再就職先は、ホロライブのスタッフに決まりました 作:DXフルーツパフェ
投稿が遅くなり申し訳ございませんでした。
マスケーヌ/東風ますけ様・メテオ_様・岡将様・かまめし様・夜市よい様・お茶漬けすぎ様・絹旗様・外郎様・クワダルカ様・Windmoon様
評価していただきありがとうございます。
えーちゃんは長谷川と共におかゆのマンションに向かっている頃、鉄平はのどかと共に自分の行きつけの喫茶店へと向かった。
バスに揺られ、十分後には閑散としている大きな公園近くのバス停で二人は降りると、そこには建設中の高層ビル群が立ち並んでいた。
「ここの裏通りに喫茶店があるんだ。春先さん、すこしばかり歩こうか」
そう言うと、鉄平が先頭に立ってのどかがついて歩けるように細い道の裏通りをゆっくり歩いた。
夕暮れだが人は歩いておらず、二階建ての鉄骨造りの古アパートを通ると人の気配が有り、夕食の匂いが漂っていた。そして、小さな公園やコインランドリーを通り過ぎると、低層の雑居ビル群が並び立つがほとんどが空きテナントとなっていた。そして、見るからに古そうな三階建ての雑居ビルで鉄平が立ち止まった。
「春先さん、着いたよ。この三階にワシの行きつけの喫茶店があるんだ」
鉄平が指を指しているビルを見たのどかは、一階二階は普通の外壁なのに三階の外壁だけが赤レンガ造りになっていることに、彼女は目を見開いてしまい声を上げる。
「あの、如月さん……。あのビルの三階って……」
「ああ、派手で目立つだろう。当時の店主は、派手好きでこんな造りになっているんだ」
鉄平は懐かしそうに話しながら雑居ビルの階段を登り始め、のどかもその後ろをついて行く。このビルも一階と二階も空きテナントなのだが、三階に行くと外装が赤レンガ色のタイルで造られた「喫茶やすらぎ」と看板に書かれた喫茶店に辿り着いた。
二人は店内に入ると、そこには照明のシャンデリア・カウンターテーブル・コーヒーカップが置いてある食器棚、どれを見てもレトロだが格調高い調度品ばかりの空間にのどかは戸惑うが、常連客の鉄平は慣れており店主が見えないので声をかける。
「おーい、誰もおらんのか!」
そう声をかけると、エプロンをかけた中年のちょいワル親父の風貌の男が現れた。
「あれ、如月さんじゃないか……。こんな時間に来るなんて、どうしたんだい?」
「すまないが、この店で大切な話をせねばならんので、貸切にしてもらいたいんだができるかね?」
「別に構わないよ。どうせ、客なんて滅多に来ないんだから」
鉄平の厚かましい願いにもかかわらず、苦笑しつつ肩をすくめながら男は答えた。
「まあ、立ち話もなんだし、空いた席に座れば? ところで、そちらの女性は……」
「ああ、紹介しよう。こちらの女性は春先 のどかさん。ワシの同僚だよ」
「は、初めまして……。春先 のどかです……」
面識も無く風貌も悪い男性に緊張しながらも自ら自己紹介するのどかに、男は笑みを浮かべながら答える。
「そんなに緊張しなくてもいいよ。オレは、この店のマスターをしている佐藤 太一って言うんだ。よろしくな」
そう言いながら佐藤は二人に席に座るように促すと、鉄平は目の前のカウンター席に座り、のどかもその隣に座ってメニュー表を見始めた。
「それにしても、如月さんってつくづく美人に縁があるよなぁ。橘さんの次は春先さんを連れてくるなんて……」
「バカなことを言っとらんで、ホットコーヒーを頼むよ。それと封筒があれば持って来て欲しい」
「了解、了解」
マスターである佐藤とは十年前からの知り合いで、このような軽口にも鉄平は気にすることはなく、一笑に付して鞄から便箋を取り出し筆箱からペンを取って何やら書き出した。
「あの、橘さんって……」
「ワシが最後に育てた刑事だよ。今の時代には珍しくなかなかの根性のある女性だったな……。ところで、何を飲むか決めたのかね?」
「そうですね、カプチーノをお願いします」
のどかは注文すると、奥の調理場から「はいよ〜」とマスターの声が聞こえた。
そして、二十分後。
出来立てのホットコーヒーとカプチーノをお盆に載せてマスターが現れた。
