ありふれた錬成師とハイリヒ王女   作:エヒトルジュエの箱庭

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ベヒモス君強化したけど、今後出番なさそう…。
今作のハジメ君、もう絶対迷宮には潜らないし。

あと、独自解釈・捏造設定・仮説てんこ盛りです。


4 常識の齟齬と未知

「え?死者が二人も出た?」

 

「はい。死体が残っているのは近藤様のみですが、おそらくは檜山様も……。一応箝口令が敷かれて、死者が出たことは王族と教会の一部、それに現場にいた者と神の使徒様方しか知りません。畑山様にも手紙では情報漏洩の可能性があるために、王都に帰ってきた際に伝えることになったようです」

 

「……そっか。あの先生だから悲しむんだろうな」

 

 ハジメはリリアーナから近況報告を借家で聞いていた。てっきり最近の生活を確認するくらいの軽いノリだと思っていたら真剣な表情で入ってきたので驚きながらも椅子に案内し、開口一番に死亡報告だった。

 それから詳細を聞いていき、ベヒモスの名前が出てハジメは眉間にシワがより、それでもオルクス迷宮であったことは全部把握していた。

 今迷宮組はホルアドから撤退しているようだった。オルクス迷宮にも拒否反応が出ている者がいるようで全治二週間以上と診断された勇者も慎重に運んで王都で療養するらしい。

 これからどうするか騎士団も交えて教会と王国で話すらしいが、雲行きは怪しいらしい。

 

「オルクス迷宮が使えない以上、戦力として鍛えるなら遠征しか手段がないと教会も王国も判断しましたわ。各地を巡ってトータスの現状を知っていただき、魔物を討伐し、民衆の声を聞き、先陣を切ってもらう。……ですが、これは問題点が多いのです」

 

「まず第一に全員が戦線復帰できるかどうか。特に近藤君はお腹を角で刺されてってなると僕の時よりも酷い状況だったと思う。僕の時に僕も含めて十人が戦線を離脱した。その内の七人が畑山先生の護衛に。二人は王宮にいると聞いてる。死者がいなくて、言ってしまっては何だけど左足だけを失ってこの人数だ。……まあ、これはあまり気にしなくて良いかな。死ぬ可能性があると、歩けなくなる可能性があると僕が証明した。それでも戦場に残った、どこか頭のネジが飛んでる人達だ。一部を除いて戦線には立つと思うよ」

 

 第一の問題点と言ったが、戦力になる人数という観点では王国や教会が懸念しているほどに減らないだろうとハジメは考えた。

 なにせ平和な世界で生きていた人間が、たとえクラス内でも嫌われていたとしても死にかけたとしても最前線で戦おうとしていたわけで。左足以上の犠牲を予想していた者達ばかりだったんだろうとハジメは結論付けた。

 それがたとえ間違っている思考だとしても、ハジメはそう考えてしまう。ベヒモスとの一戦は強者と弱者を分けるもの。ステータスというものがわかるようになって顕著になったはずだ。

 

 この世界では強者と弱者が存在する。弱者は強者に喰われるという弱肉強食という自然界の当たり前のルールが適応されただけ。

 迷宮組はクラスメイトの中でも強者だった。このトータスの人間と比べて、そしてクラスメイトの中でも優秀なステータスと技能があったために強者を名乗れた。そして頂点にいた人物こそ、勇者。

 勇者という上がいた時点で、魔物や魔人族にも勇者に匹敵する存在がいるということは予想できてしかるべきだ。

 それはたった二ヶ月程度で覆らなかった壁。勇者が世界的に希少な天職であろうと初期はメルドの方が強かったように、世界的な強者には鍛えたけど敵わなかった。

 

 これは変にステータスなんていう能力値が数値で見えてしまうことの弊害かもしれない。

 二ヶ月でここまで強くなれた。歴戦の騎士であるメルドを超えられた。

 メルドのステータスとレベルも知っているために、自分達にはどれだけの伸び代があるのかわかってしまったのだろう。そしてメルドが当時逃げるという選択肢を選んだが、そのメルドを自分達は超えた。

