再就職先は、ホロライブのスタッフに決まりました 作:DXフルーツパフェ
やっと、書き上げた……。お待たせして申し訳ございません。
そして、マイスイートザナディウム様、評価して頂きありがとうございます。
鉄平がフグ料理を堪能している頃、花菱総合警備会社の会議室では大勢の部下がいるなか、亀沢が北島の胸ぐらを掴んで詰問していた。
「てめぇっ!! 一体どういうつもりだ!!!」
「ヒィィィっ、何すかっ!?」
ドス声で殺意がこもった眼光で睨みつける亀沢に、北島は及び腰になりながらもやっとの思いで震える声を出した。
「どうして、ガキ共を使って元刑事の部屋を荒らした!」
「どうしてって…………。俺たちを虫ケラ扱いしている奴をビビらせようと…………」
そんなくだらない理由でド素人を使ってアパートの部屋を荒らした北島を許すことが出来ず、有無も言わさず亀沢は頭突きを喰らわした。
「ぎゃぁぁぁぁ、いてぇぇぇぇぇっ!!!」
頭突きを喰らった北島は痛みを堪えることが出来ず、床に転がり頭を押さえて唸り声を上げた。
この北島という男は、強き者には媚びへつらい、弱者には容赦なく暴力を振るう典型的なクズだ。そんな性格だから、亀沢の部下達は同情する者は無く、心の中で嗤っていた。だが、恰幅が良くスキンヘッドの中年の男が北島に助け舟を出した。
「社長、もういいでしょう」
頭突きをしたがいまだに怒りが収まらず、今度は蹴ろうとする亀沢だったが、中年の男の声でどうにか踏み止まった。
「そいつを痛めつけたところで、どうにもならんでしょう……。その辺で許してやれよ」
「そうは言いますがね、谷川さん。このバカは血塗れ鉄平の棲み家を荒らしたんですよっ!」
「なっ!?」
「ウソだろっ!?」
部下達がざわめく中、北島は痛みを堪えながら意見を述べる。
「たかが元刑事でしょ? そんなにビビる必要は……」
いまだに何をしでかしたか理解出来ない北島に、亀沢は怒りが込み上げてしまい躊躇せず彼の顔面を蹴り上げた。
「ぐぎやぁぁぁ───」
不意を突かれて防御も出来ず北島は吹き飛ばされて、会議室用の長いテーブルに頭をぶつけて、激痛で悲鳴を上げてしまった。
「よく聞けよ、クソガキっ!! 如月 鉄平は人間の皮を被った化け物だ! そんな人間を敵に回して、タダで済むと思っているのか!!」
怒りに任せて大声で北島に叱責するが、谷川が眼光鋭く亀沢を睨みつけ口を挟む。
「じゃあ、そんな化け物をどうしてこんなガキに任せたんだい、社長さん」
「それは……」
「こんなことを言いたくねぇけどよぉ、これはアンタの落ち度だぜ。警視庁を敵に回して、勝算はあるのかい?」
冷笑を浮かべながら手厳しい質問をする谷川に、さすがの亀沢も言葉を詰まらせた。本当なら手練の部下に鉄平の様子を探らせようとしたが、戌神に接近した女性の行方を探ることを優先したため、代わりに自分の腹心のサポートに北島を付けた。だが、その腹心さえも鉄平の危険性を認識していなかったのが誤算だった。
最初は北島の無様な姿を心の中で嗤っていた部下達だったが、血塗れ鉄平の名を聞いた途端、青ざめて動揺する有様だ。だが、場の空気を読まず一人の男が意見を述べる。
「待ってくれ! その男は、刑事を退職してホロライブ事務所に再就職したただの老人だ。そんなに警戒することはない!」
亀沢がどう答えるのか見極めようとしていた谷川だったが、面識もない若い男に邪魔をされて低い声で尋ねた。
「見かけねぇツラだな……。社長、この兄ちゃんは何者だい?」
「この人は花菱社長の友人の大川 清さんです。如月が潜入捜査をしているホロライブ事務所の社員でもあります」
谷川は「そうか」と一言頷くと、何も知らない大川に言い聞かせる様に再び口を開いた。
「兄ちゃんは知らねぇと思うけどなぁ、その元刑事は俺達の様な悪党を駆逐するために生まれてきた様な化け物だ……」
「バケモノ!? ただの人間族の老人じゃないか!」
「見た目は老人だが、昔はバズーカの弾を蹴り返したり、風の様な早業で蹴散らす男だ……。すまないが、何も知らねぇ奴は口を閉じてもらおうか」
「うっ……」
谷川の言葉に納得せず再び反論を試みようとした大川だったが、彼の凄みのある眼光に恐れを抱いて口を閉じ目を逸らしてしまった。
