ウマ娘錆銀ダービー 作:存在Y
気が狂ったようにトレーニングに打ち込まされ、友人と共に勉学に励み、共に遊び。自分でも、充実した日々を過ごしているなあと感じている。授業中の春の日差しは暖かく、気を抜けば眠ってしまいそうな心地よさが襲ってくる。
ああ、挨拶が遅れてしまい申し訳ない。皆さん御機嫌よう。ラスティシルバー、十二歳のピチピチ(死語)ウマ娘です。
最近は、レース用に比べて五倍ぐらい重い蹄鉄をつけてスタートダッシュを延々と繰り返したり、手足に三キロずつ重りをつけて水泳させられたりと、レースに意味のありそうな半ば虐待じみたものから、瓦割りに将棋にバスケットボールのフリースローなど、レースと関係のなさそうなことまでさせられています。納得いかないのは、自分の中で力が伸びていると何故か実感できてしまうこと。私の身体に一体何が起こっているんだ。
たまにミークと一緒に練習したりもするが、桐生院トレーナーの指導はいたって普通のトレーニングである。
そんな感じで日々が過ぎていく中、現在は練習前のミーティング中なのだが、
「ラスティ、当面の目標はホープフルステークス。これで決まりね!」
ベシベシと手に持った『レース計画表』を強調するように指ではじく赤髪の女性は、私の専属トレーナーの鳴海茜である。
G1レース。最高峰のレースだが、ジュニア期十二月のコレは、世代のこれからを担うウマ娘たちのお披露目会といった感じか。本格的に人気や知名度を獲得できるのは、クラシック期の四月以降のG1レースだという。
分かった、と頷くと、じゃあこれ今後の予定ね、と二つのレースを指し示した。六月前半、デビュー戦。九月後半、OP芙蓉ステークス。どちらも中距離のレースだ。彼女曰く、マイルも走れないことは無いが、私の適性は中距離以上のレースらしい。
「一つ気になるんだが、この指示はなんだ」
「これはね、作戦よ作戦。最短手数でG1を獲る、ね」
そこに書かれているのは、デビュー戦で力を抜いて一着、芙蓉ステークスは全力で大差勝ち、というメモ書き。
「ホープフルステークスに出る最低条件は10ポイント以上。例年ではトップのウマ娘は30ポイント程度で出てるわね。でも、例年のボーダーは14~16ポイント。大きく外れることは無い。だから、警戒されないようにして芙蓉で大勝ちを狙う。OP勝利の10ポイント、差を六バ身以上合わせて16ポイント以上で出走しよう。足りなかったらすぐ後にある紫菊賞で補填すればいい」
出来ないことは言わない茜のことだ。本当にできると踏んでいるのだろう。いつものポンコツ具合とは違って、やはりトレーナーという人種はレースが関わればまともになるんだな、と感心していると。
「まあ、もちろん無敗の三冠バになるんだから、こんなところで躓くわけ無いよね」
と調子に乗り出した。やっぱりいつもの茜か、と溜め息をつく。ただ、デビュー戦やOP戦で負けてしまうと、先のビジョンが見えなくなるのは確かだ。ここぐらいは一着で突破しないとな。
「まあ、トレーナーの意向ならばやってやろう。トップ、目指すぞ」
もちろん、と元気よく返事する茜。トレーナーとしての彼女の資質に、未だ疑問を呈する余地は無い。
さて、そろそろ時間か。トレーニングに向かおう。今日のメニューはカラオケランニング。目標は二十周だな、と意気込みつつイヤホンとピンマイクを持って芝レース練習場へと向かった。
練習場にはウマ娘とその担当トレーナー以外にも、偵察や観察、引き抜きを行うトレーナやサポーターなどが結構数多くいる。外部からは許可証がないと入ってこられないため、レースの観客席ほど混み合うということは無いが。
私みたいな無名のウマ娘の偵察にというトレーナーは皆無、という訳ではなく結構いる。その理由の大半は、トレーナーが桐生院家のご令嬢と近しいからという理由と、たまにあるわけ分からん練習方法の観察。つまりは茜の悪目立ちというわけだ。
「~~~~~~♪っ~~~…ー♪」
『今詰まりましたね、終了です』