 メルドというプロ野球選手が140km/hのボールを投げられて指導してくれて、自分達は高校生なのに150km/hを投げられるようになったというのが地球でもわかりやすい例になるだろうか。

 変化球とか、打者としての動き、経験から来る確かな判断。そういう数値に記せるものと記せないものの差がわからなかったのか。

 クラスメイトの、ベヒモスに今回挑んだ時の心情なんて推測してみたがリリアーナとの会話に必要ないという結論に行き着き、長々と考えたものの床にでも捨てておいた。

 

「第二に迷宮以上に安全かつ適した狩り場があるか。オルクス迷宮なんて上層なら騎士や冒険者の駆け出しにもうってつけの戦場で、物足りなかったら下に降りればいいというシンプルかつベヒモスなんていう強敵まで用意されている、都合の良すぎる戦場だ。地上にも魔物はいるけど王国内は畑山先生達でも十分に安全に回れる場所ばかり。教会騎士がいるとはいえ他の護衛は迷宮ドロップアウト組。攻略組とは練度もレベルも別格だろうね。そんなドロップアウト組でも倒せる程度の魔物しかいない王国内で、どこに強敵がいるんだって話だ。これは騎士団に教会騎士、冒険者の日頃の積み重ねなんだけど、この点もマズイ。もし遠征をして魔物狩りなんて始めたらそれらの人達の仕事を奪ってしまう」

 

 せっかく王国内の経済は回り始めたが、冒険者への冷遇が始まりそうでそこから今の好景気にヒビが入りそうなのだ。

 冒険者は何も魔物狩りだけを生業にしているわけではない。商隊や要人の護衛から薬物採取に街周辺の警邏など仕事は多岐に渡る。そこへ教会と国の威光を掲げて神の使徒がやってきたら色々とやりづらくなるだろう。

 今や戦争状態なために神の使徒の行動は最優先される。宿場の確保、移動手段の用意に食料の準備。これ以上は死者を出さないために護衛を増やすだろうからホルアドの時よりも確実に金がかかる。

 そんな金がかかることをやってまで強くなる手段があるのかという話だ。魔力が霧散してしまうライセン大渓谷にでも行って縛りプレイをするとか手段はなくはないだろうが、縛りプレイで強くなれるのかも不明。

 他の七大迷宮で確実にわかっているのはグリューエン大火山とハルツィナ樹海だがグリューエン火山はアンカジ公国の近く。ハルツィナ樹海はフェアベルゲンという亜人族の国なので行くのも難しい。

 

 推測の話としてライセン大渓谷と氷雪洞窟にもあるとされているがライセン大渓谷は魔力が霧散するので無闇に探すのは危険。特にいざという時に治癒魔法が使えないとなると致命的だから訓練の場所という意味ではパスした方が無難だ。

 氷雪洞窟があるシュネー雪原は魔人族の領土である魔国ガーランドの近く。敵地で実地訓練をするとかバカとしか言えないので却下。

 ベヒモスが別格だという話から逆説的にベヒモスに並ぶような魔物など地上で確認されていないのだ。魔人族なら飼っているかもしれないが、訓練になるような場所にはいない。

 遠征をする旨味がなさすぎる。

 

