陰の実力者が転生した件   作:柔らかいもち

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 少し卑猥な描写があります。苦手な方はご注意ください。
 マサユキの幸運ならこうなると作者は思ってます。


五話

 出オチのモブを強者にしかわからない速度で瞬殺。謎の実力者の滑り出しとしては上出来だろう。道中にあった賭けのオッズを見てみたら、残った四人で僕はぶっちぎりの大穴だった。いいね、まだ僕に誰も期待していない。

 

 上機嫌な僕の前に誰かが立ち塞がる。ヒョロだった。必死の形相をしていたからパッと見じゃわからなかった。

 

「おいシド、いい話があるんだけど聞かないか? 聞くんだな? よーし聞くといい。俺は賭けで絶対に当たる方法を編み出した。バトルデータからデータを取って集計して、確率をもとにベットするんだ。理由はわざわざ言わないが、俺には金がない。元金を倍にして返すからミツゴシ銀行の借金の連帯保証人になってくれないか? な? 悪い話じゃないだろ? サインさせたらトンズラしようなんて考えてないからサインしようぜ」

 

 何も言ってないのにベラベラ喋ってくる。僕は賭けに詳しくないが、データを取るとか言って『多分強い』『多分弱い』『わかんない』とだけ書かれたメモから求められる確率は当てにならないと思う。

 

 ヒョロ、君はローズの宗教勧誘法かアレクシアの強引さを見習うといい。人の手を取って自然に胸に押し付けたり、当人の意思を無視して書類に勝手にサインするんだ。彼女達並の美貌と権力があって初めて許される真似だけどね。

 

「おい、待て、待てってば! ミツゴシ商会の買い物をリボ払いしまくってたら金額がヤバいことになってたんだ! 一生のお願いだからサインして! 今度は絶対に儲かるから! 置いていくなシド、俺を置いて行くなぁあああああ!」

 

 ウンコしてくると言って離れた席に戻ろうとする僕に縋りつくヒョロ。まるでこの世に存在してはいけない生き物のようなしつこさだ。しかし、どこからともなく現れたサングラスをかけた黒スーツのお姉さん達に連れて行かれる。抵抗しようとしたみたいだが、怒っているっぽいお姉さんに首トンをされてあっさりと意識を刈り取られていた。僕はお姉さんに手を振られたので振り返しておく。

 

 ジャガに続いてヒョロも退学かな。ヒョロは借金、ジャガは犯罪、どっちもモブ貴族らしくショボい終わり方だ。さよなら二人とも、君達と過ごした日々は僕にとってプラスにもマイナスにもならない平凡なものだったよ。

 

 心中で友との別れを済ませた僕はゴージャスな扉の前に立つ。強化ガラスで他の観客席と隔離されたこの場所は貴賓席だ。昔はこんな感じじゃなかったんだけど、各国のVIPの一般人に聞かれたらヤバい話や威圧感のある姿のせいで楽しめなかった観客が多かったらしくて、こんな部屋みたいになったそうだ。

 

 姉さんに無理矢理チケットを渡されなければ、僕みたいなモブとは縁のない場所だ。直前まで来たけどウンコが止まらないくらい腹を壊したことにして帰ろう。帰ってイメトレでもしよう。

 

「もしそんな真似をしてたら無理矢理ズボンを下ろして座薬を朝昼晩入れまくるわよ」

 

 姉さんに捕まって引き摺りこまれてしまった。まるで僕の心を読んだかのような発言だった。姉さんは読心系の能力(スキル)でも手に入れたのかな?

 

「そんな訳ないでしょ。アンタの顔を見ればわかるのよ」

 

 扉を開けるまで僕の顔は見えないはずだからその理屈はおかしい。でも反論したら鷲掴みにして持ち上げられている僕の首に力が入るかもしれない。生殺与奪の権を握られている僕は姉さんに従うしかないのだ。

 

「シド君、お帰りなさい。お腹の具合はどうですか?」

「心配いりませんよローズ先輩。ポチは拾い食いの癖があるのでいつものことです。死にはしません」

 

 ローズとアレクシアから笑顔で迎えられる。とりあえず悪意しかない笑みを向けてきやがったアレクシアには『魔力感知』すら欺く彼女にしか見えない中指を立てておく。以前のように衝動的に僕を斬り殺そうと剣を抜きかけるも、猫を被っていることはバレたくないのか笑顔で堪えた。代わりに僕の足をヒールで踏ん付ける。

 

 ローズは反応に困る。同じ言語を使っているのか疑わしくなるくらい話が頻繁に通じなくなるのだ。僕が何かするだけで長い話をしてくる。この貴賓席に来た時も話を振ってきたので適当に合わせていたら、何故か彼女の父親に紹介された。二人の会話は「お前の決断に国民は納得しないだろう。それでも父親として、茨の道を行くお前の幸福を祈ろう」「お父様、ありがとうございます!」みたいな感じで終始意味がわからなかった。

