ウマ娘錆銀ダービー   作:存在Y

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八話・裏 ハーミット/東条ハナ/茜

〇視点変遷:ハーミットスコーピオン

 

 ゴールを通過して、肩で息をする。一息ついて顔を上げて、掲示板を確認する。

 

「五着かー。がんばったがんばった」

 

 ギリギリ掲示板。それを確認してほっとした。はなちゃんに、マシな方だけど一流に届かないって言われた、自分ではあるかもって思ってた中距離適性の自覚ができたから。客観的には、中距離の適性は認められる、かな。

 

「あ、らすちゃん」

 

 観客に向かって深々と頭を下げた後、頭を上げて手を振るらすちゃん。今日の主役はとられちゃったね。

 

「らすちゃん、おめっとー」

 

「ああ、ハーミット。ありがとう。……ウプウアウトは?」

 

「うぷちゃんなら、さきいっちゃった。まけてくやしーんだろーね」

 

 多分、控室で落ち込んでるだろうなぁ。泣いてるかもしれない。あの子強がりだけどメンタル弱いし。慰めにいってこよう。

 リベンジを宣言して、じゃーねー、手を振って別れる。というか、レースのこと思い出したら吐き気が……。まともに<領域>ゾーンなんて感じ取るんじゃなかった。

 私の目標はどうしようか。まずは短距離レース全制覇とかどうだろう。流石に言い過ぎか。みーくちゃんとぶつかる事になるだろうし。晴れの日だと、まだまだ勝てない気がする。

 

 

 

 その後少し寄り道して、うぷちゃんの控室に着いた。閉め忘れなのか、扉が少し開いていたので、そのまま中に入って鍵をかける。

 うぷちゃんは、椅子に座って体を丸めるように机に突っ伏していた。体が冷えないようにとコートを肩にかけてあげて、隣の椅子にそっと座る。

 彼女はチラリと横目でこちらを確認すると、顔を戻し、少し経ってから口を開いた。

 

「なあ、ハーミット」

 

「うん」

 

「オレサマ、負けたんだよな」

 

「うん」

 

「同期には負けたこと、なかったんだよ」

 

「うん」

 

「中距離なら、誰にも負けないってさ、思ってたんだよ」

 

「うん」

 

「オレサマとハーミットで、ワンツーだと思ってたんだ」

 

「うん」

 

「勝てるって、思ってたんだよ」

 

「うん」

 

「……悔しいンだよ」

 

「うん」

 

「負けたことじゃなくって。何にも見えてなかったんだって」

 

「うん」

 

「上ばっか見て、先輩ばっか見ててさ。周りを気にしてなかった」

 

「うん」

 

「見ようとしてこなかった自分が。ほんとに悔しいンだよ」

 

「うん」

 

「……同期で、もう<領域>ゾーンだろ」

 

「うん」

 

「早く手に入れなきゃ、な」

 

「うん」

 

「勝ちたいから」

 

「うん」

 

「追いつかなきゃ、ダメだから」

 

「うん」

 

「……」

 

「……」

 

「なあ、ハーミット」

 

「うん」

 

「……膝貸して」

 

「うん」

 

 うぷちゃんはモゾモゾと動き出して椅子の上で丸くなり、隣に座るわたしのふとももに頭を乗せてくる。リギルのみんなが来るまでの間、わたしは彼女の頭をゆっくりとなで続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〇視点変遷:東条ハナ

 

「人の目からは、シャイニウプウアウトとそれにつられた他のウマ娘含め十四人が順次スタミナ切れ、もしくは不調を起こした。そうとしか捉えられないわね」

 

 ガラス張りの貴賓席の一室。目の前で今行われていたホープフルステークスが終わり、シャイニウプウアウトとハーミットスコーピオンの走りを見届けた後。私、チームリギルのトレーナー東条ハナはそう口を溢す。

 

「間違いなく、<領域>ゾーンね。新人トレーナーなのに、やるわね。ってどうしたの、皆」

 

 振り向いて、リギルに所属するウマ娘たちの顔を見ると、幾人かは苦笑いを浮かべ、幾人かは顔を引きつらせている。

 

「おハナさん。ウプウアウトを責めないでやってくれよ。あれを初見で体感して五バ身差は、立派な結果だ」

 

 シンボリルドルフの庇うような発言に、全員が首を縦に振る。

 

「全力で走り切った彼女たちを叱るわけないでしょ。まったくもう。……それで、どんなのだったの」

 

「自己強化は普通ですが、支配は……戦場、しかも二段階です。ですが戦場は、史実とかではないように思います。ウマ娘はいなかったし、魔法陣のようなものが見えていたので」

 

「ファンタジーアニメ、みたいな物かしら。あんまり見たことは無いのだけれど」

 

