陰の実力者が転生した件   作:柔らかいもち

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 人類解放軍というのはシドが人類解放同盟を間違って覚えているだけです。


四話

 魔王のダンジョンを舐め腐って死ぬ。昨日、テンプレモブ貴族らしい散り方を演じられたが、僕は全然満足できていなかった。

 

(このダンジョン、『陰の実力者』として活躍できる場所じゃない……)

 

 僕は明らかに主人公な人物とチームになった。男装しても隠し切れない美貌、転生者の僕には違和感バリバリのサトルという名前、大概の国なら滅ぼせる魔物達を前にしても揺るがなかった余裕、ジャガのルパンダイブを迎撃した僕じゃなきゃ見逃しちゃう恐ろしく速い右ストレート。どう考えても目立つのを嫌う実は強者タイプの主人公だ。

 

 邪魔なモブが消えて実力を隠す必要がなくなったことで一気に攻略を進める主人公が苦戦する敵が出た時、死んだふりをして後を付けていた僕――『陰の実力者』が颯爽と登場して瞬殺する……みたいなシチュエーションが味わえると思っていたのに邪魔な要素が多過ぎた。

 

 ここのダンジョン、実況中継がされている。おっさん達がジョッキ片手に観戦する娯楽品と化しているのだ。今日も録画された映像が酒場で放送されている。それに本当に死ぬ訳じゃないから窮地を救っても盛り上がりに欠けるどころか「誰だあのカッコつけ」と笑い者にされる。肝心のサトルもこのダンジョンを攻略しないと路頭に迷うくらい追い詰められてもいなかったから、わざとらしくないように罠にはまって脱落してた。おまけに僕達の所に帰ってこない。

 

 “復活の腕輪”等の装置の生体反応を観測する機能を偽装してまで『陰の実力者』が登場する価値がない。本当にがっかりだ。

 

「くそぉ、予定通りなら俺の華麗な活躍に惚れた女の子達に今頃キャーキャー言われながら囲まれてたのに……全部魔王のせいだ。魔王のバカヤロー!」

「キスってレモンの味だと聞いていたのに、僕のキスは全身が弾け飛ぶような激痛と鉄の味がしたんですよ……魔王の仕業に違いありません。魔王のスカポンタン!」

「そこの二人、俺に付いてきてもらおう。特にジャガ・イモ男爵は覚悟をしておくことだな」

 

 ヒョロとガリが褐色肌の忍者鬼とその部下に囲まれる。ジャガなんか全身に食い込んだ糸で細切れにされるんじゃないかってくらい拘束されてる。てか血が止まってない? 助けを求める視線を二人から向けられたけど、僕は魔王への失望感でそれどころじゃない。

 

 魔国連邦(テンペスト)で魔王の悪口を言えば侮辱罪が成立する。どの国でも王族を侮辱すれば下手しなくても罪に問われて極刑とかにされるけどさ、魔王も同じことするってどうなん? 下手したら勇者が“魔王の間”とかじゃなくて留置所で冒険を終えるよ? 裁判所で証言台に立つ勇者とか見たくないよ。『陰の実力者』が弁護人席に座らないといけなくなるじゃん。

 

 あとダンジョンを娯楽施設にするって何? ダンジョンに入る前に学生割引とかあったけど金取られたんだけど。ヒョロじゃないけど浪漫がないよ。出会いを求めることもできないよ。

 

 それと今僕が歩いている街の造り。故郷の領地は中世ヨーロッパみたいな街並みだったのに、ここは何世代先を生きているんだろうか。魔王リムルが二十一世紀から来たと言われても驚かない。というか魔王のお膝元なんだから、魔王城とか今にも崩れそうな煉瓦の家とかあってよ。どうして異世界でビル群と忙しなく歩くスーツ姿のリーマンを見ないといけないんだ。景観を壊さないよう巧妙に隠されてるけど、イータが魔王直々に内緒で注文を受けたラブホも見える。……もしかしてサトルは魔王の子供だったのかな? 明らかに日本人の名前だし、ラブホの建築を依頼するような魔王なら性欲もあるだろう。魔王の後継を育てる『陰の実力者』……ありだ。

