「毎回夜遅くに集まってもらってごめんな。とりあえず皆揃ったし、始めるとしよう」
草木も眠る丑三つ時。世界最大規模の超近未来的な幻想都市である
世界を揺るがす天魔大戦から早二十年近くもの年月が過ぎた。覇権を握った俺を恨む連中や小国同士の小競り合い程度なら頻繫に起きても即座に鎮圧できていたのだが、十五年くらい前から洒落にならない事態が発生している。
この世界には実話をもとにした英雄譚やおとぎ話が多く存在している。俺の運命の人だったシズさんが主人公の『爆炎の支配者』、今は皇帝になったけど若い頃は華々しい活躍(笑)をしたマサユキの『閃光の勇者』、英雄譚どころか教科書にされた俺の軌跡なんかがそうだ。
その中の一つにヤバい話があった。それが『魔人ディアボロスと三人の勇者』である。
最初に読み終わった時の感想は「ありがちな話だなぁ……ただの魔人と勇者を名乗った三人組だと思えば微笑ましいけど」だった。だって仲間に覚醒勇者や覚醒魔王よりヤバい連中がゴロゴロいるんだぞ? 平和ボケ丸出しの感想が出てもおかしくないと言い訳したい。
だけど、ディアボロス教団の存在を知ってから詳しく調べ直した結果、異世界から来た魔人と時代が違えば最強を名乗れた三人の死闘で、ディアボロスの依り代に限界が来なければ勇者側が敗北していたと判明し、飲んでいた紅茶を思いっきり噴き出したのは未だに覚えている。当時から生きている人達によればディアボロスの強さは最低でもギィ……俺が現れるまで最強の名をほしいままにしていた魔王並らしい。
弛みきっていた意識を切り替えるのに十分な情報である。
まず初めにどうして魔人ディアボロスを調べることになったのか? それは多くの人間がいる東の帝国や西方諸国、エルフが暮らす魔導王朝サリオン、
内容は人間、エルフ、獣人の子供達の魔素がいきなり激増して暴走するというもの。症状としては不完全な方法で召喚された異世界の子供とほぼ同じであり、これだけなら何とかなった。俺なら友達の
最悪だったのは三つ。症状が召喚された子供と似ていることと、安定させられるのが上位精霊ではなく上位悪魔であったことと、症状が出た子供の容姿が醜悪になってしまうことだ。
既に異世界に行く技術が確立されたことで、異世界人の召喚はより容易になった。それは不完全な召喚のハードルも下がることを意味しており、勝手に召喚した異世界の子供を症状が出た子供と偽られると手が出しにくくなる。世界中で禁じられている異世界人召喚を密かに実行しようとする連中にとって、この騒動は格好の免罪符を与えられた形になるだろう。
召喚された異世界人も召喚主に利益を提示されたり親切にされたりすれば簡単に引き込まれるし、魔王は悪で魔物は格下みたいなイメージを持った輩が多いから保護も難しい。
次に悪魔が対価なしに働くことはありえない。精神生命体である彼等は現世で活動するための肉体を求めており、魔素を大量に保持する子供なんか見つけたら嬉々として精神を破壊し、身体を乗っ取るだろう。精神での戦いなら最強の種族である悪魔に幼い子供が抵抗できるはずもない。
俺が魔素の安定に精霊を選んだ理由がこれだ。これのせいで契約を受け入れる悪魔を見つけること、悪魔が子供に危害を加えないかを監視する手間などが増えて、大きく時間をロストすることになった。更にこのことがきっかけで症状が出た子供は<悪魔憑き>という蔑称で呼ばれ出してしまった。
もう一つはある意味もっと酷い。見るからに腐った肉塊になった人を助けようと思う者は少ないのだ。助からないなら楽にしてやろうとする者はまだマシな方で、気色悪いから積極的に殺そうとする者や誰もいない場所に捨てに行く者が大勢いる。おかげで助けられるものも助けれない。
子供達を助ける傍らで根本的な原因を探した結果、症状が現れる子供達の血が似通っていることが判明。それが『魔人ディアボロスと三人の勇者』に繋がる訳だ。
ディアボロス教団の存在に気付いたのもこの頃だ。報告された数よりも<悪魔憑き>が少ないことに違和感を覚えて調べさせたら、金を払ってまで<悪魔憑き>を回収する連中がいた。
……<悪魔憑き>に関して最も重要なこと。それは強さだ。
魔素を制御された<悪魔憑き>は“仙人”と“魔王種”、二つの強さに目覚めてしまう。幼い身体に限界まで負荷がかかることで“仙人”に、そこから十分な魔素を得た肉体が若干魔物のものに置き換わることで“魔王種”になってしまうのである。
