ウマ娘錆銀ダービー   作:存在Y

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この作品での<領域>のガバガバ設定を後書きに置いときます。
面倒なら読むの飛ばして雰囲気でお願いします。


四話・表 夏の一幕と蹂躙

 どうも皆さん御機嫌よう。夏休み期間に入ったものの、休む時間なんてないよと言われて少し残念に思うウマ娘、ラスティシルバーです。

 前世の合州国空軍士官学校以来でしょうか。あの頃は研究や論文などで忙しかったので、今度こそは一般的な子供の夏休みを、と少なからず期待をしていたのですが。中等部一年生は勉強とトレーニング漬けです。来年からは海の近い夏合宿用の練習場が使えるらしいので、楽しみにしておきましょう。

 文武両道を掲げる学園なので、勝てそうならレースもがんばれ。勝てなそうなら移籍後に落ちこぼれないように勉強しとけ。と厳しいことで有名な指導員が口にしていた。学園のキャパシティーにも、補助できる数に限度があるのでしょうね。

 

「……夏が終わって辞める子が多いって。……トレーナー桐生院葵が言ってました」

 

 デビューを夢見たウマ娘がレースで負け、夏休み中に心が折れたりして、中途半端な時期よりはマシ、と転学を決心するウマ娘は少なくないらしい。

 

「ミークも無事デビューできたし安心だな。このままシニア期まで走りきろうな」

 

「うん、もちろん。……頑張ろう」

 

 そう言って、数学問題集と書かれた本を開くミーク。今は部屋で彼女と夏休みの宿題をしている。見た感じ、もう全体の半分以上は終わらせているだろう。どうやら彼女も私と同じく最初の一週間で全部終わらせるタイプらしい。最終日前に泣きながら宿題を写させてと言われることはないようでホッとする。

 私の方は大体八割ほど終えているだろうか。ちょうどキリが良かったので休憩しに寮内を歩くことに決めた。

 

「気分転換に歩いてくる。ほしいものはあるか」

 

「……じゃあ、にんじんジュースを」

 

 美浦寮の食堂では、食べ放題かつ飲み放題。にんじんジュースはいつも作りたてを提供してくれて、ウマ娘たちに一番人気の飲み物である。かく言う私もウマ娘になって味覚が変わったようで、人参は大好物になったし他の野菜の好き嫌いも出てきた。孤児院時代にジャガイモをあまりおいしくないと感じていたのはウマ娘になった影響かもしれない。

 毎朝珈琲を飲むのはここに来てから変わっていないが、珈琲以外の水分補給はにんじんジュースが一番多いかもしれない。

 

 

 

 

 

「コーヒーは品種や産地だけでなく……その精製方法や、どのくらい深く煎るか……熱の入れ方で豆の味が変わるものです」

 

「知識はあったが、これほどまでに変わるとは。自分でも趣味で幾らか試していたことはあるが、ここまで拘ったことは無いですね。ましてや、これほどの種類を同時に見たことも。やはり何事にも生で触れることが大切ということか……」

 

 理論家頭でっかちが嫌われるということは分かっている実体験があるので、気をつけねばな、と内省する。彼女自らが手掛けてくれた二種類のコロンビアのエスプレッソ──同じキャニスターに入っていたのに、全く異なる風貌を見せる──を味わいながら、彼女の持つコレクションを見せてもらう。戸棚に入っているキャニスターの数は百をこえており、一つとして同じ品種と産地が書かれていることはない。その全てを彼女は直輸入しているという。ハンドミルと言いロースターと言い、とことんまで拘っている。

 

「ここまでしてもらって無料タダなのは心苦しいですが、話というのはなんですか、マンハッタンカフェ先輩」

 

 今私は、空き教室彼女の倉庫に来ている。頭をスッキリさせるために珈琲でも飲もうかと食堂で並ぼうとしたら、今いいか、と声を掛けられそのまま付いてきたという流れだ。どうやら毎朝珈琲を飲んでいる私を見ていたようで、軽く珈琲談義を交わしてすぐに仲良くなれた。

 

「話というか……忠言みたいな……言ってもいいですか?」

 

「当然ですとも。偉大な先輩からの訓示です。遠慮などしないでほしいです」

 

「ライバルを……大切にしてほしいんです」

 

「……それだけ、ですか。失礼、嘲りとかではなく単純に、それを伝えるためだけにここまでしていただいたのか、と思いまして」

 

「はい。……余計なお世話かもしれません。……でもそれが一言、伝えたかったので」

 

「分かりました。肝に銘じたいと思います」

 

 お代わり要りますか、と聞かれたが、十分に満足したため丁重に断り、その流れでお開きとなった。

 ライバル。もちろん、同世代は全員そうだろう。他の世代のウマ娘もきっとそうなのだろう。だが、大切にするとはそのままの意味か、それとも何かの暗喩だろうか。

 

 

 

 

 

「ミーク、ただいま」

 

「おかえり。長かった」

 

「ああ、マンハッタンカフェ先輩に誘われてコーヒーを飲んでいたんだ」

 

「……あれ、ジュースは?」

 

「……すまない、忘れていた。取りに行ってくる」

 

「別にいい。……それより、ここ教えて」

 

 少しムスッとした表情を見せるが、すぐに元に戻って私を催促したため、隣に座って彼女が分からないところを解説していく。距離が近いせいか、パタパタと揺れる彼女の尻尾が少しくすぐったかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 芙蓉ステークス。九月の終わりに中山競バ場で行われるOPレースである。十五名のデビューしたてのウマ娘が競うこの場が、今日の戦場だ。