鉄平にはブラックコーヒーを渡し、のどかが注文したカプチーノにはフォームドミルクで描かれたハートの絵が描かれていた。
「久しぶりにラテアートをしたら、時間かかっちまった。すまなかったな」
最初は緊張した面持ちののどかも、照れくさそうに謝りながらカプチーノを渡すマスターに好感を持ち、ようやく安堵の笑みを浮かべる。
上手に描かれたハートの絵を見て最初は飲むのは勿体無いと思っていたが、冷めてしまったら申し訳ないと思ったのどかは、フォードミルクに砂糖をかけて溶ける前に一口飲み始める。
「おいしい……。すごく美味しいです!」
「そうかい。そりゃあ、良かった……」
のどかの笑顔でマスターはホッと胸を撫で下ろした。そして、鉄平も文章を書き終えた便箋をマスターが持って来た封筒に入れて、ブラックコーヒーを飲みながら会話に加わってきた。
「おいおい、本当に客が来んのか? こんなに美味しいのに……」
「この辺りは、独居老人の
マスターの話によると、昔はこの裏通りも活気があったのだが、ヤクザ達が雑居ビルの店舗に目をつけてみかじめ料と称して暴力や恫喝で金品を徴収する行為が横行するようになった。その結果、この裏通りの雑居ビルで商売をしていた人達は逃げてしまい、現在はほとんどが空きテナントと化していた。その上、交通手段も乏しく近くに駅も無いのでますます廃れていく一方だと言う。
「あの……。失礼を承知でお聞きしますが、経営は成り立つのでしょうか?」
「いいや、全然成り立たないね。でも、オレの本業はマンション経営でこの喫茶店は趣味でやっているんだ。だから、安心してこの店でマスターが出来るんだ」
実は、この店のマスターである佐藤 太一の本業は一等地のマンション経営者であるが、長年の夢である喫茶店のマスターになることを捨てきれず、この雑居ビルのオーナー兼喫茶店のマスターに大金を支払い、マンションの経営は妻に任せて彼は二代目の雑居ビルのオーナー兼喫茶店のマスターになったのだ。
そんな話をしていたら、鉄平のスマホから振動がしたので、画面を見たらえーちゃんからの着信が来たのだ。
『もしもし、如月さんですか?』
「ああ、そうだが、どうしたのかね?」
『ころねさんを説得することに成功しました! 今からそちらに向かいます』
「おお、よく頑張ったな」
『ですが……。ころねさん、憔悴していてあまり話は……』
「いや、ワシが聞きたいのは一つだから、長々と話すつもりはないよ。本人には、安心するように伝えておいてほしい」
『そうですか……。分かりました。では、今からそちらに向かいます』
そう言い終えたえーちゃんは、先にスマホを切ると鉄平はマスターに向かって口を開いた。
「マスター、すまないがこれから……」
「ああ、分かっている。今から貸切にするから心配しなさんな」
真剣な表情で話す鉄平にマスターは察したのか神妙な面持ちになり、店の出入り口の扉に『CLOSE 』の看板を掲げた。
「ところで、何か食べてここに来たのかい? 食べてなかったら何か作るけど?」
「そうじゃなぁ、それじゃあサンドイッチを頼むよ。春先さんはどうするね?」
「ええっと……。私も如月さんと同じ物でお願いします」
二人の注文を聞いたマスターは奥の調理場に行き、色々な種類のサンドイッチを大皿に盛り付けて、鉄平達の前に持って来た。
「じゃあ、オレは奥の部屋で一眠りするから……」
そう言ってオーナーは奥の調理場にある個室に入って行った。
「本人は道楽でやっていると言っていたが、短時間で作れるならもうプロの領域じゃな。さて、ありがたく頂くとしよう」
取り敢えず、えーちゃんの説得に応じてころねがここに来ることに安堵した鉄平は、マスターが作ったサンドイッチを賞賛しつつ、ツナサンドイッチを食べ始めた。
のどかは、ころねがここに来ることが分かり彼女の身を案じ心配するも、鉄平に促されてタマゴサンドイッチを手に取り咀嚼し始めた。
時間は七時を過ぎようとしていた。
時間は一時間以上を過ぎても誰一人来ることはなく、のどかは不安な表情を浮かべてそわそわするが、鉄平はただ目を閉じてじっと座っていた。だが、微かに階段を上る音が聞こえた鉄平は目を見開き立ち上がる。
