ウマ娘錆銀ダービー   作:存在Y

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三話・裏 茜/ゴルシ/茜

〇視点変遷:鳴海茜

 

「うぅ……ほんとにこれでいいかなぁ。怒られないかなぁ」

 

 葵ちゃんは既にミークちゃんのジュニア期出場レースを決めている。クラシック期のことも相談し始めているらしく、それを聞いて私もジュニア期ぐらいは、と予定を組んでみたのだけれど。

 手元にある『レース計画表』、そこに書いてある文言を見返して、不安になる。無敗のためには、出場レース数を減らす事故が起きないようにする。これが最善だって信じたい。けれどこんな指示をされたら、ウマ娘によっては激怒することだってあるだろう。専属契約とはいえ、愛想をつかされてしまえば名義貸し状態と変わらない。そんなのは嫌だ。

 いや、駄目だ。ネガティブになってはいけない。明るく元気でいれば、何とかなる。私が不安な顔をしていたら、ラスティだって不安になるだろうし。もちろん彼女が本気で嫌がれば、その時は指示を変えるつもりだ。でも、彼女のことだからきっとわかってくれるに違いない。

 

 

 

 ミーティング中、いい感じに区切りがついたタイミングで、私は話を切り出した。

 

「ラスティ、当面の目標はホープフルステークス。これで決まりね!」

 

 手に持った『レース計画表』を指ではじく。即答でわかったと言い放つあたり、彼女も元々獲る気でいたのだろう。

 

「一つ気になるんだが、この指示はなんだ」

 

「これはね、作戦よ作戦。最短手数でG1を獲る、ね」

 

 今のところ怒ったりする様子は無い。彼女は無言で私の書いた文字を眺める。少しほっとして、理由を説明する。

 

「ホープフルステークスに出る最低条件は10ポイント以上。例年ではトップのウマ娘は30ポイント程度で出てるわね。でも、例年のボーダーは14~16ポイント。大きく外れることは無い。だから、警戒されないようにして芙蓉で大勝ちを狙う。OP勝利の10ポイント、差を六バ身以上合わせて16ポイント以上で出走しよう。足りなかったらすぐ後にある紫菊賞で補填すればいい」

 

 そのセリフを聞いた彼女の雰囲気が変わった。腕を組み、私の方に視線を向ける。この私ラスティが負けるとでも思っているのか?私を舐めているのか?と、彼女の表情がそう語りかけてくる。慌てて、

 

「まあ、もちろん無敗の三冠バになるんだから、こんなところで躓くわけ無いよね」

 

 とフォローしたら許してもらえた様子。

 トレーナーの意向ならばやってやろう、と言ってすぐにトレーニングに向かうストイックさ。トップを目指す、というからにはきっと彼女は成し遂げるんだろう。無敗の三冠ウマ娘。いや、それ以上を。

 そんなことを思ってニヤニヤしていたら、既に彼女の姿がないことに気づいて、急いで後を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〇視点変遷:ゴールドシップ

 

「ゴールドシップさん!貴女また後輩に変なこと吹き込みましたわね!」

 

「うおぁ!どーしたマックイーン。そんなカッカすんなって。ほれ、紅茶でものんで落ち着け」

 

「もう、いただきますけれど。……んンンンン、酸っっっぱいですわ、なんなんですのこれ!」

 

「ゴルシちゃん特製の疲労回復ティー」

 

「まあ、レモンティーみたいなものと思えば飲めなくは無いですわ……じゃなくて!」

 

「後輩がどうかしたって?」

 

「あなたの仕業でしょう?瓦を割ったり将棋を指したり、放課後中フリースローをしている生徒がいるって噂になってますわ」

 

「おいおいおい面白れぇやつもいるもんだな。アタシはな~んも関わっちゃいねぇよ」

 

「嘘おっしゃい、今週のスイーツ全部かけてもいいですわ。その子の担当トレーナーにしっかり謝ってきなさいな」

 

「信じてもらえなくてわしゃ悲しいよ。賭けは成立な、首根っこ洗って待っとけぃ」

 

 

 

「う~~~ん、普通オブ普通」

 

 情報を頼りに向かった練習場で、お目当てのウマ娘を見つけたものの、ごく一般的なトレーニングをしている。

 

「まあ後で怒られるだけだろうし、ちょっかいぐらいかけてみるとすっか」

 

 マックイーンのお面を被り、ターフを走るウマ娘の視界に入るギリギリでふしぎなおどりを踊る。

 こっちを見て顔を背けた彼女の姿を確認し幾度かちょっかいをかけると、彼女は足を止めてトレーナーと思しき人のもとへ向かった。そして少し言葉を交わした後、こっちを指さした。つられてトレーナーもこっちを見る。

 このゴルシ様を御指名とあれば仕方ない。ちょっくらお話ししてみるか。

 

 

 

