再就職先は、ホロライブのスタッフに決まりました 作:DXフルーツパフェ
お久しぶりです。
ルイが自室でシャワーを浴びていた頃、談話室では松屋の栗蒸し羊羹を一人で食べてしまったラプラスに、クロヱに続いて今度はその羊羹に合う緑茶を買いに行っていたいろはが彼女に説教をしていた。
「どういうことでござるか、ラプラス殿! せっかく、奮発して高級な緑茶を買いに行って来たのに!!」
「うっ、うるさいな! 目の前に大好物があれば、普通は食うだろう?」
「食わねーよ! 普通は、みんなが食べられるように羊羹を切り分けるのに、いきなり手づかみで食うのはお前だけだよっ!」
子供じみた言い訳をするラプラスにクロヱがたまらず突っ込んだことで、いろははますますヒートアップしてしまう。
「高級な羊羹を手づかみで食べた!? いくら何でも、お行儀が悪いでござるよ!」
「そーだ、そーだ! それでも、ホロックスの総帥か?」
眉間に皺を寄せて苦言を呈するいろはと煽るクロヱに、ラプラスは二人の追求に言葉を詰まらせるが意外な人物が助け舟を出した。
「まぁまぁ、二人とも。もうその辺で許してあげなさい。確かにラプラスさんは行儀が悪いが、目の前に食べることが出来なかった羊羹を目にしたら、たまらず飛びつくさ。それに、テーブルには洋菓子もあるから、風真さんが買って来た緑茶もムダにはならないよ。わざわざ、買いに行ってくれてありがとうな」
申し訳ない表情で頭を下げる鉄平に、慌てていろはが口を開く。
「あっ、頭を上げてくだされ、如月殿! 何も頭を下げなくても…………」
「いやあ、不覚にも油断してたよ。ワシが若かったら、こんなことにはならなかったんだがな……。歳はとるものではないなぁ……」
どことなく寂しそうに笑う鉄平に、いたたまれなくなったいろはは「今からお茶を淹れてくるでござる」と言って、足早に食堂へと向かって行った。いろはと共にラプラスの幼稚な行動を非難していたクロヱも追求するのを止めてしまい、つまらなそうな表情で自分の席に座りテーブルに置いてあるチョコケーキに手を伸ばしていた。
二人の追求を逃れたラプラスはホッと胸を撫で下ろしつつ、庇ってくれた鉄平に素直に感謝の言葉を述べる。
「まさか、じーちゃんに怒られると思っていたのに、庇われるとは思っていなかった。ありがとな♪」
「喜んでもらえたら、別に構わんさ」
最初はラプラスを窘めようとしたのだが、羊羹が入っている箱を見た途端、沈んでいた表情が満足そうに顔を綻ばせる表情に変わるのを見て、彼女を許したのだ。
「ところで、じーちゃんは何しにここに来たんだ? 吾輩達のご機嫌伺いに来ただけじゃあるまい」
「それは…………。鷹嶺さんが来たら話そう」
ラプラスの何気のない質問に鉄平が答えていると、シャワーを浴び終えた鷹嶺 ルイが現れた。表情が固く、テーブルに様々な洋菓子が並べられていたが目もくれず、空いてる席に無言で座った。
空気が重く感じてしまったのか、他のメンバーは戸惑うが長年の付き合いがあるラプラスが事情を聞こうと口を開く。
「なぁ、どうしたんだ幹部? 何かあったのか?」
しかし、総帥であるラプラスの呼びかけにも応じず、ルイは口を閉ざし鉄平を見据えていたままだった。このままだと埒が明かないと考えた鉄平は、覚悟を決めた表情で口を開く。
「風真さん、すまないがお茶を配り終えたら席に座ってくれないか? 大事な話をしたいんだ」
すると、いろはは「分かったでござる!」と元気よく答えて、淹れたてのお茶をみんなに配り終えて席に座った。
ホロックスのメンバーが揃ったところで、鉄平は静かに語り出す。
「今日来たのは他でもない。君達、ホロックスの協力を得ようと依頼に来たんだ」
意外な言葉にそれぞれが驚くのだが、ルイだけは違った。
「それは、猫又先輩や戌神先輩に関係することですか?」
ルイの問いかけに鉄平は深く頷いた。
「もちろん、タダ働きをさせるつもりは無い! 相応の報酬を払う用意もある」
そう言うと、鉄平は大きなアタッシュケースを軽々と持ち上げてテーブルに置いた。
「この中に一千万円ある。五人で分ければ二百万になるが、これは君達に支払える精一杯の金額だ。少ないだろうが、引き受けてもらいたい」
そう言うと、鉄平は勢い良くアタッシュケースを開けると、本当に帯封付きの百万円が十束入っていたのだ。
最初は、半信半疑だったメンバーもその札束を見て、目をキラキラ輝きながら最初に声を上げたのは総帥ラプラスだった。
