再就職先は、ホロライブのスタッフに決まりました   作:DXフルーツパフェ

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第1話 鉄平、定年退職を迎える

 

 ここは、東京都の治安を守る警視庁。

 

 その中で凶悪犯罪者を取り締まる捜査第一課の部署では、定年退職を迎える老刑事がいた。

 

「如月さん、たっ、退職……おめで…………」

 

「ありがとう、橘さん。おいおい、泣くなよ」

 

「だって…………」

 

 若い女性刑事が手に持っている花束を笑顔で受け取る老刑事。

 

 彼の名は如月(きさらぎ) 鉄平(てっぺい)という。階級は警部補。

 

 高校卒業後、警察学校に入り五年間の交番勤務を経て、最初は警視庁捜査第四課、通称「マル暴」に配属される。

 

 若き日の鉄平は危険を顧みず、率先して暴力団の構成員を徹底的に取り締まる日々を送った。そして、鉄平が五十歳のときに暴力団が起こす犯罪が減りつつあった頃、今度は捜査第一課に配属されて若い刑事を育成しながら犯罪者を取り締まるという忙しい日々を定年まで送った。

 

 いつまでも泣いている橘をなんとか泣き止ませようとする鉄平を見て、しんみりしながらも刑事部長の林が口を開く。

 

「すまんな、如月さん。みんなあんたに別れの挨拶をしたかったんだが…………」

 

「構いませんよ、林さん。事件があったんだから仕方ないさ」

 

 本当なら捜査第一課全員で鉄平に別れの挨拶をしたかったのだが、池袋の大型スーパーで殺人事件が発生してしまったのだ。捜査第一課の刑事は現場に出てしまい、この部署には捜査第一課の代表として橘と刑事部長の林の二人しかいないのだ。

 

 これ以上情けない姿を見せられないと橘は涙を拭い、今後のことを聞こうと口を開く。

 

「ところで如月さんはこの後、どうなさるんですか? のんびりと余生を…………」

 

「いやいや、のんびりと過ごすつもりはないよ。明日には新しい職場で働くよ」

 

「「えっ!?」」

 

 にこやかにこれからのことを話す鉄平に、二人は思わず声をそろえて驚いた。

 

「まっ、まて、まて、まてっ! 明日から働くって急すぎないか!?」

 

「そうは言うがのぉ、ぼーっとしてたら()けちまうよ。元気なうちに働きたいんだ」

 

「あ、あの、一体どこにお勤めになるんですか? 失礼じゃなければお聞かせ願えませんか」

 

 実は、定年退職をする刑事は交番相談員や警備会社を勧められるのだが、鉄平はそれを拒否して自分で就職活動をしたのだ。鉄平は照れ臭そうに白髪頭をかきながら橘に答える。

 

「カバー株式会社ホロライブプロダクションじゃよ」

 

「カバー株式会社? すまんが、聞いたことないなぁ…………」

 

 林は聞いたことのない会社だったので怪訝そうな表情になるが、橘は知っていたのか驚きの声をあげる。

 

「知らないんですか、林部長!? ホロライブプロダクションといえば芸能事務所じゃないですか!!」

 

「ハァ? 芸能事務所だとっ!?」

 

 ホロライブプロダクションは最近できた芸能事務所だ。人間だけではなく多種多様な種族をタレント化しており、ネット配信を主に活動しているので、若い世代には人気があるのだが、それ以外の世代はネット配信に興味が無く、林のような中年が知らないのは仕方なかった。

 

 ホロライブの説明を橘から聞いた林は、警察とかけ離れた職種に複雑な表情になる。なぜ、鉄平のような老人を芸能事務所が雇うのか意味がわからず、それ以前に彼がどんな仕事を任せられるのか想像がつかないからだ。いや、そもそもの話、どうして芸能事務所に勤めようとしいるのか鉄平の心情が理解できなかった。

 

 橘も林同様に不安な表情をしていたが、それに察した鉄平は二人を安心させようと話し出す。

 

「まあ、心配しなさんな二人共。面接をきちんと受けて合格したし、人並み程度にパソコンもできるからなんとか務まるさ」

 

「だがな、完全に畑違いじゃないか! なぁ、悪いこと言わんから考え直す気はないのか?」

 

「無い! ワシが決めたことだからな」

 

 真剣な顔で答える鉄平を見て、もう何を言っても無理だと悟った林は諦めの笑みを浮かべて言葉をかけた。

 

「分かった……。でもな、困った事があればいつでも相談をしてくれ。力になるから」

 

「ありがとう、林さん」

 

 鉄平は言葉短めながらも感謝の念を込めて、長年の付き合いの上司に挨拶をした。時計を見たらいつの間にか5時15分になり、窓を見れば夕暮れとなっていた。

 

「さて、明日からは新しい職場で働くからもう帰るよ。橘さん、みんなにはよろしく言ってくれ」

 

 本当は苦楽を共にした仲間達に一人一人に別れの挨拶をしたくてこの時間まで待っていたが、これ以上ここにいるのも迷惑だと考えた鉄平は部署を立ち去ろうとした。橘は鉄平に最後の挨拶をしようと、凛とした表情で敬礼して感謝の言葉を述べた。

 

「如月警部補、今までのご指導ありがとうございました!」

 

 しっかりとした声に満足をしたのか鉄平は振り返り、二年間ではあるが厳しい指導に耐えた橘に激励の言葉を送った。

 

「お前さんは立派な刑事になれるよ。悔いのない人生を送れよ、橘巡査!」

 

