再就職先は、ホロライブのスタッフに決まりました   作:DXフルーツパフェ

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お久しぶりです。

お祈りメール様、評価していただきありがとうございます。


第8話 鉄平、箱根に赴く

 

 

 

「あの、如月殿。いつまでこうしているのでござるか?」

 

 連絡を終えた鉄平はいろはと共にかれこれ三十分の間、事務所の一階にある喫茶店で二人は注文した飲み物を飲んでいた。

 

「そうさなぁ、まだ時間はかかるだろうなぁ……。待つしかあるまいよ」

 

 オレンジジュースを飲み終えたいろはが、鉄平に質問する。

 

「如月殿、一体どこへ行くのでござるか?」

 

「風真さんは、輪島重工という会社は知っているかね?」

 

 輪島重工とは、元は京都の呉服問屋の次男だった輪島 重造が明治の時代に外国の蒸気船を見て、いつかはこの船を製造して海外の貿易をやろうと決意する。そして、長崎の貿易商で修行を積んで大阪に移って海運業を設立したのが始まりだった。

 

 様々な苦労を経て海運業で財を成した重造は、明治政府の高官と親睦を深めて、次は蒸気船を造るために造船所を開設して日本初の重工業となった。

 

 その後、本社を東京に移して戦前は軍事力強化に伴い軍艦・戦車などの兵器製造を中心として発展し、戦後は船舶・重機・航空機・鉄道車両を製造し日本を代表する工業へと変貌を遂げた。

 

 この会社は学校の歴史の教科書にも載っており、いろはも知っていたので頷いた。

 

「ワシは今から輪島重工の会長に会いに行くんだよ」

 

「はぁっ!?」

 

 いろはが思わず間の抜けた声を出すが、それは仕方ないことだった。元警視庁の刑事がどうして日本を代表する会社の会長に会えるのか理解できなかったからだ。

 

「あの、如月殿……。その、会長とは一体どういう関係でござるか?」

 

「当時、あいつが社長だった頃にある事件で知り合ってな……。ワシは、捜査第一課の前に捜査第四課に長く所属していたんだ」

 

「第四課? あの、第一課は刑事ドラマを見たことがあるので何となく分かるでござるが……」

 

「第四課は通称マル暴と言って、暴力団が絡む事件を捜査を担当する課だよ。そうじゃな、風真さん自分のスマホで『1985年 暴力団』と検索してみるといい」

 

 鉄平がそう言うと、いろはは自分のスマホで検索してみる。

 

 検索すると、最初に飛び込んできた文字が輪島重工本社襲撃事件だった。

 

 輪島重工本社襲撃事件とは、神奈川県の横浜に拠点を置く暴力団「松川組」の組員が輪島重工の本社ビルにバズーカを撃ち、一階のエントランスを吹き飛ばしたのだ。人が少ない時間に起きた事件だったので死者は少なかったが、それでも死者は十三人、重傷者三十二人と被害を出してしまい、特に酷かったのはバズーカの直撃を受けた受付嬢の二人は即死。遺体はベテラン刑事ですら直視することが出来ないほど無惨な姿になっていた。

 

 その事件を皮切りに輪島重工関連の会社や研究所を襲撃、当時の社長であった輪島 正造の殺人未遂など、社会に恐怖を与えるには十分だった。

 

 だが、松川組はあまりにもやりすぎた。政府は松川組をテロリストと認定し、警視庁が松川組の組事務所に行き家宅捜索をしようとするのだが、松川組の構成員達は事務所に立てこもり、マシンガンを使い抵抗してきたのだ。だが、鉄平は自ら率先して銃弾を見事に避けて、容赦なくヤクザを拳で殴り倒し返り血を浴びる姿に敵味方関係無く戦慄した。

 

 同時刻、松川組が管理する隠し倉庫にも警視庁の捜索が入り、バズーカや手榴弾そして覚醒剤まで発見されたのだ。これは捜査して分かったことなのだが、横浜の米軍基地の素行の悪い兵士が廃棄処分する予定だったバズーカと手榴弾を、大金をもらう条件に松川組に横流ししたことが判明したのだ。日本政府はアメリカ政府にその兵士を引き渡すように要求するが、アメリカ政府は日米地位協定を理由に兵士を引き渡すことはなかった。