 

 リムル、僕は君に対する異世界のテンプレをわかっているねという発言を撤回したけど、その撤回を撤回しよう。君は素晴らしい魔王だ。

 

 ……そういえばガンマはどうやってこの街で稼いでるんだ? 僕が教えたのはドラ○もんの四次元ポケットの中身くらいなんだけど。ベータの作品だって原作を知っている人からすればつまらない出来栄えなのに。

 

 もしやダンジョンで稼いだ金を商売や小説で得たものと偽っているのでは? 僕の茶番なんかに費やした時間でこんなに稼げるんだよという当てつけなんじゃないだろうか。ありえるな、僕も見栄を張るために似たようなことをする自信がある。

 

 あっ、ガンマに借りたお金も返さないと。友達割で利息がないどころか返金の必要もないと言ってくれたけど、お金の貸し借りはちゃんと清算しないと友情を簡単に崩壊させる。友達じゃなくなるとミツゴシ商会の商品を友達価格にしてもらえない可能性がある。友達価格は夕方のスーパーの総菜もびっくりな十割引きだ、絶対に友達はやめないぞ。彼女はエルフで“聖人”だから寿命がないし、僕も魔力を残したくて色々試したせいか“聖魔人”という種族になって千年は余裕で生きられる。気長に返そう。

 

 もしお金を稼ぐなら身分と姿を偽装して冒険者になろうかな。「ぎゃはは、お前なんかが冒険者になれるかよ!」と絡んでくるモヒカンを一撃で倒したりしてもいいし、最終階層踏破者がいないここのダンジョンを攻略するのも悪くない。誰かに見られるなら『陰の実力者』は一人で活躍しないとね。

 

 つらつらと考え事をしていた僕の足が止まる。僕の目の前には見上げたら首が痛くなるほど大きい闘技場があった。

 

 僕の目的は武闘大会の登録だ。ただし、学生枠じゃなくて一般人も参加するガチンコの大会の方に登録する。僕は昨日のダンジョン攻略で教師から見込みなしの判定をもらったからそもそも参加ができない。だから別人に変装して参加する。

 

 この武闘大会で僕のやりたいことリストの中でも上位にランクインするアレを成し遂げるのだ。

 

「乗るしかない、このビッグウェーブに」

 

 僕の目的はズバリ――謎の実力者が大会に出場し「オイオイオイ死ぬわアイツ」「いや、アイツ強いぞ!?」「アイツはいったい何者なんだ!?」ってなるアレをやることだ!

 

 世界で最も注目を集めているのはこの大会だ。この大会は国一番の猛者を決めるなんてちゃちいもんじゃない、史上最強の勇者“閃光のマサユキ”、歴代最強の聖騎士団長、大魔王リムルが認めた“四天王”などが出場する正真正銘、世界最強を決める大会なのだ。

 

 化けるのはガンマに取り寄せてもらった資料にあったジミナ・セーネンという男だ。とにかく地味で頼りなさそうな顔をしており、僕の求める『舐められて当然の見るからに弱そうな感じ』という要望も満たしてある。道中で変装は済ませた。『無貌之王(アンノウン)』を使えば歩き方から雰囲気まで最弱クラスの見た目になるなんて朝飯前なのだ。

 

 さぁ、いざ行かん、闘技場の受付へ!