三度目の音程ズレ。息継ぎのタイミングで変なものを見てしまった為に集中力が切れてしまった。
「五周目とは早かったですね、調子が悪いんでしょうか。十五分休憩をとってもう一度やりましょうか。……ん、どうしたのラスティ、何か変なものでも見ました?」
スタート地点の近くにまで戻るとトレーナーからそのように言われたので、黙ってそれを指さす。
茜が振り向いてそれを確認すると、認識されたと理解したそれが近寄ってきた。こっちを向きながら、すごい速さで左右に大きくブレるカニ歩きをしながら。
「チームスピカのゴールドシップさん……ですよね」
「おう、俺様がゴールドシップ様だ……じゃなくて、謎の紅茶ゴクゴクウマ娘様だわよ。お紅茶はいかがかしらわよ。おーっほっほっほっほ」
ゴールドシップと呼ばれた謎の紅茶ゴクゴクウマ娘を自称するウマ娘──あの時のレースに出ていたウマ娘のお面をつけている──は、何処からか取り出してきたティーカップになみなみと紅茶を注いで渡してくる。ノリで受け取ってしまったが、どうすればいいんだコレ、と茜の方を見てみると、彼女も困惑した表情で紅茶に口をつけ、アチッとかやっている。
「なんか俺様みたいに奇抜なトレーニングをしてるやつがいるって聞いてよ……わよ。どんなもんかって見に来たわけだ、わよ。ってメンドクセエわ!」
ベシッとお面を地面にたたきつける芦毛のウマ娘、ゴールドシップ。黄金の不沈艦、百二十億などの異名がある有名ウマ娘だ。たしか現在もトゥインクル・シリーズに出ていた、と記憶している。
聞きましたかラスティ、ゴールドシップさんも認める練習メニューですよ、と言って喜ぶ茜。奇抜な、という言葉は聞こえなかったのだろう。
その後はトレーニングやら走り方やらの話をして、なんだかんだ私も茜も彼女と仲良くなれたと思う。これからはゴルシちゃん先輩と呼んでくれと言われた。一緒にトレーニングでもどうですかと茜が誘っていたが、友情パワーが足りねぇなあ……とか言われて断られていた。
でも、どうやら気には掛けてくれる様子で、
「お嬢ちゃん、なんか分かんないことあったらお姉さんが優しくおしえてやっからな」
と言ってくれた。せっかくなので、魔法について教えてほしいと言ったら、
「魔法ぅ~?ゴルシちゃんはワープが使えるけど、あれは魔法じゃなくてトリックみたいなもんだぞ。魔法なんてナイナイ、ナイアガラフォール」
と言っていたので、やはりあの時は疲れて変な幻覚を見ていただけだったんだろう。
んじゃまた来るぜ、と言い残してゴールドシップが帰っていった後茜に、休憩時間は終わりですね、と告げられた。今まで存在を忘れていた、手元に残された紅茶を処理しようと一気に飲み干す。
「ッ!酸っぱ!なんだこれは!」
ティーカップの底には、クエン酸配合!という吹き出しと共に、笑顔のゴルシちゃん先輩が描かれていた。
六月に入ってすぐに出たデビュー戦。
指示された走りは差しだったが、普段の練習通りのペースで走ったにも関わらず先行集団より前に立ち。先頭の逃げウマ娘がガス欠になったために差すまでもなく、三バ身差の一着を飾ることができた。
「すまない、思ったよりも余力があって指示通りに走れなかった」
「ラスティ、おめでとう。全然いいよ、むしろラッキーだったかも」
二人して控室で祝杯を挙げる。備え付けのペットボトルのコーヒーを紙コップに入れただけだが、悪くない味がする。
「おい、それ……身体を壊さない程度にしておけよ」
「わかってるってラスティ、私結構強いんだから」
持参したウイスキーで、コーヒーと同じく備え付けの烏龍茶を割る茜。まあ、トレーナーからしたら担当バの初勝利は記念すべき日だろう。今日ぐらいは飲んだくれても許してやろう。
ウィニングライブも楽しみにしてるね、そう言って私をライブに送り出して。
ライブ中に最前列で黄色い声を上げてはしゃいでいる彼女を見て、誰かの為に勝つのも悪くないな、なんて考えが脳裏をよぎった。
初レースの描写が二文で終わりましたが、ウマ娘の二次創作です。サクサク行きます。