僕の名前はシド・カゲノー。代々騎士を輩出するカゲノー男爵家の長男。家族はダンディーなハゲ親父、特に特徴のない母さん、二つ年上の姉さんの四人家族。
僕はそんな田舎貴族の期待の天才児……などではなく、平凡な一般貴族だ。ラノベで言うなら主人公には「何故平民如きがこの学園にいるんだ……」と陰口を叩き、ヒロインには「きょ、今日もうちゅくしすぎるぅ……!」と見惚れ、ライバルキャラには「あの方が学園で最強と言われている……!?」と勝手に怯える典型的なモブ貴族だ。
しかーし! それは世を忍ぶ仮の姿。本当の姿は別にある。
僕の正体は『シャドウ』。陰に潜み、陰を狩る者。魔人ディアボロスを崇拝する『ディアボロス教団』に対抗する組織、『シャドウガーデン』の首領。功績も実力も決して世間には知られることのない『陰の実力者』。
そういう設定で遊んでいるただの転生者だ。
きっかけは何だったか覚えてないけど、僕は『陰の実力者』に憧れた。主人公でもラスボスでもなく、物語に陰ながら介入して実力を見せつけていくクールでカッコいい存在。僕はそんな『陰の実力者』に憧れ、そうなりたいと思った。
仮○ライダーやプリ○ュアに憧れる子供達なら似たような道は通っただろう。彼等彼女等と違うのは僕の憧れは一時的なものではなく、心の奥底で燃え続け、いつまでも絶えることなく僕を突き動かしたことだろう。
武術のような強くなるために必要なことは全力で習得した。頭の悪い『陰の実力者』なんてダサいので勉強も手を抜かなかった。そして実力は隠し続けて、日常生活では学力テストもスポーツテストも至って平凡で目立たない、人畜無害なモブAであり続けた。
しかしある日、現実と向き合う日が来てしまった。こんなことをしていても無駄なのだと。
空手、柔道、剣道、総合格闘技……これ等を全て極めたとしても物語の世界にいた『陰の実力者』にはなれない。某国と個人で平和条約を結べる地上最強の男にも届かないだろう。僕にできるのはせいぜいチンピラ数人をボコれるくらい。銃を持った軍人に囲まれたらおしまいだし、もし何とかなったとしても自然災害や病気、超至近距離の核爆発には勝てないだろう。
そんなんじゃないのだ、僕が憧れた『陰の実力者』は。いや、重い病気を患っているのに他の追随を許さないくらい強いタイプの『陰の実力者』も大好きだけど、憧れの存在に至りたいなら僕は人間の限界を越えなければならない。
そのために必要なのは極められた知能や肉体じゃない、もっと別の非現実的な力だ。魔力、オーラ、チャクラ、呼び方は何でもいい。未知なる力を取り入れる必要があった。魔力が存在しないことを証明した人はいないけど、あることを証明した人だっていない。きっとない可能性の方が高いだろう。
だけど、正気では僕の目指した力は手に入らなかった。なら狂気の先に行くまでだろう。
修行は困難を極めた。当然だ、そんなものを習得する方法は誰も知らないのだから。正解なんてありはしない。それでも僕は暗闇の中を、自分が信じた道を、ただ突き進んだ。
結論として魔力はあった。こうして僕が異世界に転生しているのが証拠だ。恐らく異世界に来る直前に見つけた魔力を利用して転生したのだろう。森で服を脱ぎ捨て全裸になることで森羅万象を感じ、大木に頭を打ち続けることで物理的に雑念を排除し、かつ脳に刺激を与えることが魔力を知覚する条件だったのだ。もし地球で発表していれば表彰ものだろう。目立つから絶対にやらなかっただろうけど。
魔力を手に入れた僕は修行と研究を始めた。強さに妥協した『陰の実力者』に価値はないからだ。
ここで僕は再び自分が目指している『陰の実力者』への道のりがどれだけ困難なのかを認識することになる。
この世界は『陰の実力者』ではなく主人公になりかねない要素が非常に多いのだ。“
自称勇者や一本しかない聖剣に選ばれる勇者だけだったらまだマシだったのに、“勇者の卵”とかいう代物が素質のある――特定の精霊に愛されている――者に宿り、厳しい修行を経て孵化して勇者が生まれるパターンがあるのだ。自分にないとわかった時は滅茶苦茶安心したのを覚えている。姉さんにはあったけど。まさか姉さんが主人公だった? ……ありかもしれない。毎日「ふぇぇ、お姉ちゃん強いよぉ……」と言いながら家の訓練でボコられまくったかいがあった。
話が逸れた。次に“覚醒”だ。人間は身体を本当に限界まで鍛えると“仙人”や“聖人”になる。魔物は一定の条件を満たしてから人間を殺しまくれば“覚醒”するらしいけど。どうして魔物だけにレベルアップシステムがあるのだろうか?