「うお────! スゲ───!! さすがはホロライブ!!!」
「スゴイ! スゴイ! こんなにあれば……」
「二百万あれば、取り敢えずパソコンとマイクを買い換えようかな…………」
ラプラスは歓喜の声を上げ、ホロライブ二期生の紫咲 シオンのファンであるクロヱは彼女のグッズを買おうと妖しい笑みを浮かべ、こよりは冷静に配信環境を整えようと思考を巡らせていた。
この展開についていけないいろはだけは困惑の表情を浮かべていたが、ルイだけはその大金の出所が気になり失礼を承知の上で鉄平に問いかける。
「あの、如月さん。このお金は、一体どこから出てるんですか?」
「ああ、このお金はワシの蓄えから出してある。怪しい金じゃないから、安心して使いなさい」
「えっ!? 如月殿、このお金は会社の資金ではないのでござるか?」
「ワシはただのスタッフなのに、会社の資金を持ち出す事はできんよ」
この一千万円が会社の資金ではなく鉄平のお金と知り、最初は喜んでいたラプラスも惜しみなく大金を出す鉄平に説教をする。
「何考えてんだよ、じーちゃん! 大事な老後の資金を大切にしないとダメだぞ!」
「そっ、そうだよ! 一千万円って大金なんですよ!」
ラプラスに続きクロヱも鉄平を諌めるのだが、こよりだけは冷静に自分の意見を述べた。
「あの、如月さんって警視庁の元刑事さんですよね。私達に大金を払ってまで協力を得るより、現役の刑事さん達と協力した方がいいと思うんですが……」
「今のワシはホロライブのスタッフだ。一般人になったワシには誰も協力はせんよ……」
「でっ、でしたら仲が良かった刑事さんがいたなら、情報ぐらいは得られると思うんですけど……」
困った表情で次の意見を述べるこよりだが、鉄平は苦笑いを浮かべながら答える。
「もしも、一般人になったワシに情報を漏らしたことが発覚すれば、その刑事は間違いなく僻地に飛ばされるよ。それに、この依頼は危険を伴う依頼だから大金を出すんだ」
鉄平の話を聞いたこよりはどんな依頼なのか想像が出来ず考え込むが、代わりにルイが神妙な表情で口を開く。
「その依頼は、猫又先輩と戌神先輩の捜索依頼ですか?」
「幹部! お前は、さっきから何を言っているんだ? 何でそこで先輩達の名前が出てくる?」
「専務には口止めされているんだけど……。実は、猫又先輩と戌神先輩は行方不明なのよ……」
ルイの告白に他のメンバーはショックを受けてしまい、顔を青ざめる者・困惑の表情を浮かべる者と様々だ。だが、彼女達もころねと大川マネージャーに関する噂を聞いているので、いつかはこうなる日が来るだろうと思っていたのか、ルイの言葉を疑う者はいなかった。
「君達に依頼する事は、えーちゃん・春先さん・轟専務の三人の護衛を頼みに来たんだよ」
「えっ!? ちょっと待って下さい! 先輩達の捜索が優先でしょう! 先輩達は行方不明なんですよっ!!」
「…………」
想定外な依頼内容にルイは厳しく問いただすが、鉄平は無言を貫いた。これ以上、ルイに任せても会話が進まないと判断したラプラスは、観念したようにため息を吐きながら口を開いた。
「わかったよ、じーちゃん。その依頼、吾輩たちが引き受けよう」
「なっ!? ラプ、なにを勝手に承諾するの!」
「ルイ……。総帥である吾輩に対して、随分とでかい口を叩くようになったな……」
話に割り込んだ上に、勝手に承諾したラプラスに対して、ルイは不服を唱えた。
だが、冷静になれず鉄平を詰問するルイの姿を見ていられなかったラプラスは、彼女を睨みつけてドス黒いオーラを放つと、彼女は恐怖のあまり総身が粟立ち口を閉じてしまった。これ以上、総帥であるラプラスに逆らったら殺られると、ルイをはじめとする仲間たちが確信するほどの凄絶な力を放出したのだ。
「もう一度言う。吾輩たちは、この依頼を引き受ける! 異論はないな、ルイ」
ラプラスはあらためて宣言すると、ルイは言葉を発する事はできなかったが力無く頷いた。
「じーちゃん、聞いただろう。この依頼は引き受ける。ただし、条件がある」
「なんだい」
「情報の共有をしてもらいたい。隠し事は無しにしてもらう」
鉄平にもドス黒いオーラを放つが、彼は怯える事はなく満面の笑みを浮かべて承諾する。
「ああ、もちろんだとも。しかし、これだけの力を持っているとは、さすがはラプラスさんだ。総帥の風格が出てるよ」