「第三に評判集めだけど。これって正直逆効果だと思う。この国は義足や義手を求めるほど困っている人が溢れている。ほとんどが()()()()()だ。そして神の使徒は戦争終結のために呼ばれた存在。オルクス迷宮に籠っているならまだ戦争のための下準備として言い訳が効くんだ。騎士の新兵だって使ってる手段なんだから、たとえ神が遣わせた存在だとしても戦闘訓練なんだなと民衆も思う。──けど、神の使徒が王国内を集団で歩き回って、しかも出陣じゃない姿を見せつけて。挙句に冒険者達がやっている、()()()()()()()()()()()をやっていたら洗脳されている人以外はこう思うはずだ。『あれ?神の使徒って普通の人なの?』とか『さっさと出陣して戦争を終わらせて楽にさせてくれ。そのために遣わされたんだろう』って。オルクス迷宮に籠って準備をしていたはずの勇者様は次に民衆に姿を見せる時は出陣の時じゃないといけないはずだ。それが神の使徒という立場で召喚されて、戦争行為を承諾してしまった人の責任になる。けど、そんなことも知らぬ顔のまま王国内を巡っていたら神の使徒を、勇者という光明を疑うはずだ。約束が違うじゃないかって。その程度なのかと、オルクス迷宮での準備は何だったんだって。教会、王国、神の使徒。全員が評判を落とす。まだあるけど……。国内での遠征なんてかなり悪い手段だ」

 

 それがハジメの所感。

 遠征なんて始めたらオルクス迷宮から逃げ帰ったこともいつか知られるだろう。ホルアドで様子を見ていた者は確実にいる上に、全員の口を閉ざすなんて不可能だ。

 メリットも少なからずあるだろう。守るべきものを確認してもらうとか、神の使徒の顔を覚えてもらうとか。国の力は健在なんだと見せることとか。

 だがそんな小さなメリットよりも大きなデメリットがありすぎる。

 神の使徒が出陣するために各街に寄りつつする行為なら、士気を高めることになり戦意高揚させる良い手段となるだろう。

 

 しかし、一向に出陣する気配を見せずただ国内をグルグルしているだけなら。魔物を狩るだけでそれ以外のことをしていないなら。

 戦争に家族を送り出している者などは嘆くだろう。家族は戦っているのに神の使徒は戦ってくれないのかと。神は何をお考えなのかと。

 結局のところ、つまり。

 

「僕達が召喚された時点で詰んでいる話なんだよ。元々はね。もっと圧倒的な力があれば良かった。もっと精神が完成された、それこそ軍人でも呼び出せば良かった。高校生なんていう精神的に幼い、しかも平和の国出身って時点で神の使徒としては不合格だったんだよ」

 

「我が国の庶民を、神の使徒として祭り上げるようなものですものね」

 

「そうだね。僕達の立場はいきなり他国に連れ去られて武器と力を与えられて帰る手段を奪われて。その上で神のお導きなので国のために戦ってください、そうすれば帰る手段が見付かるかもしれません、ときた。この他国というのがポイントだね。愛国心もない人間がどうやって戦うのか。上手く人参をぶら下げれば動けるだろうけど、人参を手に入れる以上に酷い現実があれば歩けなくなる。だって僕達は馬でも神の使徒でもなく、人間なんだから」

 

 軍人だとしてもこの条件で戦えるだろうか。軍人だって戦う理由は様々だろうが、顔も知らない人間のために報酬もなく引き金を引けるのか。

 トリガーハッピーでもなければまず考える。考えて行動に移すだろう。

 戦う理由、根幹に沿うかどうか。その理由次第では軍人だって戦うことを放棄するはずだ。

 そして自分達の戦う理由と根幹を考えた結果、ハジメはあることに気付いてしまう。

 

「あ。……マズイ、僕が否定していたけど前線離脱者が増えるかもしれない」

 

「ハジメ様は抜けていますね。いえ、父上やイシュタル教皇は気付いていない様子でしたので仕方がないかもしれませんが。──天乃河様は最初にこう宣言されました。『俺が誰も死なせない』と。この言葉を支えにしていた方もいるでしょう。そして事実先日までは()()()()()()()()を出したものの、死者は出ませんでした。勇者の背後に居れば絶対安全、という聖域が崩れてしまったのです。皆様方も死を連想するようになるでしょう。言ってしまえば勇者という大仰な言葉に隠されたカリスマがペテンだとわかってしまったのですから」

 