ここでも思わぬ落とし穴があった。限界まで鍛えるという答えがあるのはいいけど、果たしてどれだけの人が自分の限界を知っているだろうか。強くなっていってもまだ成長の余地や伸びしろが残っていただけと思う人の方が多いだろう。
おかげであと少しで自分が覚醒してないと思い込んだまま圧倒的力で敵を薙ぎ倒す勘違い最強主人公になるところだった。自分の力を把握できていないなんて『陰の実力者』失格だ。あえて一つ下の次元に留まっておいて格上を倒すとかならいいんだけどね。
最後に『スキル』だ。僕は転生する時に魔力のことを強く考えていたからか『魔力操作』や『魔力感知』というエクストラスキルを手に入れた。他にも色々あるけど、僕は求め続けていた魔力、もとい魔素を十分に活かせる装備を作るために自在に姿を変えられて、魔素をエネルギー源として生きている故に魔素の量で強弱が変わるスライムに目を付けたのだ。
理想の装備、スライムボディースーツは完成した。その時に『
愚痴りまくったけど今度は良かったことを挙げよう。
この世界は日本人を含めた異世界人が多くいるけど、そのほとんどが転移者だ。偶然だったり召喚魔法だったりと違いはあるけど、元の世界の肉体を持ったままやって来るのだ。逆に異世界からの転生者は滅多にいない。理由は魂だけで世界を渡ろうとすれば魂が分解されるから。記憶がなくなるのは当たり前で、正気を保っていれば奇跡レベル。僕が調べた限り、異世界から転生したのは最強と呼ばれている大魔王だけだ。
だがしかし、僕が喜んだのはここではない。異世界人が例外なく強力な力を手に入れることと、この世界の住人が異世界人に比べると格段に弱いことだ。
僕は転生してこの世界の人間になったから「異世界人だから強くて当然」という印象を持たれないのだ。異世界人というだけでモブになれなくなり、実力を完璧に隠す『陰の実力者』には絶対になれなかった。この事実を知った時には思わず踊り狂ったくらいだ。
おまけに異世界人は強力な力を振りかざしてイキり散らす輩が多い。唐突に大金を手に入れた人の性格が激変するのと同じ理屈だろう。そんな彼等のおかげで僕は『陰の実力者』として活躍できる場を沢山与えてもらえた。反応もいいからクセになる。
次に良かったのはこの世界の仕組みだ。
エクストラスキルまでなら適当に修行しているだけで一つくらいなら手に入る。ただし、それ以上のユニークスキルなどを獲得するのに必要なのは強靭な意志である。そんなものをこの世界に来た時点で無条件に獲得できる異世界人が特別視される理由もわかるね。
僕も転生した時にユニークスキルを獲得していた。そこに生涯途絶えることのない『陰の実力者』への憧れと覚醒が合わさることによって、僕のユニークスキルは
このスキルに攻撃的な権能は全然ない。だけど、僕は失望するどころか超喜んだ。この能力は僕が目指す『陰の実力者』になるのに必須と言っても過言ではなかった。
龍の玉を集める某漫画に出てくるスカウターや竜の王を退治する某RPGのステータスのように、この世界にも相手の強さを見極める手段が存在する。『解析鑑定』による相手の種族や魔素量の分析がそうだ。
これのおかげで何故か口元だけ見えたり、瞳がやたらと輝いたりする『陰の実力者』ムーブがはかどった。近い内に地味な青年に変装して闘技大会に出場する予定である。
