ウマ娘錆銀ダービー 作:存在Y
〇視点変遷:シャイニウプウアウト
放課後、リギルの練習がもうすぐ始まるという時間。ふとオレサマの脳裏に、素晴らしいアイデアが思い浮かんだ。
「ハーミット、付き合え」
「どーしたん。うぷちゃん」
「ラスティを真似ンだよ、そしたらヤツの強さの秘訣が分かンじゃないか」
疑問符を浮かべているハーミットの腕を引っ張って、そのまま連れて行く。一緒に強くなるために、おハナさんを一緒に説得するぞ。
「良いわよ、ウプウアウトは今日一日ラスティシルバーの偵察に行ってきなさい。ハーミットは駄目よ、今日のメニューは決まっているから」
「えーお願いおハナさん、あ、いや、お願い……します?おハナさん。ハーミットも……」
「何で疑問形なのよ。駄目よ、一人で行ってくること。それと偵察なら、きちんとレポート出しなさい」
練習内容まとめるだけでいいから、と言ってペンと手帳を手渡される。うえー、こういうの苦手なンだよな。
「嫌そうな顔しないの、これも強くなるためだと思って我慢しなさい」
おハナさんにそう言われたら我慢するしかない。ハーミットのぶんまで強くなってやろうと心に決める。リギルのサポーターがくれた変装グッズを身に着けて、ラスティの練習を見に行った。
「うぷちゃん、どーだった?」
もう日も暮れて練習時間も終わり、寮の部屋に帰ってきたオレサマを見てハーミットがそう聞いてくる。
「プールで飛び込みやってた。次は、リップクリームでエントリー目指すンだって」
「えぇ???」
「明日はハーミットにも付き合ってもらうかンな!」
正直、一人でいてもあんまり楽しくなかったし、よく分からなかった。多分、見るだけじゃなくてやってみないとわかンねえってことだろ。
「うん、あ、はなちゃんにはわたしから渡すから、てちょーあずかるねー」
「あ、じゃあついでに、おハナさんに明日飛び込み台予約しといてッて伝えてくれ」
明日のために今日は早く寝なきゃならねぇ。ご飯を食べて、ストレッチをして、風呂入って。寝る準備をすぐにして、そのままベッドに飛び込んだ。
次の日、登校するラスティのあとを、二人でついていく。
「ねーうぷちゃん。わたしにかくれるひつよー、ある?」
「だって、ついて行ってるのがバレたらオカシイだろ」
隠れてやり過ごさないと、不審に思われるだろう。全く、ハーミットはまだまだ甘いンだよな。
ホラ、今も完璧に隠れたから、ラスティにバレなかっただろ。
「まー、うぷちゃんがいーならそれでいーけど」
クラスが違うから、授業中は観察できないけど、休み時間はずっと偵察するぞ。
そんな感じでやってたらもうお昼。食堂に着いた。よし、ラスティの昼ご飯は日替わり定食だな。オレサマもそれを頼もうっと。
なんでラスティに話しかけにいったンだよハーミット。最初はそう思ったが、きっとハーミットなりに考えた結果なんだろう。ハーミットがラスティの目を引き付ける役割をすることで、オレサマがバレないようにするということだ。そうに違いない。
おっとアブねえ。机の下に潜らなければバレる所だった。セーフ。
……というか、ラスティ、ハーミットと同じで小食過ぎやしねえか。ご飯足りないだろ、お代わりしないのかなぁ。魚だけで食べるのツラいんだよなぁ……。お?お代わりするのか。ハーミットも珍しいな、お腹が空いてたンだろうな。ならオレサマもしようっと。
「ウプウアウト、飛び込み台の予約は一週間前からじゃないと出来ないのと、貴女のここ一か月の練習はもう決まっているからそんなのする余裕はないわよ」
「えぇ、マジぃ……、あ、マジですますかぁ」
「日本語変になってるわよ。ハーミットと一緒に、タイキシャトルの所に行ってきなさい練習メニューを渡してあるから」
「はーい」
「返事はしっかりと」
「ハイッ!」
ラスティの練習の真似は出来ないけど、リギルの練習をもっと頑張って、ラスティを必ず倒してやる。今日も張り切って行くぞ、オレサマについて来いよ、ハーミット!
