ウマ娘錆銀ダービー 作:存在Y
★視点変遷:ラスティシルバー★
皆さん御機嫌よう。冗談を言っている余裕などないウマ娘、ラスティシルバーです。
ホープフルステークス。G1レース。コレを獲れば、そこそこ認められるはず。自分の夢に、引退後のコネ就職に一歩近づける。
目の前にはゲート。係員に名前を呼ばれ、一度深呼吸をしてからゆっくりと歩を進める。茜の予想が正しければ、差しウマ娘のマークは私に来るはずだ。
スタートでミスをしないように、神経を研ぎ澄ます。
ゲートが開いた。
スタートは好調。先頭に立ったのはウプウアウト。その後にハーミットが後を追うようにそれに続く、が……
「予想が外れたな。先行で走るつもりか……。それとも、マイルのペースで飛び出してしまっただけか」
勢いよく前に飛び出したあと、大きく勢いを落とし、先行ウマ娘たちに飲み込まれるハーミットを確認する。
向こう直線までは様子見。位置にだけ気を付けて、後方集団で待機しておこう。
茜の声援が聞こえる。期待に応えるためにも、一瞬たりとも気は抜けない。
〇視点変遷:シャイニウプウアウト
レースの開始と同時に先頭へと躍り出る。ハーミットがいつもよりも鋭いスタートダッシュを切っているのが横目で見えた。
「オレサマを潰そうってわけか。そうは行かねーぞ」
中距離なら余裕がある。少しスタミナを消費してでもハーミットが前に出るのを阻止しなければならない。前に出られること、それだけは、あってはならないという自覚がある。
脚に力を入れて、地を蹴る。強引にでもハーミットを引き剝がす。つられたのか、もう一人の逃げウマ娘も乗ってくる。が、ハーミットは乗ってこない。そうだ、それでいい。
観客からの声援が飛んでくる。次にここを通るときに、先頭であればいい。それで勝てる。
「下り、コーナー。まだまだ落とすわけにはいかないよなっ」
歩幅は大きく、飛ぶように駆け続ける。風を切り裂くこの感覚こそが、自分を自分たらしめる証。
〇視点変遷:ハーミットスコーピオン
うぷちゃんの陰に入って、最後に差す。それが一番わかりやすく勝ちやすい道だ。と思ってたんだけど。
レースが始まって数秒経って、すぐに作戦を切り替えた。
「やばー。うぷちゃん隠してたんかなー」
並走トレーニングを何度かしていたから分かったつもりでいたけど、ここまで初っ端に飛ばすのは見たこと無い。これについていけるかどうか、なんて賭けはしたくない。
「そもそも、はなちゃんにスタミナ無いって言われてるしな。あー、どーしよ」
少し強引ぎみなスタートダッシュで消耗してしまったが、上手く順位を落として先行ウマ娘に隠れよう。そうすれば温存は出来るはず。
ついていくつもりだった。自分とのスタミナ勝負だと思っていたけど。うぷちゃんに勝てるような残されたヴィジョンは一つ。
「最後の直線まで残す、そこからうぷちゃんを、差す」
第一コーナーまでは日陰、そこから先、日の光がターフに降り注ぐ。どこまで温存できるだろうか。
〇視点変遷:鳴海茜
『スタートしました。各ウマ娘、いいスタートをきりました。……ハナに立ったのはシャイニウプウアウト、その後をおっと、ハーミットスコーピオンどうした……』
「よし、いいスタート。ただ、ハーミットちゃんの、あれは……」
ラスティは良いスタートがきれた。後方集団での位置取り争いも主導権を握れるだろう。それに、体格差で押し負けないようにトレーニングもいっぱい積んできたし。
ただ、一番の不安要素が刺さってしまった。レース展開の予想の半分は、ハーミットちゃんはウプウアウトちゃんを徹底マークだった。残りのうちの半分は、ラスティのマーク。
「先行位置なら、まだ予想の範疇なんだけど。追い込みじゃないだけマシかな」