 

 結果、松川組の組長や幹部達、そして構成員を全て逮捕して松川組は壊滅するのだが、世論は「ヤクザを徹底的に排除するべき!」「ヤクザに協力したアメリカを許すな!」と声高に叫び、暴力団撲滅・アメリカ批判の運動が全国で巻き起こったのだ。日本政府は世論に後押しされて、本腰を入れてヤクザを排除をするために「暴対法」「通信傍受法」を制定する。

 

 一方、アメリカ政府は兵器を横流しした兵士を取り調べを行うはずだったが、自殺をしてしまい真相が闇の中になってしまったのだ。彼一人で兵器を松川組に横流しできるとは到底考えられず、慎重に調査を行うはずだったが裏目に出てしまった。

 

 この兵士の自殺が様々な憶測を呼び、欧州諸国がアメリカ政府に対して共同声明を発表。内容は「テロリストに認定された組織に協力した兵士を日本に引き渡そうとせず、真相究明の怠ったアメリカ政府を信用することは出来ない」とアメリカ政府を公然と批判したのだ。

 

 この時代、アメリカ政府は日米貿易摩擦の影響で対日貿易は500億ドルという多額の赤字を抱えてしまい、各地でジャパンバッシングが起きていた。そして、このタイミングで輪島重工本社襲撃事件が起きてしまい、松川組にバズーカなどの兵器を渡したのはアメリカ政府が裏で動いていたという説が浮上したのだ。

 

 この説にアメリカ政府は荒唐無稽と断じて相手にしなかったが、欧州諸国はアメリカに対して輸出入制限を行うと決定したのだ。この欧州諸国の動きに合わせてオーストラリア・中東諸国も加わり、アメリカに対して欧州と同じように輸出入制限すると声明を出したのだ。事実上の経済制裁である。

 

 これ以上、他国との関係悪化を恐れたアメリカ政府は日米地位協定を見直し、日本で犯罪を犯した米軍兵士を日本の法律で処罰することが出来るように行い、まずは日本との関係の修復を図った。

 

 だが、松川組に武器を横流ししていた兵士が自殺したことが痛手となり、アメリカ政府に不信を抱いた国々の輸出入制限を解除するのに十年かかり、その結果アメリカは不況になってしまった。そして、保守派市民は日米地位協定の見直しを弱腰と政府を批判し、ついには暴動が発生。その暴動に一部の米兵も参加して、日本・欧州の企業や工場を破壊活動を行うという暴挙に出たのだ。そして、不況で職を失った人々もこの暴動に便乗して資産家を襲い略奪をするなど、アメリカ国内は混乱状態になり非常事態宣言が発令する事態となった。

 

 アメリカ政府は軍隊を出動させて暴動を鎮圧するが、観光客が激減してしまい観光業は壊滅状態にまでなってしまった。どの産業も大打撃を受け、経済が回復するには二十年も費やし、アメリカにとって忘れることもできない悪夢の出来事であった。

 

 その出来事を読んだいろはは、難しい顔で呟く。

 

「これは、壮絶でござるな……。ところで、どうして襲撃事件で自衛隊が出動しなかったのでござるか?」

 

「あの時代は……。いや、今もそうだが自衛隊を出動させると周辺諸国が反発するから、ワシらが出張るしかなかったんじゃよ……。もう、ゴメンだがな……」

 

 あの頃を思い出しながら鉄平が答えていると、白と黒の基調したメイド服を着た美しい女性が二人に近づいてきた。その女性は鉄平達に丁寧にお辞儀して口を開く。

 

「貴方が如月様ですね?」

 

「ああ、そうだがおまえさんが正造さんの使いの者だね?」

 

「そうです。遅くなり大変申し訳ございませんでした」

 

 愛想も無くメイドは無表情な顔で冷静な声で謝罪し、事務所の駐車場に車を待機しているので二人を案内するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 防弾仕様の高級車に二人を乗せて、目的地である輪島重工会長の邸宅に向かうために今は高速道路を走っている。

 

(ど、どうしよう……。何か話せればいいのでござるが……)

 

 誰一人として会話をすることなく沈黙が続き、この気まずい空気をどうにかしようといろはは頭を悩ませながらトークデッキを構築するのだが、その沈黙を破ったのは運転している無表情のメイドだった。