大川を黙らせた谷川は、再び亀沢に問いただす。
「社長さん、アンタはこの状況を打開する策はあるのかい? あるなら説明してくれねぇと困るんだがねぇ……」
谷川の問いに亀沢は苦々しい表情になり、口を閉じてしまった。
亀沢を含むほとんどの部下はヤクザで構成されているが、組同士の喧嘩抗争の経験が乏しく、違法な金稼ぎで組に貢献してきた者達ばかりだ。
それに対して、谷川は関東一円のヤクザを束ねる一大組織「神風会」の武闘派の組組織「西城会」の若頭を勤めていた男だ。
組同士の抗争で手柄を上げて出世したが、神風会が突然の解散を宣言した時、続けて西城会の組長も組員の相談も無く解散を宣言した。だが、谷川を含む組員は納得出来ず、組長とは袂を分かちそれぞれ散ってしまった。谷川の場合は新たなる組組織を立ち上げようとしたが、資金力も無く暴対法の影響で人数も集まらず頓挫してしまう。仕方無く、友人の誘いで花菱総合警備会社に入社し部長の役職を得た。
だが、この男は野心家でこの程度の地位に満足できず、年下である亀沢の下で働くのは不満を持ち、ここぞとばかりに彼を責めた。
亀沢も谷川が自分に対して不満を持っていたことを知っていたが、抗争の場数を踏んでいる経験を生かし汚れ仕事をそつなくこなし、「西城会の若頭」という肩書きで部下から一目置かれており、目障りな存在だが簡単に排除することが出来なかった。
そして、この状況を打開することが出来ないことを悟った亀沢は、悔しさを滲ませた表情で頭を下げて谷川に助けを求めた。
「すみません、谷川さん。俺は若輩者なので知恵をお貸し頂けませんか」
そう言うと、亀沢は谷川に頭を下げた。谷川は不敵な笑みを浮かべ、口を開く。
「まずは、あの目障りな化け物をこの世から消そうか……」
この言葉を聞いた部下達は驚愕するが、亀沢は苦々しい表情で苦言を呈する。
「すみませんが、谷川さんには荷が重すぎると思いますが……」
「頭を使えよ、バカが……。闇バイトのガキ共を使うんだよっ!」
亀沢の苦言に嘲笑を浮かべながら谷川は反論しつつ、考えを打ち明けた。
「まずは、闇バイトのガキ共に現金五十万円渡すとメールで伝えて人数を集めるんだ。そして、ジジイを殺した奴は一千万円渡すと言えば、否が応でもやる気を出すだろう。もちろん、俺も連中に加勢するつもりだ!」
「そんな派手な事をすれば、サツが黙ってませんよ……」
「明日はアメリカの大統領が来日するってニュースで言ってただろ。俺らに構う暇はねぇだろうさ」
亀沢も懇意にしている闇組織に大金を払って鉄平の暗殺を依頼したが、日米首脳会談を東京で行うとニュースで報道されて以来、警視庁が厳重に警戒していることを理由に断られてしまった。しかし、それは表向きの理由であり、本音は鉄平を暗殺する実力者がいなかったのだろうと亀沢は推察している。部下を見れば、鉄平と戦わずに済んだと安堵の表情を浮かべており、所詮は烏合の衆なのだと失望していたが、さらに谷川はとんでもない事を言い出した。
「社長さん、アンタは部下を率いてホロライブ事務所を襲撃してもらう。もしかしたら、戌神がいる可能性もあるぜ」
「えっ!?」
「ハァっ!?」
谷川の言葉に部下達は動揺してまうが、それ以上に驚いたのが大川だった。
「ちょっと待ってくれっ! 戌神は事務所にはいない! どこかに匿われているに違いない!!」
「じゃあ聞くけどよぉ、その戌神は一体どこにいるんだ?」
大川は捲し立てるように意見を述べたが、谷川はたちまち不満顔になり吐き捨てるように言った。
「そっ、それは、ビジネスホテルに宿泊してるんじゃ……」
「俺たちも片っ端から全国の宿泊施設を調べたが、行方知れずなんだよ……」
「そんな…………。だからと言って、事務所を襲撃して警察に捕まったら……」
「だから、同時に仕掛けるんだよ! 明日から警察もアメリカの大統領を護衛するために集中しているはずだから、こんなチャンスは滅多にねぇんだよ!!」
自信満々に谷川は持論を展開するが、部下達や大川は彼の無謀な作戦に言葉を失い、顔を青ざめてしまった。だが、彼を恐れてしまい苦言を呈することも諌めることも出来なかった。
部下達は谷川を諌めるように社長である亀沢に目で訴えるが、その亀沢は口を閉ざし黙考していた。本来なら武闘派らしい短慮な谷川を諌めるのだが、捜査の手が自分達に及んでいると自覚しているので手段を選ぶ暇は無かった。