「アニメ、みたいに可愛ければ良かったのですが。凄惨な状況でした。視覚と聴覚だけで十二分に。想像の百倍はグロテスクなものだと思っていただければ」

 

「……そこまでなのね。何ともなければ良いのだけれど」

 

「アフターケアは出来る限りしましょう。他トレーナーにもさり気なく伝えておきましょうか」

 

「そうね、私からしておくわ。で、二段階っていうのは何なの。初めて聞くわね」

 

「戦場が現れて数秒後、守護霊みたいな何かがその……閃光を放ちまして。ウプウアウトだから狙ったのか、先頭だから狙われたのか、直撃を……」

 

「……本当に、何ともなければ良いわね」

 

 ハーミットスコーピオンが小走りに控室へ向かうのが見える。シャイニウプウアウトを追いかけたのだろう。あの子たちは仲がいいし、アフターケアは任せて、少しゆっくりと向かおうかしら。

 

「それで、貴方たちならどうやって対策するのかしら」

 

「「「最後の直線、後ろから差す」」」

「追いつかれないだけのリードを広げるわ♪」

「短距離なら、負けまセーン!」

「勝つのは、このボクさ!」

「タイマン上等!」

 

 いくつか答えになっていなかった回答もあったけれど。後で現場を体感した二人の意見も聞きましょうか。

 まったく、これから忙しくなるかもしれないわね。貸しもあるし、アイツにも相談に付き合ってもらおうかしら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〇視点変遷:鳴海茜

 

 葵ちゃんは、ミークちゃんに似合うからトリプルティアラを狙うって言ってた。私は、ラスティがトップを、最強の称号を得られるように協力したいからクラシック三冠を目指す。

 だから来年、クラシック期は、ラスティとミークちゃんは戦えない。二人とも有馬記念に選ばれれば分からないけれど。

 ある意味ではラッキーだ。だって彼女たちは強い。これからも伸びてくる。それにリギルのメンバーだって、特にシャイニウプウアウトちゃんはクラシック三冠を狙ってくるはずだから。

 

「最初のウマ娘が、こんなことになるなんて。思ってもみなかったなぁ……」

 

 今私は、ラスティの控室に向かっている。ファンサービスというか、勝った彼女はターフから他のウマ娘たちが出るまでゆっくりしていくだろう。彼女は期待通りにホープフルステークスを勝ち獲ってきた。

 

「やっぱり、ラスティは凄いな」

 

 もし仮に契約したのが、もっと普通のウマ娘だったら。ジュニア期で、やっとこさデビューできたことを喜んで。クラシック期で初めて重賞をとって。G1出場の実績でシニア期を引退する。

 これが、普通。いや、普通どころか、恵まれたウマ娘の三年間。そう、トレーナー養成学校時代に教わってきた。

 自分の実力の限界を知って、一年目で地方や障害に移る。諦めきれずにギリギリまで挑戦して、デビューできずに終わる。無理なトレーニングやレース出場、不運が重なって怪我をして引退。最悪の場合は……。

 そんな世界の中で、彼女のような、トップクラスの資質と幸運に恵まれたウマ娘は、ほんの一握り。しかもその殆ど全てが、有名なチームやトレーナーと契約を交わす。

 今更、普通のウマ娘と契約したい、なんて思わないけれど。彼女と契約できたことは私にとって幸運だったのか、それとも……。

 

 成功者は持て囃される。落伍者は、見向きもされない。では、最も叩かれるのは。一時的に成功した、失敗者。

 彼女の夢を支える者として、中途半端な心持ちでは許されない。これから先、もっと多くの人に期待され続けるのだから。

 

「何かあったら、全部、私の責任。ラスティに汚名は被せない。その覚悟は持っとかないとね」

 

 彼女の控室の前に着く。まだ、彼女は帰ってきていないようだ。静寂の中、深呼吸をして思考を巡らせる。

 これからは人脈を広げる必要がある。新人だからと遠慮している場合ではない。根回しして、最悪の場合に備えて協力してくれる体制は作っておく。今一番大事なのは、ラスティの支えになること。笑われたって、見下されたっていい。ベテラントレーナーみたいな威厳は必要ない。

 だから、彼女の前でだけは、不安を見せたりはしない。自信に満ち溢れた姿だけを、彼女に見せなければいけない。それが、私の信じるトレーナー像。

 

「あ、帰ってきた」

 

 カツカツと足音を鳴らし、いつもと変わらない堂堂たる歩きで、レース場の方から彼女が姿を現した。

 まずは、帰ってくる彼女に、おめでとうを伝えなくちゃね。

 

 

 

もしよろしければ、作者が気になるのでお答えください。本編の展開とかは変わりません。この小説を読もうとした貴方は、ウマ娘と幼女戦記、どちらを知っていましたか?

  • どっちも知ってたよ
  • 幼女戦記だけ
  • ウマ娘だけ
  • どっちも知らんけど来た
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