 

「如月様にお尋ねしたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」

 

「構わんよ。何が聞きたいかね?」

 

「ご主人様から聞いたことがあるのですが、バズーカの弾を蹴り飛ばしたのを見たと話していたのですが本当でしょうか?」

 

「はぁっ!?」

 

 相変わらず無表情な顔だが、会話の内容が荒唐無稽なために思わずいろはは素っ頓狂な声をあげてしまった。「そんなマンガみたいなことが……」と思っているいろはとは裏腹に、鉄平は飄々とした顔で答える。

 

「ああ、そんなことか……。あいつを狙ってバズーカを撃ってきたから、助けるためにやったのさ」

 

「なっ!?」

 

 鉄平の話を聞いたいろは驚いて目を見開いてしまい、ラプラスが彼のことを何者なのかと疑問を口にしていたが、それが現実味を帯びてきたので興奮気味に質問する。

 

「きっ、如月殿は、獣人族か異種族のハーフでござるか?」

 

「警視庁の上の連中もそのことを疑って、ワシを霞ヶ関総合病院で検査入院をするように言われたんだ。結果は人間族だったよ。まぁ、人より強健な肉体と判明して超人じゃないかと松沼に言われたよ」

 

 いろはの疑問にも誤魔化すこともなく、笑顔で語る鉄平に嘘偽りがないと判断した彼女はその話を信じた。

 

「風真さん、随分とワシのことを驚いているようだが、あなたも超人の可能性を秘めておるのだぞ」

 

 鉄平の発言にいろはは否定しようと口を開こうとするのだが、それより早くメイドが抑揚のない声で口を開く。

 

「剣聖と謳われた近衞 泰平様が、金髪碧眼の少女に剣術勝負を挑んで負けたと私は噂を聞きましたが……」

 

「そんな大それたことを私はしてないでござるよ!!」

 

 身に覚えのない話に真っ赤な顔で即座に否定するいろはだが、鉄平は落ち着いた声で口を開く。

 

「風真さん、あなたはホロライブでデビューする三ヶ月前のことを覚えているかい?」

 

「三ヶ月前? わたしがデビューしたのは十一月だから…………」

 

 そう口にするいろはだが、全く身に覚えがなく唸る姿を見た鉄平が再び口を開く。

 

「八月の暑い日に奈良県の山奥に迷い込んだことは覚えていないのかね?」

 

「あっ!」

 

 鉄平の言葉で、ようやくいろはは思い出して声をあげた。

 

 それは、故郷に住んでいたいろはがホロライブでアイドル活動をするために東京に行くときの事だ。

 

 剣術の師匠に「様々なご利益があるタケミカヅチを祀ってある京都にある神社に行って参拝しなさい」という言葉を聞き、京都に赴くのだが方向音痴のいろはは隣県の奈良県の山奥に迷い込んでしまい遭難してしまったのだ。当然、食料もなく途方に暮れていたいろはの前に現れたのは一人の男性だった。

 

 その男性は中年の男性で、中肉中背で屈強な体だった。そして、男は近衞 泰平と自分の名を名乗り、自分が管理している山小屋に案内したのだ。普通の女性なら警戒するが、素直ないろはは疑うことなく近衞の山小屋に入り、彼が作った焼きおにぎりを疑うことなく頬張り、そのまま眠ってしまったのだ。近衞は、男女同衾を良しとせず急いでテントを立てて寝袋で寝たのだ。

 

 そのことを思い出したいろはは、恩人である近衞のことを忘れてしまった事に落ち込みながらも告白した。

 

「ふむ。そのようなことがあったのか……」

 

「私は薄情者でござる……。恩人でもある近衛殿のことを忘れるなんて……」

 

「慣れないアイドル活動をしていれば、忘れてしまうのも無理はない。これ以上、自分を責めるのはよしなさい」

 

 鉄平の慰めの言葉にいろはは感謝して、その後のことを語りだす。

 

「あの後、一宿一飯の恩を返そうと、一週間ぐらい近衞殿のお手伝いをしたのでござるよ……」

 

 小さな畑の草むしり、冬に備えての薪割り、食料の買い出しなど、その頃のことを思い出して懐かしいそうにいろはは語る。近衛は最初は断ったのだが、嬉々として作業するいろはの姿を見て諦めてしまったのだ。

