陰の実力者が転生した件   作:柔らかいもち

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思考の切り替えに時間がかかりました。R18とノーマルの両立は大変です。


七話

 暇な時にソウエイに頼んでジミナを調べてもらった。闘技場の名前を偽名で登録するのは別に違反じゃない。純粋に自分がどこまで強くなったか知りたいだけで目立ちたくない人もいるし、名前だけで相手が委縮してしまうから偽名を使う人もいる。ヒナタ、マサユキ、チョロゴンさんがいい例だ。それに顔を隠して偽名を使っていようが武闘大会で故意に殺害などをしようものなら一族郎党からエロ本の隠し場所、尻から何本毛が生えているかも丸裸にできるのであんまり意味はない。 

 

 調査の結果、ジミナ・セーネンは純粋な人間として実在していた。明らかに偽名なのに。でもスズーキとかタナーカとかサトーウとかいるからなぁ。ヒョロ・ガリの親はメチャ・ガリ男爵だし、ジャガ・イモの親はサツマ・イモ男爵だ。シドの親は何だったか……オトン・カゲノーだった気がする。

 

 とりあえず、ヒナタは覚醒もしてない凡人に負けたのだ。格下には舐めプするヒナタの悪い癖が出たなぁ。俺がシズさんの仇だと誤解してた時も『簒奪者(ウバウモノ)』の《対象外》だっただけで完全に侮って武器の性能だけで殺そうとしてきたし。『数奇之王(ファルトゥーナ)』で相手の力量をより完璧に読み解けるようになったこともこの悪癖に拍車をかけてるし。

 

《報告します。ジミナ・セーネンの魔素量はCランク程度であり、筋力や身体つき、足運びなどもそれ相応のものです。最後の技もただ速いだけの斬撃でした》

 

 ほら、シエルさんもこう言ってる。中学生が考えた当て字満載のダサい技でトドメを刺されるとか間抜けだな。まったくもー、ゴブタもヒナタも慢心に足元をすくわれっぱなしなんだから。

 

 ……ってんな訳あるかぁ! 途中からヒナタは明らかに本気になってた。グランベルに託された最強奥義まで大人気なく使ってた。なのに傷一つ付けられないとかおかしいだろう!?

 

 そもそもジミナの挙動は音速を超えてた。見る限り奴は普通の人間であり、大して鍛えられている訳じゃない。いくら闘気や魔法で身体を強化したとしても限度ってものがある。それにそれらの強化率は肉体の強度や魔素量に比例する。普通の人間が音速挙動なんてしたら即死だ。

 

 そしてジミナの技量は素人に毛が生えたレベルだが……まずそんな奴にヒナタが捌けない攻撃を繰り出せるはずがない。だけど身体に染み付いた足運びや癖は簡単に隠せないし、消すことはもっと無理だ。自転車に乗れるようになった奴が乗れなかった頃みたいな失敗をしなくなるようなもんで、もし幻術もなしにそんな真似をするなら骨格から別人に変える必要がある。

 

 確定だな、これは。

 

(ジミナは究極能力(アルティメットスキル)を所持している!)

 

 最低でも一つ、偽装・隠蔽に特化したものを。『絶対切断』や『無限牢獄』みたいな例外はあれど、ユニークレベルなら俺に通用しない。シエルさんが本気になれば上位の究極能力(アルティメットスキル)を持っていてもある程度は見抜ける。そのシエルさんが能力(スキル)の有無すら判別できないならそうとしか思えない。

 

 シエルさんを責める気はない。俺の相棒は万能でもできないことは少なからずあるし、彼女がいなければジミナに究極能力(アルティメットスキル)があると断定する自信は持てなかったからな。

 

 それにしても……何をやっても過大評価されるマサユキや能力(シエル)に頼り切りの俺とは正反対な奴だな。実力で戦ってるのに過小評価されまくりだ。貴賓席でジミナを賞賛しているのはナツメ先生くらいで、他の連中は試合内容を吟味するかヒナタと纏めてこき下ろすかだからね。

 

「ふっ、見ましたか、あの魔女が無様に地に伏せる姿。あれで人類の守護者を名乗っているのだから片腹痛い」

「所詮は身体で枢機卿に取り入って騎士団長になった女狐。化けの皮を剝げばどこの馬の骨ともわからぬ男に負ける女です。実に滑稽」

「どれ、声をかけに行きましょうか。この私が愛人にしてやると誘えば媚びを売ってでも頷くでしょう。あのジミナとやらを護衛に雇ってやれば首を縦に振る以外に選択肢はないでしょうな」

