ウマ娘錆銀ダービー   作:存在Y

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十話・表 同期たちと呼び出し

 どうも皆さんこんにちは。今は学園の授業も終わって休憩時間の教室。椅子と机が減って少なくなったためか、最初のころに比べて広く感じてしまうのにもの悲しさを感じてしまうウマ娘、ラスティシルバーです。

 幸いなことに私もミークも良い戦績自体は収められているので、大きな不幸でもない限りシニア期までは残れることが確定しているようです。フラグではありませんよ。

 そんな私たちですが、今から食堂に向かおうとしているところです。ここの食堂も寮と同じで、メニューは決まっていますが食べ放題飲み放題、至れり尽くせりとはこのことですね。

 

「あの……ラスティさん。いいんですか」

 

「放っておけ。用があれば直接言いにくるだろう」

 

「まあ……そうです、ね?」

 

 チラチラと視界に映る桃色と黒色。黒い方は隠れているつもりなんだろうか。こっちが振り向けば目が合うし、桃色に比べて図体が大きいせいで耳隠して尻尾隠さずの状態である。二人とも有名人だから、周りからも注目されている。

 昨日の放課後あたりからこの現象は続いている。私はあまり気にしていないのだが、ミークの方は気にしないということはできなかったみたいだ。

 食堂について日替わり定食を頼む。焼き魚と味噌汁、人参の漬物にご飯というシンプルなもの。ミークはAセットの人参ハンバーグ定食を頼んでいる。こっちはウマ娘に一番人気のメニューで、一日に五百食以上食べられているみたいだ。私も何度か食べたことはあるし、実際美味しくはあるんだが、人参が直立しているビジュアルはいつまで経っても違和感があるものだ。

 まだそんなに人がいない、ガラガラの席にミークと隣り合って座る。いただきます、と手を合わせて食べ始めてすぐ、目の前の席に見知った顔が座る。

 

「やっほー、らすちゃん、みーくちゃん。きぐーだね」

 

「絶対に奇遇ではないだろ、ハーミット」

 

 ウプウアウトはいいのか、と一つ向こうのテーブルを指さす。ハーミットは振り向かずに、いーのいーのと言って人参ハンバーグにフォークを突き差した。指をさされたウプウアウトが机の下に隠れようとするが、ここからだと脚も見えているし、そもそも隠れられていない。

 

「ハーミットさん。ウプウアウトさんは……どうしたんですか?」

 

 ミークが心配そうに聞いている。ウプウアウトは昨日から挙動不審だし、何かあったのだろうかと思うのも無理はない。ハーミットが巻き込まれて笑顔でいる時点で大したことではないのは分かってしまうのだが。

 

「いやー、うぷちゃんがね、どーしてもっていうから。らすちゃん観察したいんだって。強さの秘訣を見つけてやるッ、てさー」

 

 だから今日は珍しくおさかな食べてるみたい、と言われて向こうのテーブルを横目で見てみる。私と同じ日替わり定食を食べているウプウアウトが見える。ウプウアウトは形から入るタイプらしく、今日のトレーニングメニューも昨日私がしていたものを模倣するつもりなんだとか。無理だと思うんだがなぁ。

 

「はなちゃんに、うちのトレーナーにお願いして昨日の練習からずっと観察してたんだ。はなちゃんからあかねちゃんに連絡行ってるとおもうよー」

 

「ああ、そうだったのか。道理で茜が不審者姿のウプウアウトを放っておいたわけだ」

 

 茜の性格なら、ウプウアウトに気づいた時点で絡みに行きそうなのに、黒マスクにサングラスの彼女を気にしなくていいと言った時点で変だなとは思ったんだ。茜も少々変なヤツだし、そういうこともあるかで済ませてしまった。

 

「大変ですね……ハーミットさん」

 

「んー、まあねー。でもー、こどもってあんな感じなんだろうなーって」

 

「ハーミットも同じ年齢だろうに」

 

 もしかしたら家族とか親戚に小さい子とかいたんだろうか。気になって聞いてみると、特にいないよと返ってきた。何故そんなに達観できるんだ。

 そんなことを考えていると、後ろを少し振り向いたハーミットが、小声でこそこそと告げてくる。

 

「ごめん、らすちゃん、ちょっとだけご飯お代わりしてもらってもいーかな」

 

 わたしもするから、と言って立ち上がるハーミット。向こうのテーブルを見ると、なるほど。そこには空の茶碗を寂しそうに見ながら、半分ぐらい残った魚を突っついているウプウアウトがいた。

 私が茶碗を持って立ち上がると、視界の隅で嬉しそうに立ち上がるウプウアウト。私が少しご飯をついだ後、山盛りのご飯をよそっている。彼女自身、一応真似はするが、細かいところは気にしない性格なのかもしれない。

 

「本当に……母親みたい……」

 

 ミークがボソッと呟いていたが、表には出さずに心の中で同意しておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なに?今日の放課後、授業が終わり次第理事長室で集合?」

 

 茜からのメッセージにそう書かれている。呼び出しを受けるようなことでもしたのだろうかと冷や汗が流れる。

 秋川やよい理事長。入学式以来喋っている姿は見かけていない。忙しい方らしくあちこちに飛び回っているらしい。見かける時はいつも帽子の上に猫を乗せていて、外見で言えば私ぐらいに小さいが、その権力は計り知れない。生徒会を帝国作戦参謀本部だと例えたなら、理事会は皇族、理事長はそのトップの皇帝みたいなものだ。

