世界の歌姫は夢の守り人と旅に出る   作:柳瀬悠

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俺の好きなヒーローの内で555がダントツで一番です。ワンピースフィルムREDを見ていて、「夢」というテーマに何処か関連性を感じて衝動的に書いてしまった。
乾巧はウタの大きな「罪」をきっと一緒に背負ってくれるから彼女の救いになってほしいと願い書きました。良かったら見てください


エレジア編
無神経


 

「寝られない‥」

 

ベットの上で眠りに入ろうとしたウタは目を閉じてしばらくしても、全然眠れなかった。

 

体調は別に悪くないし、Liveで歌って疲れている筈、なのに全然眠りに入る気配がしなかった。

 

今日は変だな‥普段と違う調子の自分にどうすればいいのかと悩み始める。この島に来た時と少しばかり似ていた。

 

大切な人達の裏切りに絶望した日々と似ている。ひどく無様に泣き崩れて、喚いて、当たり散らして、絶望したあの夜に、今ではそんな事は少なくなった。

 

色んな人達の話せる様になったお陰で以前より孤独は感じない。この海の向こうでは多くの自分のファン達がいる、自分の歌を糧にして生きている人がいるだけで、勇気が湧いてくる

 

外に散歩に行こう。どうせ眠れないのだ。ここでただ海を眺めていくと惨めなあの時が思い出しそうで、嫌だと思い、部屋着を着替えて、外に出た。

 

街は静かだった。無人となって10年の歳月が流れると建物もただの穴蔵になる、以前は多くの人間で賑わっていたであろう、大通りも唯の大きいだけのガラガラの道、そこを目的もなく歩いている

 

この島で過ごした10年間は孤独の連続だった。街に出ても声はなく、音楽と笑顔の絶えなかった国「エレジア」だとは他人は思えない。

 

唯一残ったのはこの国の王であるゴードンだけで、この無人の瓦礫に塗れた国で自分の育ての親になった、彼の音楽の技術や知識を経験教え込まれ、時に優しく、厳しく育ててくれて、感謝している。

 

でも、時折見せる顔は何かに怯えて、泣き出しそうになる事があった、音楽のこと以外は不要に突っ込んでこない彼は何か、罪悪感が混じった感情を写している

 

ふっと天上の月を見上げた。いつからここに来ていたのか、何故ずっとここに立ち止まってしまうのだろう。分からない、分からない、ずっと迷路の中を彷徨っている様で、気持ちの悪い感覚がある

 

建物によじ登って、屋根から屋根へと軽快なステップで飛んでいく。身体能力は然程劣ってはいない。歌とダンスのレッスンも体力、筋力を使って行う。トレーニングを欠かさない。

 

今は少し体を動かしたい、体を動かせば眠れるのではないかと考える、さっき城の廊下でゴードンとすれ違い、眠れないと言ったら、ホットミルクを淹れてくれた。

 

食堂のテーブルに座り少し話をした。最近はどうだとか上手くやっているのかと辺りない話をして、前よりも明るくなった私にゴードンは嬉しそうに笑顔を浮かべていた。

 

ただ目的もなく、城の裏手の森に向かって歩く、目的地などない。今はただ、頭を空っぽにしたい気分だ、暗い木々が茂っている森の中、月夜が葉っぱの間に差し込み、所々を移してくれて、迷子になる事はない。

 

自分は一体何処に向かっているのだろう

 

何故ここまで悩んで苦しまなくちゃいけないんだろう。

 

答えがあるのか。

 

今は考えない様にしていても頭の中は整頓されず、道筋を辿って歩いていた。誰とも話さず絶望して、何処にもいけないのに逃げ道を探していた、それはもう遠い過去として、捨て去った。

 

今は自分の歌を皆んなが知っている。ここにいる事を知ってくれている。あの惨めに苛まれていた時には帰りたくない。

 

顔を上げると森の出口が見えてきた。月明かりが差し込んで少し明るいので直ぐに分かる。そこは山の上の丘で短い草原が広がり、真ん中には一本も木が生えている。

 

ふっとその木に視線を向けると、思わず可憐な顔を顰めて、げっと嫌な顔になった。

 