 

茨の道って何? 娘に注意するなら変質者に襲われそうな夜道とかじゃないの? ローズは強いから注意する必要ないかもだけど。……この人達とは距離を置こうかな。宗教とかを否定するつもりはないけど、温度差があるときつい。

 

 まぁいいや。あと一時間もすれば本日最後の学生の部が始まる。そしたら三人ともいなくなるだろう。それまでは彼女達の会話を聞き流しながら、次の対戦相手との戦い方のパターンをイメトレしておこう。

 

 

 

 大会は姉さんが優勝した。お祝いとしてファミレスでお子様ランチを頼んだ。僕はオムライスのトッピングを自分の鼻からすることになった。

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

 ゴブタ……そんなにソーカの言葉がショックだったのか。大丈夫、お前には強さ以外にいいところはいっぱいあるよ。例えば……シエルさん、考えておいて。

 

《解。マスターの求める回答は見つかりませんでした》

 

 シエルさんがダウングレートしただと!? 馬鹿な、ゴブタはそんなに欠点だらけの野郎なのか!

 

 冗談はさておき、ゴブタとジミナの戦いで何があったのか。特別なことは何もない、ジミナが手刀でゴブタの顎を打ち抜いただけだ。ただし、百万倍クラスの『思考加速』を持ってないと捉えられず、もしゴブタの首に当たっていればゴブタの首と胴が泣き別れになっていた速度による、と付くが。

 

 観客達はジミナに運だのまぐれだの言っていたが、逆だから。マサユキとジミナにかける言葉を間違えているからね、君達。マサユキが運やまぐれで、ジミナが実力だから。

 

 ゴブタに油断があったのも否定はしないけどね。アイツも百万倍クラスの『思考加速』を所持している。それなのに負けたってことは、相手を舐めて『思考加速』を使わなかったか、油断してたから『思考加速』を使っても身体が反応しなかったのかの二択だ。

 

 獅子は兎を狩るのにも全力を尽くす。ゴブタも初っ端からランガを召喚して全力で挑めばよかったのだ。まったく……弛んでいる。これはハクロウに頼んで修行を増やしてもらわないとな!

 

《ランガを呼べばお仕置きをするとゴブタに『念話』で言いつけたのはマスターでは?》

 

 し、知らんしそんなこと。百歩譲ってそれが事実だとしても、ゴブタは戦いのプロだろう。相手がいくら巧妙に実力を隠していたとはいえ、隠していたこと自体を見抜けないならまだまだだよ。俺なんかいっつも用心して保険も用意して勝負に挑んでるからね!

 

《マスターは私がいなければゴブタにも勝てない素人のはずですが……》

 

 シエルさん、お前はどっちの味方だ! ま、まさか、ゴブタなんかに寝取られて俺の脳を破壊するつもりなんじゃ……。

 

《私は生涯マスター一筋です。世界が敵になろうとマスターの味方です。今回は賭けで負けた鬱憤を部下で発散するなんていう醜態を見たくないので小言を漏らしただけです》

 

 ぐうの音もでない正論だ。シエルの言葉で俺の思考はようやく切り替わる。

 

 残りの試合は明日だ。通常通りなら決勝以外の試合は一日で終わらせるけど、今日は学生の試合もあるからな。明日の午前中に二試合、午後に決勝戦と三位決定戦を行う。

 

 優勝候補はぶっちぎりでガビル(?)だ。魔素量が絶対とは言わないけど戦闘で有利なことには変わりない。身体も頑強だし、戦闘技術も超一流、所有する究極能力(アルティメットスキル)も反則級の性能だ。

 

 次点でヒナタ。天魔大戦で究極能力(アルティメットスキル)と新しい装備を手に入れ、更に何がきっかけだったのかは不明だけど勇者に覚醒した。定期的にヴェルドラに勝負を挑みに行き、ハンデありなら何度か勝っている。優勝の可能性はちゃんとある。何をお願いするのかわからないけど、頑張ってほしい。

 

 三番手にジミナ。速度だけ見たら旧魔王にも勝てるけど、技術は俺の目から見てもお粗末だ。能力(スキル)や魔法もあるこの世界は速度だけで勝ち抜けるほど甘くない。魔素量も俺なら無理矢理調べることも可能だが、間違いなくバレるのでやらない。ジミナは陰湿そうだからな……覗き魔王とか言いふらされそう。

 