 

「そして、本来の目的地である京都の神社に行くときに、近衞殿は真面目な表情で剣術勝負をしようかと勝負を持ちかけてきたのでござる……」

 

「それで、その勝負に勝ったんだね?」

 

 鉄平の問いかけに、いろはは首を縦にして頷いた。

 

「はい……。剣術勝負が終わった後、近衞殿が軽トラで京都の神社まで送ってもらったでござる……。ところで、二人はどうしてこのことを……」

 

「私はご主人様からその噂を聞きました」

 

 いろはの疑問に最初に答えたのは、相変わらず無表情のメイドが高揚のない声で答えた。

 

「ワシは本人から聞いたよ」

 

「如月殿は、近衛殿のことを知っていたのでござるか?」

 

「知ってるも何も、あいつは警視庁捜査第二課に所属していた元刑事だよ。剣術を極めたいと辞表を出して、退職金や自分の貯金を全て家族に渡して、木刀を持って修行の旅に出た風変わりな男さ」

 

「そっ、そのような御仁でござったのか!? 私、そんなの全然知らなくて……」

 

 自己紹介しただけで雑談を交した二人だったが、お互い当たり障りのない会話しかしなかったために、いろはが知らないのも無理がなかった。

 

「ワシも近衞に勝負を挑んだがことがあるが、まさか風真さんのような若者に負けるとは思わなくてな。その話を聞いた時は年甲斐もなく驚いたよ」

 

「私はただ無我夢中で近衞殿に挑んだだけで……。きっとまぐれで勝ったのでござるよ」

 

 自分のことを称賛する鉄平に褒められることに慣れていないいろはは、苦笑いを顔を浮かべながら謙遜を述べる。だが、そんないろはに鉄平は彼女を見据えながら真面目な顔で口を開く。

 

「そう謙遜しなくてもいい。泰平も風真さんの実力を認めて、いずれは歴史に名を残す剣士になるだろうと言ってたよ」

 

「歴史に名を残す剣士!? そっ、それは言い過ぎでござるよ!」

 

「言っておくが、あいつは剣術に関してはお世辞を言うような人間じゃないんだ。だから、自信を持って邁進しなさい」

 

 鉄平がそう言うと、いろはは誉められているのが慣れていないのか、恥ずかしくなり真っ赤な顔で頷いた。

 

「しかし、鷹嶺さんといい、風真さんといいラプラスさんは良き仲間に恵まれて幸せ者だよ。これなら、彼女が暴走することはないだろう……」

 

 鉄平の言葉を聞いたいろはは、ラプラスに対して妙に甘く彼女に対して気遣う言葉に違和感を感じた彼女は素直に疑問を口にする。

 

「如月殿はラプラス殿に対して、どうして気にかけるのでござるか?」

 

「そうじゃの……。風真さんから見て、ラプラスさんのことをどう思うんだい?」

 

「どうって……、そうでござるな。一言で言うなら赤ちゃんでござるな。あと、せっかく私が食べたかった羊羹を全部食べていたから意地汚いでござる!」

 

 どうやら、鉄平が持ってきた貴重な羊羹を食べたラプラスを思い出してしまい、最後は怒り気味に言い放った。その言葉を聞いた鉄平は、思わず笑いそうになるがそれを堪えて自分の意見を述べる。

 

「まぁ、風真さんの意見は概ね正しい。だがな、ラプラスさんが本気を出せば、彼女一人で地球を支配する力を持ってるよ。ワシが恐れているのは、彼女が孤立して、暴走することなんじゃよ」

 

「しっ、支配って……。そっ、そんな、大袈裟でござるよ」

 

 普段は「エデン(地球)の星を手に入れる」とラプラスは語るが、ホロメンからはすっかり妹扱いされている彼女を思い浮かべたいろはは、鉄平の発言を信じようとはせず苦笑いを浮かべるが鉄平は神妙な面持ちになり口を開く。

 

「昨日、ラプラスさんが放った禍々しいオーラをもう忘れたのかね? 枷で本来の力を封じておると聞いたが、ここまで膨大な魔力を持っているとは正直驚いたよ。あの状態なら、天界はどうかわからぬが魔界なら支配はできるだろうよ」