「その発言の時はまだ勇者だって判明していなかったよ」

 

「後付けでも信憑性がある言葉にしてしまったのです。後も先も関係ないのでしょう」

 

 もしかしたらまだ彼のカリスマは残っているのかもしれないが、『誰も死なせない』という言葉だけは虚言になった。

 付いていくリーダーの言葉が絶対ではないとわかって付いていけるか。

 勇者という言葉でできた大きすぎる支柱に頼りすぎていた人間はどうなるのか。

 確実に今までのようにはいかないだろう。

 

「あと付け加えるなら、ある時王宮でこうも言っていましたよ?『彼の左足は残念だ。でもこれ以上、誰もあんな目に遭わせない。俺が強くなって、皆を守るから』と」

 

「うわあ。僕がダシにされてる……。そうかそうか、僕の左足は強くなるための言い訳か」

 

「皆の中に、ハジメ様はいらっしゃらないようです。戦線を離脱した人物は彼にとって仲間ではないようで」

 

「うーん、それ僕限定だと思うんだよね。彼、元の世界でも僕に事あるごとに突っかかってきてたから。僕のことが嫌いなんだよ。生活態度を直さなかった僕も悪いけど、優等生で完璧超人の彼からすれば、学校で不真面目だった僕が気に入らなかったみたい」

 

「完璧超人……?誰のことです?」

 

「文武両道、顔も良ければ家柄も良し。そしてこの世界では勇者だ。それこそ彼はエヒト神に祝福されてたんじゃないかな」

 

 勇者のことは又聞きでしかないのでどこまで正確な話かはわからないがそういうことらしい。部活の剣道では全国レベル、学業だっていつもトップに近い成績を取っていて女子には月に二回以上告白されていた。

 そんな超人様は不真面目なハジメを嫌っていた。教室の中で、周りの視線があるにも関わらずハジメへ嫌味なことを言う、説教をする。ハジメに関わろうとする白崎の行動を諫めようとする。

 その行動の真意まではわからなかったが、やろうとしていることは声の大きいいじめっ子と同じだ。クラスカーストの管理とも言えるかもしれない。

 

 クラス全員にハジメはこういうダメな奴だ。学校という教育機関、社会構造において欠点を持っている。だから自分はハジメに制裁を与えるのだ。他の者はこうなりたくなかったら真面目に取り組むように。そんな公開処刑のようなことをして支持を受けて行動に正当性を持たせていた。

 その結果バカにする者は増え、ちょっと不真面目な生徒は居心地が悪くなったかもしれない。いや、勇者どころかクラスの矛先が全部ハジメに向いたのでヘイト逸らしができたのかもしれないが、勇者に同調しなければならない構造を形成されてしまった。

 

 そしてその結果が神山での出来事だ。君が言うならと、君の言うことはいつも正しかった。だから賛同しようと。ここで賛同しなければ自分の居場所がなくなる、捨てないでくれと。

 誰だって自分のことは大事だ。だからこそクラスメイトという名前の腰巾着は増えた。日本人の言うことに流される習性もあったのだろう。小さな集団では十分にやっていける才能だ。

 勇者よりも扇動家(アジテーター)の方が合っているかもしれない。その力が及ぶ範囲内ではとても優秀だろう。

 もっとも扇動家のような存在の末路はいつも決まっている。地球の歴史書にどれだけ出てきたことか。今回も先人に倣う結果にしかハジメは思えなかった。

 

「あとさ、リリアーナ。白崎さんも戦線離脱させてくれないかな?彼女の目的が治癒魔法の向上のままならもう前線に出る意味がない。神の使徒としての前線を学ぶということはもう十分経験できたはずだし、これ以上は病院で働かせた方が良いと思うんだよね」

 

