ありふれた錬成師とハイリヒ王女   作:エヒトルジュエの箱庭

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今回ちょっと短めかつあまり話進まないです。


7 環境と盤面を俯瞰する者

 数の少なくなった迷宮組が遠征を開始した。行程なども決定し、ようやく王国内をどう巡ってアピールをするのか、倒すべき魔物はどうするのか、諸々を教会と王国は決めたらしい。その出発は神の使徒の人数が少ないからあまり大々的にせず、静かに王都を旅立っていった。

 その前に新たに畑山の護衛に着く生徒も王都から出発していった。これは元永山パーティーの五人で、他の迷宮脱落組は白崎のように王都に残って仕事を探していた。自分の天職に見合った仕事をしようと既に働いたりしている。白崎も救護院で働き始めた。

 

 畑山は亡くなった二人のことはとても悲しんだものの、かといってそこで止まるわけにはいかなかった。引きこもってしまった生徒が王宮の保護を得られるように畑山が動く必要があった。その責任を畑山は取るつもりで遠征を続ける。

 ハジメは王都でずっと準アーティファクトの作成を続けていた。これが中々難しい。魔石も良質な物がなければそもそも作成ができない。魔石があってもそれを込める武器が貧弱では意味がない。良質な武具を作ることをずっと続ける。

 

 そんな最中、ハジメはどうにか手に入る情報を聞いて世界情勢を把握しようとしていた。

 帝国がフェアベルゲンに戦争を仕掛けたことや。

 迷宮組は負けなしではあるものの、倒した魔物もパッとしないだとか。竜種なんて地上にいるわけもなく、パッとしない魔物を倒した話は聞けたがそれだけ。それが魔人族との戦いでどう有利になれるかということには疑問だった。

 ハジメ達の工房が作る準アーティファクトを騎士団に送るため、迷宮組の様子を詳しく知っていたし、その逆も然りだった。メルド達から使用度の詳細なレポートが来ることとメンテナンスのために関わることが多くなり、迷宮組もハジメのことを詳しく知るようになる。

 

 準アーティファクトなため、純正のアーティファクトには一歩劣る。だが準ずるほどの性能があるのは事実で、実際騎士団の実力は上がっていった。彼らのレベルも上がっていき、戦争のための準備としては騎士団の人間にとっては遠征は良いものとなっていった。

 勇者達のレベルは全然上がらないが、騎士団のレベルは上がっていくので結果として戦争の良い準備になっていった。そして、ハジメの技術力を頼りに工房に訪れる者がいた。

 

 八重樫だ。

 彼女の本来の武器は刀だ。その刀は日本独自の武器でトータスには存在しない。そのため八重樫は知識もあり技術もあるハジメを訪れていた。

 ハジメは指名依頼ということで八重樫の話を伺ったが。

 

「……多分無理かな」

 

「……え?えっと、どうして……?」

 

「うん。まず環境が整備されていない。そして技術もない」

 

「……?ここ、工房よね?それで、南雲君は凄腕の錬成師でしょう……?」

 

 八重樫は意味もわからず聞き直す。八重樫としては特殊な武器だとはわかっているが、剣が作れるのなら刀も作れるだろうと思っていたのだがハジメ曰くそうではないらしい。

 

「あーっと、まずね?僕もオタクとしてちょっとは日本刀の知識があるよ?で、簡潔に言うとこっちにある剣と作りが違いすぎるんだよね」

 

「作り……?あの細身の刀身を作るのが難しいってこと?」

 

「ああ、うん。レイピアとか細い剣っぽい物もいくつかあるけど、刀は特に特殊で。そもそもあれ、武器としてはおかしいんだよ。斬れ味があって、耐久力もあって細いなんて。既存の武器とは構造が違いすぎてまずは技術の蓄積が必要だね。正直に言うよ。完成品がいつになるかわからない。もうすぐ戦争が始まるって言われてる現状で間に合わない可能性が高い。だから返答としては多分無理、になる」

 

 細い剣とか反れている剣などはいくつもある。だから類似品を作るだけならできそうだが、日本刀となると極端に難易度が上がる。日本でさえオーパーツと呼ばれるもので、何でこんなものが中世に大量生産できているのだと不思議がられている代物だ。

 ハジメには聞き齧った知識しかなく、実際の作り方や製法を直に見たわけではない。他の武具ならウォルペン工房でも作っている人がいたので見て学ぶということもできたが、日本刀はハジメにとっての師匠がいない。ハジメの力で全てどうにかしなければならない。

