陰の実力者が転生した件   作:柔らかいもち

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 お久しぶり。一人暮らしって大変だね。
 陰実のムフフな小説のための小説を書くか悩み中。


九話

 究極能力(アルティメットスキル)無貌之王(アンノウン)』。所有者であるシドはこのスキルを『陰の実力者』ムーブをするのに超便利なもの程度にしか思っていないが故に、彼はこのスキルの真髄をこれっぽっちも理解していなかった。

 

 このスキルの力はあらゆる『情報子』への干渉と改変。シドは感覚的に『無貌之王(アンノウン)』を使うことで自身から発生するあらゆる要素の『情報子』を僅かに変化させて正体が周囲からはあやふやになってしまうようにしていたが、極めた先にあるのが『情報子』の自在改変である。

 

 自分の放つ攻撃は天を裂き地を砕く威力に、向かってくる攻撃は初級魔法にも劣るものに変化させる。生誕したばかりの赤子を天下無双の剛力を発揮できる身体にさせたり、伝説に残るような英雄をそこらの子供にも負けるほどに弱くすることも可能。強化も弱体化も他の追随を許さないほどに強力であり、心核(ココロ)と記憶以外なら他人に完全に成り代わることもできる。

 

 恐ろしいのは究極能力(アルティメットスキル)を持っていようが防げないことである。本来『情報子』とは『停止世界』――時間が止まった世界で動ける資格を得た者が初めて認識するものだ。なにせ、全ての細胞が『情報子』に置き換わらなければ止まった世界では動けないのだから。『情報子』を認識していない者は『無貌之王(アンノウン)』に抵抗することは絶対に不可能なのである。

 

 シドの『アイ・アム・イレイザーアトミック』はこのスキルの理不尽さの一端を象徴する技だ。時空間を無視してタイムラグなしで動く『情報子』で構成された『アイ・アム・アトミック』を放つ。直線上のものを全て破壊し、避ける猶予は刹那ほどもなく、『情報子』に触れた箇所は『停止世界』で動けないものと同じように崩壊する。

 

 時間を事前に止める以外、この技を避ける手段は――ない。

 

 

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 天災級(カタストロフ)の代名詞である『竜種』の一体、ヴェルドラの人化した下半身が膝を折る……その光景はベータの視界に映っていなかった。彼女の目を離さないのは()()()()()()()()()()()までを円形にくりぬかれた様に失って倒れ伏す魔王リムルと縋りついて声を張り上げるヒナタの姿だった。

 

 ベータだけではない。怪物達の戦いの余波を防いでいた結界が消えたことで拡散しそうになった魔素で死にかけた観客達、隣や前に座っていた人が消し飛んだ貴賓席の重鎮、会場を警備する魔物達の誰もが息をすることも忘れてそこに視線が釘付けになっていた。

 

「馬鹿っ、この馬鹿……どうして私を庇ったの!? 貴方が死んだら意味がないでしょう! そこの兵士、シュナとディアブロ、それとシオンを呼びなさい! そしてシャドウを追うのは幹部や魔王に任せるように! 急げっ!!」

『了解!』

 

 ヒナタの怒号を皮切りにとてつもない混乱と緊張に包まれる貴賓席。リムルの部下や関わりのある者は殺意と焦りを露わにし、それ以外の者達は怯える中、ベータは誰よりも顔の色を失っていた。

 

(先日の瞬きを装った暗号、シャドウ様の返答は『何もせず見届けろ』……まさか、こういうことだったのですか!?)

 

 ベータの所属する『シャドウガーデン』の目的は魔人ディアボロスの復活の阻止、およびディアボロスの完璧な抹殺。そのために彼女達は『ディアボロス教団』の妨害と壊滅を目指して活動してきた。それが最も現実的であり、彼女達の限界だったからだ。

 

 しかし、彼女達と隔絶した叡智と力を持つシャドウは全く違う先を見ていたのだ。デメリットが数え切れないほど存在し、『七陰』しかいなかった初期の会議で否決されてから一度も挙げられなかった計画――魔王リムルの殺害を。

 

 確かにリムルを殺すことはディアボロス復活のこれ以上ない妨害だ。リムルほどの存在が再び現れるのにどれほどの年月がかかるかなんて想像もつかない。だが、実行するには困難が過ぎた。

 

 シャドウを除いたガーデンの総力では精々手傷を負わせるのが限界で『竜種』を殺すことはできない。それを考えれば『天魔大戦』で『竜種』二体を相手取りながら勝利を掴んだというリムルの殺害など天地がひっくり返っても不可能なものだった。特に諜報を担当するゼータがヴェルドラとリムル、どちらかが生きていれば蘇生可能という情報を拾ってきてから最早考える時間が無駄とすら思っていたのだ。

 

 世界への影響も大きい。多くの人材を育てられる学園、流通の時代を変えた魔導列車や飛行船のような交通網、物資の生産量と物価の安さ……全員が多少の差はあれど利益を与えられる今の体制はリムルの存在によって維持されている。彼がいなくなれば経済の覇権を握るために多くの血が流れることになる。

 

 仮に殺せたとしよう。それからは八星魔王(オクタグラム)やリムルの配下に追われ続ける日々の始まりだ。捕まれば死んだ方がマシと思うような仕打ちを受けることは想像に難くない。

 

(それでもシャドウ様はやり遂げた……)

 

 舞台の上で倒れているヴェルドラの下半身が再生する様子はない。リムルもだ。

 