亀沢は戌神が事務所に所属しているタレントの家に匿われていると考え、忍び込んで拉致をしようと画策したのだが、パトカーが巡回されているのが分かり断念したのだ。その上、戌神の親友である猫又 おかゆとそのマネージャーすら行方すら掴めず、もしかすると自分達はサツに泳がされており、花菱社長がアメリカから帰国したタイミングで一斉に逮捕されるかもしれないと不安に駆られていたのだ。
「分かりました、谷川さん……。オレもその案に賛成します」
覚悟を決めた表情で亀沢は谷川の案に同意すると、部下達は動揺し始め、なかには弱音を吐く者達まで出る始末だ。亀沢は、部下達が今の状況を理解しないことに苛立ちを抑えつつ語りかける。
「いいか、お前ら。オレ達が血眼になって探している戌神が見つからない以上、谷川さんの提案に乗るしかねぇんだ……。それに、戌神に接触した女はおそらくは潜入していた刑事の可能性が高い……。オレ達は、いつ逮捕されてもおかしくない状況だと自覚しろっ!」
「お、お言葉ですが、社長……。事務所を襲って戌神がいなければ意味がありません……。その上、逮捕されたら花菱社長にご迷惑が……」
「確かに戌神がいる保証は無いが、それならタレントか社員を拉致して、口を割らせればどうとでもなる。それに、考えも無しでこんな計画を立てないさ……。オイっ! あれを持ってこい!」
部下が冷や汗をかきながら反論すると、亀沢は自分の腹心に目配せをして社長室に置いてあるジュラルミンケースを持って来させた。そして、そのケースを机に置いて開けると、赤いボタンだけがついてあるリモコンが二台が入っていた。
それを見た谷川は首を傾げながらも、忌憚のない意見を述べた。
「なんだこりゃ……。こんなもんより、手榴弾が欲しかったんだがねぇ……」
「これは、半径5キロメートルに強力な妨害電波を発生させる装置です。これを使えば警察が使っている無線やスマホ、そして固定電話すらも封じることが出来ます」
鉄平の暗殺を断った闇組織が、代わりにこの装置を寄越してきたのだ。テロリストが欲しがる装置を、どうして自分に渡したのかその意図は分からなかったが、このまま何もせず逮捕されたら闇社会では笑い者だ。それならば、僅かな可能性を賭けてホロライブ事務所の襲撃を決意したのだ。
そして、亀沢の説明を聞いた部下達は目を見開いて驚くが、谷川だけは不敵な笑みを浮かべて口を開く。
「これは、物騒なモンを持ってんな社長。だが、コレさえあればサツを封じることが出来るな!」
「ええ……。谷川さんに一台渡しますから、使ってください。ただし、このボタンを押した瞬間から妨害電波が発生しますから、当日に使って下さい」
「社長さんよぉ……。本当に使えるんだろうなぁ? 試しに使ってみたいんだが……」
「そんなにオレを信用してないのなら、返してくださっても構いませんよ……」
その言葉で二人の間に不穏な空気が漂うが、意外にも先に折れたのは谷川だった。
「難癖つけてすまなかったな、社長。アンタは不良品を寄越すようなマネはしねぇよな……。有効に使うよ」
太い笑みを浮かべながら、愛用のクラッチバッグに収めた。
この装置があれば、警察の介入されることなく
「ところで、社長。闇バイトのガキ共を管理している奴は誰なんだ?」
「ガキ共は北島に任せてあります」
「おい、北島ぁ! 今からメールで現金五十万円渡すから集合しろとガキ共に伝えろっ! 仕事の依頼はジジイを殺害! 賞金は一千万円だっ!!」
狂気の笑みを浮かべながら勢い良く声を上げる谷川に、怯えながらも北島は報告する。
「別に構いませんけど、二百人もいるんですよ……。現金があるんすか?」
「現金はあるから、谷川さんの指示に従え」
「わっ、分かりました、社長」
社長である亀沢の言葉を聞いた北島は、手を震わせながらスマホを使ってメールを作成していた。その作業を見ながら、亀沢は大川に対して丁寧ながらも有無を言わせぬ態度で指示を出す。
「大川さん、貴方には明日のジジイのスケジュールとホロライブ事務所の見取り図を入手してほしいんだが……」
「なっ!? 私も協力しないといけないのか?」