「カオリのことならそうでしょう。やれることとやりたいことは違います。それに治癒師の彼女は撃破されれば戦線維持能力が一気に失われます。彼女がいるべき場所は戦場だとしても前線基地でしょう。ですが、()()()()()()()()()()()()()()()のなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。治癒師といえども最前線からの離脱は可能でしょう。勇者というオンリーワンと比べれば替えが効く存在ですから。帰ってきたカオリにはそう言って離脱させます」

 

「ありがとう」

 

 白崎も前線にいる理由がない。オルクス迷宮というちょうど良い訓練場があったからそこに行っていただけで、そこが使えなくなったなら戦場に行く理由もない。

 どうしても戦場に行きたいのならハジメもリリアーナも止められなかったが、彼女はハジメの左足を治すために一番効率の良い方法として戦場を選んだだけ。効率が悪くなれば戦場という選択肢は捨てる。

 どうにかして教会と王国が接触する前に白崎に接触しようと考えるリリアーナ。迷宮組のことは置いておき、次のことだ。

 

「ハジメ様の近況確認といたしましょう。生活は大丈夫そうですね。お部屋も綺麗に片付いています」

 

「寝に帰ってるようなものだからね。それにいつリリアーナが来るかわからないし」

 

「ふふ。それでもです。王国内でもハジメ様の評判は良いですよ?騎士団に卸した武具はどれも高評価です。義足の改良も進み、義手の開発にも着手したとか」

 

「ああ、義手は王国からも急げって言われてるからね。勤務時間の半分以上は義手の開発に充ててるよ。肩の付け根から腕がなくなっている人の義手は難しいけど、上腕部が少しでも残っている人向けの義手なら試作品ができた」

 

「まあ!随分早かったのですね」

 

 義足とくれば義手に話が向くことも当然だった。王国や教会から義手の開発も依頼されてハジメはうんうんと頭を振り絞った。義足なら自分という何でもやっていいテスターがいたことと歩くことを邪魔しないだけの歩行能力だけを考えれば良かった。

 だが腕、手となると物を掴まなければならない。地球にもロボットアームはあるが義手となるとロボットアーム以上の最新技術が詰め込まれた物だった。AIによるパターン認識を覚えさせて、筋肉の微弱な電位を使って動作制御するというのだ。

 

 トータスは電気工学なんて発展していない。その代わりに魔法が発展しているわけだが、とにかくAIの代わりなんて魔法に溢れたこの世界でも再現は不可能だった。ゲーム会社でプログラマーをしているハジメでもAIの作成は不可能だったし、そもそもAIを作るための機材もない。

 そのため、電気に頼らずにどう作ろうと苦慮したわけだが、ここで解決策になったものがモンスターから取れる魔石だ。ランプや冷蔵庫のような物が開発されているのでスイッチ一つで魔法の術式が発動するという技術は確立されていた。

 

 その技術を使って指の簡単な動作を行えるように刻印式を構築してスイッチを三つほど付けた。指を開いた状態、握り拳の状態、スプーンは持てるような指の形。この三つをスイッチで切り替えられるようにした義手がようやく形になった。

 義手を付け続けていても重さで不安にならないようにかつ、ある程度重い物を持ったり振ったりしても大丈夫な強度を保つ物を作成できた。

 これが昨日の話だ。

 

 今ではウォルペン工房で生産ラインをどうするのかと、明日行うテストの際にどういうことが起きるかということを纏めてもらっている。開発主任であるハジメもそれに参加すべきなのだが、休日はしっかり休めと言われている。内容が纏まったら今日中にも一筆ハジメの家に届けてくれることになっている。

 ハジメもある程度問題点などは書き出しているので休みをもらえたわけだ。

 肘の関節部には義足と同じようにカエル魔物の皮膚を使って柔軟性を施し、フレームは試作品であるため金属を用いているが、ここが一番のネックだ。金属は純粋に重いことに加えて、高い。

 

 値段が高いのだ。今は戦時中のため金属類は武具に優先して使われる。質も量も良い鉱山がいくつもあるわけでもなく、義足を量産すればすぐに金属がなくなるだろう。そうなれば武具が作れなくなり、戦力が落ちる。

