ありふれた錬成師とハイリヒ王女   作:エヒトルジュエの箱庭

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奈落落ち回避するにはどうすればいいかって考えた結果。

変えるとしたらここかなって。なんかイナバとかいう例があるし。


1 陸の王者ベヒモス

 

 南雲ハジメは悪目立ちしていたものの、普通の少年だった。

 授業中によく寝たり、学校にギリギリで登校して部活動にも入らずにさっさと帰宅するために良い印象はなかった。身だしなみは普通に整えていたが、学校の成績がいいわけではない。そして漫画やアニメが好きなオタクとして知れ渡っており、いつも寝不足な理由を邪推されて変な言い掛かりをされることもしばしば。

 そして学校で一番評価を落としていた理由は学校のマドンナの一人が積極的に話しかけてくるから。

 目立ちたくなかったハジメとしてはいい迷惑でしかなかった。だが高校の三年間さえ終わればこんなことからも解放されると思っていたのでハジメは我慢する。学校なんて学歴をくれるだけの場所としか思っていなかったし、友達もいなかった。

 

 趣味に力を入れていこうと考えていた中で、想像もしない出来事に巻き込まれる。

 異世界転移。しかもクラス丸ごとだ。

 なまじライトノベルとかの影響で知識があったばかりに、彼は巻き込まれた内容としてはかなり最悪な部類に分類されることを理解して頭を抱えた。

 神の尖兵として召喚され、日本に帰る手段を現地人は用意できない。クラスごと戦争に参加させられることが確定で、その上クラスでも目立つ人物が扇動した結果宥める科目教師の言葉を無視して戦争に率先して参加する風潮が出来上がる。

 

 ハジメはクラスメイトに呆れ返った。歴史の勉強をしていないのかと。僕達は敗戦国日本で育ってきたのに戦争なんてよく軽々しく決断できるなと。戦争の悲惨さを知らないのだとしたら今すぐミリタリー物の映画でも叩きつけたかった。

 この異世界に映画なんて存在しなかったためにできなかったことを悔やむ。

 王国で保護される形になって、お約束のようなステータスが可視化できるアーティファクトなんかもらって。その数値や書かれていることに一喜一憂する能天気なクラスメイト達の神経を疑いつつ、一応神の尖兵になってしまったハジメもステータスを確認する。

 そしてそのステータスが一般人とほぼ変わらず、天職というクラスメイト全員が与えられた適性のようなものはこの世界でもありふれている錬成師という武器などを作る後方職。

 クラスメイト達は戦闘に有利になる天職をもらって喜んでいたが、むしろハジメとしては錬成師であることを喜んだ。

 

(これで前線で戦わなくて済むな)

 

 と。

 だってそうだろう。戦争を知っている国で、どこのバカが武器を作るための補給要員とも呼べる存在を最前線に兵士として出撃させるのか。

 ……整備兵や軍医と出撃(ハンス=ウル)するとある撃墜王(リッヒ・ルーデル)は例外中の例外だ。

 ハジメは地球の常識に照らし合わせてそう考えていた。ステータスが貧弱なことをバカにするクラスメイトもいたが、勤めて無視した。

 

 錬成のことを勉強しようと思っても、何故か他のクラスメイトと一緒に戦闘訓練をさせられた。助産医に銃を持たせるようなものだぞと思っても、教会と国の意向だと言われて渋々参加することとした。

 やはり地球の頃からの関係性からか、それとも異世界に来て一般人とは隔たる力を手に入れてしまったからか。一部のクラスメイトが暴走して殺されかかった。錬成という魔法しか使えず、しかもその魔法を戦術指南する騎士に全く教えてもらえず自習するしかなかったハジメは戦闘向きの魔法でもなかったことからステータスによる暴力もあって本当に死にかけた。

 

 本職に教わっている戦闘技術と戦闘用の魔法。それを正規の時間に習っている四人組と戦闘技術なんていらないのに戦闘訓練なんてやらされて時間を浪費している一人。どっちに分があるのかという話。むしろよく死ななかったと思ったほどだ。

 なんとか治療してもらったが、これで訓練に出なくて済むのではないかとプラス思考で考えた。たった四人にボコボコにされるほど足手纏いなのだ。戦場に行く必要なんてないとハジメは身をもってして証明したのだ。

 そんな甘い話はなく、訓練は続けさせられたし、なんなら実地研修にもついて行くことになった。教会の一声、「神の使徒様方は前線に立ち他の兵や国民を奮い立たせる必要がある。一人だけ後方で控えているわけにはいかない」という訳の分からない主張のせいだった。

