ウマ娘錆銀ダービー 作:存在Y
この作品では、大体のネームドがグランド期だと思っていただければいいです。
これからも単語の設定とかがあれば、前書きにて星マークつけときます。
〇視点変遷:マンハッタンカフェ
私は他の人やウマ娘には見えない「何か」が見える。「何か」と話すこともできるから、周囲からは不気味に思われることもある。
最近では、ほかのウマ娘たちに頼られることも増え、不気味がられることもなくなったけれど、昔の私を知っている一部の人からはちょっと距離を感じることもある。新しく入ってくるウマ娘たちが偏見もなく接してくれるのが、どこか嬉しかったりもする。
そんな私だけど、ここ最近ずっと気になっていたウマ娘がいる。その後輩ウマ娘は、他のウマ娘とは違っていた。彼女に重なるようにして、二つの「色」が見えることがあるのだ。
「何か」であれば意思疎通が図れるのだけれども違うみたい。その「色」は、今まで見たことがない現象で、興味を惹かれた。
タキオンさんに言ってみたら、気になるんだろう?だったら自分で調べてみればいいじゃないか、と言われた。
食堂で、コーヒーを入れようとしている彼女を見つけて声を掛けた。
おかしな反応をせずに対応してくれることに安堵を覚えて、自分の仕事部屋へと彼女を招待した。
都合よく、タキオンさんは不在だった。どうやらラスティシルバーさんは向こうのスペースの方も興味を示していたけど、勝手にいじらないでねというと素直に言うことを聞いてくれた。
私の方のスペースを見て、視線をフラフラと彷徨わせた彼女は私の趣味に目をとめて、やはり彼女も好きみたいで、そのままコーヒー談義に花を咲かせた。最初に彼女に飲みたい物を聞いたらエスプレッソを挙げたので、少なめにして二種類の淹れ方で作ってみた。
私のコレクションを見終わったのか、飲み終えたコーヒーを机に置いて、本題は?と問われた。
「話というか……忠言みたいな……言ってもいいですか?」
「当然ですとも。偉大な先輩からの訓示です。遠慮などしないでほしい」
「ライバルを……大切にしてほしいんです」
私にとって、それはタキオンさんだった。貴女にとって、それはダレ?
返答からして、もう見つけてしまっていたのでしょうか。だとしたら、お節介を焼いてしまったみたいで彼女に申し訳ないな、と思う。
ウマ娘にとって最も大切な二つの要素。その内の一つがライバルだ、と私は信じている。その時、彼女の二つの「色」はどうなるんだろう。私の「お友だち」みたいになるのかな。
それとも……。
〇視点変遷:3番
私にとって、<領域>を識れたことは幸運だった。
中堅のチームに属する私は先輩から、そういうものがあると聞いていた。それを習得しなければグランドレースに堂々と出られない、なんて言いながら必死になってトレーニングする先輩は私の憧れだった。
夏休み期間にトレーニングに打ち込み続けた私は、初めてのレースで一着を飾ることができた。先輩も自分のことのように喜んでくれたのが嬉しかった。G1レースを目指すぞと宣言する私に先輩は、いずれ知るだろうから先に教えてあげる、参考になるかは分からないけど、といって先輩は<領域>について教えてくれた。
先輩と一緒にトレーニングをして、トレーナーの厳しい指導も乗り越えて。そして迎えた二戦目の芙蓉ステークス。
「何……コレ……」
世界が明度を落とし、ターフが形を変える。一瞬の動揺の後に、それが<領域>だとすぐに気づけた。こんなにも早く体感するとは思っていなかった。先輩だって、初めてはクラシックの六月だって言っていた。
そしてそれが私を飲み込まないうちに、先輩の言葉を思い出す。
『変なものが見えても、不安になってはいけない』
……大丈夫。私には、先輩が付いてくれているから。
『気を強く持って。レースに勝とうとする意志が<領域>から抜け出す唯一の方法だよ』
……勝とうとしてる。その意思はある。でも、<領域>から抜け出せない。
『仮に抜け出せないなら、闘争心を奮い立たせるしかない。<領域>の所有者、そいつを見つけ出すのがいいかな』
……いる。並んでいたはずなのに、世界が変わった後、すぐに急加速した目の前の存在。<領域>を、まるで自分の庭のように駆けている彼女とは、既に二バ身もの差が開いている。
負けてやるものか、勝って先輩にと一緒に喜ぶんだ。また凄いねって褒めてもらうんだ。
赤黒く染まった地表の中に、ゴールへと続くターフの一本道が姿を露にする。
後は駆けるだけ。諦めるな。届け、届け!届いてくれ!
