。だけどスタミナのない自分がやると共倒れ必須。他の逃げウマ娘に任せるしかない。

 

「あ、らすちゃんだ。あいさつしに行こー」

 

「あっ、おい。オレサマも行くぞ」

 

 

 

 

「らすちゃん、ちーす。よろしゅー」

 

 いつものように挨拶を交わす。うぷちゃんは相変わらず、らすちゃんのことあんまりよく思っていないみたい。

 強くなりたいなら、リギルの選抜レースに来るのが当たり前。そんな感じで思っているのだろう。

 

「よろしく、ハーミット、ウプウアウト。今日は私が勝たせてもらうぞ」

 

 こっちも、自信満々に宣戦布告。みーくちゃん曰く、変なトレーニングが多いらしいけど強いよって言ってた。実際はどうなんだろう。

 その目を見ても、何も分からない。普通はレースを目の前にして、目の色が変わったりするものなんだけど。珍しいなぁ。勝ちたい、とかの気迫が感じられないウマ娘なんてそんなにいないと思うんだけど。

 

「しかしハーミットが今日出てくるとは思わなかったな。阪神ジュベナイルフィリーズから、そう日は空いていないが」

 

「はなちゃんに無理言ってねー。うぷちゃんリベンジいっかいめー」

 

 リギル選抜レースでは、負けちゃったしね。G1の舞台になったのはあれだけど、トレセン学園の方針で同チームの所属ウマ娘がG2以下で争うのはあんまりよろしくないとされているし。

 うぷちゃんが、もう話すことはないという風に歩き出す。じゃーねー、とらすちゃんに別れを告げて、ゆっくりと後を追う。

 

 

 

「なーんか、ひっかかるんよねー」

 

 有名なチーム所属ってわけでもないし、彼女のトレーナーも奇行が目立つだけ。大差勝ちも偶然が重なったものって言われている。タイム自体は普通に早いだけだし。美浦寮で話したときには別に強そうとか思ってなかったんだけど。

 今回はうぷちゃんも出るから、はなちゃんからの指令は無し。いくつかのレース展開を頭に描く。

 

「彼女に隠れるーってのも、ありよりの……さすがになし?うーん」

 

 可能性として一応は頭に入れとこうっと。

 あいにくの快晴。しかも中距離レース。条件は最悪だけど、負けるつもりなんて、全くない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〇シャイニウプウアウト

 

 誰が出ようと関係ねぇ。オレサマが先頭に立ち、突き進む。たとえ先輩相手でも、気力が尽きるまで前を走り続ける。それがオレサマの走り方。

 おハナさんトレーナーには、もう少し考えなさいと言われたけど、オレサマが考えたところでどうしようもねぇ。

 今日のレースにハーミットが出てくるとは予想してなかったけれど、オレサマを相手に出来るほどスタミナはないはずだ。

 

<領域>ゾーンっつったか。絶対に修得してみせる」

 

 先輩達の至っているそれを体感したとき、身体が震えた。恐怖なんかではなく、心が奮い立って。

 手に入れる方法は不明。先輩達でも分からないって言ってる。シニア期終了までに手に入れられれば、それまでの戦績から、グランドレースの挑戦権を手に入れられると言われている。だが、リギルのメンバーとしては、そんな悠長には待っていられない。

 今日、初めてのG1。ぶっちぎりで勝って、欠片でもヒントをつかんでみせる。そういう意味では、ハーミットが出てくれてありがたい。本気の彼女を下すことで、得られるものもあるだろう。

 

「ああ、楽しみだ。全力で、獲ってやる」

 

 ウマ娘にとって、G1の冠こそ最も価値のあるもの。ジュニア期であろうとも、それは変わらない。

 だからこそ、持って帰る。リギル最強チームのオレサマが。

 パドックを終えたハーミットが近づいてくる。

 

「うぷちゃん、きょーもよろしゅー」

 

 気の抜けるような挨拶。でも、いつも一緒にいるからこそ、今日も彼女が本気だって理解できる。

 リベンジなんてさせない。中距離以上はオレサマの土俵。誰にも前は走らせない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〇視点変遷:どこにでもいる二人

 

「ホープフルステークス、中山2000m。スタート直後に上ってすぐ下り、最後には急な登りが牙をむく、走り方とスタミナ配分が重要になるコースだ」

 

「どうした急に」

 

「一番人気のシャイニウプウアウトは四戦四勝。中距離を走りきるスタミナがあることは証明済みだが、二番人気のハーミットスコーピオンは先日の阪神ジュベナイルフィリーズから日を置いていない。今までがマイル戦だっただけに中距離への適性に疑問が残る、という話も聞いたことがある」

 

「リギルからの発表も、本人の強い意志を尊重して、だったな」

 

「今年もリギルが冠を戴くのか、それとも他のウマ娘が簒奪するのか」

 

「……応援しよう。俺たちにできるのは、それだけだ」

 

 

 




次回、レースは表裏同時進行になります。
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