目の前をウプウアウトちゃんが通過する。二番手と二バ身差ほど差をつけて通過。その後に続くウマ娘たち。
「頑張れー!ラスティー!」
全力で応援する。私にできることは、もうそれだけ。後は彼女にかかっている。
内側をキープして、ラスティが第一コーナーに突入する。スタミナの余裕は、十分にありそうだ。
『さあ十五人が第一コーナーカーブを通過します、バ群は縦長の展開で第二コーナーへと突入していきます』
★視点変遷:ラスティシルバー★
第一、第二コーナーを回る。前方のウマ娘は皆、最内を通っており、体力を余計に消耗している様子は無い。
向こう正面の直線に到達。芙蓉ステークスの時は、かなりの余裕があったと記憶しているが、
「ウプウアウトにつられたか、それとも、やはりG1ということか、ペースが速い」
バ群は縦長、集団は形成されておらず。横を抑えられて出れない、ということはないが、無理をしてまで前に出ようとすれば、体力の消耗が厳しいと予想できる。
先頭を走るウプウアウトとは十バ身以上の差が開いている。彼女だって、あそこまで全力で走れば途中で勢いは落ちるだろう。茜とのレース展開予想時、それで意見が一致している。その大逃げのおかげで、自分へのマークがほぼ無くなったのは嬉しい誤算か。
「仕掛け始めるウマ娘もいるか、利用させてもらうか」
おそらく、無理を承知であろう、苦しそうな表情で後ろから抜いてきたウマ娘の後に続く。体力を温存しながら、少し前に出てまた内側に戻る。
中央一個下、九番目。それが、大逃げのウプウアウトを捉えるための、ギリギリのライン。少しぐらい余裕は欲しいが、第三コーナーに入るときに、最低でもその位置にいなければならない。
〇視点変遷:シャイニウプウアウト
もう一人の逃げウマ娘には影も踏ませない。スリップストリームを利用されるわけにはいかないから。それなら自分と同条件。最後は気合と根性で逃げ切るのみ。
「っし、思った通りの展開だな」
後方を横目で確認する。縦長のバ群。誰も彼もが一直線に並ぶ展開。ハーミットにはツラいよなァ。
向こう正面の終わりまでは突っ走る。最終コーナーで追いつかれない程度に息を入れつつ、最後の直線で全部吐き切る。その時に、後ろのウマ娘に三バ身はリードが欲しい。
後方を確認。逃げウマ娘との差は開いているが、三番手以下のウマ娘との差は詰まってきている。
「スタミナはギリギリもつ。オレサマが、リギルに勝利を、持って帰るンだ」
さあ、第三コーナーだ。ゆっくりと息を入れよう。最後の直線からが本当の勝負だ。
〇視点変遷:ハーミットスコーピオン
縦長のバ群が形成された。視界の右隅には太陽がサンサンと輝く。最悪の状況。
「一応陰にはなるけど、しんどいなぁ」
いつもは、身長の高いウマ娘か、ニ・三人の集団の後ろに隠れているんだけど。うぷちゃんは遠いし、集団はできてない。
ペースが思ったより速いっていうのもあるけれど、最初に四番手を走ったはミスだった。自分にはキツ過ぎる。徐々に抜いていってもらうしかないだろう。少し外に出で、内側を開ける。後ろのウマ娘を誘い込み、その陰に隠れる。
「よし、多少マシかな」
順位は落として六番目。先行ウマ娘たちの後ろあたり。先頭を走るうぷちゃんとの差は、ほとんど縮まっていない。
作戦を変えなければならない。第三コーナーには多少の影がある。あそこを抜けたら、全力を出し切る。一着を目指すにはそれしかない。
「もってほしーかな、スタミナ」
自分でもわかっている。このままでは多分もたない。でも、一着を諦めるなんてことは絶対に、ない。
ジュニア期G1二つ目、それが目の前にあるのだから。諦められることなんて、ないよね。
〇視点変遷:鳴海茜
