ウマ娘錆銀ダービー 作:存在Y
〇視点変遷:ハッピーミーク
学園生活も始まって、はや一週間。トレーナーとの契約を終えていないウマ娘は必死になっているし、そうでないウマ娘はトレーナーとのトレーニングに期待で胸を膨らませている。みんなどことなく授業に身が入らない、そんな特別なことは何も無い平日。
トレセン学園では、国語算数理科社会、英語と第二外国語に歌にダンスにレース学に医学。これらを勉強しながらトレーニング等もしなければならない。わたしは予習としてトレーナーとの特訓があるからついていけるけど、脚が速いからという理由だけで入学してきたウマ娘たちにはハードすぎるスケジュール。
正直なところ、レースで結果を残しさえすれば学園には残れるのだけれど、文武両道を掲げている学校なので、奨学金とかその他いろいろな所に関わってくるらしい。
「……という訳でメイクデビュー後、OP戦を一勝すれば10ポイント以上加算されてG1への出場権が得られるわけだな。まあ、枠は決まっているからポイントは出来るだけ取りに行った方がいいと先生は思うぞ」
出過ぎてマイナスくらったら元も子もないがなと、笑えるのか微妙な冗談を飛ばす先生と尻目に、隣で手を動かし続けているルームメイトを見る。彼女は一部の教科を除き、とても真剣に授業を受けている。普通は興味があって真剣に授業を受けて好成績、なんだろうけど。どうやら彼女は、
「識っている事象を習うなど時間の無駄だ。それよりも新たな知識を身に着けた方が万倍マシだろう」
と言って、興味のない授業では図書館に置いてあった難しそうな本を借りて内職をしていたりもする。それでいて、授業中に指名されてもサラッと答えるあたり、本当に解っているのだろう。ちなみに、奨学金に影響するからと言って、第三外国語のドイツ語まで取っている。先生に直談判しに行って既に単位取得したなんていう噂が出ているが、本人に聞いたところ、それは嘘だな、テストを受けないと単位は貰えないからな。と言っていた。
そんな完璧超人な彼女なんだけど、
「ワン、ツー、ワン、ツー。ラスティシルバーさん、胸を張ってもっと堂々と……」
ダンスはどうやら苦手らしい。可愛いところもあるなあとよそ見をしていたら、指導員から集中しろと叱られてしまった。
水分補給休憩の時間になって、ラスティと並んでスポドリを飲む。よく見れば、彼女の肌には汗が一つも浮いていない。選抜レースの日にも思ったが、やはり彼女のスタミナは底が見えない。いったいどんな孤児院で育ったらこうなるんだろう。
「……ラスティさん、汗一つかいてない」
「ああ、ミークか。ミークも疲れてるようには見えないな」
「……ぶい。トレーナーの指導のおかげ」
わたしの自慢のトレーナー。本人は『トレーナー白書』のおかげと言っているが、しっかりとわたしのことを見てくれているのはわかる。というかその『トレーナー白書』、一部のページに呪いのように鋼の意思って書いてあるの怖いんですけれど。
「トレーナーとの仲が良くて何よりだ」
その言い方に一抹の不安を感じたが、杞憂だったようで。
放課後に一緒に遊びに行くぐらいには仲がいいとのこと。わたしもトレーナーと遊びたいなぁと、ちょっと嫉妬してしまう。
未だトレーニングを始めてないあたり、道具や機材待ちとかなんだろうか。新人トレーナーだし。
「……きっと、彼女なりの何かがあるんだと」
「だといいがな。未だに本格的な練習はお預けで、ひたすらに自主トレだ」
本当に気にしていないようで、真剣な面持ちで指導員のもとへ行く彼女。まあ、何かあったら協力してあげよう。そう意気込んで、彼女の後を追った。
〇視点変遷:鳴海茜
「葵ちゃん助けて~」
トレーナー共用ルーム。チームに関りを持たないトレーナーたちの為にある、結構広い共用部屋。私と葵はよく隣同士の席に座り、育成論を語り合っている。
「どうしたんですか茜さん、まだやる気が上がらなそうなんですか」
「そうなのよ~。ほんとにどうしたらいいか分かんなくて」
「やっぱり本格的なトレーニングさせてあげた方がいいんじゃないですか」
「うぅ……。もうそれしかないかなぁ。効率悪くなるけど」
「『トレーナー白書』見ます?何かヒントになるかもしれませんよ」
「う、嬉しいけど遠慮しとくね。気持ちだけ受け取っとくよ」
ごめんなさい葵ちゃん。一回だけ興味本位で隠れて覗いたことあるんだけど、見開き一ページに隙間なく書きなぐられた文字をみて滅茶苦茶怖くてすぐ閉じたんだよ。あの後寝られなかったし。
あの微妙に筆跡とか違ってた鋼の意思たちって何なの。桐生院家は歴代の怨念を降り積もらせて付喪神でも作ろうとしてるの?
