それは、十二月のとある日のこと。
「……改めて聞こうか。達也、レポートは今どれくらい終わっているのかい?」
「一枚も終わっておりません」
「……締め切りは?」
「一週間後のクリスマスイブです」
静まり返る部屋で、俺たちは気が遠くなるほど山積みになったレポートを眺め、シャーペンで空に向かって文字を描いていた。
絶対、終わらねえ。
俺がそう口にすると、隣で座る薫の表情がまた暗くなる。薫は、俺の顔を覗き込むと、優しい声でそう言った。
「もう少し計画的に進められなかったのかい?」
「ズドレ゙ー゙ドに゙現゙実゙を゙突゙ぎづげでぐる゙な゙!゙!゙!゙!゙!゙」
一番現実を突きつけてこなさそうだからって理由で今日の勉強会に薫を誘ったのにその薫から現実を突きつけられた俺はどうしたらいいのだろう。なんだろう、クリスマスに発狂して泣き喚けばいいんすか?
いやでも、薫もガチで心配するレベルで今の俺状況やばいんだろうな。そうだろうな。締め切り一週間前なのに単位に関わるレポート一枚もやってないんだもんな。
「でもさ、俺がこんなにもレポートで苦しんでるのにさ、俺の男友達は恋人とクリスマスデートするんだってよ!? 俺にはクリスマスなんかねえようるせえよ黙れよクリスマスなんかねえよ! なおかつそいつは俺の顔見て哀れみの目線を向けてくるしどうしたらいいんだ俺は!」
「レポートを解けばいいんじゃないかな」
「だよね〜」
だよね〜。薫、基本的に的を得たことしか言わないから俺のハートにグサグサその言葉が刺さるんだよな。俺は薫のそういうとこが好きだけど今は優しい嘘で俺を騙して欲しかったな。
そんな俺に課せられた残りのレポートはざっと百二十枚。絶対に終わるわけがない。このままじゃ高校生じゃなくなった薫と高校生のままの俺になるんだな。悲しいな。
「たしか、君の高校は通信制……だったかな? でも、通信制でありながらも教室には通えると聞いていたが……」
「うん、実はねうちの学校、学校の授業はあるけど、レポートを解くための授業は基本なくてレポートは各自で進めるスタイルだから……しゅん」
「……そうか……」
きっと生徒それぞれの計画性を担うためにそういうシステムにしているのだろうね、と薫が真面目な考察をし始めた。え、じゃあ俺計画性ゴミってこと? あ、普通にゴミでしたごめんなさい。
自分の愚かさに改めて打ちひしがれる俺の背中を優しく撫でて、薫はこう言った。
「達也、今から一枚でもいいからレポートを解いてみようじゃないか。一枚でもレポートを解ければ、何も解いていない時よりかは少し気分が楽になると思うよ」
「え……いやいや、別に今日じゃなくてもさ、明日の俺がなんとかしてくれると思うんだよね!」
「でも、きっと明日の達也もそうやってやるべきことを先延ばしにするだろう?」
「……ぅっす」
痛いなあ! 至極真っ当な言葉が刺さって抜けないなあ! まあ全部俺が悪いんだけど。
そんな俺に、薫はふわりと微笑んで。
「フフ、頑張ろうと思える君はすごく儚いよ。それじゃあ、私はクリスマス公演の稽古に行ってくるから頑張って勉強したまえ」
「せいぜい死なない程度に頑張ります……」
俺がそう答えると、薫は俺の頭を優しく撫でて「いい子だ、達也」なんて言うもんだから。まるで子供をあやすような扱い方に少しだけ不満を覚えるも、それもなんだか嫌じゃなくて。
それは、俺がきっと薫に恋心を抱いているからで。ああ、レポートが終わってる世界線で薫とクリスマスデートとかしてみたかったな。今更多分無理だけど。
でも、俺高校卒業したら地元帰るし、こんなこともなくなるのかな。……正直、すげー寂しい。
「……薫の手、柔らかかったな」
そんなことを一人呟いて、薫の温もりがまだ少し残った頭で、俺はレポートの一枚目に手をつけた──。
〜
「……何を、しているんだい?」
「ポ◯モン!!!!!」
テレビの大画面でテ◯レイドバトルをしながら、俺は帰ってきた薫に向かって最大級の笑顔を向ける。
対する薫は、なぜか部屋の入り口で固まっているようで。なんでだろ、今日外寒いからかな?
「……レポートは?」
「いやー、なんかさ、レポート一問解いたら満足しちゃって! そういえば、最近S◯itchで何も遊んでなかったな〜と思ったから、かわいいポケ◯ンちゃんたちと楽しく遊んで……薫? え、薫?」
「私としてはあまり友人を叱りたくはないのだけれど……これはあんまりすぎるよ、達也」
「え、薫、怒ってる……?」
恐る恐るそう聞くと、薫は何も言わず頷く。え、嘘だろ、俺、薫を怒らせるほどのことしたっけ……?
……してたや。普通に。レポート頑張ってね、ってせっかく応援してくれたのにレポート一問だけ解いてゲームに明け暮れてたら、そりゃあ怒るよな。
とりあえず謝ろうと口を開いた瞬間、薫は俺にこう言った。
「達也、取引をしよう」
「取引……?」
薫の口から急に出てきた、取引というワード。その意味が分からなくて、俺は困惑する。
そのまま薫は俺に身体を寄せ、俺の耳元に顔を寄せると、甘い声でこう囁いたのだ。
「君がこのレポートを全問解き終わったら……クリスマスイブの夜、なんでもしてあげるよ」
話の続きは同日九時にあがります!
なにとぞ〜!