「如月さん?」
不思議そうに見つめて声をかけるのどかに気にすることはなく、鉄平は出入り口の扉を開けた。すると、息を切らしながら店に入ってくる女性が現れた。
えーちゃんだ。
「お……遅くなって……すみませんでした……。渋滞していて……途中で徒歩で来ました」
息を切らしながら話すえーちゃんに、のどかは急いで冷水が入ったウォーターポットをコップに注ぎ彼女に渡した。えーちゃんはのどかに「ありがとう」と感謝を述べて喉を潤すと鉄平は口を開いた。
「ここに向かう道中に、不審な人影は見かけなかったかね?」
「いいえ、今のところは大丈夫です。おかゆさん達もあとで……」
そう言っていると、なだれ込むように顔を隠すために帽子を深く被り動きやすい服を着た少女と、パーカーに付いているフードを深く被った少女を背負った長谷川が現れる。
「すんませんっス、如月さん。じゅ、じゅうたいに……」
長谷川が鉄平に遅れた理由を言いながら背負っている少女を丁寧に降ろすと、疲れていたのかへたり込んでしまった。
「長谷川くん、ありがとね。こぉねのために……」
涙を流しながら長谷川に感謝の意を述べる少女に、長谷川は心配させまいと疲れた表情を隠し笑顔で「マネージャーとして当然っス!」と言葉を交わした。
その光景を見ている鉄平の前に、帽子を脱いだ猫の獣人族の少女が緊張した面持ちで話しかける。
「あの……。貴方が如月さんですか?」
「ああ、そうだが……。君は確か猫又 おかゆさんだね」
「お、お願いです……。ころさんを……、ころさんを助けてください!!! 」
あのあと、鉄平はどうにかおかゆを落ち着かせてテーブル席に座るように促すと、おかゆは犬の獣人族の少女と共に席に座り鉄平も対面に座った。
この騒ぎでマスターも起きてしまい、のどかから事情を聞いておかゆと犬の獣人族の少女にはホットミルクを渡し、カウンター席に座っているえーちゃんと長谷川にホットコーヒーを作っていた。
「猫又さん、少しは落ち着いたかね?」
「はっ、はい……。取り乱してすみませんでした……」
「…………」
鉄平は場を和まそうと穏やかな口調で話すが、犬の獣人族の少女は目を合わそうとはせず初対面の相手だからか怯えてしまい口を閉したままだ。だが、このままでは話は進まないので、鉄平は自己紹介をしようと口を開く。
「さて、改めて自己紹介をするが、ワシは如月 鉄平という者だ。元警視庁の刑事だが警戒しないでほしい」
丁寧な口調で穏やかな表情で自己紹介をした鉄平に、わずかながら警戒を解いた犬の獣人族の少女は自己紹介をしようと口を開く。
「は……初めまして……。こ……こぉねはホロライブのゲーマーズに所属している……、戌神 ころねっていいます」
「あなたが戌神さんだね。戌神さんを本社のスタジオで見かけることがなかったから心配してたんだが、元気そうで良かったよ」
「……」
鉄平は一度だけころねのゲーム配信を見たことがあるが、五時間以上の長時間にも関わらず、疲れも見せずリスナーとの会話を楽しみつつ、ゲームを心から楽しむ姿を見て感心していた記憶がある。しかし、今の姿は見るからに憔悴しており自分の視線にすら怯えてしまい体を震わせる姿を見て、心が痛むがそれを表に出すことはなく会話を進める。
「さて、ワシはあなたに聞きたいことが一つだけあるんだ。辛いと思うが話して欲しい」
「はい……」
鉄平の言葉を聞きたころねは表情を曇らせるが、隣にいるおかゆが心配な表情でころねの手をぎゅっと握る。今にも泣きそうなおかゆに気付いたころねは心配させまいと笑顔で答えた。
「そんな心配そうな顔をしないでおかゆ。こぉねは平気だから……」
「うん……」
だが、その笑顔は痛々しく見ていられなかったのか、おかゆは涙を流さないようになんとか堪えてころねを見つめる。少女たちのやりとりを見ている鉄平は、意を決してころねに質問をする。
「ワシが聞きたいのは、花菱社長に強く勧められたものはなかったのかい?」