「それだとあとは神頼みぐらいしか。ごめんなさい力になれなくて」
「いや、十分助かってるって葵ちゃん。ありがとね」
それにしても神頼みか。神と言えば三女神。三女神と言えば……
「それじゃん!!」
「わひゃぁ!」
注目を浴びる私、椅子から飛び上がる葵ちゃん。
私の直感が正解だと告げている。
「ありがとう!助かったよ」
「えっ、えっ?」
葵ちゃんの手を握ってブンブンと振りながら感謝を伝えた後、困惑する彼女を尻目に中等部の校舎へ向かった。
ちなみに、まだ授業が終わっていない時間だったため、一時間弱待つことにはなったのだが。
昇降口にやってくる彼女を見つけ、駆け寄る。
「三女神像行きましょうラスティ!」
「脈絡が無いぞ、茜」
最近の彼女は、トレーニングは?と聞く回数が増えてきた。今ここで、直観が三女神像に祈れと言っている、なんて言ったら、もしかすると不機嫌になってやる気が下がるかもしれない。
「ほら、あれですよあれ。ご先祖様にお願いしますって願掛け。恒例行事らしいですけど、私たちではまだしてなかったなって」
「授業で行ったことはあるが」
「ウマ娘はトレーナーとの絆で強くなるって言うから、きっと一緒の方が効果があるよ!」
「そういうものか。まあ、願掛け程度なら構わないだろう」
まあ騙されておいてやろう、といった感じでスタスタ歩いていく彼女の後を追って、あれやこれやと彼女を楽しませる話題を並べているうちに、三女神像の前に到着した。
「考えたこともなかったが、私の先祖はいったい誰なんだろうな」
ラスティには王冠が似合いそうだな、尊大不遜な感じが。とか思ったがそのまま言うと悪口っぽいし拗ねられても困るから、適当な理由で誤魔化すと、もっとまともな理由は無かったのかと返される。
三女神像を見上げながら、王冠……か、とつぶやくラスティは、きっとG1レースに勝利した自分の姿を脳裏に思い浮かべているのだろう。
「まあ、どうでもいいか」
「えー、そっちから振っといて」
「いいから、さっさと祈るぞ。順調にいきますようにとかでいいか」
「ラスティの好きなようにしていいんじゃない?私も好きにお願いするから!」
「そうするか」
そう言うと彼女は迷いなく、随分と堂に入った祈りの姿勢をとる。きっと彼女は敬虔な信徒なのだろう。孤児院時代の話も聞けたらいいなぁとか思いつつ、私も彼女をまねて、祈りを捧げた。
「長くない?え、こんなもんなの信者って」
一分程度、俗に塗れたお願い事をした私は、彼女が祈り終わるのを待っていた。三分、五分と経っても彼女は動かず、もうそろそろ十分が経過しようとしている。
「え、死んでないよね。天に召されましたとか無いよね」
周りも、心配そうな視線で見てくる人が出てきたし、名前を呼びながら体をゆすると、ちょっと経ってから彼女が動き始めた。
「ずーっと固まって、うんともすんとも言わなくなったから叩こうかと思ってたよ」
「私は壊れたラジオでもないし、そもそもそれは間違った方法だ。精密機械はきちんと修理に出すべきだ」
「ラスティが解体されるところは見たくないなぁ」
「私も解体はされたくないな」
冗談が言えるぐらいには頭が回っているらしい。でもどこか遠くを見つめて考え詰めるような様子を見せた彼女がクスクスと笑い始めたので、変なことになってないよなと彼女に話しかけ、視ると。
……うわぁ!なんかステータス上がってるし。というか固有スキル、なんで生えてきてるの???
ウマ娘は敬虔な信徒であるほど、祈りで成長する。オカルトっぽい論文が一本書けそうだなーとか、現実逃避してしまう。代償はなんだろうか、賞金の多いレースだと力が発揮できないとかだと面白いなとか、しょうもないことを考えてしまう。
でもそれも、彼女が自分からカラオケに誘ってくれたことで全部吹っ飛ぶ。とうとう彼女にもデレ期が来たか。
その後は寮の門限まで目一杯、一緒にカラオケを楽しんだ。学園の授業で習ったダンスを踊りながら歌う彼女は輝いて見えた。きっと、センターで踊ってくれることだろう。
彼女を寮に送り届けた後、直感が彼女の絶好調を告げる。これで、明日からトレーニングが気兼ねなくできる!
早速、施設利用の申請書を出さなければと、逸る気持ちを抑えきれずにトレーナールームへ全速力で向かった。