あ、それと遊び仲間ができたことも収穫だろう。『陰の実力者』の設定を知っている者がいるのは大事だ。『陰の実力者』が何のために戦っているのかを誰も知らなければ深みが出ないし、戦う理由がしょうもないと格好がつかない。だから『陰の実力者』の配下Aをやってもらう遊び仲間を見つけたのだ。
前世から最高の『陰の実力者』を妄想し続けてきた僕にとって、数千、数万パターンの『陰の実力者』設定からこの世界の英雄譚を組み合わせた最適解を導き出すなど造作もない。
・目的は魔人ディアボロスの復活の阻止
・三人の勇者によって倒されたディアボロスは、死の間際に呪いをかけた
・呪いを受けた勇者の子孫はディアボロスが復活した際に手駒にしやすくするため、身体に異常が起きるようになっている
・強大過ぎる故に依り代として狙われているのが原初の悪魔、竜種、覚醒勇者、覚醒魔王の因子を持つ大魔王、リムル=テンペストである
・ディアボロス教団が我々『シャドウガーデン』の敵である
ざっくり言うとこんな感じだ。
いやー、最初に配下になった女エルフのアルファが『人類の生存圏を侵略した大魔王を討つのでしょう?』とか言い出したから大魔王を狙わないようにする設定を盛り込むことになってしまった。
だってさ、魔王を倒すのは勇者じゃん? 『陰の実力者』は裏ボスを倒さないといけないのだ。それにこの世界の魔王っていい人っぽいし、倒したらただの悪者だ。勇者が弱くて魔王がコテコテの悪役だったら喜んで殺しに行ったけど。悪いね大魔王、君は『陰の実力者』的にアウト・オブ・眼中なんだ。覚醒勇者も覚醒魔王も咄嗟の思い付きで口にしたけど、第二形態とかあるでしょ、多分。
そんな感じで『シャドウガーデン』と『ディアボロス教団』が誕生した。皆律儀に設定やシチュエーションを合わせてくれるし、僕の思い付きにもいいリアクションをくれるし、希望通りの敵も用意してくれるから中々やめられない。ディアボロス教団に所属する設定を受け入れてくれた盗賊に身を堕とした奇特な異世界人なんてどこで見つけたんだろう?
でも二年前、彼女達と遊べなくなった。勇者が全員女性だったとか、ディアボロス教団は世界中にいるから我々も世界に散って妨害活動にあたるとか、資金と人材集めをするとか言ってたけど、多分ディアボロス教団がいないことに気付いたんだろう。こんな茶番に付き合っていられるか、私は自由になるぞ、と。
少し悲しくなりながらも、僕は彼女達を送り出した。僕が教えた地球の道具や物語で荒稼ぎしていると知った時には失望したけど、補佐を残してくれたり読めないけどカッコいい古代文字で連絡をくれたりするから許してる。
それに『陰の実力者』の物語が始まるのはここからだ。僕はそろそろイングラシア学園都市に行く。魔王が正体を隠して通っていたという噂もある学園……間違いなく何かが起きるだろう。興奮が止まらない。
……そういえば紅茶を気軽に飲むために頼んだティーバックできた? って聞いたら何故か恥ずかしそうにお尻を見せられたんだけど、あれは何だったんだろう?
シド・カゲノー
主人公。魔力を手に入れた今、ひたすら陰の実力者の道を進むだけと思っているが、世界最強と呼ばれている魔王より強くないと陰の実力者と言えるのかと考えて接触してしまえば雌堕ちさせてしまう可能性があるため、まだ18禁主人公の魔の手からは逃れられていない。性欲があるのかは不明。