 爪を立てた二の腕から血が流れる。ベータは己に怒りを燃やしていた。最初から最後まで敬愛する主について行けなかった弱い自分に。それ以上に許せなかった。主の命令を言い訳に殺意に満ちる魔物達に怯えて逃亡したシャドウの援護もできず動けないままでいる自分が。

 

(もう『シャドウガーデン』を名乗ることも烏滸がましい私ですが、せめて祈らせてくださいシャドウ様)

 

 どうかご無事で。その言葉は音になることなくベータの内に消えていった。

 

 ――その時、ひっそりと動き出すものがいることにベータは気付けなかった。

 

 

 

 ♦♦♦

 

 

 

「やっべー。つい大魔王まで殺しちゃった」

 

 ヴェルドラさんに勝った僕は全力ダッシュで闘技場どころか魔国連邦(テンペスト)を脱出し、今も開拓が進んでいなくて危険な魔物も結構いる山の中を走っていた。

 

 戦いの結果には僕も驚いているのだ。《アイ・アム・インビジブルアトミック》を開発できたことにはしゃいで撃ちまくってた時に偶然編み出した技で『竜種』どころか大魔王が死ぬとかこの僕でも読めなかったね。

 

 というかリムルには失望したよ。世界最強を名乗っているくせにどうしてバトル漫画のモブみたいに流れ弾で死んでるんだ。いつか沢山の人がいる所でデルタとゼータの喧嘩みたいなド派手な戦闘が起きたら死んだふりしてシャドウに変装、からの乱入でかっこよく勝利を搔っ攫おうという計画が二番煎じになるじゃないか。

 

 それにリムルが手を抜いて強い結界を張ってなかったから観客も何人か殺っちゃった。今頃闘技場でシャドウは謎の実力者ではなく謎の犯罪者扱いされてるかもしれない。『陰の実力者(シャドウ)』の評判が悪くなったら今日の僕の頑張りは骨折り損のくたびれ儲けだ。

 

「指名手配されて手配書が作られる『陰の実力者』……まいっか。正体がバレてないならアリかな」

 

 ポジティブに考えよう。シャドウは世界最強の魔王を『竜種』のついでに倒せる強者と世間に認識されることになる。闘技場は『竜種』と魔王の死で持ちきりで、ウンコに行ったきり戻ってこないモブや巻き添えになった有象無象のことなんて気にも留めないだろう。

 

 うん、そう考えるとそうなってる気がしてきた。頑張ったしそこら辺の魔国連邦(テンペスト)に繋がる管を流れる温泉をちょっと拝借して、適当な穴に流し込んで浸かって寝よう。そのためにそろそろ変装を、ってあれ?

 

 なんか世界が白黒になった。空を自由に飛び回っている鳥、不規則に揺らめきながら落ちていた木の葉、僕の全力ダッシュで巻き上げられた砂煙、色んな物が不自然な状態で停止してる。

 

 僕はこの光景に見覚えがあった。究極能力(アルティメットスキル)を手に入れてから何度か体験している。

 

「誰かが時を止めた?」

 

 時間停止。有名なので言えば背後霊じみてるのにガンガン前に出て殴り合う幽霊の漫画に登場する悪のカリスマの能力かな。

 

 とりあえずシャドウの姿を解かずにカッコいいセリフを呟く。僕は心の中で研究開発担当のイータに感謝した。時間が止まった世界で動くとスライムスーツが粉々になって毎回全裸になってたからね。『視界に映るものが白黒になるのは光子も止まっているから』『マスターのスライムは神器級(ゴッズ)でも上位の頑丈さなのに細胞の結合が解ける』『虎の子の究極の金属(ヒヒイロカネ)……これをスライムに吸収させたら』とかブツブツ言ってる姿が不気味で、止まった世界でもスライムスーツが機能するようにお願いしてから完成するまで研究室に一切近付かなかったけど期待に応えてくれて満足だ。

 

(おっといけない。時間が止まっているのを無駄にするのは馬鹿のすることだね)

 

 今までは覗きに行くかスタイリッシュに股間を隠しながら『そして時は動き出す』くらいしか言えなかったけど、シャドウの姿で剣も使える。なら温めていた決めポーズとキメ台詞をお披露目するべきだろう。

 

「(いつか僕も時間を止めれるようになって『時よ、止まれ』とかやりたい)……やれやれだ」

 

 つらつらとそんなことを考えながら剣を抜いて振るう――目の前の空間に出現した大魔王が振り下ろした剣とかち合った。

 

 ……? なんか殺したはずの大魔王が現れた。 

 




 作者。
 シドは物事を深く考えずその場で思うがままに動くし、陰の実力者になること以外はどうでもいい何かに分けて切り捨ててるので、一般人を巻き込んでもまぁ仕方ないかで済ませると思ってる。原作3巻とか下手したらアルファ達の努力を無にしてたし。

 シャドウ。
 相変わらず行き当たりばったり。自分のスキルがステイタスを好きに弄れるチートだと毛ほども気付いてない。
 シャドウは うっかり 魔王を殺してしまった!
 シャドウは逃げ出した!
 しかし回り込まれてしまった!

 リムル。
 魔王からは逃げられない!

 七陰。
 置いて行かれたことに悲しみながらミツゴシ紹介がこれから起きる可能性大の世界規模の混乱を抑える話し合いをしようと各々が考えているが、ディアボロスをわざと復活させてシャドウに世界を支配させて、自分は世界の敵になって消えようとしていた金豹族の少女は自殺しそうなくらい憔悴している。
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