結果は2着。それも大差で。先輩はそれでも褒めてくれたけれど。
……次は絶対に負けない。私だって<領域>を。そしてグランドレースの大舞台で、先輩に勝負を挑むんだ!そう決意を固め、より一層トレーニングに打ち込んだ。
私にとって、<領域>を識れたことは幸運だった。それが夢見る未来へと向かう、大きな成長に繋がったから。
〇視点変遷:6番
私にとって、<領域>を知れたことは幸運だった。
私は走るのが大好きだった。誰かに追いかけられて、それでも捕まることがない、っていうのが優越感を感じさせてくれた。
トレセン学園に入れたのはいいけれど、有名なチームにはスカウトされなくて。熱心に勧誘してくれた今のトレーナーと契約した。
デビュー戦の一回目を、トレーナーに言われて差しで走った時。二着を獲れたけど、勝てないことに不満だった。
デビュー戦の二回目、トレーナーの指示を無視して逃げで突破したとき、自分はやれるんだって感じた。トレーナーは、おめでとうって言ってくれたけど、どこか悲しそうだった。
三戦目のOP戦では逃げて五着だったけど、もっと頑張れば大丈夫だって思った。逃げ切れるスタミナをつけるために、自主トレーニングも始めたんだ。
いっぱいいっぱいトレーニングした。それなのに、
「なんなんだよ、これは!」
後方から世界が侵食してくる。轟音が聴覚を麻痺させ、ターフを走る脚の感覚と目に見える景色との違和感で頭が混乱する。微かな硝煙の臭いを感じ取るのは、目の前の光景が見せる幻覚に違いない。
自分はしっかりと走れているんだろうか。確認しようとして地面を見て、
「ああ……なんで……」
赤黒く、泥濘んだ地面を錯覚して、脚が思うように地面を蹴ってくれない。
「早く、早く抜け出さなくちゃ」
ただガムシャラに前に進む。鉛のようになった脚を必死に動かすその横を、
金色の悪魔がすり抜けて行った。
その悪魔は、この戦場を愉しんでいた。満面の笑みを浮かべて走るその姿は、どこか狂気を孕んでいるように思えて。
「こんなの、絶対勝てるわけないじゃん」
そう思ってしまった。
何人に抜かれたのだろうか。気が付けばレースは終わっていて、掲示板に自分の番号は無かった。
まだまだレースに出たいって気持ちと、もうあんな経験をしたくないって気持ちが自分の中でごちゃごちゃになって、訳わかんなくなって。私の顔を見て、何かを察してくれたのか、トレーナーは優しい声を掛けてくれた。一晩中自分の想いを彼にぶつけまくった。夜があけても、彼はずっと真摯に話を聞いてくれて、そんな彼を裏切っていたことに申し訳なくなって。
後日、ターフの上で私たちは笑い合っていた。トレーナーと考えた練習メニューをこなし、トレーナーの指示通りに走って。不満があればすぐにぶつけて妥協案を一緒に探し出す。こうやって、ひとつひとつ何かを積み重ねていくんだ。そうすれば、きっと後悔しないから。
私にとって、<領域>を知れたことは幸運だった。それがトレーナーとの絆をより強固なものにしてくれたから。