 

 このハイリヒ王国というのは教会の威光が強すぎる宗教国家だった。王が君臨しているにも関わらず、全て教会の言いなり。傀儡国家だ。

 国王の言うことよりも、教会の言葉の方が重い。

 ハジメは知らなかったことだが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ようだが、その意見も通らず七大迷宮があるホルアドの町へハジメは連れていかれた。

 

 騎士団の団長であるメルドには前線を経験するだけでハジメは戦闘をしなくていいと言われた。彼も()()()()()から助言を受けてその通りだと感じ、錬成師を戦わせるつもりはなかった。

 オルクス迷宮の二十階層まで行って帰ってくるだけならある程度慣れた冒険者チームでもできる。この国の冒険者よりも圧倒的なステータスを持ち、レアな天職が複数いる勇者一行なら余裕だとメルドも思ってしまった。

 ハジメは付いて来て何もしないのもまたクラスメイトの視線がうざったかったので使えそうな鉱石を拾ったり鑑定したり、魔物の死骸から使える物がないかと吟味していた。魔物を解体することも勇者一行に経験してもらうことの一環だったのでそれにはハジメは率先して参加した。

 

 とある狩猟ゲームの発想があったので魔物の部位だって武器作りの役に立つのではないかと考えていたのだ。魔物の肉が毒だとはわかっているが、皮膚や爪など使えそうな物はありそうだった。

 自分が錬成師だとわかってから、図書館で様々な書物から勉強していて思ったことだ。この世界では魔物なんてよく分からない存在がいるくせにその魔物のことを敵としか認識していない。一応図鑑にはあったが、どういう攻撃をしてくるかとか生態まで書かれているのに、その死骸の活用法が書いてなかったのだ。

 

(この世界の人間は狩りをしたことがないのかな?戦争をしているんだ。使えるものは全部使うべきなのに。もしかしたらこの魔物達がアーティファクトを超えるかもしれない材料の宝庫だったらどうするんだ)

 

 そんな思いで解体作業をして、使えそうな物は分類ごとに小袋に分けて保管していった。

 ハジメがこの異世界で生きていくには錬成師として結果を残すこと。それしかなかった。

 戦闘なんて無理。戦えないなら手先の器用さと天職と地球の知識でどうにかするしかない。幸いにも父のゲーム作成を手伝っていたために雑学にはかなり精通していた。

 モデリング作業のために本物そっくりなエアガンが会社にはあったので銃の組み立て方や構造を把握していたり、剣の現実での作成方法など、様々な知識がハジメの脳にはあった。

 

 ハジメはできたら地球に帰りたかった。地球でやりたいことがあった。自分の奪われた人生を取り戻したかった。

 だから、イシュタル教皇がはじめに言った「エヒト神なら魔人族との戦争に勝った暁には皆様を元の世界に戻してくれるでしょう」という言葉を億が一の可能性に賭けて、他のクラスメイトの援助くらいはしようと思った。

 この世界で生き残ることと、大目標を達成できるかもしれない細い糸だ。これを自分から切るわけにはいかなかった。

 今のハジメは教会と王国に監視されている。神の使徒だと知れ渡っている時点で王国を出て行けば連れ戻されることは愚か、反逆罪とか罪を着させられて殺されるかもしれなかった。この状況そのものが詰みのようなものだが、カンダタの糸まで振り解くほどバカじゃない。

 

 今は潜伏の時だと決心し、文句も言わずに実地研修に臨んでいた。

 そして二十階層で愚かにもクラスメイトが罠を作動させ、転移の罠によって何処かへ飛ばされた。そこには十m級の二本角のバケモノが一体、そして剣を持った人型ガイコツの魔物が数え切れないほど待ち伏せており、クラスメイトは挟み撃ちにされた。

 場所も大きな橋の上のようで、下へ降りる階段側に巨大なバケモノが。上へ上がる階段の方にはガイコツの魔物が視界を埋めるほど。絶対に生かして返さないという迷宮の悪辣さが目に見えていた。

 

 勇者パーティーと呼ばれる主力達は推定ベヒモスと思われる魔物と戦おうとして前へ。他のクラスメイトは突然の事態にパニックになってまともに戦えていなかった。

 南雲もこんな状況で戦わないわけにはいかなかった。守ってくれていた同行していた騎士はベヒモスの足止めに精一杯で、ハジメの周りにいたクラスメイトは錯乱しながら自分の身を守ることしかできていない。