この状況をいまだに飲み込めない大川に怒りを覚えつつも、低い声で語りかける。
「いいかい、大川さん。オレ達がサツに捕まれば、今度はアンタだって捕まるはずだ! アンタだって、そのことは理解できるだろう?」
「…………」
「それにだ。ジジイがホロライブに入社してきた時点で、アンタはオレに報告するべきだったんだ! まさかとは思うが、サツと繋がっているんじゃねぇだろうな……」
「ち、違う! 私は穏便にすまそうと思って、色々と画策してきたんだ! 私を信じてくれっ!!」
亀沢は43歳と谷川より若いが、組の幹部として様々な人間を見て、それなりに鑑識眼があると自負している。大川が体を震わせながら縋る目を見て、二心は無いと考えるが念のために釘を刺す。
「だったら、今からはオレ達と行動を共にしてもらう。別行動をとってサツに捕まったらオレ達も終わりだからな」
「分かった……。私も逮捕される訳にはいかないからな……‥」
今更ながらここに至って、ようやく状況を理解した大川は力無く頷いた。
こうして、谷川は闇バイトの少年達に渡す武器を調達するために若頭時代に知り合った武器商人に連絡を取り始め、亀沢は大川が情報を入手するまでただ静かに待っていた。
その頃、警視庁の刑事部部長室では、林部長が眉間に皺を寄せながら部下達の報告を受けていた。
「それで、長谷川さんの部屋は荒らされていたのか?」
「部屋は荒らされてはいませんでしたが、玄関のドアがこじ開けられた形跡がありました。鑑識官も呼んで指紋の採取を試みましたが、残念ながら出ませんでした」
「あと、付近の住民に聞き込みしましたが、作業服を着た人相の悪い男が
「そうか……。如月さんの言った通りになったな……」
鉄平の電話を切った後、林は捜査第一課の刑事二人と鑑識官一人を長谷川の住むアパートに派遣したが、予想は的中していた。部下達の報告を聞き冷静に呟くが、林の心中ははらわたが煮え繰り返っていた。
「しかし、如月さんの部屋がここまで荒らされるなんて……。ヤクザのお礼参りですかね……」
「だとしても、連中は手を汚すことはないだろう……。大方、若い連中を雇ってやらせたんじゃないのか?」
一方、鉄平の部屋はかなり荒らされており、仏壇だけではなくテレビやノートパソコンなどの家電製品も鈍器のような物で完全に壊されていたのだ。鉄平の隣に住んでいる中年の主婦によると、ゲラゲラ笑う若い男達の声が聞こえてきて、何事かと密かに玄関を開けて覗き込んだら、覆面を被った複数の男性が玄関を金属バットで破壊。恐怖で体を震わせながらも玄関に鍵を掛けて110番に電話した後、すぐさま押し入れに隠れたのだ。その時のことを泣きながら聞き込みに来た刑事に話したのだ。
二人の刑事が犯人を確定しようと意見を出し合い、林が静かに聞き入っているとドアを3回ノックする音が聞こえた。
「すみませんが、入ってもよろしいでしょうか?」
「ああ、構わないよ。入りなさい」
そう林が言い終えると、一人の女性がこの部屋に入ってきた。
身長は178センチとモデル並みの体型、ショートヘアーの髪型でメガネをかけた美しい女性だが、二人の刑事は緊張の面持ちで敬礼していた。
彼女の名は近衞 静。父は剣聖と謳われた「近衞 泰平」の一人娘だ。
彼女はキャリア組の一人でもあり、今年から警視庁に採用されて一年目にして階級が警部補なのだ。一般企業に例えれば、入社したらいきなり課長になったようなものだ。そして、彼女は知能犯と呼ばれる詐欺、脱税、不正取引などの経済犯罪を担当するエリート集団と呼ばれている捜査第二課に所属している。
「話し合いの最中に申し訳ございません。少しご相談したいことが……」
「ああ、構わないよ」
「それでは、私達はこれで」
捜査第一課の刑事達は邪魔になってはいけないと立ち去ろうとするが、近衞警部補が呼び止める。
「あなた方にも意見が聞きたいので、忙しくなければここにいて下さい」
歳が若くとも階級が彼女の方が上なので、彼等は内心では家に帰宅してゆっくりしたいのだが、それを隠して承諾するしかなかった。
そんな彼等の心情を知らず、彼女は眉間に皺を寄せて口を開いた。
「実は、桐生会のことで……」
「桐生会? 聞いたことがない暴力団組織だな……」