 

 うんうん、こいつ等みたいな感じで。何だっけ……イバルゾ・スカ侯爵、ゲデブハ・モキ伯爵、カマセ・ヌーイ伯爵だった気がする。

 

 こういう連中も無駄に金と権力があるからここに来るんだよな。どうしてあの衝撃で結界どころか会場そのものが震える戦いを見てヒナタやジミナを下に思えるんだろう? どちらもお前等を撫でるだけでミンチにできるだけの力を持っているんだぞ。ヒナタは論外だし、ジミナは金も名誉も功績も興味がなく、求めるのは強さのみって感じの奴だ。味方にできる訳がない。

 

 とりあえず兵士にこの名を体で表している不愉快な馬鹿どもを追い出すように指示する。ウンコウンコうるせえ学生も追い出したくなったけど我慢した。アホな貴族連中は必死に喚きだす。

 

「ふざけるな! 我々にこんな真似をしてタダで済むと思っておるのか!」

「所詮は魔物、ろくな先見の明もない害獣! やはり親玉である魔王諸共駆逐するべきだ!」

「であえい、我が最強の兵士達よ! この魔物に身の程をわからせてやるのだ!」

 

 うーん、何と言うか。久しぶりだな、これだけ現実が見えてない奴等。

 

 逆に何ができるんだ? 周辺の国と結託して俺の国と貿易中止でもするんだろうか? ぶっちゃけ俺達は一切困らない。どの国も経済の覇権を握る俺達と手を切ることは破滅だと理解している。まともな頭があれば敵対しようなんて思わないだろう。

 

 ていうか災厄級(カラミティ)でも滅びかける国の貴族の私兵如きが俺の部下に勝てると思ってんのか? 思ってたんだろうな。現に幹部でもないホブゴブリンに兵士を叩きのめされて蒼褪めている。その謎の自信はどっから湧いてくるんだろう?

 

「別に俺の耳に届かない場所でなら何を言っても構わない。でもな、ヒナタは俺の大切な友人だ。……目の前で友達を侮辱されて俺が許すと思ってんのか?」

 

 馬鹿貴族がいなくなったら心なしか部屋が明るくなり、空気まで清潔になった気がする。どいつもこいつも脂ぎったデブで、本当に貴族なのか疑わしいくらいマナーがなかったからね。アレクシア王女なんかくちゃくちゃと音を立てて食べる貴族を見ながら「養豚場に消えてくれないかしら」って呟いてたし。

 

 視線を舞台に戻すと、昼休憩を兼ねたエキシビジョンが始まっていた。タクトが率いる音楽隊が奏でる曲をBGMに様々な競技が行われる。人や魔物、大人も子供も関係なく競技を楽しんでいた。ドッジボールにミリムが出場してたけど相変わらずルールを把握していなかったようで、ボールをカッコ良く弾き飛ばして速攻で負けていた。

 

 魔法や能力(スキル)が入り乱れて派手になっていく地球のスポーツを観戦していたら、またウンコをしにトイレへ消えたシドと入れ替わるようにヒナタが戻ってきた。

 

「お疲れヒナタ。優勝できなくて残念だったな」

「慰める気があるならそれらしい顔をしなさい。お見舞いにも来なかったくせに」

「しょうがないだろ? 俺も立場があるから気軽に席を立ったりできないんだよ」

 

 どうだか、と言いながらヒナタは不機嫌そうになるけど本当のことだ。一人の選手に肩入れする訳にはいかない。それと顔は許してほしい、ヒナタには苦汁を飲まされたことがあるから彼女が困っているとつい嬉しくなってしまうのだ。

 

「申し訳ないと思うならこの大会が終わった後、少し付き合いなさい。費用は全部貴方持ちよ」

「おいおい、俺は小遣い制なんだぞ。お前よりずっと使える金が少ないんだから勘弁してくれ」

「あら、臨時収入があるでしょう? 例えば……私の負けに賭けたポケットから覗いてる券とかね」

「えっ、ちゃんと『虚数空間』に入れたはず……はっ!?」

 

 マズイ、思いっきりブラフに引っかかった。ヒナタの笑みが恐ろしいことになってる。

 

 ちゃうんすよヒナタさん、誤解なんです! むしろジミナに賭けることでヒナタが勝てるようにゲンを担いだと言いますか……決してゴブタの試合の負けを大穴狙いで取り戻そうとか考えていた訳ではなくてですね!