 

 

 

 ……全然絡まれたりしなかった。問題を起こせば大会の出場権の永久剝奪に加えて魔国連邦(テンペスト)の滞在を拒否され、起こした問題が大きすぎると犯罪奴隷にされたり、見世物にされている泣いた人面樹と同じ状態にされるからだ。

 

 おかげで「ちょっと貴方、やめときなさい。そんなんじゃ死ぬよ」と忠告してきた強気な女剣士もちょっと反論したら素直に謝って何も言わなくなったし、「家に帰ってママのおっぱいでも吸ってな」とか言いそうなガラの悪いプロレスラーみたいな大男もちゃんと順番待ちをしてるし、ヤジを飛ばしそうな荒くれ者達も黙り込んで整列している。これじゃ『誰もが侮る雑魚、しかし一部の人間が彼の異常に感付いた!?』を成し遂げられない。

 

 僕の中で魔王の株が再び下がったものの、予選のバトルロイヤルで残った三人の内二人が相討ちになったことで運良く勝ち上がった雑魚を演じたことで、観客席にいた騎士や冒険者に「何か不正をしたんじゃないのか?」「ふん、一生の運を使い果たして掴んだような勝利だ。次はない」「まぐれだろ? “四天王”かマサユキ様と当たればすぐに化けの皮が剥がれるさ」といったコメントを貰えたので魔王とマサユキの株が上昇した。

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

 今日は武闘大会。俺が一年で楽しみにしているイベントの一つだ。

 

 主催で魔王の俺がいるのは闘技場の貴賓席だ。同盟を結んでいるガゼルやルミナスは当然、姿を見せないことで有名なエルメシアやその母親のシルビア、他にも暇な魔王連中がいる。来賓の方々も半分は普通の態度だけど、正体に感付いてしまった人達はフリードリンクを貰っては零すを繰り返すほど緊張している。

 

 心の中で彼等を応援しつつ、出場メンバーと試合の組み合わせが表示されているスクリーンに目を向ける。

 

 第一試合 “閃光の勇者”マサユキVS“常勝金龍”ゴルドー・キンメッキ

 第二試合 ガビル?VS“武神”ベアトリクス

 第三試合 ヒナタ・サカグチVSアンネローゼ・フシアナス

 第四試合 ゴブタVSジミナ・セーネン

 

 うん、色々とツッコみどころがあるな。

 

 ゴブタは俺も完璧に忘れてたけど“四天王”の一人だから参加は半ば強制として……マサユキはどうしている? 第一回の武闘大会で真の優勝者とか言われてるから調子に乗ったのか? ……ないな、周りの勢いに流されたとかならともかく。多分貴賓席でニコニコ微笑んでいるチャイナ服の美人さんか、内なるもう一人の自分に無理矢理参加させられたんだろう。参加者紹介の時、限界を超えて盛り上がる観客と反比例するように目が死んでいったもん。

 

 次にガビル? ……ハテナマークがあるからもう正体バレてんじゃねーか! 竜覆面(ドラゴンマスク)も変装のつもりか!? 『帝国が以前戦争を仕掛けてきた時にガビルを吾輩に間違えられたであろう? それを参考にするのだよ、クアーハッハッハ!』とか高笑いしてたけど、お前使えなくなった偽名が“ドラゴンマスク”だったの覚えてねーのか! 

 

 そしてヒナタさん、貴方は何故参加しているんでしょうか? もしかして優勝者に与えられる俺に可能な限り願いを叶えてもらえる権利を狙ってるのか? ダンジョン攻略の賞金もミョルマイル君に無理矢理払わせるくらい貪欲だもんな。俺のことが好きで手段を選ばないクロエやシオンはウエディングドレスの撮影で手を打ったのに、なんでお前がそんなことするんだ。俺の信頼を返せぇー! ……睨まれた。一も二もなく謝る。

 

 第一試合はマサユキが勝った。ゴルドー・キンメッキは勝てない相手との試合は絶対に棄権することから皮肉で“不敗神話”と呼ばれ、本人は“常勝金龍”を自称しており、今回の試合も棄権するだろうと予測されていたのだが、

 

『あらゆる凡人どもの節穴な目を欺けようと俺は騙されんぞ。俺には見える……お前のバトルパワーはたったの5。バトルパワー4300の俺には到底敵わない雑魚なんだよぉ! “閃光”の二つ名は今日から俺のものだぁあああ!』

 