「ち、違います、林部長。元ホロライブ事務所のタレント桐生 ココさんが立ち上げた会社です」
ホロライブに所属した桐生 ココは引退したあと、ホロライブ四期生天音 かなたと共に住んでいたマンションを出て放浪の旅に出た。そして、様々な国を巡ったのだが、やはり日本が恋しくなり去年に日本に戻り、東京で会社を設立したのだ。
会社の業務は、配達や品物の調達などの雑用を手軽く引き受ける業務で、いわゆる便利屋である。
だが、問題は彼女が雇った社員が元ヤクザで、ほとんどの者達が武闘派組組織「西城会」の組員だったのだ。従業員は二十人と少数であるが、なかには西城会組長の子飼いのヤクザがいたことが分かり、桐生 ココの立場を心配した近衞警部補が林部長に相談しに来たのだ。
これまで近衞警部補の説明を聞いていた捜査第一課に十年も所属している中村巡査長が、緊張な面持ちで意見を述べる。
「失礼ですがこれは暴力団対策課の仕事だと思いますが、警部補殿は彼等にこのことを伝えましたか?」
「伝えましたが、更生したヤクザを警戒する必要はないと言われて相手にされませんでした……。警戒すべきは西城会元若頭の谷川だと言われて、課長が部下達を率いて花菱総合警備会社付近の貸しビルで張り込みを行うと言われて出て行かれました」
悔しさを滲ませながら報告する近衞警部補に、自分に相談も無く独断で動く暴力団対策課の連中に林部長が自然と渋面になる。
輪島重工本社襲撃事件がきっかけで暴力団を取り締まる目的で作られた暴対法で次々と暴力団は縮小あるいは解散してしまい、捜査第四課も縮小されてしまい暴力団対策課となった。鉄平をはじめとする有能な刑事は様々な部署に転属して以来、暴力団は事件を起こすことなく鳴りを潜めてしまい、現在の暴力対策課は左遷された刑事の受け皿となってしまった。
だが、鉄平が花菱側に潜入捜査をしている捜査官のSDカードを警視庁に持って来たことで、花菱社長を麻薬所持の罪で逮捕しようと様々な部署が集まり捜査本部が設置され、元ヤクザで構成された花菱総合警備会社には暴力団対策課が担当している。どうやら暴力団対策課の課長は、自分達で彼等を逮捕して上層部にアピールしようと考えているのだろうと林部長は推察する。
だが、明日はアメリカ大統領が来日するので、大統領の警備を優先するために捜査を一時的に止めると決定したのに、勝手なことをされるのは困るのだ。せめて、自分に相談して欲しかったが、せっかくやる気を出している連中に水を差すことも出来ず、黙認するしかなかった。それよりも元アイドルが元ヤクザを雇って会社を設立するのが理解できず、まずは彼女の素性を知ろうと近衞警部補に尋ねる。
「ところでだ、その桐生 ココって一体何者なんだ?」
「失礼しました。彼女のプロフィールを持っていますので渡します」
近衛警部補は急いで林部長にプロフィールの書類を手渡すと、メガネをかけてじっくりと目を通す。
「なぁ、一つ質問してもいいか?」
「はっ、はい、なんでしょうか?」
「彼女の種族は竜となっているが、写真を見る限りツノが生えた人にしか見えないんだが……。魔族なんじゃないのか?」
「いえっ、間違ってません……。彼女は異世界から来たドラゴンです」
「どっ、ドラゴンだと!?」
林部長が驚きの声を上げると、プロフィールの書類を一瞥した中村巡査長が疑問を呈する。
「すみません、警部補殿。私から見ても、彼女はどう見てもドラゴンには見えませんが……」
困惑した表情で質問すると、近衞警部補の代わりに中村巡査長の部下である多田巡査が答えた。
「中村さん、この書類は間違ってませんよ。本来はドラゴンですが、彼女は気合いで人間の姿になっているんですよ」
「気合!? お前なぁ、何バカなことを……」
魔法ならともかく気合いで人間の姿をしていると言う多田の言葉を信じられず、中村は叱ろうとするが近衞警部補は肯定する。
「いえ、彼が言った通りです。桐生さん本人が公言してます!」
それを聞いた中村巡査長と林部長は目を見開き驚くが、多田巡査は恐る恐る近衞警部補に質問する。
「あっ、あのぅ、近衞警部補は桐生さんのファンですか? 大抵の人は、桐生さんの種族を『竜人族』って勘違いしてますから……」
「そうよ。何か問題でも?」