 

 鉄平の言葉を聞いたいろはは昨日のことを思い出したのか顔を青くしてしまい口を閉ざす。だが、内心では興味津々のメイドがポーカーフェイスで口を挟んできた。

 

「如月様は魔界に行ったことがあるのですか?」

 

 魔界と天界、そして異世界の人々は、異文化交流の名目で日本だけに(ゲート)を構築して地球を訪れている。日本政府は、日本人が天界や魔界そして異世界に行くことは固く法律で禁じている。理由は、異世界の兵器や魔法のような不思議な力を宿している道具などを日本に持ち込み、この世界に混乱を起こすことを恐れてのことだった。

 

 そのことは日本人であれば当然知っており、どのような方法で鉄平が魔界を訪れたのか興味を持ったメイドが質問してきたのだ。

 

「政府の命令を受けて、日本と魔界の親善武道大会に参加するために魔界を訪れたことがあったのさ。そのときに魔王様に拝謁したことがあるが、ラプラスさんのほうが風格があったな」

 

「あの、如月殿……。そのようなことを私たちに話してもいいのでござるか?」

 

 魔界を支配している魔王が現役アイドルであるラプラスの方が格上とマスコミにでも知られれば、下手をすれば魔界と日本の間に亀裂が入る可能性がある。そのことを恐れたいろは狼狽するが、鉄平は笑みを浮かべて口を開く。

 

「ラプラスさんとは隠し事はしないと約束を交わしているんだ。それにワシの見立てだが、風真さんは分別をわきまえているから、信用して話したんだよ」

 

 そして、この話を聞いたメイドが口外しないように鉄平は釘を刺そうとするが、それより先に真面目な顔でメイドが答える。

 

「ご安心してください。この話はご主人様にも話すつもりはございません」

 

「そう言ってくれて一安心だ。助かるよ」

 

 彼女の言葉を聞いて安心した鉄平だが、それとは裏腹にいろはは困惑の表情を浮かべていた。昨日のことを思い出し、力を封印している状態でも魔王以上の実力を持つラプラスが、もし暴走をしたら自分で止められるのかと悩んでいるとそれを察した鉄平が口を開く。

 

「なぁに、いつものようにラプラスさんと付き合えばいいんだ。不安にさせてすまなかったな、風真さん」

 

「あっ、謝らないでいいでござるよ……。不安なんて……」

 

「ラプラスさんは博識で何より真面目な人だ。彼女が孤立しないように見守るだけでいいんじゃよ」

 

「それだけでいいのでござるか?」

 

 不安を拭えず沈んだ表情で話すいろはに対し、鉄平は微笑みながら頷く。

 

「ああ、それでいい。もし、不安ならワシが力になるから安心なさい」

 

 鉄平の言葉を聞き、いろはは安心したのかようやく表情を緩めた。そうしていると、車は高速を降りて箱根口ICの料金所に向かう。

 

「ほう、あいつは箱根に住んでいるのかね?」

 

「はい。申し訳ありませんが、あと三十分ぐらいかかります。コンビニで休憩をなさいますか?」

 

「ああ、そうしてくれ。一時間も車に乗っていれば窮屈でかなわんよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、その頃。

 

 花菱商事の関連会社である花菱総合警備会社の社長室では、背広を着た中年の強面の男がソファに深く座り苛立つ顔で部下の報告を待っていた。

 

 昨日の夜、花菱社長の秘書から電話があり、内容は「ホロライブの社員に元刑事が中途採用された」と報告を受けたのだ。

 

 その元刑事の経歴を調べた結果、如月 鉄平と分かり自分たちを調査するために派遣されたに違いないと考え、自然と顰め顔になる。報告はそれだけではなく、戌神 ころねとその親友である猫又 おかゆの失踪も知り、彼女の足取りを探ろうと部下に指示を出したのだが連絡が来ることはなかった。

 

 この男の名は亀沢 一という。元々北九州で暴力団の幹部で薬物の取引を担当していたのだが、年々厳しくなる暴対法の影響を受けて組織が維持できなくなり解散してしまったのだ。

 