 だからこそ、多分無理という答えになる。

 

「時間さえあって、予算も潤沢にあれば何とかなるかもしれない。けど今の工房の状態を加味しても数ヶ月じゃできそうにないよ。一年貰ったってかなり厳しい。それが僕の答えになる」

 

「予算っていうのは……」

 

「神の使徒の給料じゃ全然足りない。予算って言ったけど、要するに素材集めに莫大なお金が掛かりそうだなっていうことと、設備投資にお金が必要になる。僕達は普段鋼とかを叩いて引き伸ばす鍛造(たんぞう)って方法に錬成を混ぜているんだけど、日本刀独特の反りを再現するための焼き入れをする設備がここにはないんだ。工房はもう手一杯だから新しい場所に専用の工房を用意する必要がある。これが設備面の予算の一側面」

 

「なるほど……」

 

 八重樫の質問にも丁寧に説明をしていく。

 ウォルペン工房は武器の製造のためにかなり機能的な造りをしていた。これ以上拡張するスペースもなく、かといって日本刀のためだけにスペースを作るほどの価値を今は見出せていないというのが比重の大きな理由だ。

 日本刀は確実に八重樫専用のワンオフ武器になる。癖のある武器なので習得には時間がかかり、元々慣れている八重樫でもなければすぐに使えるものではない。

 

 剣に慣れている人間は日本刀の斬るという感覚が合わない。剣は叩き潰すもので斬るという武器ではない。

 いくら神の使徒とはいえ、たった一人のための武器を莫大な資金をつぎ込んでまで作る価値があるのかと言われたら正直ない。それがウォルペン工房の総意になるだろう。

 良いカトラスかシミターを作るからそれで我慢してくれ、が限界だろう。

 

「で、素材の方も問題なんだよね。日本刀に用いられる玉鋼、それに似た鉱石は発見されていないし、作るならそれはまた別で製造場が必要になる。だから日本刀一本作るのにかなりお金と時間がかかるよ。まさか一本目で会心の出来が作れるとも思えないから、試行錯誤していくとなると時間がかかる。まず一年じゃ無理」

 

「南雲君は他にも仕事があるものね。私の刀作りに専念なんてできるはずもないか……」

 

「そういうこと。僕しかこの工房で知らない武器を他の人に作ってもらうのは無理だし、かといって僕も一つの武器に集中できるほど暇じゃない。だからこのトータスで日本刀を持つのはかなり厳しいと考えてほしい」

 

「理由にも納得したわ。ええ、この話はなかったことにしてちょうだい。南雲君を拘束するのは私も本意じゃないわ」

 

 八重樫は納得した上で工房を去っていった。物分かりが良すぎてハジメはびっくりしたほどだ。もっと引き下がられると思っていたばかりに。

 ハジメとしては八重樫という人物はよくわからない人物だった。地球の頃からよく勇者と一緒にいて、勇者を諫めるものの言葉だけで何の効力も持たない付添人。その美貌から学校でも人気の美少女で、家が道場を開いている。それくらいの情報しかなかった。

 そんな人間がトータスに来てすぐ勇者に便乗し、ずっと彼の側にいる。今も迷宮組として戦っている。日本に帰りたいという理由があるからか、視野が狭いのかわからないまま今日の物分かりの良さを見せられてどう理解しろというのか。

 

 白崎と幼馴染らしいので白崎から一方的に話されたことはあるのだが、本当は可愛いものが好きな普通の女の子らしい。それと道場の教えで門下生は全員家族同然、勇者も門下生だから気にかけているのだとか。

 それを聞いても結局仲が良くなく、接点も少ない人間だからかあまり興味を持てない人物だった。

 もしもハジメが八重樫に恩義でも感じていたら少しくらい無理をして刀を造ったかもしれないが。

 地球でもこのトータスでもそんな恩義はなく、そこまで突き動かされるような情熱を持てなかった。オタクとして刀を造りたい欲はあるものの、現実的に不可能なものを無理に造って工房の皆に迷惑をかけるくらいなら我慢する。

 それに今だってかなり仕事が溜まっている。追加の残業なんてする暇はなかった。

 

「まずは畑山先生の護身用の準アーティファクトを用意しないと……。あの人、戦闘用も護身用も魔法が使えないからなぁ。身を狙われる可能性の高い天職だから、下手したら勇者よりも優先されそうだし……」