「めっ、滅相もありません……。ですが、桐生さんの強さは知ってますよね? 武闘派のヤクザになんて負けることはないので、そこまで心配しなくても……」
「私は恐れているのは桐生 ココの名を隠れ蓑にして、彼等がテロまがいの犯行を犯せば、彼女も責任を取らないといけないのよ。そうなったら、ただじゃ済まなくなるわよ!」
そう近衞警部補に語気を強めて指摘すると、多田巡査は顔を青ざめて黙り込んでしまった。すると、彼等の話を静かに聞いていた林部長が彼女に質問する。
「ところで、桐生さんはどれくらいこの国のことを知っているんだ?」
「そうですね……。日本語も喋れますし、ある程度は……」
「だったら、ヤクザのことも知ってはいるんだろう? どうして、彼女はリスクを負ってまで連中を雇ったんだ?」
「これは私の憶測ですが……」
彼女の説明によると、桐生 ココは義理人情に厚く卑劣漢には容赦なく倒すヤクザを主人公にしたゲームに感銘を受けて、自分の芸名を「桐生」と名付けている。ヤクザと知りながらも雇ったのは、ゲームの主人公のような男に更生させる目的があるのではないかと意見を述べるが、真面目な林部長は到底理解できず、思わず顔を顰めてしまう。
桐生 ココがただのヤクザを雇うならば警戒に値しないが、若頭だった谷川の指示で組員が動いている可能性もあるため無視することもできず、迷った末に林部長は決断を下す。
「私が桐生さんと話をしてみるよ。話をしてみないことには、彼女の考えがわからんからなぁ……。すまないが、近衞警部補は明日の予定はどうなっている?」
「私の予定ですか? 午前中は雑務がありますが、午後なら大丈夫です」
「そうか。なら、私の護衛をしてくれないか? この二人は明日からアメリカ大統領の警備担当になるから、護衛が頼めないんだよ」
「わかりました。護衛を務めさせていただきます」
そして、近衞警部補の情報によると明日の午後1時ごろに原宿で桐生 ココが従業員達と共にビラ配りをすることが分かり、その時に彼女に事情を聞こうと話し合いで決めた。話し合いを終えた三人はそれぞれの部署に戻り、林は喉の渇きを覚え、すっかり冷めてしまった湯呑みのお茶を飲みつつ、物思いにふけっていた。
忘れもしない、2010年。日本政府は突如として天界・魔界の者達と接触していたことを全世界に向けて公表した。最初はフェイクニュースとされたのだが、天界・魔界の使者が日本の首相と共に記者会見を開き、日本・天界・魔界の三カ国による友好条約を結んだこと、そして異文化交流に訪れる三カ国の住民を受け入れることを発表したのだ。だが、安易に受け入れることはなく条件をつけた。それは、穏やかな種族と日本の義務教育を習得した者に限ると高いハードルを設けたが、異形な者達を受け入れる日本政府に国民はもちろん世界も困惑した。
だが、鉄平は「争うことなく話し合いで物事を決めたのだから、別にいいじゃないか。いやぁ、賑やかになるなぁ、林さん」と呑気なことを言っているのを覚えている。
一方で、林部長をはじめとする警視庁の上層部の考えは、異世界人や天使はともかく魔族達が人間族を惑わし犯罪を起こすのではないかと最初は警戒していた。だが、今日までそのような事実は無く、それどころか真面目に芸能活動をしている魔族達に、心無い人間族が誹謗中傷が横行している始末だ。だが、魔族達は冷静に日本の法律で彼等を訴える姿に、林は自分の心配は杞憂であったと同時に彼等に悪感情を抱いてネットで誹謗中傷を行う人間族に対して恥ずかしく思った。
「天使と魔族、そして異世界からはドラゴンか……。この世とあの世の境目が無くなりつつあるなぁ……」
そう呟きながら、机に置いてある桐生 ココに関する書類を鞄に入れて林はこの部屋を後にした。
オリキャラの設定集を書いた方が書くべきなのか迷ってます。書くべきなのでしょうか?
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はい。お願いします。
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いいえ。結構です。
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それよりも、小説を優先して投稿してくれ