純粋にラプラスの力を褒める鉄平に、彼女は拍子抜けしてしまい、ドス黒いオーラを霧散していつもの彼女に戻った。
「さて、契約は成立したのでこれまでのことを話すが、他言無用でお願いする」
鉄平が確認するように聞くと、全員が頷いた。そして、温くなった緑茶を口に含みこれまでのことを語り出した。
「以上で知っている限りのことを話したが、質問があれば答えるよ」
鉄平からこれまでの出来事を聞き、おかゆところねが無事だと分かったのだが、ホロックスのメンバーは素直に喜ぶことが出来なかった。
もちろん、尊敬する先輩が無事だと聞いて安堵していたが、それと同時にころねの苦悩を知らずに今日まで過ごしていた己自身を恥じていたのだ。
重苦しい空気が漂うなか、ルイは申し訳ない表情で謝罪する。
「如月さん、今まで失礼な態度をとって……」
そう言って頭を下げようとしたが、鉄平は手で制して口を開いた。
「ワシは気にしていないから、頭を下げる必要はないよ。それより、何か聞きたい事はないかね?」
「では、遠慮なく……。戌神先輩たちがいる病院は、本当に安全なんですか? 富裕層を相手にしている病院なら、花菱商事の息がかかった人間が訪れる可能性が十分ありますよ」
「花菱 栄一には悪い噂があって、経済界の重鎮たちに不興を買っておる。院長である松沼が、経済界を敵に回してまで花菱商事の人間を受け入れることはないよ」
「悪い噂っていうのは、具体的には……」
「海外留学中に大麻を嗜んだり、複数の男女をホテルに呼び寄せていかがわしい行為をしているという噂かな」
「サイッテー!」
花菱の素行の悪い噂を聞いた彼女達は顔を顰めるが、クロヱが代弁するように露骨に嫌な表情で吐き捨てた。そして、次に質問をしたのはこよりだ。
「あの、戌神先輩たちがいる病院の警備体制は大丈夫なんですか?」
「警備は元自衛官が中心で二十四時間体制で行なっているので安心してほしい。それに、その病院は霞ヶ関にあるから簡単に襲われる事はないだろう」
鉄平の説明で納得したのか、こよりはホッと胸を撫で下ろした。
次に質問してきたのは、ラプラスだった。
「戌神先輩が持っていたSDカードって、いったい何が写っていたんだ?」
「ワシも見ようとしたんだが、パスワードが施されて見れなかったよ。だが、林さんから駄賃代わりに松屋の栗蒸し羊羹を貰えたのだから…………」
鉄平が目を細めて推察すると、ネット通販でも取り寄せることが出来なかった珍しい羊羹を、いとも簡単に取り寄せる人物に興味を持ったラプラスは、目を輝かせながら身を乗り出して聞いてきた。
「おいっ、じーちゃん! そのハヤシというのは、どんな人なんだ?」
「食いつくところはそこじゃないでござるぞ、ラプラス殿!!」
「うるさいっ! あの羊羹は程よく甘くて、上品な羊羹なんだ! 吾輩は、もっと食べたい!!」
欲望に忠実なラプラスに呆れつつも、苦笑いを浮かべて鉄平は林について説明をする。
「林さんは警視庁で刑事部長を務めているんだ。あの人は和菓子に目がなくてな、老舗の和菓子屋とは懇意にしていて、そこから珍しい和菓子を入手してると聞いたことがあるな。話を戻すが、SDカードには重要な証拠が写っている可能性が高い……」
「どうして、そう言い切るのでござるか?」
「林さんにSDカードを渡して、しばらくしたら薬物銃器対策課の連中と他の部署のベテラン刑事を引き連れて科捜研に向かったんだ。おそらくだが、薬物の取引現場が写っているかもしれん……」
険しい表情を浮かべて話す鉄平の姿に、全員の顔がこわばった。多くの刑事が動き出すという事は、それだけ重要な証拠だと認識したからだ。
ホロックスのメンバーからは質問が出なかったので、鉄平はあらためて今回の依頼内容を話し出した。
「では、あらためて言うが君達にはえーちゃん・春先さん・轟専務の三人の護衛を頼みたいんだ」
「それは、花菱社長が先輩達の行方を知るために、えーちゃんさん達を攫う可能性があるからですか?」
「ああ。花菱がその気になれば、闇社会の連中を雇ってでも彼女達を攫う可能性が十分ある。構成員が人間族だけなら問題は無いが、問題は獣人族がいれば警視庁の人間だけだと心許ない」
「なるほど……」
淡々と話し合いが行われるなか、眉を顰めながらクロヱが口を開く。
「あのさ、ちょっといいかな」
「どうしたのよ、クロヱ」
「その闇社会の連中は、如月さんを狙うんじゃない?」
「えっ!?」