 

 それが教会のオーダーだった。聖絶の盾を作った時点で畑山の身を守れるような準アーティファクトの作成を依頼され、畑山の重要性がわかっているハジメも即了承。

 なるべく小型で高性能で、それが護身用の物だとわからないような物を作らなければならず中々に難航しているところだ。

 高性能の魔石をカットする技術はかなり様になり、掌に隠せるレベルまで小さくしても魔石の効力が変わらないようにはできた。あとはその小さな魔石に構築式を埋める作業なのだがこれが中々難しい。

 大きな魔石でさえ複雑な構築式を埋めるのは大変な作業だ。それをあえてカットした容量の少ない魔石に埋め込むのはもっと時間がかかるし技術も必要になる。

 

 最近のハジメは小さな魔石に構築式を埋め込む作業のみをしていた。失敗しても良いように低性能の魔石で練習して感覚を掴み、それから高性能の魔石を用いることにしている。

 今の所胸を張って渡せる物は一個だけだ。この一個だけでは絶対に足りないので他にも用意しようとしているところ。

 この日も朝方近くまで作業をして、工房から出ていく。集中力をかなり使って疲れた頭で何とか家に帰ろうとする道中に聖剣も聖鎧も装備していない状態の勇者が立っていた。ハジメは幻覚だろうと思って横を抜けようとしたが、肩を掴まれた。残念ながら本物だった。

 

「おい南雲。どうして雫に刀を造ってやらないんだ」

 

「……理由は全部八重樫さんに言ったよ。それ以外の理由なんてない」

 

「彼女は本来の得物と違うから実力を発揮できなくて悩んでるんだぞ!可哀想なクラスメイトのために頑張るのが普通の人間の心だろう?お前は錬成師なんだから、前線にいる俺達のために武器を造ることが──」

 

「ふあ〜ぁ。錬成」

 

「うああああああ⁉︎」

 

 あくびをしつつ、ハジメは足と手の両方で錬成を行って勇者を地面の奥底へ叩き落とした。手の方はハジメの衣服を滑りやすくさせて勇者の手を体から離し、足の方は地面に穴を開けて勇者を叩き落とした後に生首状態にして首以外は動かせないようにみっちりと隙間は埋めきって密閉した。

 深夜の道の真ん中に生首の勇者が出来上がっていたが、これを助けようとするものはいない。今が陽の昇る前のド深夜で人通りなんて皆無だからだ。

 ハジメはキョロキョロと周りを見渡して、さっきまでいた勇者がいなくなっていることに気付いた。というか自分でやったと理解していなかった。眠かったから。

 

 声も幻聴だろうと思い、もう一度あくびをしながら家に戻っていった。後ろから自分の名前を叫ぶ声が聞こえた気がしたが、気のせいだろうと帰る。

 シャワーを浴びて寝て、次の日も仕事に向かおうとしている最中で勇者生首事件なる単語が聞こえたが、あの勇者はまた何かやったのかと思うだけで気にせずに工房へ向かう。

 工房ではいつものように仕事をして、夕食では()()()()仕事終わりに同じ店にいた白崎と一緒に食事をすることになって少し話をすることになった。

 ハジメの夕食の時間帯と行きつけのお店を把握しているとか、そんなことを学校でも有名だった白崎がするわけナイナイ。

 

「白崎さん、仕事の方はどう?」

 

「急患とかもいないからゆっくり仕事をしてるよ。戦線から離脱した人の治療がメインで、そういう人がいなければ王都の調子が悪い人を診てるかな。風邪とかも魔法で治せちゃうんだから不思議な力だよ」

 

「本当に不思議だよ。地球にいた時はこんな力使えなかったのに」

 

 それが異世界ファンタジーというものだろうと思っても、全部に納得ができるわけではない。魔法という意味不明な何かを外付けされたようで気色悪くさえ思えてしまうのだ。どうやって使えるのか、どんな効果か、頭に勝手に浮かんでくる。

 ハジメだって異世界ファンタジーを好んでいたためにカッコよく活躍することを夢見なかったわけではない。ただ実際に使えるようになったら怖いと思ってしまっただけだ。

 そんな話をしていると、白崎が一つ話を振ってきた。

 

「あのね、ハジメくん。私一人暮らしすることにしたんだ!」

 

「へえ。王宮から出るんだ。でもどうして?」

 