 メルド達はどうにか撤退しようとしているようだが、戦争幇助をした勇者がワガママを言って撤退ができない状態のようだった。

 

 ハジメはそれだけ確認して、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ステータスは最弱、使える魔法も錬成しかない。周りには自分を簡単に殺せそうなガイコツの魔物がうじょうじょといて、他人を気にする余裕なんてなかったということも大きい。近くの、自分へ攻撃してこなかったクラスメイトなら錬成で地滑りを起こして魔物を橋から落として助けたりしたがそれしかできなかった。

 錬成の攻撃力なんてこの中で最弱。そもそも戦闘用の魔法ではない。こんな土壇場で凄い武器を作って一発逆転、なんて夢を見られるほど錬成の技術を培っていなければ信頼もない。

 

 少ない魔力を使い切らないようにしながら、魔力残量だけを気にして自分の身を守った。状況打破のための手段がない。生き残れるとしたらガイコツの魔物、トウラムソルジャーを撃破して階段を登ることのみ。

 後ろのベヒモスに追いつかれるか、トウラムソルジャーに殺されるか、逃げ切れるか。そんなチキンレース。

 もしかしたら、勇者パーティーならこのトウラムソルジャーの群れをどうにかできるかもしれない。

 ハジメはそう考えないこともなかった。だが、その選択を取る理由がなかった。

 

 

 

 

 

 

 だって、散々学校で自分のことを蔑ろにしてきたのは誰だ?

 

 

 

 

 

 

 まだ、白崎香織はいい。迷惑だと思ったが、きっと本人的には善意で接してくれているのだろうと思えたから。こっちの世界に来てから四人組にボコられた時も治療をしてくれたのは彼女で、昨夜も変な夢を理由にしたことはともかく、危険だから来ないでくれと心配してくれた。

 オルクス迷宮に行かなかったらその後の風聞に関わるからホルアドに着いてしまった時点でその選択はあり得なかったが、心配してくれたことは事実でその時にようやく学校での行動も不健康な自分を心配してくれていただけなのだと理解した。

 だから、彼女だけは信頼しても良かったが、それだけだ。

 

 後はわけわからないイチャモンをつけてくる男と、その男に同意するだけの脳筋男と、宥めているだけの女。

 クラスが戦争に参加するきっかけを作った集団で、地球にいた頃から印象が良くない人間。

 たとえこのトータスでも珍しい勇者なんて天職を得ていても。

 この命の懸かった場面で命を預けられるほどの信用も信頼もあるはずがなかった。

 

 だからハジメは前だけを向く。トウラムソルジャーを排除して脱出することだけを考えた。後ろは騎士団もいるからどうにか逃げられるだろうと戦闘のプロを信頼し、退路の確保に務めただけ。

 トウラムソルジャーは囲まれなければなんとか倒せることにクラスメイトは気付いたのか。それともハジメという最弱が橋から落とすことで複数倒していることを目撃してどんな感情にしろ対抗心が芽生えたのか、徐々にトウラムソルジャーを排除できていた。

 半数を倒して、この調子ならあの階段まで行けるとクラス全体が思い始めた頃、その均衡は破れた。

 

「全員退避しろー‼︎」

 

 メルドの大声と共に、障壁魔法が壊れる音とベヒモスが橋に大打撃を与えた衝撃が同時に全員を襲う。

 なんとか橋から落ちないように踏み留まって、そんな揺れで若干数のトウラムソルジャーが落下していったことを幸運だとは言えないほどの絶望が全員を待っていた。

 クラスメイトはトウラムソルジャーだけに集中できていたからなんとかなったのだ。だが、メルド達が抑えていたベヒモスが解き放たれたとなっては最初へ逆戻りだ。

 絶望に誰もが支配される前に──ハジメは生存本能から動いていた。

 

 

 

 

 

 

 

「錬成ッ──!」

 

 

 

 

 

 

 橋を変形させてベヒモスの四肢を縫い付ける。橋の素材が上質な物だったのか、ハジメの火事場の馬鹿力でも発揮されたのか、ベヒモスの動きを抑えることに成功した。

 

「坊主⁉︎」

 

「聖絶もダメ、拘束魔法を使える人もいなければ倒すなんて以ての外!だったら僕がこうするしかないでしょう⁉︎長くは保ちません!メルドさんは早く退路の確保を‼︎」

 

「すまん!全員退路の確保を急げ!坊主の錬成は長くない!」

 

「南雲くんっ!」

 