 そう言って鉄平は踵を返し、背筋を伸ばし六十歳とは思えない足取りで捜査第一課の部署を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻、ホロライブプロダクションの事務所では仕事がひと段落ついたえーちゃんが、疲れた体を癒そうと休憩室の自動販売機で買ったホットココアを飲んでいた。

 

 彼女は、ホロライブ事務所初のスタッフであり一人でアイドルたちの裏方をしてきた。だが、現在は日本で活動している女性アイドルは35人が在籍しており、その仕事量は膨大になり一人では捌ききれなくなっている状態が続いていた。

 

 もちろん、スタッフを増員しようと会社のホームページで随時スタッフを募集をしている。だが、給料が安いので反応は今ひとつで、たまにホームページを見た若者を試しに雇うのだが、「自分の時間が全く無い」という理由で、一ヶ月も経たないうちにスタッフを辞めてしまう始末だ。

 

 だが、ようやく明日になれば自分の元にスタッフが配属されるのだ。しかも二人も。

 

 一人目は新入社員の春先 のどかだ。AZKiのライブがきっかけでホロライブを知って入社してきた若い女性だ。

 

 二人目が問題で、中途採用枠で採用された如月 鉄平という六十歳という警視庁の元刑事だ。

 

 実は、彼を採用するにあたって揉めに揉めた経緯がある。

 

 特に反対の意見を挙げたのが、轟 楓専務が大手芸能事務所からスカウトしてきた敏腕マネージャー大川 清が、彼の履歴書を見るなり難色を示し

 

「老人を雇うのは、ホロライブプロダクションのマイナスイメージにしかならない!」

 

「もっと若者を採用するべきであり、好き好んで年寄りを雇う必要は無いない!!」

 

 と、偏見に満ちた意見を声高に叫んだのだ。

 

 その結果、大川の意見に感化された重役や一部の若手スタッフも反対の声を上げたのだが、その偏見を許す事ができない人物が現れた。

 

 ホロライブプロダクションの運営元、カバー株式会社の谷郷社長である。

 

 警視庁の捜査第一課の刑事が、なぜホロライブの事務所で働きたいのか興味を示し、名を隠して自らが面接官となって彼を面接をしたのだ。面接の過程で試しにパソコンを鉄平に使わせたのだが、そつなく使いこなしたのだ。これに驚いた谷郷が理由を聞くと「仕事をする上で必要だから覚えた」と答えた。

 

 そして、どうしてホロライブ事務所に再就職をしたいのかと聞いたら「興味を持ったからここで働きたいと思った。一度っきりの人生、悔いのない人生を送りたい」と迷いもなく真剣に答えたのだ。

 

 その言葉に感動した谷郷社長は、鉄平を採用しようと反対をしている重役たちを説得しようと動き出したのだ。そして、その説得に賛同した最初の人物は轟専務だった。

 

 本音を言えば、将来のある有望な若者を優先に雇用したいのだ。だが、それよりもスタッフ不足を解消するのが先決であり、そのためにはパソコンを扱えるのであれば多少のことは目を(つぶ)ってでも鉄平を雇うことに賛成したのだ。

 

 この二人を敵に回したくなかったのか、重役たちも追従するように賛成に回り、ついには大川さえも「パソコンが扱えるなら…………」と渋々ながらも鉄平を雇うことに賛成したのだ。

 

 このことを知ったえーちゃんは、若い女性ならともかく元刑事で社長より年上の人が自分の指示に従うのか不安になり、最初はやんわりと断ったのだ。だが、谷郷社長が「彼は温和で親しみが持てる人物なので安心してほしい」と懇願されてしまい、断ることもできず仕方無く承諾したのだ。

 

 そのことを思い出した彼女は、警視庁でしかも捜査第一課の刑事が、どうしてホロライブのスタッフとして働くのか、いくら考えても理解できずに眉間にしわを寄せてため息を吐いた。この歳で畑違いの仕事を選ぶのは、とても勇気がいることだ。このチャレンジ精神が高いところを谷郷社長が気に入ったかもしれない。

 

 ちなみに、ホロメン(ホロライブメンバー)にはこのことを伝えたのだが、反応はイマイチだ。前職が刑事でしかも定年を迎えた老人ということで、気難しい人物と思い込んでしまい、どう接すればいいのか頭を悩ます始末だ。

 

 えーちゃんもどうやって鉄平と接すればいいのかと考えるがなかなか良い案が浮かび上がらない。ふと腕時計を見ると19時を過ぎていた。

 

「いけないっ! まだ、仕事が残っているのに…………」

 

 すっかりぬるくなった残りのホットココアを一気に飲み干し、缶をゴミ箱に入れて急いで休憩室を後にした。明日は、新人二人に会社の案内と仕事内容を教えるので、残りの仕事を必死に終わらせないといけないのだ。

 

 その後、残りの仕事を終わらせて帰宅の途についたのは、21時を過ぎてからだった。

 

 こうして一日が終わり、明日は4月1日。とうとう如月 鉄平が入社する日だ。

 

 彼がホロライブプロダクションに入社して、どのような影響をもたらすのかそれは誰にも分からない。

 

 




人物紹介

如月 鉄平
本作の主人公。
小柄な男性だが、第四課(マル暴)刑事の頃は血気盛んで、暴力でヤクザを取り締まる姿から「血塗れの鉄平」と同僚からあだ名され恐れられた。
だが、年を取るにつれて性格は穏やかになり、捜査第一課に配属された時は、自分で犯人を検挙するより若手刑事の育成に力を注ぐ。
ホロライブに興味を持った経緯は、ネットの無料動画の配信でたまたま見たのがきっかけ。
趣味は喫茶店巡り。

オリキャラの設定集を書いた方が書くべきなのか迷ってます。書くべきなのでしょうか?

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