 戦力向上のために義手を作るのに、その義手のせいで戦力が落ちるという本末転倒に陥りかねないのがこの試作品の義手の最大の問題点だった。

 この問題だって解決する手段はあるのだ。問題は作成方法だけ。

 

「できれば、義手の大部分を魔物の素材でどうにかしたいと考えているんだ。でも、身に着ける物であんまり魔物の物を使うのは精神衛生上よろしくないっぽいってこともわかってきた。義足の時は本当に一部だからあんまり不快感はなかったみたいだけど、義手全部に魔物の素材を使うのは拒否反応が出るだろうって師匠が言ってた。……まだ兵站と心に余裕があるからの発言だけど、もし迷宮組が遠征をするならたとえ拒否感が出ても魔物の素材を採用すべきだと思う」

 

「人類の敵である魔物を素材とはいえ使えるか、という心理はとても難しい問題だと思います。魔石のように人類に利点があると昔から思われていれば拒否反応も出ませんが、魔石以外はリアリティがありすぎます。魔物にやられたとか、動物に類似性があるとか。……羊毛などを用いて服などにしていることから人間は無意識に他の生き物を自分の生活のために使っているのですが、魔物となると途端に違う話になるのは魔物の凶暴性と異形感からでしょうね」

 

 魔物の肉を食べろと言っているわけでも、そんな毒素があって腐りそうな物を使おうと言っているわけではないのだ。カエル魔物の皮膚のように燻して(なめ)して腕の形に整えて、その上で魔石を中に入れて構築式を組み込む。

 手の部分は銅などの金属で作るつもりだ。全部を魔物の素材で作ろうとも思っておらず、金属の消費を減らそうとしているだけ。代替案となるのが人類の敵であり、倒しても問題なくその上数まで心配しなくて良い魔物を使うこと。

 前例のないことを実行するのは難しいと、ハジメは改めて思っていた。

 

「……このままじゃ行き詰まるなあ」

 

「それは武具作成の話ですか?」

 

「うん。義手は金属さえあれば今の仕様で作ればなんとかなる。金属が底をつくかもしれないけどね。これは武具も同じ話。どこかで鉱山を掘り当てるか、代用品を見付けるしかない。だからこそ僕は魔物の素材を目に着けたんだ。強力な魔物なら皮膚や骨、それこそ尻尾や牙だって何か有用なのかもしれない。……まさかそんなに拒否感があるなんて思わなかったよ」

 

 これはアーティファクトという存在も影響しているだろう。今の人類では作れない超級の武具やアイテム。その作成には古代に失われた神代魔法が関連しているのかもしれないという記述が研究書にはあったが、どこまで事実か。

 神代魔法が使えない人間が何をしたって無駄だ。そういうのは魔法の専門家に任せてハジメはあくまで錬成師として、そして地球人としての発想でどうにかしようとしていたのに感性という壁に阻まれてしまった。

 魔石を加工すれば庶民の生活の発展に繋がる。その魔石は魔物のみ所持している。

 魔石はなんとも意識していないのに魔物の素材はダメな理由。これがハジメの頭を悩ませていた。魔石を使ってるなら魔物の素材もいいじゃんと叫びたかった。

 

「どうにかして強い魔物の素材が手に入らないかな……。魔物の素材だけを使って武器作成をしてみたい」

 

「素材はどうだかわかりませんが、王国にも魔物研究家がいらしゃいますわ。その方と渡りを付けましょうか?」

 

「あ、やっぱりそういう人がいるんだ。うん、是非話を聞いてみたい」

 

 何か解決策があるのかもしれないと、ハジメはリリアーナの人脈に頼ることにする。

 リリアーナはその件も含めて今日は色々と動かなければいけないと王宮へ帰っていった。ハジメは買い物や休息に一日を充てる。

 

 

・・・・・・

 