 亀沢は生活レベルを下げる気もなく、薬物の密売人に元締めになろうと企んでいたが、どこから聞いてきたのか花菱商事の社長である花菱 栄一が直々にスカウトしてきたのだ。

 

 仕事内容は、表向きは関連会社の警備会社の社長に就く代わりに花菱商事の汚れ仕事を引き受けることだった。そして、話をしているうちに社長である栄一も薬物常習者の一人であることが分かり、この申し出を快諾したのだ。

 

 最初は薬物の売人として第二の人生を歩む予定だったが、思わぬところで警備会社の社長という肩書を手に入れ、社長である栄一に上質な薬物を売り捌き、順風満帆な生活を送っていたが「血塗れ鉄平」の異名を持つ元刑事の存在が彼を苛立たせていた。

 

 想定外の出来事にどうするべきかと考え込んでいたら、机に置いていたスマホが震え出し、画面を見たら腹心からの電話だった。

 

「もしもし、俺だ」

 

『社長ですか? 報告したいことが……』

 

 落胆の声色で話す部下に、思わず怒鳴りつけようとするのだが、グッと堪えて返事を促す。

 

「報告しろ」

 

『はい……。まずは二人の行方なんですが一向につかめませんでした……。それと、猫又 おかゆのマネージャー長谷川 純も行方知れずなんです』

 

「マネージャーも行方不明だと!?」

 

『はい。マネージャーが住んでいるアパートに人の気配も無く、危険を承知で忍び込んだんですが、見当たりませんでした』

 

「そうか……」

 

 その頃、長谷川 純はえーちゃんと別行動を取り、彼もまたビジネスホテルを転々としており、もし危険を感じたら霞ヶ関総合病院に向かうように如月から指示を受けていた。だが、今の亀沢達にはその事を知ることが出来なかった。

 

『そ、それでですね……。元刑事の方なんですが…………』

 

 急に言葉を濁し出した腹心に嫌な予感がした亀沢は、思わず声を荒げて返事を促す。

 

「おいっ! 報告を続けろっ!」

 

『すみません……。実は北島が闇バイトのガキ共をけしかけて、元刑事の部屋を荒らしてしまって……』

 

「なっ!?」

 

 北島とは狼の獣人族の男で、若い女性に乱暴を働いて刑務所に服役した経験があり、汚れ仕事をさせるために雇ったホスト崩れの元ヤクザだ。その男の暴挙を許してしまった腹心の男を亀沢は責める。

 

「バカかよっ、テメェは! お前がいながらなぜ止めなかった!!」

 

『すっ、すみませんでした。でっ、ですが、やったのはガキ達で、俺らが逮捕されることがありません。それに、定年退職した刑事ですのでそう目くじらを立てなくても…………』

 

 普通の刑事なら問題はないが、鉄平は凶悪なヤクザを取り締まっていたことで警視庁に貢献していたエース級の刑事だ。定年退職と偽って自分たちを捕まえるためにホロライブ事務所のスタッフとして働き捜査している可能性もあり、危機意識を持たない腹心の男を含めた部下全員にこのことを認識する必要があると考えた亀沢は怒気を孕んだ声で伝える。

 

「もういい! 全員、ここに来るように伝えろっ!」

 

『戌神に接触した女性の行方を追っている連中もですか?』

 

「全員と言ったはずだ! 同じ事を言わすんじゃねぇぞっ!!」

 

 そう一方的に伝えて、亀沢はスマートフォンを床に叩き壊したい衝動を抑えて、どうにか受話器ボタンをタップした。

 

(クソがっ! 完全に警視庁を敵に回しちまったじゃねぇかっ! どうすればいい!!)

 

 頭を抱えたままソファに座って考えるが、完全に後手に回り妙案が浮かぶことはなかった。

 

 ホロライブと鉄平の情報を断片的にしか知らない亀沢は、連中の情報を持っているであろう大川を呼び出す事を決断し、スマホを取り出し花菱社長の秘書に電話をかける。

 

「もしもし、俺です。すみませんが、お願いしたいことが……。社長の友人である大川さんに、今ここに来て欲しいんです……。彼には色々と聞きたいことがあるので……」

 

 

 

オリキャラの設定集を書いた方が書くべきなのか迷ってます。書くべきなのでしょうか?

  • はい。お願いします。
  • いいえ。結構です。
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