「す、勧められたものですか……。最初はお酒だったけど、こぉね、お酒は苦手だから拒否したんです……。そしたら社長はカラフルな色のラムネ菓子を勧めてきたんです」
その話を聞いた鉄平は表情を険しくしながらスマホを操作するが、ころねは構わず話し続ける。
「でも、ヘンなんです。そのお菓子は甘い匂いは全然しなくて……。怖くなって、その場を離れようとトイレに行って……」
「その戌神さんが見たというラムネ菓子はこれかね?」
そう言うと、鉄平はスマホに映っている画像をころねに見せる。その画像には、カラフルな色でさまざまなマークが刻印されたラムネ菓子のような錠剤が映っていた。
「こっ、これです! こぉねが見たラムネ菓子はこれでした!!」
「如月さん、これは何なんですか?」
鉄平のスマホに写っている画像を見たころねは叫び、覗き込んで画像を見たおかゆは初めて見るラムネ菓子に首を傾げて鉄平に質問した。
「落ち着いて聞いて欲しいのだが、これはラムネ菓子じゃないんだ。これは、合成麻薬と言って乱用してしまうと精神錯乱や記憶障害を引き起こし、場合によっては死に至る麻薬なんだよ」
神妙な面持ちで話す鉄平に、ころねとおかゆは恐怖のあまりに表情が真っ青になりガタガタ体を震え出した。カウンター席で話を聞いていたえーちゃんが勢いよく立ち上がり会話に加わる。
「如月さん、花菱社長を逮捕することはできませんか?」
「それはできぬな……」
「どうしてですか! ころねさんは合成麻薬を勧められたんですよ!!」
「残念ながら証拠は無い……。社長が合成麻薬を所持している画像や第三者の証言が無ければどうにもならんよ……」
「でしたら、接待を行ったお店の防犯カメラを調べてもらえれば、そのやりとりが映っている可能性が高いはずです!」
「これは憶測なんだが、花菱社長が自ら合成麻薬を勧める以上、花菱商事の息がかかった店で接待を行っている可能性が高い。そしたら、従業員は口を閉じるし、防犯カメラもその時はメンテナンス中でしたと言われたらどうにもならんよ。戌神さん、接待を行った店がどこかわかるかい?」
「こぉねのスマホのスケジュールアプリに書いてると思います……」
ころねは震える指でスマホを操作しながらスケジュールを確認して、接待を行った店を検索アプリで調べた。すると、その店は花菱商事の関連会社であるフランス料理店だと判明するとえーちゃんは苦々しい表情になり沈黙してしまった。
「なぁ、戌神さん。他に変わったことがなかったかね?」
「あとは…………。花菱社長から逃げ出して、トイレの個室で泣いていたらキレイなお姉さんに声をかけられて……。事情を話したら裏口から出られるって教えてもらったんです。そして、その店を出て走って逃げて、コンビニにたどり着いたらこぉねがいつも使っているタクシーをスマホで連絡して自宅に帰りました」
「そうかい、それで無事に帰れたんだね……。その女性だが、どんな顔か覚えているかい?」
「ごめんなさい……。逃げることで夢中になって覚えてないんです……。でも、このSDカードを預かって欲しいって言われて……」
そう言うと、ころねはパーカーのポケットに入っている小さなポリバッグに入ったSDカードを鉄平に渡した。
「これをワシに渡してくれるのかい?」
「こぉねが持っていても意味が無いから……」
「そうかい、大切に預かろう……。花菱社長のやりとりを大川マネージャーに報告をしたのかい?」
「ううん……。とにかく、花菱社長とはもう会いたくなかったんです……。いやらしい目でこぉねの胸元を見たり、匂いを嗅ぐのがすごくイヤでそのことを大川マネージャーに言ったら……」
それ以上話すことなく、ころねは体を震わせて泣き出してしまった。ころねの言い分を聞こうとはせずに、大川マネージャーに説教をされたことを思い出したからだ。
(このSDカードを渡した女性……。多分だが、内偵捜査をしている捜査員ではなかろうか……)
通常、内偵捜査をしている捜査員は連絡手段をもっている。だが、無関係なころねにSDカードを渡すということは連絡手段を失ってしまい、捜査員の安否が気にかかるが今の鉄平が優先して守るのは、目の前で泣き崩れているころねと泣くのを堪えてころねを慰めているおかゆの二人だ。