 周りの評判は、すこぶるいい。というか悪い噂を聞かない。学園内ということもあり偏った意見かと思ったが、ウマッターなどのSNSでさえも彼女の悪口を見たことがない。それが本当の姿であればいいのだが、もし仮に生徒に知られないようにしてヒ〇ラーやス〇ーリンのような独裁体制をとっていて言論統制でもしていたら……。

 もしかしたら秘書のたづなさんがフレンドリーだからといって、茜が粗相をしでかしたのかもしれない。前前世の日本に近い社会制度だから即処刑など無いと信じたいが、この世界でのトレセン学園は割と政治にも関わっていそうな一大勢力。もしもの場合は私も頭を下げて謝罪しなければ……。

 

 

 

 理事長室に入った私を待ち構えていたのは、和やかに談笑する三人の姿と理事長の言葉。

 

「優秀ッ!コレが奨学金返済に関する書類である」

 

 どうやら、本題はそういうことらしく、危惧していた事態が訪れないことに安心した。過去三回のレース、というか主にホープフルステークスの賞金で、既に六年間の学費が賄えるという話だった。

 無利子だからあまり気にしてはいなかったのだが、返せるというのなら返しておこう。寮生活だし私物を買う予定もないし、学園生活内でお金が必要になった場面が今までで数えるほどしかない。

 

「ウマ娘とトレーナーとの間で賞金に関してもめることは少ないですけどありますからね。鳴海トレーナーは大丈夫そうで安心しました」

 

 たづなさんに言われて茜の方を見る。聞いたことがないんだがというと、茜は驚いた様子で。

 

「いやいや、最初の契約書に書いてあったよね。ラスティは賢いからてっきりわかってるもんだと思ってたんだけど」

 

 と言った。確かに思い返してみれば、学園の定める標準的な割合でとか書いていた気がしなくもない。学園公認なら気にしないでいいだろうと後回しにしたのをすっかり忘れていたようだ。

 ちなみに学園の定める基準を聞いてみれば、グッズは経費を引いた後に学園側が半分取ってからの残り、レース賞金はすべての額で、半分をウマ娘に、一割をトレーナーに。残りを管理費として学園の口座に保管し、引退時に使わなかった分を3:1でウマ娘とトレーナーに分けるらしい。

 トレーナーの分が少なくないかと聞いたら、学園から基本給が出ているらしく。額を正確には教えてくれなかったが、結構な高給みたいだ。多くのトレーナーは生活に困らないぐらいにはお金を持っているらしい。というか趣味兼仕事でウマ娘たちを育成しているため、使う時間も動機もないらしい。

 

「こういった感じで、担当ウマ娘にしっかりと伝えられていないケースも少なくないんですよ」

 

「大変ですね。ご心労お察し申し上げます」

 

「ありがとうございます。でも、ラスティシルバーさんも遠慮はせずに迷惑をかけてくださって構いませんからね」

 

 生徒の面倒を見るのも好きでやっていますから、というたづなさん。同意ッ!と理事長も首を縦に振る。やはり出来る大人は違うのかと感心する。横にいるのとは大違いだ。

 

「ラスティなんか変なこと考えてない?追加でこういうのもあるんだけどな~」

 

 どーしよっかな、と言いながら書類の束を振る茜。横からたづなさんがグッズに関してですねとネタバラシをしてくれた。何で言っちゃうんですかーとたづなさんに食って掛かる茜。

 こんな時期にグッズ化、少し早すぎやしないだろうか。

 

「些か早くありませんか。戦績もG1とはいえ三戦三勝。グッズ販売を始めても採算が取れないような」

 

「はい。一年生ですからラスティシルバーさんだけではなく、同世代の他の方も含めてと言った形になりますね」

 

 こんな感じですね、と差し出されたサンプル品のクリアファイルには、私を含め十名ほどのウマ娘が写っている。

 

「やはりそうで「ただし、皐月賞で入賞以上を獲っていただければ、ラスティシルバーさん単体のグッズが販売され始める手筈になっています」

 

 茜から手渡された書類を確認する。確かに、そういった文言が書いてある。

 ちなみにグッズだが、売り出したい種類を選んでいいらしい。ストラップやクリアファイル、ぬいぐるみなどの一般的な物から、ボイス入り目覚まし時計や勝負服コスプレ衣装、写真集など少しマニアックなものまで様々な種類が存在している。後者のグループは売れなかった場合、経費でマイナスになることもあって選ばれることはあんまりないとか。ボイスや写真などは、売り出したいにチェックをつけて提出すると、後で撮影や収録を行うらしい。私は選ばないが。

 全部出そうよラスティ、という茜を無視して、よく見かける一般的なものにチェックをつけて提出する。

 

「完了ッ!必要な手続きは以上になる。わざわざ足を運んでもらってすまなかったな」

 

「今日はありがとうございました。皐月賞に向けて頑張ってくださいね」

 

 これで今日の用事は終わりということらしい。何事もなく終えられて本当に良かった。

 二人に見送られながら、茜と理事長室をあとにして、その後はいつもと変わらない日常を過ごすのだった。

 

 

 

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