『各ウマ娘第二コーナーをまわって向こう直線へ、先頭から後方まで二十五馬身以上という縦長の展開、先頭は……』
「よしよし、つられてペースが速くなってる」
十五人の中でスタミナの多いラスティには有利な状況だ。いつものペースを崩されて余計にスタミナを消費することになっても、他のウマ娘たちほどひどくはならない。
『先頭1000メートル、タイムは58秒5と、早いペースで向こう正面中央を通過しますシャイニウプウアウト……』
ウプウアウトちゃんも、ハーミットちゃんも、ゆっくりとペースが落ちてきている。でもラスティは、徐々に順位を上げてきている。
「よし、九番手は取れた。これで捉えられる位置。そのまま進めば……」
勝てるヴィジョンが見える。夢のG1勝利。彼女にとっては通過点でも、私にとっては大きな一歩。
頑張れ、ラスティ。レースの終盤は、もうすぐだ。そして、ラスティにとっての本番も、もうすぐだ。
★視点変遷:ラスティシルバー★
三コーナーに入ってすぐに、息を整える。ゆっくりと、バ群が詰まっている。
現在、八番手。第四コーナーに入って仕掛ける準備は整っている。
「ハーミットが仕掛けたか、苦しそうだな……」
第三コーナー途中、少し前にいたハーミットが加速する。勝算があってか、それとも博打か。表情を見るに後者だと思うが、果たして。
「勝負だな、ハーミット、ウプウアウト」
第三コーナーを抜けて残り400m、第四コーナーカーブ。さあ、始めようか。
戦場を幻視する。自己暗示による<領域>の発動。身体が軽くなり、闘争本能が高まる。前にいるウマ娘を躱して前方へ、先頭のウプウアウトを視界に捉える。
あとは単純、追いつくだけ。中山の直線310m。勝負はここから、
全力で、ターフを蹴る。
〇視点変遷:シャイニウプウアウト
最終直線に入った。あとは全力で駆け抜けるのみ。後ろとの差は気にしない。
最後まで、抜かせなければいいだけなのだから。オレサマはただ、前を見続けるのみ。
気合を入れて、走り出す。そのすぐ後から、
「ッ!<領域>!」
まさか、既に同期で修得しているヤツがいるとは。それを、深く認識する寸前に、
「ココは、オレサマの、戦場、なンだよ!」
右の脚で強く踏み込む。オレサマの周りが、芝のレース場に変わる。左の脚で深く踏み込む。オレサマの目の前が、芝のレース場に戻っていく。
余計な体力を使ってしまった。だがやることは変わらない。自分の全力で自分の道を、一歩一歩前へ進めばいい。
周りを視界に入れることなく、次の一歩を踏み出して、
声が、聞こえた。
〇視点変遷:ハーミットスコーピオン
第三コーナー途中、少しだけあった影を通り過ぎる。最後の直線まで影は無いし、他のウマ娘の陰に隠れることもできない。残された選択肢は……賭けだ。
掲示板以上を目指すなら、このままでいく。入賞以上を獲るなら、最初からうぷちゃんの後ろにいる。わたしが狙うのは、一着。
全力で駆け抜けて、それでスタミナが切れても、最下位まで落ちても、悔いはない。
「さあ、しょーぶだ」
前に出る。仕掛けるには少し早いタイミング。他のウマ娘たちが出られるスペースを、狭めてやる。
そして、最後にうぷちゃんを……
「え、これ、<領域>……」
戦場が目の前に広がる。怒号と悲鳴と轟音が襲い掛かってくる。血と硝煙と肉の焼ける臭いが鼻を突き抜ける。ここから抜ける方法は分かっている。だが、あえてそれを感じ取る。だって、
「暗雲が空を覆うなら、こーつごう。まだ、おわりじゃ、ない」
戦場は影で覆われる。日陰よりも暗い、黒赤褐の地。地獄の中、精神を削りながら。飛び出した速度を維持したまま、うぷちゃんへと迫ることができる。
これならまだ戦える、そう思った瞬間。いやな予感がして、後ろを確認して、