「戌神さん、良く話してくれたね。あとはワシが何とかしよう。猫又さん、あなたに頼みがある」
「えっ……。ボクで良ければ……」
「戌神さんを大川マネージャーから守るために、ワシの知り合いが経営している病院で入院させようと考えておる。そこで、猫又さんは付き添い人としてその病院に行ってほしいんだ。あの病院は資産家を相手に商売をしているから、二十四時間体制で警護をしているから安心して過ごして欲しい」
「ちょっと待って下さいっス」
鉄平が今後の話をしてたら、困惑の表情を浮かべた長谷川が会話に加わってきた。
「戌神さんが入院する理由は理解出来るっスけど、どうして猫又さんまで……」
「もし、戌神さんがこのまま行方をくらました状態が続いたら、今度は猫又さんを責め立てて居場所を探ろうとするはずじゃぞ。何せ、花菱社長は戌神さんに執着している上に合成麻薬まで所持していれば、その背後には闇社会の人間も必ずいる可能性は高い。最悪の場合、戌神さんの行方を知ろうと花菱社長の指示で闇社会の人間が猫又さんを責められるよりか、戌神さんと共に病院で身を隠す方が良いと思うんだが……」
「まさかとは思いますけど、大川マネージャーは花菱社長が合成麻薬を所持しているって知っているってことっスか?」
「情報が少なすぎるから何とも言えんが、嫌がる戌神さんを強制的に接待させたり、ワシを目の敵にして中傷するあたり怪しいと思うがな……」
鉄平の推理を聞いた長谷川は、大川マネージャーに自分なりに考えた意見を述べただけで解雇処分にすると脅迫したことを思い出し、眉間に皺を寄せて黙り込んでしまった。
そうした中、鉄平の発言を聞いたころねは体を震わせて泣き叫んだ。
「おかしいよ……。こんなのおかしいよ! どうして、今度はおかゆまで危ない目に遭わなきゃならないの!!」
「ころさん、落ち着いて! ボクは気にしてないから!」
「こぉねは、こぉねなりに頑張っているのに、どうしてこんなことに……」
ころねは机に突っ伏してしまい泣きながら、これまでの想いを語り出す。
「ココちゃんも卒業して、るしあちゃんもあんな形で辞めてしまって……。みんなが落ち込んでいる姿を見るのが……辛かったから……。みんなを喜ばそうと必死になって頑張ってきたのに……。何もかもがムダだったんだ…………」
ころねの涙の告白を聞いたおかゆは堪えていた涙を流しながらころねを強く抱きしめ、えーちゃんや長谷川は顔を曇らせ俯き、のどかに至っては両手で顔を覆い泣き出してしまった。
当時、桐生 ココの卒業は突然の発表で、ホロメンや谷郷社長は懸命に卒業を撤回するように説得をしたが、本人の意思が固く覆すことができなかった。谷郷社長は人前では平静を装っていたが、卒業ライブの日になり社長室で大切なタレントを説得出来なかった不甲斐なさに己自身を責めて号泣していた。
そして、潤羽 るしあ*1の場合は人気歌手と付き合っているという疑惑が持ち上がり、ホロライブ事務所が事実かどうか調べた結果、人気歌手との付き合った事実は無かった。だが、ホロメンやスタッフに迷惑をかけてしまったことやアンチたちの執拗な嫌がらせで彼女の精神はボロボロになり、住んでいたマンションを飛び出してしまい行方をくらましてしまう。この結末に誰もが心を痛めたが、特に心の傷を負ったのは同期である三期生達だった。
桐生 ココの卒業、潤羽 るしあの失踪で、ホロメンやスタッフ達も悲しみに耐えながら日常を送る姿を見ていられなかったころねは、大川マネージャーが発案した「ホロライブタレントの地上波テレビ進出計画」に立候補をした彼女は、テレビ進出を成功させてみんなを喜ばせようと考えたのだ。
だが、現実は地上波テレビの番組に出演する話も無く、花菱社長のセクハラを耐える日々を送り、挙げ句の果てには合成麻薬を勧められてしまい、悔しさよりも悲しみが強く悲痛な声でおかゆの胸の中で泣き続けた。
そんな痛々しいころねの姿を見ていられなかった鉄平は、何とか慰めようと声をかける。