何故アイツが‥此処にと目線を背けようとするが、負けた気分になる様で、其方に足を進めた。負けず嫌いの性分が発揮される。

 

小さくポツンと草原に立ち、何の変哲もない平凡な木。その幹にどっかと座って手元のカゴに香ばしいクッキーを男は頬張っていた、彼の前には見覚えのある一台の鉄の馬が置いてあり、あれで此処まで登ってきたのだと、分かった。

 

クッキーはゴードンの手作りだ。それをサクサクと歯で砕きながら、その食感と甘みを楽しんでいる男は、こちらに視線を向けた。チラッと相貌の悪い横目で見てきた。

 

顔のバランスは悪くなく寧ろ整っている筈なのだが、いつも笑顔を見せないせいで、それが半減している。今日も変わらず同じの様で、こちらの存在に気づいても挨拶せず、姿を確認すると再び月を眺める。

 

なんか言いなさいよ。別にこの目の前の男に何かをしてほしいわけではない。別にそこまで好きな人間でもないし、話す話題なんてどうせ持ち合わせていないから、こちらから提供しなければならない。

 

でもなんか‥ムカつく。

 

今は眠気がない、このまま草原でつたってるつもりはない。誰かと話して気を逸らしたい。例えそれが苦手な人物だとしてもいないよりはマシだ。

 

そうふぅーっと息を吸って、精神を落ち着かせ、男の横に立つ

 

「何してるの、こんな真夜中に‥‥眠れないの」

 

そう尋ねてみると、案の定男は別にっと目で訴えて愛想なくクッキーを貪る。あいも変わらず愛想がない事は知っているから別段、驚きはしない

 

「あぁ‥腹減ったんだよ。だから、食ってる」

 

「あのさ、アンタは一応居候でしょ。ゴードンとさっき会ったけど、色々用意させたでしょ、普通眠ってるよ。ゴードンは」

 

夜といっても今は夜の12時頃、気晴らしに散歩している自分とは違って、ゴードンはもう寝ている時間帯だ、普段から色々と歌手仕事の手配などをしていて多忙だが、夜はしっかり寝るタイプだ。

 

なのに先程の彼はすっかり起きていた。まさか目の前のこの男に起こされたのか?そんな疑問が生まれた。「はぁー」っと溜息を吐かれる。

 

「別に、俺の都合で起こすかよ。腹減って食堂の冷蔵庫漁ってたら、きたんだよゴードン‥さんが」

「で、大方腹減ったアンタに気を利かせて、作ってくれたんでしょ、全く少しは気をきかせて、断りなさいよ」

「ウルセェな。ちゃんと断ったよ。起きさせているの嫌だからな。でも作るってアッチが言ってきたんだ」

 

変な思い込みをされたんじゃ堪らないとぶっきらぼうに言い放つと、黙々とクッキーをサクっと歯で砕いた。

 

甘党の彼はゴードンの作る菓子を気に入っている。

 

それも彼の好みに合う様に丁度いい甘味で、丁度良いラインで作られた菓子である。この島に現れた彼の舌に合う様に工夫がなされたそれは、大変な美味なものであった。

 

いい匂い、やばい匂いが‥クッキー香ばしい香りが鼻腔を刺激した。この男何でこの時間でこんなモノを食べているのか、太るのに、そう思いつつ目がクッキーに吸い寄せられる。

 

ふっと視線を上げたその男は、それに気付いた様で、彼女が小腹が空いているのを分かっているが、あえて何も言わずに黙々と食べていく。

 

何よ、こっちに気がついたらあげるとか言ってくれたっていいじゃん、別に本気で欲しいわけじゃないし、アンタが、やるよっと言ったら素直に食べてあげるのに、っと気を遣えない男にふんと不機嫌にされてしまう。

 

彼が此処に流れ着いて1ヶ月程になるが、今だに目の前のこの男のことが分からない。

 

自分から積極的に話しかけてくるわけではなく、此処に来るまで何をしていたのか、どんな事を考えているのか、全然話してはくれない。

 