〇視点変遷:駿川たづな
「歓迎ッ!早速だが評定を渡すとしよう。たづなッ!」
「はい、こちらが鳴海トレーナーさんの昨年の勤務評定となります」
立ったままで緊張している新人トレーナーさんをソファまで案内し、トレセン学園中央校の新年恒例行事、新人甘々評定を開始する。
大体のトレーナーは一年目では甘めの、二年目は少し厳しく、三年目からフラットな評価を貰うことになる。なんだかんだこれが一番トレーナーが続いてくれるやり方だという。
「鳴海トレーナーさんの評定はA+ですね。トレーニングに関する経費や論文の関連で少しマイナス評価がありますが、戦績、実績だけで十二分に補えるものです。新人が最高評価となるのは、五年ぶりですね。ボーナスの額も期待していて下さいね」
五年ぶりといっても、人数で言えば十人ぐらいですけれど。ただ、二人同時にというのだから、この世代には期待してしまいますね。
「あ、ありがとうございましゅ……ます。」
「緊張しなくても大丈夫ですよ。ラスティシルバーさんが来るまでに、その他の連絡事項も終わらせてしまいましょうか」
ラスティシルバーさんのグッズ関連書類と、今年の夏期間に使えるトレセン学園直営の宿舎のパンフレットと、専属契約なのでチーム設立のご案内は必要ないでしょう。あとは細かい連絡事項だけですね。
一つ一つ丁寧に説明していく。たまに夏合宿を申し込み忘れるトレーナーもいるため、早めに周りと相談するように伝える。新人トレーナーさんは同期と一緒の宿舎で申し込むことが多いですからね。
雑談も交えながら説明を続け、いつのまにか鳴海トレーナーの緊張も解れていたみたいです。
トレーナーさん個人に対しての用事は全て終わってしまったので、雑談ついでに話を振ってみる。理事長にもコレは聞いておけと言われたので、まず最初に。
「そういえば、鳴海トレーナーさん。ラスティシルバーさんの<領域>についてお聞きしたいんですが……」
「カッコイイですよね!ラスティ!」
「え、えぇ」
凄い勢いで喰い付いてきた。やっぱり、鳴海トレーナーにはそのように見えるんですね。担当トレーナーは<領域>に関して盲目になりやすいというのは本当らしいです。
「って、たづなさんはウマ娘じゃないから見えないんですよね。残念だなぁ」
「ぁ、そうですね、そんなにカッコイイなら見たかったです……」
「私ももっと他のウマ娘たちの<領域>を見てみたいんですけど、ラスティとの専属契約の間は当分お預けですね」
そもそも、<領域>を習得できるウマ娘の数が少ないことを分かっていないのかもしれない。複数の<領域>を見たことある人間なんて、ホントに数えられるぐらいなんですよ。
「あ、たづなさんも見たことあるって感じでしたよね。どんなの見たことあるんですか」
「えっと……、秘密です」
「やっぱりそうですよね。」
私がこの学園で働き始めてからの現役生のものは全部見ていますからね。理事長も、グランド期のウマ娘たちのは全部把握していると思いますし。
「たづなさんの育てたウマ娘は凄かったって、噂で流れてきたんで気になったんです」
噂は噂、どこかでごちゃまぜになったんでしょうね。古い記録に名前と戦績は残っていますけど、育ててはいないんですよね。トレーナー資格は引退後に取りましたが、ウマ娘さんを育てたことは無いペーパー資格ですからね。
あと、当時は<領域>という概念に名前が付いていませんでしたから、聞いても当たりっこないですね。
「警告ッ!むやみやたらに<領域>の話を他人にしないようにな、鳴海トレーナー」
「はい、すみませんでした!」
理事長のフォローでこの話は終わりにして、ファン感謝祭などの行事のこと話していると、ようやっと彼女の担当ウマ娘がやってきた。
ラスティシルバーさんに奨学金関連の話をしていたら、トレーナーとの間で金銭に関してしっかりとしたやり取りができていなかったことが判明。
「……こういった感じで、担当ウマ娘にしっかりと伝えられていないケースも少なくないんですよ」
「大変ですね。ご心労お察し申し上げます」
「ありがとうございます。でも、ラスティシルバーさんも遠慮はせずに迷惑をかけてくださって構いませんからね。生徒の面倒を見るのも好きでやっていますから」
やっぱりどこか大人びた子だな、と思う。二人ともちょっと抜けているけれども、会話だけだと、どっちがウマ娘でどっちがトレーナーなのか分からなくなるかもしれない。
グッズに関しても、普通のウマ娘たちはすぐに喜ぶんだけど、学園側の心配をするウマ娘は初めてだ。自己評価が低いのかもしれない。
こういうウマ娘の対応はしたこと無いけれど、例年の統計的にはクラシックでG1入賞ぐらいを取ってくれれば単体でも採算が取れる計算だよと暗に伝えておく。
グッズは全部出そうよと言うトレーナーと、無難な商品だけを選ぶウマ娘。やっぱり普通とは逆だなぁと思う。金銭に執着は無いのかもしれない。
「完了ッ!必要な手続きは以上になる。わざわざ足を運んでもらってすまなかったな」
「今日はありがとうございました。皐月賞に向けて頑張ってくださいね」
二人を見送って、とりあえずの仕事は終了。あとは理事長とお話をするだけ。
ごく一部から上がってきた報告だけど、無視するには少し大きかった問題を、利用しようとする人間はわずかながらいるわけで。
「性格面も感情面も、不安定な部分が無いしっかりした生徒ですね。問題点も特に見当たりません。ちょっと堅いところも美点ですしね」
「賛同ッ!理事会の方は私に任せてくれ」
「現役のトレーナーさんたちへは私がやっておきますね」
「懇請ッ!よろしく頼むぞ、たづなッ!」
「はい、任されました」
小さいけれど、その背中は大きく、頼もしい。ウマ娘の幸せのためなら、どこまでも走り続けるその姿を見て、付いていこうと思ったのは間違いじゃなかったと確信できる。
「それはそうと、理事長。なんか怖がられていませんでしたか?」
「愛猫ッ!きっと彼女はわたしではなく、ネコが恐ろしいに違いない」
理事長の帽子の上で、関心なんぞ欠片もないといった感じであくびをする猫。小さい手でそれを撫でる理事長。
猫みたいに自由気ままに過ごすのも少し憧れるけれど、理事長と一緒にする、ウマ娘たちに関われるこの仕事がやっぱり好きだ。そんなことを想いながら、いつものように新たな業務に取り掛かるのだった。