「なぁ、戌神さん。みんなを笑顔にするためにあなたは努力したんだ。その努力、決してムダじゃないんだよ」
「そうだよ! ボクは…………。ボクは、ころさんを尊敬してるんだっ!!」
おかゆはころねを抱きしめながら胸中を打ち明ける。
「本当はね、ころさんの地上波テレビの出演に反対だったんだ……。だけど、人見知りな性格を必死に克服しようとして、顔を真っ赤にしながらスタッフと会話をしているところをボクは見ていたから応援しようと思ったんだ……。みんなだって最初は心配してたけど、地上波のテレビ出演が決まったらお祝いしようって言ってたんだ……。だから…………、だから、ムダなんて言わないでよっ!!!」
最後はとうとう泣き出すも、しっかりした声で自分の気持ちを吐露する。
そして、えーちゃんも口を開く。
「ころねさん、実を言うと私や社長もテレビ出演が決まるように、二人で神社で祈願をしたんですよ……」
「えっ!?」
「ころねさんを勇気付けようと思ったんですが、プレッシャーになるだろうと思って伝えることが出来ませんでした…………。ころねさん、ホロメンの皆さんや私たちのようなスタッフを元気付けようと頑張っていたのに、それに気付かなくて……、も、もうしわけ……ありませんでした…………」
えーちゃんは、今日までころねのホロライブに対する想いや苦悩に気付かなかったことに己自身を責めて、最後は泣きながら謝罪した。
「お、おかゆもえーちゃんももう泣かないで……。お……おねがい…………」
大切な親友であるおかゆや、頭を下げたまま涙を流すえーちゃんを見たころねは、自分の涙を手で拭いながら彼女らを泣き止ませようと声をかけるが、それでも泣き止むことはなく、どうしようかと迷っていたら再び鉄平が優しく語りかける。
「これでわかったかい、戌神さん。ここにいる二人や他のメンバーは、あなたの頑張っている姿を見て喜んでいたんだから決してムダじゃないんだ。今のあなたは心身ともに疲れているから、ゆっくり体を休めなさい」
「はい…………」
おかゆやえーちゃんの涙の告白により、ようやくころねは自分なりに必死に頑張っていたことがムダでは無かったことに気付き、鉄平の励ましの言葉にやっと笑顔を取り戻した。
それから、鉄平たちはこれからの打ち合わせを行った。ころねに続き、おかゆまで失踪すれば、大川マネージャーが必ず何かしらの行動を起こすと考えてその対策を話し合ったのだ。そして、鉄平は明日の早朝に警視庁に事情を話すために、会社を一日休むようにえーちゃんに願い出るとそれを了承した。
その話し合いが終わった後に、ころね達が入院する病院にスマホで連絡して事情を話して、送迎用の車を手配させた。そして、三十分後に喫茶店の扉の前に黒のスーツを着た一人の男が訪れる。
「遅くなって申し訳ありません。如月様はここにいるのでしょうか?」
「ああ、今開けるよ」
鉄平が扉を開けると、中年の男性だが見るからに鍛えられたがっしりとした体型の男は名乗る。
「戌神様の警備担当になりました後藤と申します。ここに戌神様と猫又様はおられますか?」
「ああ、ここにおるよ」
鉄平がころねとおかゆを紹介すると、後藤に封筒を渡した。
「この封筒を院長の松沼に必ず渡してくれ」
後藤は「承知しました」と言い、スーツの懐に封筒を収めて二人を連れて行こうとするが、えーちゃんが呼び止める。
「あの、すみませんがどのような病院なのか確認のために、私も一緒に行ってもいいでしょうか?」
鉄平が勧める病院なので安心はしているのだが、一度も聞いたことがない病院だったので自分の目で確かめようとえーちゃんは同行を申し込む。そして、ころねも二人だけで行くのが不安だったようで後藤に頭を下げて頼み込んだ。
「お願いです、えーちゃんも一緒に行かせてください」
この二人の申し出に、後藤は難色を示した。理由は、病院を訪れる患者が資産家なので安全を優先に考えているために、極力部外者を入れたくないのだ。「本来であれば付き添い人以外は禁止しているのですが……」と一言を付け加えて、なおも考えた末に後藤は彼女たちに提案する。