分かっていることは、このエレジアに来たのは漂流したせいで目的があった訳ではない事と、イーストブルーとかの海の名称や地名、海賊、海軍などの組織すらも知らない、彼のいる場所を聞かされたが、「日本」や「東京」などという地名はこの世界に存在しない。

 

「俺は‥巧‥乾巧」

 

何から何まで不明な男、唯一分かったのは名前だけ、そんな男は行く宛もなく、帰る方法も手段も分からないまま1ヶ月が過ぎた。

 

最初は素性の知らない彼に不信感を抱いていた。

 

普段笑顔を好まない表情筋、周りに所構わず噛みつきそうな鋭い目、猫背気味だが少し筋肉質な身体つき、まるで海賊の様な柄の悪さに一時期、めちゃくちゃ警戒していた。

 

でも、今はある「出来事」があって、それなりに話す事ができる様になった。最初こそ口を開けばその見た目通りの口の悪さと、物事をストレートに言う彼に生意気だっと噛みついた。

 

「全く、アンタは少し気を利かせられないの、パクパク」

「余計なお世話だよ。それに俺だって気を利かせる相手だったら‥考えてやる」

「あっそう、私はそれに入らないんだ。酷くないもう1ヶ月この島にいる癖に、先にいた私にそんな態度で」

「おい、何ちゃっかり座ってんだ。つぅーか食うな、俺のだそれ」

 

今もそれは変わらない。でもだからこそほっとけない何かがある。

 

その正体は何なのかは分からない。普段通信越しに見せている「海賊嫌いのウタ」という周りの皆んなが求める存在

 

気軽に話して、歌姫としてじゃなく、こんな風に軽口を叩ける相手なんて、本当に久しぶりで、案外悪い気分ではない。

 

此処はゴードンと自分だけが住んでいて、人が来るにしても補給船の組員程度、同世代の友人なんて幼少期に一人しかいない。

 

今「彼」はどうしてるんだろう、希望通り海賊になったのかな、今頃海の何処かで冒険でもしてるのかと、成長した彼を想像してみる。

 

「おい」っと隣から声がしてくる。モグモグと口にクッキーを含みながら、何?っと聞き返す。其方には顔にちょっと怒気が混じった顔の青年が、ギラリと睨んでいた。

 

「いい加減食うのやめろよ。勝手に食いやがって‥なぁ、なんか言う事あるだろう」

 

ん?何か言う事思い浮かばないなぁーっ首を傾げて、とぼけてみるが、コイツぜってぇー分かってるっと見破られて、白けた視線を向けられる。

 

はぁーっともう一度溜息を吐く、この度2回目の溜息は先ほどよりも長く深い溜息だった。クッキーの入った籠を不意に持ち上げると、ぐいっとそれをウタに押し付けた。

 

「やるよ」

 

えっと戸惑った、普段の彼なら自分のオヤツを勝手に食べられて怒って不貞腐れるか、私に挑発されて「勝負」をする。のだが今回は自分の菓子を渡してきた。

 

「‥‥何、どうしたの、冗談」

「何でもねえ‥今腹一杯になったからやるって言ってんだ‥‥」

「へぇー、にしてはなんか食い足りない顔してるじゃん‥」

「いいんだよ。黙って食え」

 

ふーんっとちょっと感心した。彼が人に何かをあげるなんて想像できなかった。まぁ半ば呆れ顔で諦めた感じではあったのだが、断る理由もなしに籠を受け取った。

 

ありがとうっと小さく一言添える。親しき仲にも礼儀ありというが、ちょっと言っとかないといけない気がした、お互い色々と素直になれない性分なのだろう。

 

「それにしても‥ぱく、めずらしね、パク、巧が、私に何かをくれるなんて、誕生日じゃないんよ、今日、私」

「そんな事知ってる、別にお前に気を効かせたわけじゃねえ、深読みすんな」

「あぁ、一瞬目を背けた。何、恥ずかしくなったの」

「ちげぇよ、馬鹿何でお前に恥ずかしがるんだよ。アホか」

「でたぁぁぁ、負け惜しみぃぃ」

 

笑顔でクッキーを食べながら、そっぽを向いた彼をおちょっくってみる。すると予想通りに反応してきた、でも軽くかわされ、ふんと再びそっぽを向いた。

 