 

 おっと、携帯にダンジョンで鍛え直されてるゴブタから着信が入った。携帯を使うのは緊急性が高い時だけと言いつけてるからこれは重要な要件! 一言断ってから出る。

 

「もしもし、どうしたゴブタ?」

『リムル様っすか!? なんかめっちゃ怖い人? モンスター? どっちかわかんないのがいるんすけど!?』

「うむ、それは大変だな! 今すぐ助けに行くぞ!」

『はぁはぁ、愛しのサトルたんの声が聞こえるぅぅ……僕に会いに来てくれるのかなサトルた――』

 

 速攻で電話を切った。ダンジョンにとんでもない悪霊(ストーカー)が発生してやがる。携帯越しなのにワンセグから這い出ようとする貞子並の執念(ガッツ)を感じたぞ。

 

 結局ヒナタを言いくるめることはできず、賭け金は全部ヒナタに没収されることになった。とほほ……。

 

(次の試合は荒れそうだな)

 

 ゴロゴロと雷の唸り声を孕む暗雲が広がる空を眺めながら、俺はただ最後の試合が始まるのを待った。え? 雨になれば魔法で雲を吹っ飛ばすんだろうって? ほっとけ、格好付けてないと泣きそうなんだよ。

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

 やっぱり『無貌之王(アンノウン)』は強いね。時空間を爆発させたり魔法効果を激増させたりするみたいな戦闘力に直結する能力ではないけど、戦いでこれほど恐ろしい力はない。

 

 実力者同士の戦いは一ミリ、一秒の誤差が命取りだ。鍔迫り合いだって受け方をミスれば指や手首を斬り落とされかねないし、手首に衝撃が響く。ボクシングなんかでは意識外からの一撃はただのダメージ以上の効果を生んで、一撃でノックアウトさせたりする。攻撃のリズムや呼吸を崩されたらそれだけで弱くなる人だっているくらいだ。

 

 僕のスキルは正に戦士殺し。以前アルファ達が雇ったエキストラの中に『未来予測』や『未来予知』持ちの子がいたから実験してみたけど、彼女達のスキルは正しく発動しなかった。まっ、あれは周囲とか戦う相手の情報から最も確率の高い未来を示すだけだからね。言ってしまえばただの先読み。常に偽りの情報を流している僕には通用しない。

 

 それにしてもヒナタと戦えてよかった。彼女のおかげでこの大会の目的の七割は達成できたね。あとはどうやって締めるかが問題なんだよね。

 

 シンプルに行くなら優勝だけど、こういうのの閉会式は長引く。校長先生の話がめっちゃ長いのと同じだ。異世界初めての学園の入学式でも校長の話は三十分以上あったからね。長時間トイレを使ってたらいい加減姉さんあたりに不自然に思われそうだ。昨日と今日で何回ウンコしに行ってるんだろう?

 

 対戦者のガビルを倒して姿を消すのはありだ。誰もが認める強者を倒して「目的は達した……」とか言って忽然と姿を消す。その後は噂が噂を呼ぶ感じ。謎の実力者っぽい。でもなー、優勝すれば世界最強って言われてるリムルと対面できるのだ。表の世界最強と裏の世界最強にしかわからないコンタクト……カッコよくない?

 

 カッコいいといえば一つ、姉さんが厨二病を発症したかもしれない。昨日から「力が溢れてくるの……」「腕がっ……疼くっ……!」「闇の精霊が語り掛けてくる」って黒歴史間違いなしのセリフを連発していた。僕は僕が座る前にいた知らないおっさんの温もりが気になってしょうがなかったのでそれ以外の話は聞き流してた。

 

 そういやベータが七陰が皆集まったって言ってたけど、暇なのかな……まぁいっか。僕が布教した『陰の実力者』のカッコよさと素晴らしさ、しっかりと目に焼き付けるがいい!

 

 ふっ……決まった。イメトレは完璧だね。

 




 シド・カゲノー
 実はガビルの正体がヴェルドラだと見抜いている。

 リムル・テンペスト
 異世界にサトール・ミカーミという男がいて、そいつも童貞で複雑な気持ちになる……かもしれない。

 ジャガ・イモ
 ダンジョンで頑張ってる。しれっと学園に復活してるかもしれない。

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