 リリアーナは帰ってきた迷宮組を出迎えつつ、各々に労いの言葉をかけた。メルドが民衆の目を考えて深夜の内に王都へ帰ってきたために神の使徒が逃げ帰ってきたという事実はひとまず隠すことができた。

 神の使徒は与えられた部屋で休むことにして、個室に入っていく。リリアーナは白崎が一人になったところで部屋にお邪魔し、昼にハジメと話し合った内容を伝えた。

 伝えたまでは良かったのだが。

 

「リリィ?もしかして南雲君と頻繁に会ってるの?」

 

「え、いえいえ。月に一度だけです。王家も王宮から出て行かれたことで動向を確認すべく定期訪問をしているだけです。頻繁ではありませんよ」

 

「月一回ってことは、この二ヶ月で()()()会ってるんだよね?」

 

「カオリ⁉︎ハジメ様が王宮にいた頃を考えれば頻度はかなり減ってますが⁉︎」

 

「私はこの二ヶ月で一回も会えてないんだよ?それに()()()()()?ズルイズルイ!何で下の名前で呼んでるの!私だってまだ苗字で呼んでるのに!何でカナ?カナ?」

 

「深い意味はございません!カオリやシズクのことも名前で呼んでいますよ⁉︎」

 

 白崎の背後にリリアーナは名称を知らなかったが、般若が浮かんでいる様子を幻視した。その赤い顔のツノの生えた存在が怖すぎて一歩引いてしまう。

 実は会っている回数は王宮にいた時も含めると二回では全く済まないのだが、リリアーヌはそれを言うと後ろの般若がマズイことになりそうだと直感が告げていたので口を噤んだ。

 

「じゃあハジメ君とそんなに仲良くなったんだ?」

 

「そう解釈されますか⁉︎神の使徒の方々の中では王都にいて様々な功績を上げている以上どうしても情報が多く入ってしまいます!不可抗力では⁉︎」

 

「ウー、ウー!私も明日ハジメ君の家に行く!」

 

「明日は仕事とのことでしたので家を訪ねてもいらっしゃらないかとお思いますが……」

 

「予定も把握してるの⁉︎」

 

「何を言ってもダメなのですか⁉︎」

 

 そんな年頃の少女達の、ちょっとした戯れもあったものの。

 白崎が最前線を離れるカバーストーリーは構築されていき、後はそのように振る舞うだけとなった。

 今後の身の振り方を決めた時点で、白崎は迷宮であったことを詳しくリリアーナに話し始める。リリアーナは生で見てきた白崎の話から状況を把握し、ベヒモスの規格外さを改めて思い知った。

 

「最強の冒険者が手も出なかった魔物とはそれだけ強力でしたか……」

 

「うーん。リリィ、正直に言うね。多分初めて会ったベヒモスなら私達も倒せたと思う。二ヶ月前のベヒモスは騎士団の人達が頑張ってくれたからって理由もあるだろうけど、主力の光輝君達が戦わずにトウラムソルジャーに囲まれた状況で、結局死者を出さなかった。ハジメ君の頑張りだって大きいと思う。けど、強くなった私達がハジメ君と他の九人がいなかっただけでベヒモス一体に負けるとは思えないんだ」

 

「では、カオリは今回のベヒモスは別個体だったと?」

 

 白崎の証言からも今回のベヒモスは体が傷だらけで、その上角も片方が途中からポッキリと折れていたらしい。しかも奈落に落ちかけたのに岩の橋を自力で作って這い上がってきたのだとか。

 前回は素直に落ちたのにそんな魔法か技能を持っていたとなると別個体と考えた方が得心できるほどに差異がある。

 だが白崎はうーんと考えながら、とんでもないことを言った。

 

「ううん。多分あのベヒモスは二ヶ月前と同じ個体だと思う」

 

「……?何か確証があるのですか?以前誰かが付けた傷でも残っていたとか?」

 