 論外はマサユキ。対戦相手の正体を知ってるから直前に適当な言い訳して棄権するかと思ってたら、もう棄権の連絡が来た。理由は体調不良。携帯電話から聞こえたマサユキの声は精魂尽き果てた感じだった。ついでに肉がぶつかるような音と嬌声が聞こえ、貴賓席からマサユキの恋人の美人さんがいなくなってた。携帯電話の位置を調べるとラブホだった。舞台で凛と佇む姿がカッコ良くて惚れ直したんだって……ブルって突っ立ってるだけでラブホにお持ち帰りか。ははっ、死ねばいいのに。

 

 というかシドも俺の前でいちゃついてやがった! ウンコしてくるなんて下品なセリフをどうして言えるんだ? それでも笑顔を向けられるんだから恵まれすぎだろう! というかローズの父親に運命の人とか紹介されてるんだからもう告白されてるも同然だろ! なんで真顔と生返事!? 意味もなく王族に中指を立てて処刑されたらいいのに。

 

 ローズさん、君のお父さんを助けたの誰か覚えてる? 俺だよ? ディアボロス教団に気付いて各国を調査して、乗っ取られかけてたオリアナ王国を救ったのは俺だからね。ロリコンの誹りを受けかねないから俺に惚れろとは言わないけど、ぽっと出のモブ貴族じゃなくて、幼い君を救ってくれたスタイリッシュ盗賊スレイヤーさんとかいうダサい奴と結ばれてほしい。

 

 あっ、学生の部の時間が始まって空いたシドの隣にナツメ先生が座った。シドの奴、過剰に胸元が開いた服から覗く、エルフらしからぬ巨乳が形成する谷間を特等席から眺めてやがる……腕に胸を押し付けられただとぉ!? ちくしょう、ナツメ先生が腹黒ビッチとわかっていても色仕掛けされたい。だって男の子だもん。

 

 やっぱりゴブタをいじりに行こう。モテない男同士、醜い傷の舐め合いをしようじゃないか、ハッハッハ! あ、シュナ、ジュースおかわり。それと今日の入浴剤はリラックスできるやつにしといて。

 

 

 

「ゴブタァ! ダンジョンでお前のコレクションのリボルバー使って六分の一を当てるまで終われないロシアンルーレットするぞ!」

「そこはかとなく八つ当たりの匂いがするっすよリムル様!?」

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

 幸福の絶頂。そう称しても過言ではないほど人気作家のナツメを演じるベータは幸福感に包まれていた。

 

 この場に来た時、彼女の腸はマグマの如く煮えくり返っていた。シャドウ様に告白された上に誘拐された際に救い出された女と、シャドウ様に命懸けで庇われた女。そんな二人が当然のような顔をしてシャドウ様の隣を陣取り、あまつさえアレクシアはペットのように扱い、ローズは婚約者として父親に紹介していた。ミツゴシ商会でも数少ない魔素をインクに変換する万年筆をつい圧し折ってしまった。

 

 しかし、シャドウ様の隣を独占し、胸元に熱い視線を向けられたベータから怒りは消え去った。自身の女としての魅力が敬愛する主の関心を買ったのだ! これほど嬉しいことはない。常に胸に隠しているメモ帳を抜き取り、谷間により深く主の腕を挟み込む。

 

 ただ一つ、ベータには気がかりなことがあった。

 

(シャドウ様、どうして貴方を差し置いて最強の称号を掲げている大魔王のもとへ来たのですか? ディアボロス教団がいなければ敗北の泥の味を存分に覚えさせていただろう相手に、何をしようというのですか?)

 

 どうか自分にだけでも教えてほしい。ベータの瞬きのふりをした暗号にシャドウ様は――。

 




 シド・カゲノー
 ベータの胸の谷間に挟まったメモ帳を見て女ならこういうのができていいなー、と考え、瞬きは小説の書き過ぎでドライアイになったのかな? あとじっと見つめられるとつい多く瞬きしちゃうな、と思ってた。

 リムル・テンペスト
 お前が言うなブーメランを相変わらず投げている。自分が童貞を卒業しようとするのを邪魔している一番の敵が相棒だと気付いていない。多くの友人知人に内装と機能とサービスにこだわったラブホを堪能された挙句、リピーターになられる。
 ねぇ、今どんな気持ち? ねぇねぇ、今どんな気持ち?

 マサユキ
 ただ棄権するだけでも「マッサユキ! マッサユキ!」と言われるのに、よりによって楽園に逃げ出した男。運だけで生きている。

 ヒョロ・ガリ
 シドに縋りつく前、借金取りに「ないよ、金ないよ!」と言って逃げた男。シドに失礼な態度を取り続けて『シャドウガーデン』に恨まれてた。借金を理由にどんな目に遭うのかは誰もわからない。

 ジャガ・イモ
 ダンジョンに素材を集めに来た『シャドウガーデン』の構成員に魔物ごと殺される。こいつも『シャドウガーデン』に恨まれてた。
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