「だってさ、花菱から見たら如月さんは自分たちを捜査するために、ホロライブに入社したって思い込んで真っ先に襲ってくると思うよ」
確かにクロヱが指摘するように、元捜査第一課の刑事が立ち上げて間もない芸能事務所のスタッフで働くのはあまりにも不自然であり、花菱に疑われても仕方が無いのだ。ルイは如月にも護衛を付けるべきだろうと考えるが、当の本人は笑って答える。
「安心なさい。ワシはなぁ、火の粉を払うのが大の得意でな、自分の身は自分で守る術を心得ているよ」
「そうは、言いますが……」
「とにかく、ワシの心配よりもあの三人を守ってくれ。さて、遅くなったからもう帰るよ」
時計を見ると九時を過ぎており、辺りも暗くなっていた。
ルイは鉄平を家まで送ろうとするが、本人はやんわりと断る。
「鷹嶺さん、今日のあなたは心身ともに疲れている。明日に備えて、もう休みなさい」
そう言って、鉄平は新人寮を去って行った。
鉄平が去った後、ルイはテーブルに置いてあるイチゴミルク味のバターサンドに手を伸ばし口に運んでいた。
「美味しい……」
そう呟き、ルイはバターサンドを味わって食べていると、いろはが困り顔で相談しにきた。
「ルイ姉、この二百万円どうするでござるか?」
結局、一千万円は鉄平に返そうとするが拒否してしまい、公平に五人で分けて二百万円を受け取ることになった。
いろはは鉄平の依頼金を受け取ることに抵抗を感じていたが、ルイをはじめとする他のメンバーは、この大金は正直に言って嬉しかった。
ホロックスのメンバーはデビューして、ようやく配信サイトの収益化を果たしたのだが、収入が安定してないのが現状だ。
例えば、自分の動画が再生されるたびに広告が再生されるのだが、その収入で得られる金額は微々たるものだ。スパチャも動画サイトに手数料を支払い、ホロライブに折半で取られ、税金まで納めたら手元に残るお金はあまりにも少ない。
安定して収入を得るには企業案件を受ければいいのだが、デビューしたばかりで知名度も低く、マネージャー達も彼女たちを売り込んでいるのだが、いまだに案件は0件のままだ。
ルイやこよりは多少の蓄えはあるが、ラプラスは外食や配信環境を整えるための機材でお金を使い果たし、クロヱも配信企画のために考えもなしにさまざまな発注を行なってしまい金欠となった。いろはも高スペックなパソコンを買い替えてお金は無いのだが、鉄平の老後の資金を素直に受け取っていいものなのかと良心が痛んでしまい、ルイに相談をしたのだがラプラスが口を挟む。
「これだけの大金を出すということは、危険を伴うってことなんだから素直に受け取っておけ。それよりも……」
素っ気ないがラプラスなりにいろはにアドバイスした後、彼女は急に口ごもり考え込んでしまった。
「どうしたのよ、ラプ?」
「いや、あのじーちゃんは一体何者なんだ?」
「何者って、普通のおじいちゃんでござるよ」
「普通か…………。普通の人間なら吾輩の
「そっ、それは……」
ラプラスが放った
「だけど、如月殿はどこから見ても人間族でござるよ!」
「ああ、だから吾輩も分からないんだ……。獣人族や異種族のハーフなら独特な雰囲気があるんだが、あのじーちゃんには何も感じられなかった……。まあいい、明日に備えて今日は寝よう」
鉄平の謎を解き明かすより、眠気が勝ってしまったラプラスは欠伸をしながら部屋に戻ってしまった。
鉄平の話によれば、えーちゃんとのどかは家には戻らず当分の間はビジネスホテルに泊まり、轟専務は大川の処分について緊急会議を開くために、自宅に戻らず会社の仮眠室に寝泊まりしている。
この情報を知っているホロックスのメンバーは、今夜はゆっくりと寝ようとそれぞれの部屋に戻るが、ルイといろはだけはテーブルに置いてある洋菓子を冷蔵庫に入れて、軽く談話室を掃除をしてから、明日に備えて眠るのだった。
オリキャラの設定集を書いた方が書くべきなのか迷ってます。書くべきなのでしょうか?
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はい。お願いします。
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いいえ。結構です。
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それよりも、小説を優先して投稿してくれ