「……んで、相手はもろに風をくらっておじゃんって寸法よ。相手が上手いならフェイントもアリよ」

 

天才的なトレーナーなんとかと紙一重と意気投合し、その流れで担当ウマ娘に戦術とかを教えることになった。素直に聞いて、ゴールドシップ先輩なんて呼んでくれる。クソッかわいいじゃねーかコイツ。特別にゴルシちゃん先輩って呼ぶことを許してやろう。

 なんか分かんないことあったらお姉さんが優しくおしえてやっからな、と言うと、

 

「ゴルシちゃん先輩、幻影魔法について教えてほしい」

 

 なんて言ってきた。ゴルシちゃんのあのレース皐月賞を見て魔法のように感じたんだろう。チビッ子の夢を壊すようで悪いが現実を教えてあげねばならない。

 あれはトリックみたいなもんだよ、と言うと、耳が垂れてしまった。なんか罪悪感を感じてしまうぜ。

 

 

 

 その後、また来ると宣言して別れた後、もしかしたら<領域>ゾーンのことを言っていたのかもしれないな、とか考えたが、あのチミッ子がそんなもん持ってるはずねーわな、とその思考をゴミ箱に捨てた。

 

 

 

「ほれマックイーン、初対面だって証拠、録音してきたぞ。お、今日は桃のパフェか」

 

 その日から一週間、大泣きしながらよだれを垂らし続けるウマ娘がいたとかいなかったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〇視点変遷:鳴海茜

 

 ラスティのデビュー戦。メンバーを視て・・、少し安心した。多分だけど、ラスティが絶不調でも勝てると思う。もちろん彼女は今絶好調だけど。

 パドックでのお披露目も終わりレースの開始を待つ間、周りの人の会話に耳を傾ける。そんな中で聞こえてきたある一言、

 

「あーあ、今回のレースはハズレだな」

 

「どういうことですかっ!」

 

 それに思わず反応してしまった。周囲の注目を浴びてしまうが、そのおじさんは悪びれもなく言い放つ。

 

「そりゃお前、わかるだろ。ありゃラスティシルバーの一強だ。他の奴らはみんなやる気がない幸運狙いヒリつくもんが一つもねえや・・・・・・・・・・・・・

 

 彼曰く、早いデビュー戦には二種類のウマ娘がいるらしい。一つは、早熟だったり強さに自信があったりして、いち早いデビューを飾りたいウマ娘。そういうヤツ同士の熱い戦いを誰よりも早く見に来たんだと彼は言う。そしてもう一つは……

 

「デビューの期限ぎりぎりまで出バするヤツらだよ。最初から勝てないとわかっていてなお、偶然なんかに頼ってデビュー数打ちゃ当たるを望むヤツらだ。心が折れるヤツも多いがな。そういうヤツは自分のためにも、早いうちに地方や障害に移った方が成功しやすいんだよ。お前さん新人トレーナーだろ。こういう考え方もあるってことは理解してくれよな」

 

「御忠告ありがとうございます。参考にすることが無いように精進します。生憎と、私のパートナーはラスティシルバーですので」

 

「おう、マジかよ。こんな話聞かせて悪かったな。G1で熱い展開、期待してるぜ」

 

 頑張ってくれよ、未来の名トレーナさんよ。そう言うと、彼はもう話すことがないというように深く席に腰かけた後、煙草を口に咥えてターフへと視線を戻す。

 もしもラスティをスカウトできない、そんな世界線があったとしたら。その時私はどうなっていただろうか。

 

「そんなこと考えてもしょうがないか。よしっ、ラスティを応援するぞ!」

 

 

 

 レースは大方の予想通り、あっさりとラスティが勝利した。

 指示を無視したことをラスティに謝られるが、そんなことより無事、計画通りの勝利ができたことが喜ばしい。

 それに何よりも、

 

「見てみたかったけど、次に期待だね。いったいどんな感じに走るのかなぁ」

 

 彼女のステータス、最初から持っていた・・・・・・・・・固有スキル、『戦場ラインの悪魔』。可愛らしい彼女には似合ってない名前だなと思う。直感で小悪魔系チア衣装のラスティが応援してくれる情景を映し出す。

<領域>ゾーンというものがあると噂されているが、葵ちゃんが言うには真実らしい。どうやらそれを見たことのある人間・・は、そのウマ娘の担当だけらしい。だからよく、ベテランの仲間入りを果たしたいトレーナーが吹く法螺に、俺は領域ゾーンを見たぞという文言があると聞く。

 

「楽しみだなぁ。っと、ライブが始まる!」

 

 ペンライトを掲げて大きく振る。私の愛バがステージの真ん中で踊っている。

 

「ラスティー!ありがとー!愛してるー!」

 

 後で、酔っぱらい過ぎだ茜、と小言を言われてしまったが、私はとっても晴れやかな気分だった。

 

 

 

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