声が、聞こえた。
〇視点変遷:鳴海茜
『後続と三バ身ほど差をつけてシャイニウプウアウトが最後の直線に入ります』
ウプウアウトが先頭で直線に入る。ラスティとの差は徐々に詰まっているけれど、まだ遠い。
そして、作戦すら予想できなかったハーミットちゃんの、二度目の予想外
「ハーミットちゃんが仕掛けた!?でも、もうすぐ……来たっ!」
戦場の景色に包まれる。その暗闇の中で一人だけ輝くウマ娘、ラスティシルバー。
固有スキル・戦場の悪魔。その名は軍服を着て走る彼女に……
「ふさわしくないでしょ、だってほら、見てよ。神様が見守ってくれているんだから」
悪魔を祝福する神なんて存在しないでしょ。
彼女の頭上後方。そこにうっすらと見える人影。その前方に、幾何学模様の光が現れて、
声が、聞こえた。
閃光が、貫いた。
★視点変遷:ラスティシルバー★
「「……」」
何か違和感を感じた。が、瞬時にその思考を捨てる。レースに集中するべきだ。未だ前には複数のウマ娘たちがいる。
戦意に気圧されたのか、少しふらついた前方ウマ娘たちの壁に空間が出来る。
強引な仕掛けをしたハーミットが大きく横に逸れる。
先頭を走り続けたウプウアウトは、スタミナ切れで減速した。
状況が、自分に有利に働き続ける。姿勢を低くして、加速し続ける。一人抜いて、また一人、もうまた一人……そして、
「ツカマエタ」
先頭のシャイニウプウアウトを、抜き去り、そのまま
ゴール板の横を駆け抜けた。
〇視点変遷:シャイニウプウアウト
胸を貫く一条の閃光。
「ッ!」
認識してしまった。
残り250を過ぎていた。あと240……230……
「まだ、やれるっ!」
胸が熱を帯びる。その熱が広がっていくのがわかる。
あと180……170……
「クソッ!消すしか……」
小さな痛みを感じて、それを感じなくするために意識を割いた。
あと120……110……
「あと、少し……」
後ろから、自分に迫る足音が聞こえる。自分の鼓動が耳をうちつける。
いつからだろうか、自分が風を切る音が、聞こえなくなっていたのは。
〇視点変遷:ハーミットスコーピオン
横に飛んだ。うぷちゃんを狙っていたそれの、射線上にいてはいけない。
あれは間違いなく、この<領域>を受け入れた者、利用しようとした者に、赦しを与えない。
「あーあ、やっちゃった」
後ろを振り向いたせいか、無理な姿勢で飛んだせいか。
仕掛けたときの勢いは、とうに失われていた。
「らすちゃんだったかー」
横を駆け抜ける軍服のウマ娘。それについていける体力は残されてはいない。閃光に近かった右腕の皮膚が、チリチリと痛みを発する。でも、
「くらいつこーか」
最後まで諦めずに。全力で走り続けることぐらい、わたしにもできる。
〇視点変遷:鳴海茜
『後ろからラスティシルバー、ラスティシルバーが突っ込んでくる。先頭シャイニウプウアウト、残り200……』
祝福を纏い、金色の戦乙女が駆ける。その脚色は衰えない。
『シャイニウプウアウト、苦しそうな表情だ、ラスティシルバー凄い末脚。ハーミットスコーピオンを躱して……』
それどころか、加速し続ける。最後の坂も、ものともせず。
『ラスティシルバー、躱した、躱した、先頭に立った、ラスティシルバーそのままの勢いで今、ゴールイン!』
「やっ、たぁぁぁぁぁ!」
目の前を、駆け抜けた。
ホープフルステークス、G1レース。
その冠を、ラスティが獲った。
掲示板に表示される、一着11番の文字。
『タイムは、2分1秒2。今年のホープフルウィナーの称号は、ラスティシルバーが獲りました!』
ラスティが観客席の、私の方を向いて、軍帽をとって深々と頭を下げる。
大きな歓声が沸き起こり、勝利を祝う声と拍手がターフに降り注いだ。