「では、あなたが戌神様の保護者代わりとして来るのであれば問題ないと思います……。ですが、必要な書類に記入が終わり次第、自宅に帰っていただきますが…………」
「それで良いです。無理を言って申し訳ございません!」
「いいえ……。では、参りましょうか」
後藤は病院に連れて行く三人をエスコートしながら喫茶店を出ると、長谷川とのどかは見送るために二人も店を出てしまった。鉄平は店を出る前に、マスターに話しかける。
「こんなに遅くまで貸切にしてしまってすまなかった」
時間は十一時を過ぎてしまい、頭を下げようとするがマスターである佐藤が慌てて止めた。
「よしてくれよ、如月さん。金儲けしたくて喫茶店をしてるわけじゃないから気にしなくても良いんだよ」
鉄平とは先代のオーナーから紹介されて、もう十年以上の付き合いだ。警視庁を退職してのんびりと余生を送ると思っていたが、次の職場を早々に決めてネット配信を中心に行う芸能事務所で働くと嬉々と語る鉄平に、最初は勤まるのかと密かに心配していたのだ。だが、それ以上に厄介な事件に巻き込まれる鉄平の身を案じる佐藤は心配になり声をかける。
「それにしても、きな臭いことになっているけど大丈夫なのかい?」
「さてな……。もうワシは刑事を辞めちまっているからやれることは限られているが、それでも泣いて困っている人間を見て見ぬ振りができないのさ。じゃあ、夜遅くまですまなかったな」
そう言うと、料金を支払い鉄平は店を出て行った。その後ろ姿を見た佐藤は、鉄平が平穏な日々が送れるように祈るのだった。
その後、三人は病院が用意した送迎車に乗り込んだのを確認した後、長谷川とのどかの二人はタクシーを呼んで乗り帰宅の途についた。
そして、鉄平は歩きながらスマホで昔から懇意にしている探偵事務所の所長に連絡を取る。
「もしもし。どうしたんです、こんな夜中に……」
「すまんな、お前さんに依頼したいことがあるんだ」
「……伺いましょう」
「ホロライブプロダクションの大川 清のことを調べてもらいたいんだよ」
「ええ……。別に構いませんが……」
「そうか! じゃあ、明日の午後までに出来る限りの情報を集めて、ワシのタブレットに送ってくれ!」
「……随分と急ぐんですね。分かりました、何とかやってみましょう。早速、調べてみますので失礼します」
急な依頼にも関わらず、男は淡々とした口調で依頼を引き受けてくれることに鉄平は安堵する。
花菱はホロライブに害をなす男と判明したが、問題は大川 清だ。
彼が花菱に脅されて従っているのか、それとも何かしらの利害が一致で協力しているか分からずに鉄平は頭を悩ませていた。
そもそもの話し、大手芸能事務所で働き経済界やテレビ業界にパイプを持つマネージャーが、ネット配信を中心に活動をしている立ち上げて間もない芸能事務所であるホロライブに彼が移籍すること自体おかしな話なのだ。
一部のスタッフからは、大川がホロライブに移籍して来たことを訝しみ「前の事務所のアイドルに手を出してホロライブに逃げて来た」「経済界の大物にアイドルを紹介して、トラブルになってホロライブに逃げて来た」などと噂が囁かれている。
兎にも角にも、大川に関する情報が信用に値しない噂だけでは、どう対応すればいいのか鉄平も悩み、彼のことを探偵事務所に探ってもらうために依頼したのだ。
「さて、これ以上考えてもどうにもならんし、明日に備えてワシも帰ろう……」
そう呟くと、日付が変わる中、鉄平は近くのタクシー乗り場まで歩き出し、タクシーに乗り込んで帰宅するのだった。
だが、ころねが鉄平に手渡したSDカードが、経済界と芸能界を巻き込む事件に発展するとは、今の鉄平が知る由もなかった。
オリキャラの設定集を書いた方が書くべきなのか迷ってます。書くべきなのでしょうか?
-
はい。お願いします。
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いいえ。結構です。
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それよりも、小説を優先して投稿してくれ