 今はパドックでのお披露目も終わり、茜との作戦会議中である。他のウマ娘たちを観察しながら茜が口を開く。

 

「今日気を付けるのは……一応3番と6番かなぁ。でも、あんまり気にし過ぎないで。ラスティの全力でお願いね」

 

「ああ、指示は覚えている。後方集団で脚を溜め、向こう直線は内側を進み余裕があれば前へ。第三コーナーは息を入れて、第四コーナーあたりから全力で仕掛ける。だったな」

 

「うん。でも、臨機応変にね。少なくとも、デビュー戦ほど優しくはないからね」

 

 怪我にだけは気を付けてねと見送られ、ゲート前へと向かう。他のウマ娘と同様に準備運動を行い体を温める。少しして呼ばれたのでゲートに入り、レースが始まるのを待つ。

 

 

 

 スタートの合図と同時に地を蹴る。そのまま徐々に内へと入り、うまく後方集団に収まる。

 

『スタートしました。おっと11番少々出遅れてしまったか。6番が先頭を一人で進みます』

『逃げウマ娘は彼女だけですからね。試合のペースを握っていけるといいですね』

 

 体の大きなウマ娘の後ろについて、体力を温存する。ゴルシちゃん先輩に教えてもらった、スリップストリームを利用するウマ娘の必須技術。

 後ろにつかれるのを嫌がったのか前のウマ娘が徐々に加速していくが、それに余裕をもって付いていき、コーナーを曲がる際に外に膨らんだ隙を見逃さず、内を突いて良い位置を確保する。

 先頭のウマ娘を視界に入れながら、向こう直線に入る。差は七バ身程度。

 

『6番が先頭で1000メートルを通過。前半タイムは63秒7、全体的にゆったりとした展開か』

『6番も気づいたようですね。ペースを上げています』

『少し遅いと見たか、後方集団からも3人抜け出した。先行集団も徐々に差を詰めていきます。……第三コーナーに入りました。依然として先頭は6番、ただ後方のウマ娘たちも追い上げてくるぞ』

 

 余裕があるので、ゆっくりと前に出る。向こう直線の終わりには先行ウマ娘たちの集団の後ろに入る。第三コーナーを曲がる頃には先頭との差は五バ身ほどに縮まっている。

 少し息を入れる。出来た隙を見逃すまいと先行集団の激しいポジション争いを観察しながら、第四コーナーに仕掛ける……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空が暗雲で覆われる。

怒号と悲鳴と轟音が鳴りやまない戦場の景色。

此処は数多の命が失われた地獄。

血と硝煙と肉の焼ける臭いに脳を揺さぶられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな幻覚を見た。

 生き残るために必死全力だったあの頃の記憶が蘇る。あの頃は使えるものは何だって使っていた。今はどうだ?この世界には魔法はない。手には銃もスコップもない。共に駆ける仲間もいない。戦場を生き残る手段は唯一つ、己の身体ウマ娘の肉体のみである。

 それを理解すると同時に脳からアドレナリンが溢れるのが分かる。身体が軽くなり、気分は高揚する。全力で蹴った脚は地面を抉り、私の身体は隙のできたバ群を引き裂き前へと躍り出る。

 

『ラスティシルバーが飛び出した。凄いスピードだ。遅れて後ろ二バ身、3番も追いすがるがどんどん離されていく』

『先頭6番大きく失速しました。スタミナ切れでしょうか』

『6番苦しそうな表情だ。ラスティシルバーかわした。まだ残り200。最後の坂をものともせず、後続を大きく、大きく引き離していきます』

 

 後続はいない。だが、脚は止まらない。全力で大差勝ち、それが与えられたオーダー上官の命令

 ガラ空きのターフを一人で駆ける、姿勢は前傾、重心は低く、加速し続ける。そしてそのまま……

 

『ラスティシルバーが今、一着でゴール!圧倒的大差、後続を引き離しての一人旅です。今、二番手には3番がゴールし、続いて……』

 

 

 




大前提<領域>≒原作固有スキルとします。
 <領域>は二種類の性質を持ち合わせます。自己強化と支配です。自己強化のみの場合もあります。
 自己強化は即時発動します。大体が固有スキルの能力向上効果部分です。自身しか実感できません。一部演出(体に纏う系、走る系演出)は自分にそれを幻視させることができます。同じレース中の他ウマ娘やレース外の<領域>持ちのウマ娘は現場にいれば観測できます。
 支配はレースを終えるまでレース場内で続きます。他者デバフ効果や固有スキルの演出部分です。自身のものは、観測できるもの(環境系演出)と出来ないもの(走らない系演出)がありますが、走ることに集中しているので一瞬だけ幻視してやる気が上がるぐらいです。同じレース中の他ウマ娘は体感、認識させられます。レース外の<領域>持ちのウマ娘は現場にいれば観測できます。
 他人の支配は基本的に、精神力や根性によってレース途中で抜けることができます。<領域>持ちのウマ娘はすぐに抜けやすいです。
 なので一例としてモブがレジェンド達とレースすると、ぶっ壊れたレース場で花びらが舞い散る中、紅茶を飲むウマ娘や魚釣りしてるウマ娘に囲まれながらリング上でプロレス技を掛けられそうになる幻覚をちらつかせながらレース終了まで走ることになります。
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