 そう叫んでゴルドーは負けた。偶然窪みに躓いて頭を強打し、手からすっぽ抜けた剣が尻に突き刺さったのだ。退場する際に観客からボロクソに貶されてたけどゴルドー、お前は何も間違っちゃいなかったよ。お前の発言にマサユキは蒼褪めてたし、首筋の冷や汗もとんでもないことになってた。マジで運が悪かっただけだ。闘技場を出たら謎の美女に知らなくていい恐怖を教えられるだろうけど、本当に運が悪かったと思って頑張ってくれ。

 

 第二試合の勝者はガビル? だ。エルフのベアトリクスさんは強かった。“聖人”に覚醒してたし剣技も中々、覚醒魔王になったばかりの俺になら割と余裕で勝ててたと思う。“武神”の二つ名に偽りはなかった。ただ単に相手が悪かった。振り下ろした剣の側面を叩いて折るなんて真似されたらそりゃ心折れるよね。涙目になって降参を宣言した姿は哀愁を誘ったし、余程のことじゃなければ願いを聞いてあげよう。

 

 第三試合はヒナタの勝利。アンネローゼさんも一般人から見れば弱くはなかったんだけどね、覚醒もしてないならヒナタの相手にならないよ。貴方をライバルとしてどうのこうのと一方的に話しかけている間に接近したヒナタに腹パンされて一発K.O。剣を抜かせることもできず、自分が吐いたゲロに沈んだ。ヒナタさん、口上くらい聞いてあげようよ……。

 

 今から始まるのが本日最後の試合だ。これまでの試合の結果はシエルさんに予測させるまでもなく俺の予想通りだった。この試合も余程のことがない限りはゴブタが勝つだろう。合法の賭けもゴブタの方がオッズが低いけど、俺はゴブタに賭けている。

 

『さぁ――ッ、これより第四試合が始まりますッ! ゴブタVSジミナ・セーネン! 顔面偏差値が低い者同士、強さだけが自分の誇れる唯一のもの! 負けられない戦いだー!』

 

 負けるかもしんないなゴブタ。実況のソーカのアナウンスに心を抉られて瀕死だ。膝が小刻みに震えているし、頬を瞳から零れる熱い何かで濡らしている。

 

 ま、まぁ大丈夫だろう。ゴブタの魔素量はAランクオーバー。対するジミナ・セーネンはギリCランクだ。予選も目立たなかったことで他の選手が勝手に脱落していって突破できたらしいし、証拠に見てわかる技量(レベル)もゴブタが圧倒的に上だ。もし切り札(ランガ)を召喚したら説教レベルの力量差である。メンタルくらいで負けやしない。

 

『それでは、試合開始ッ!!』

 

 ゴブタが腰に佩いた剣を引き抜き、ジミナに駆け寄ろうとして――その前で転んで動かなくなったのは、ソーカの合図があってすぐのことだった。

 




 シド・カゲノー
『陰の実力者』的に魔力の方がカッコいいという理由で魔力と霊力を半分ずつ保とうとした結果、“聖魔人”という特殊な種族になった男。かっこいいのでありと思っている。魔王を護衛する“十二守護王”より強い“四天王”と当たることを期待していたが、“四天王”の特徴に該当する鬼人も悪魔も狼人間もいなくてがっかりしている。"十二守護王"と“四天王"が兼業されていると知らないし、瞬殺したホブゴブリンが”四天王”だと気付いてない。”四天王”と紹介されなかったゴブタは泣いていい。

 リムル・テンペスト
 街にどうしてもラブホを建てたかった童貞。童貞特有の性交への過剰な憧れが彼にラブホを建てさせた。どんな建物も一晩で立てるという幻の巨匠に依頼をしたのは、一晩のうちに建てばバレないのではと考えたから。もちろんバレて怒られた。ハートマークや城の如き外見に惹かれた異世界人がよく利用するとかしないとか。

 ヒョロ・ガリ
 厳重注意で解放された。

 ジャガ・イモ
 犯罪奴隷としてダンジョンで働くことになった。学園は退学。余罪が掘り出した芋のようにゴロゴロ出てきたのもそうだが、一番重い罪は魔王への猥褻行為だったらしい。
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