ふっと視線を籠に向けるとクッキーはもうなくなっていた。ふぅーっと小腹が埋まって、先程よりも心が落ち着いてきた。

 

でもヤバいと気がつく。こんな時間帯にお菓子なんて食べて、アイドルにとって栄養管理は重大な事、真夜中に食べるんなんて、ナンセンス

 

そうだ。っと籠を横に置いて立ち上がると一歩前に出る、夜風が不意に通り過ぎる、2本に束ねた髪が非常に揺れた。

 

よし歌でも歌おう、カロリーの消費には運動は欠かせない、それに気分は悪くない、風も気持ちいいしっと丘の上から見える海に向かって、思いっきり歌おう

 

「新時代は‥‥っ⁉︎」

 

っと口を開こうとするが、一瞬その景色が変わった。正確には彼女の目の中の「景色」だけが変わった。

 

そこは視界全てが火の海に包まれ、人々の悲痛な叫びが周りに響き渡り、恐怖というなの地獄とかしていた。

 

そこにウタは立っていた。口が開かず痙攣する、此処は何処、一体何で此処にゆっくりと周りを見渡してみても、そこには恐怖しかなかった。

 

「どうして‥」

 

火の中から歩いてくる存在がいた。それは全身が火に包まれた恐らく人だった者体格的に大人だった。そんな事はどうでもいい、それは悲しげに語りかける。

 

一歩後ろに後ずさった。すると後ろからも同様の声がしてきた、後ろを振り返るとそこにも火の人間がいた。今度は子供だ。

 

「どうして‥‥貴女は歌うの?」

 

口を開けれない、唇にチャックでも閉められた様に一切開けなかった。火の人間はどんどんと増えてきた。それはゆっくりと彼女に近づいてきた。

 

「どうして‥私達は死ななければいけなかった」

「どうして‥貴女は生きてるの」

「どうして‥罪から目を背けるの」

「どうして‥逃げるの」

 

それは全て彼女に問いかけ続ける。答え様にもそれが喉の奥から出なかった。自分を責め続けるそれらは彼女が恐怖で顔を引き攣らせても、決して消えなかった。

 

「こ‥‥‥」

 

来ないで、それを必死に声に出そうとするが出てこない。怖い、怖い、火の人間達は未だ焼ける腕を上げて、彼女に手を伸ばしてくる、もう既に触れられる距離だ。

 

逃れられない、永久に背負うべき咎、それが彼女を縛り続ける、地獄の光景

 

もうダメだと、火の人間の焦点のあっていない、目玉も確認できない目が見続ける。手先がもう触れる距離だ。

 

「お前は逃げられない‥」

 

そう告げた瞬間に息が止まる。

 

「なぁお前どうした?」

 

「はぁ、はぁ」っと過呼吸になりながら、全身の神経が過敏に反応して、体が震えていた。

 

視界が一瞬シャットアウトすると、そこは自分の見知った景色のエレジア、その何の変哲もない丘の上、空は月が浮かんでいる

 

後ろを振り返ると、そこには面倒な隣人が自分の異変に気がついて肩を揺らして、あの光景から起こしてくれた。

 

彼が自分の異変に気がついて、

 

「べ、別に何でもないよ‥なんかぼーとしてただけだから」

 

「んなわけねぇだろう。口開いたと思ったら思いっきりなんかにビビり始めるし、何か見えたか?」

 

似合わない。流石に先程の自分の様子の変化に違和感を感じたのだろう、巧は聞いてくる。

 

言えるわけ無い。先程見た光景は幻覚だった、でも唯のそれでは無い。

 

「なぁ、お前最近何があったのか」

 

乾巧は問いかける。彼女は口をつぐんでしまう、言ってしまえば楽になれるのか、でも言いたくない、もう一人になるのはごめんだから、絶対に言えない。

 

例え仲が悪くても、側にいてくれる存在を失いたくない。

 

大きな満月が一瞬雲に隠され、草原は暗く寂しげな雰囲気になった。

 

 

 





新連載を始めた!文は相変わらず下手くそだ、地道に書いていくしかないよね(笑)
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