「そういうわけじゃないけど。あのベヒモスからハジメ君の魔法を感じたの」

 

「ハジメ様の魔法?となると錬成ですか?……奈落から上がってきた岩の橋とは」

 

「うん。土魔法でもできるけど、なんでか私はハジメ君の魔法だって感じた。本当に推測だよ?でも、すっごい怖い想像ができちゃったの。あのベヒモスは何でか食べたハジメ君の魔法を手に入れて、迷宮の底から上がってきたんじゃないかって。練成が使えれば上がってこられると思う」

 

 迷宮の構造の全てがわかっているわけでもなく、六十五階層から下はマッピングもできていないのでどうすれば上がってこられるかもわからない。

 そもそも人の肉を捕食して魔法を手に入れられるかと言われたらそれだって不明だ。

 だが体が傷だらけだったのは下の階層に行けば行くほど強い魔物がいるとされる迷宮の構造からベヒモスよりも強い魔物に遭遇して傷付けられたから。その魔物達に勝ち、強くなり六十五階層まで上がってきたのなら。

 奈落がどこまで繋がっているかはわからないとしても、六十五階層以降にいる魔物よりも強くなっていてもおかしくはない仮説だ。

 魔物研究家に聞くことが増えたリリアーナは心のメモに付け足す。

 

「カオリは技能に現れていませんが、ハジメ様の危機も前日に予知夢という形で見ていましたからカオリの直感というものを根拠がないからと一蹴していいものではありません。ベヒモスそのものの情報が少ないので練成や土魔法が使えたのかも不明です。使えたのなら前回使っていそうですが……。いえ、もしかしたら食べられたのがハジメ様だったから……?」

 

「どういうこと?」

 

「神の使徒というのは有史上初めての存在です。いわば神の使徒そのものが未知の存在です。皆様の天職はレアなものからこのトータスでも持っている方の多い天職まで様々です。ですが皆様は地球にいた時にはそのような力は使えなかったと聞いています。身体能力も以前より上がっていると。ならばそれはこのトータスに適応した際に産まれた力なのでしょう。本来天職とはその言葉の通り、産まれ持った時から決まっているものです。ですが皆様は後天的に力を手に入れました。……後天的に備わった力を、その力が埋め込まれた肉体を捕食して取り込めば魔物もその力を手に入れられるのかもしれません」

 

「……ッ!」

 

 リリアーナの推測に、白崎は顔を蒼褪めさせる。

 カルバニズムの話より何より、受け入れ難い仮説だ。

 それではまるで、死後も自分達を陥れられるかもしれない爆弾だ。いや、それが事実であり、広まってしまえば神の使徒を狙う輩も現れるかもしれない。食べればそれだけで強くなれるなんてことが知られて実際に行動に出てしまったら。

 それはもう、人間国家の終焉(ディストピア)だ。

 

「カオリ。これは何も信憑性のない仮説です。口外しないでください。身を守るためにも」

 

「……うん。絶対に口にしない。その可能性は魔物だけじゃなくて人間にも適応される、可能性もあるってことだもんね」

 

「あくまで可能性です。夜中にする話ではありませんでした……」

 

「ううん、リリィに聞いてもらえてよかったよ。今更だけど、相当危ない橋を渡ってたんだなって思えたし」

 

「カオリ、ベヒモスが使っていた魔法がハジメ様の魔法のようだったと、誰かに話しましたか?」

 

「ううん。メルドさんにも雫ちゃんにも話してないよ」

 

「ではそのことも誰にも話さないでください。できたら土魔法だったと全員が思ってくれた方が私の推察からも外れます。カオリがそう感じただけで事実とも限りません」

 

 リリアーナは魔物研究家にこのことを伝えることは絶対しないと決めた。研究者とは一例でもあったら偶然なのか何かしらの規則があるのかと調べようとするからだ。

 問題は山積みだと、リリアーナは頭を抱えながら自室のベッドで目を閉じた。

 

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