“
未だにディアボロス教団の中核も目的も判明していない。わかっているのは単純なディアボロスの復活じゃないこと、物語に登場する三人が純粋な勇者じゃないこと、依り代として俺を狙っていることくらいだ。
だから今日の会議も教団について……ではなく、それ以上に警戒している組織についてである。
「今日の議題は『シャドウガーデン』についてだ。わかったことを遠慮なく報告してくれ」
皆は俺を狙うディアボロス教団に怒りを燃やして警戒しているが、正直言って俺は『シャドウガーデン』の方を警戒している。
『シャドウガーデン』。全構成員が美人で胸と尻のラインが丸分かりのエロいスーツを着たゲフンゲフン――女性であり、ディアボロス教団と敵対している組織。
単純に考えれば千年以上前から潜み、準備を重ねてきたディアボロス教団の方が警戒すべきなのだろう。だが、彼女達は僅か五年で教団に対抗できる力を身に付け、極一部しか知り得ないはずのディアボロスや<悪魔憑き>の真実を知り、教団が広めた俺の悪評にも惑わされていなかった。
もし教団が潰れた時、これ程の武力、情報収集力、成長力を持った組織が自分達に牙を剝かないと言えるだろうか? 大きな力を持っていれば使いたくなるのが生き物の性だ。
(何よりも怖いのが『シャドウガーデン』のボスだ。シエルさんでも予測ができないってどんだけだよ)
教団の重要人物や目的は確かに明らかになっていない。しかし、何か大きなことをしようとすれば絶対にシエルが察知するし、そこから芋づる式に正体も目的も予測できてしまう。何ならわざと隙を見せて動きを制御することも可能だ。
そんなシエルが分析すらできないのが『シャドウ』だ。正体不明、実力不明、思考不明、何もかもがわからない。単純な性別さえもだ。七陰と呼ばれる“聖人”クラスの幹部の指揮下にある『シャドウガーデン』の動きなら読めるのに、シャドウが指揮を執ると途端に予測不能になる。
一度、二度なら偶然や奇跡で片付けられるだろう。だが、シエルの思考の裏をかくのは馬鹿にできることじゃない。厨二病の馬鹿が適当に考えた妄想が全部本当にあったくらいありえない。つまりシャドウはシエル並に智謀に優れていることになる。
……忘れてた。唯一シャドウについてわかっていることがあった。それはシャドウが異世界人であることだ。
悔しいのが滅茶苦茶需要が出ていることだ。ナツメという作家の小説は原作をパクっていると理解しているのに面白いアレンジがあるし、どっかで聞いたことのある名前に似たミツゴシ商会が提供する商品はどれも便利だったり俺が作ろうとしなかった品だった。……Tバックとかヒモパンとか男の俺じゃ提案するのも恥ずかしいし。
この世界の住人じゃ思いつけないものの数々。シャドウは文才や商才にも恵まれている。やっていることはその才能でゴリ押ししているようなものだが。
さて、長々と会議そっちのけで考え事をしていたように見えたかもしれないが、ちゃんと皆の声を聞いてるし話にも参加していた。だから出た意見をシエルとすり合わせて、伝えるべき結論を考えている。
「世界各地で存在が確認されていた『シャドウガーデン』とディアボロス教団だが、この半年ではイングラシア学園都市での活動が目立っている。特に滅多なことでは現れない『シャドウ』も短期間で何度も姿を見せている。このことを踏まえてイングラシア総合学園の生徒が
『はっ!!』
……皆、俺が真面目な顔してピッチリスーツとかTバックについて考えてたなんて思わないんだろうなぁ。
《ご安心を。私が知っているので虫の知らせを装ってシュナとシオンに伝えておきました》
「リムル様、少しお時間よろしいでしょうか?」
振り向くと満面の笑みを浮かべた鬼が二人。
あっ、オワタ。
リムル・テンペスト。
殺人転生、略してさつてんをした主人公。シエルでも行動を読めないシャドウを警戒しているが、もし男だったら綺麗な女性にTバックを作らせたことに敬意を表するべきか、Tバックの作り方を知っていたことを軽蔑するべきか悩んでいる。ピッチリスーツがスライムであることをまだ知らない。
魔人ディアボロス。
もし「ボ」が「ブ」だったら黒い悪魔に積極的に殺されていたかもしれない。