「行って白崎さん!逃げることが最優先だ!」

 

 騎士団が率先して退路の確保に向かい、白崎は心配するような声を掛けたがハジメの覚悟を知って前線へ行って回復魔法と障壁魔法を使って道を拓こうとしていた。残っていた女子生徒も一言だけ謝って前線へ行き、男子二人は少し遅れながらも走っていった。

 ハジメの実力ではその場に留まるしかなかった。それだけ集中しなければすぐに錬成が霧散してしまう。錬成を維持しながら後ろへ下がるなんてことはできそうになかった。

 だから魔法を発動している右手に全神経を集中させて、左手で右腕を抑えていた。脂汗をかきながら一秒でも長く拘束しようとした。

 それはどれだけの時間だったのか。短針が動くほどの時間か、それとも刹那に近い時間だったのか。

 兎にも角にも、頼れる大人の声が届く。

 

「坊主!走れ!」

 

 メルドの言葉を聞いた瞬間錬成を捨てて走り出した。逃げる、それしか頭にはなかった。

 階段前では攻撃魔法を使えるクラスメイトが魔法の準備をしていた。後ろのベヒモスは錬成によって変形した石材を派手に壊しながら立ち上がって侵入者を抹殺しようと動き出す。

 ハジメは走る。向かう側から来る魔法の数々を怖く思うものの、アドレナリンが分泌しまくっていたこの状況では魔法よりも後ろのデカブツの方が恐ろしかった。

 大きさは恐怖を煽る。ベヒモスの太く逞しい腕で殴られればハジメはミンチになる。立派な角で貫かれれば風穴が開いて即死。踏み潰されても同じだろう。

 それに比べれば魔法のなんと小さなことか。

 

 四人組から魔法を喰らったという出来事もあって()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だから彼はがむしゃらに走る。錬成によって脆くなった橋がベヒモスの突進によって崩壊する音が後ろから聞こえてきたことも一因だろう。

 ハジメはとにかく走って走って。

 階段に着けば生き残れると思って。

 前から来る火球の魔法に気付かなかった。

 

「え……?」

 

 正面から、土手っ腹に喰らって吹っ飛ぶ。ハジメのトップスピードと相反するようにハジメの身体はピンポン球のように橋の上で三回ほどバウンドした。

 魔法が当たったことなんてハジメにとってはどうでも良かった。まだ生きている。魔法を何発も喰らっても生きていた。

 

 

 なら、生きるために走れ。

 

 

 そう頭が命令しても、足が動かなかった。いや、右足は動いた。地面を蹴り出そうとした。

 だが左足は、神経が千切れたかのようにピクリとも動かなかった。

 その状態になったことのある人なら、ハジメの症状は一発で看破できただろう。

 

 骨折だ。

 

 ハジメはインドアな性分だったために今まで骨折をしたことがなかった。正確には四人組にボコられた時に骨折していたのだが、それを白崎が治してしまったために骨折だと気付いていなかった。その時は全身が痛くてどれがどの傷だか把握していなかったのだ。

 ハジメは左足を引き摺るように動く。橋の崩壊が近い。揺れも大きく、ベヒモスも近付く気配があった。

 魔法の誤射に気付いたのか、クラスメイトは誰も動けなかった。この状況で動ける()()なんて誰一人いなかった。

 動けたのはベヒモスだけ。

 

『グオオオオオオ!』

 

 橋の崩壊が近付いたからか。飛行能力のない陸の王者はせめて一人でも道連れにしようとしたのか。

 

 

 それとも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()か。

 

 

 ベヒモスはハジメの元へ辿り着き、左足をその大きな(アギト)で咥えた。そして強引に首を振り、クラスメイトの方向へ吹き飛ばす。

 ベヒモスはその時、既に足場をなくした状態だった。

 強引だったために咥えた物を()()()()()()()()()()が、ベヒモスは必要経費だと考えて奈落へ落ちていく。

 飛ばされたハジメはメルドが意地でキャッチし、その鎧が血だらけになろうと即座に行動を開始した。

 

「急いで担架を作れ!白崎、辻!即座に治癒魔法を!このままではハジメが失血死するぞ!」

 

「いやあああああ⁉︎南雲君っ⁉︎」

 

 白崎の絶叫が敵のいなくなったフロアで響く。

 南雲ハジメ。

 左足を()()。ベヒモスに勝利。

 




ゆっくり更新します。

今作では奈落というかオルクス迷宮に辿り着ける人はゼロですね。
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