 衣食住が保証されている場所を、ハジメのように危険があるからと逃げ出すとは思えなかったので純粋に疑問だった。

 だが、話を聞くとそうでもないらしい。

 

「ほら、私達の中に治癒師って私と辻さんしかいなかったでしょ?それで私も辻さんも最前線から離れたから王国からも教会からも復帰してくれって言われちゃって。辻さんもそういうことが嫌で愛子先生に付いて行ったんだよ?」

 

「あー……。何というか、僕達を個人として見ていないというか……。まるで道具扱いだね」

 

「そう!それに怒っちゃって!それに今日、光輝くんがすっごい険相をして戻ってきてくれって詰め寄ってきて……。怖くて、王宮に居れないと思ったの。光輝くんは帰ってきたら王宮に絶対来るでしょ?もう顔も合わせたくなくて……」

 

「うわぁ。想像がつく……」

 

 八重樫が帰ってきていたので勇者も遠征から帰ってきたことは把握していた。だからまた変な理論で突っかかってきたのだろうと想像ができてしまった。

 自分だけではなく幼馴染の白崎のことでもそうなるのかと、勇者の人間性にドン引きしていた。

 

「あの人、何かあったの?今朝って言っても昼近くだったか。何だか大通りで勇者生首事件とか聞こえてきたけど……」

 

「さあ?でもハジメくんのことすっごく悪く言うんだよ⁉︎メルドさん達騎士団が使う武具は所詮アーティファクトに敵わないだとか、雫ちゃんに刀を造ってやらないなんて最低だとか、俺だったらすぐに造ってあげるのにとか‼︎一日で造れないなんてハジメくんのこと大したことがないとかさ!酷すぎない⁉︎ハジメくんがどれだけ頑張って仕事をしてるのか知ってるし、雫ちゃんからも断った理由聞いたし、武器を作るのにどれだけ時間がかかるのかも知ってるし!なのに口を開けばハジメくんの悪口ばっかり!あれがダメだこれがダメだって私の言葉を聞かずに捲し立ててくるし、私が反論したらハジメくんに洗脳されてるとか言い出したんだよ!もう、私お腹の中グルグル〜ってなっちゃって‼︎」

 

「ちょ、ちょっと白崎さん!ストップストップ!ここお店の中だから!」

 

 ヒートアップして立ち上がってしまった白崎を宥める。白崎もお店の中の注目が自分に集まっているとわかって顔を赤くしながら席に着いた。そんなに大きくない食堂だ。かなりの大声だったので内容は丸聞こえだっただろう。

 お店の中の人達も気にした様子はなかった。というよりこのお店の近くのウォルペン工房での一件を知っている者ばかりだった上に今朝発見された埋められた勇者の姿を見てしまっている。

 勇者にそこまで期待しておらず、心配になっている者ばかり。最近は神の使徒ではなく騎士団に戦争は期待している。

 ハジメと白崎はご飯を食べることに戻りつつ、一人暮らしのことを聞くことにした。

 

「やっぱり王宮から離れた場所で家を借りるの?」

 

「うん。リリィに頼んでもう場所も決めたんだ。ハジメくんの家の近くだよ?即日で家を借りられたんだ」

 

「え?」

 

「あの辺り、治安も良いし安くてオススメなんだって。職場からもそんなに離れてないし好立地」

 

「穴場なのかな……?それともあそこが王族の管理する地区だったり……?」

 

 二人はご飯を食べ終わったら別れて、ハジメは工房に、白崎は自分の家に戻る。

 この家を借りるという行動を王宮が嫌になった者は真似をし始めた。遠征組は王都に滞在する際は宿を借りることにして王宮に立ち寄らず、王宮から出て行く神の使徒もポツリポツリとで始めた。

 リリアーナはこの事態に教会と王国の威光と信用がなくなっていると思ったものの、そう判断されても仕方がないことばかりしているので当たり前の結果だと受け入れた。改善しようにもリリアーナにそんな権力はなく、できることと言えば良い借家を紹介してこれ以上の不興を買うことをしないようにするだけ。

 リリアーナはハジメの言葉を思い出していた。

 

「どうにか餌を与えて、残ってもらえるように枷をつけて。……本当に教会も王国も、神の使徒の皆様を奴隷としか思っていないのですね……」

 

 最近の国王の様子は酷い。教会が言ったことはすぐに二つ返事。大貴族が意見を述べても封殺される。そんな国王に疑惑の目線を向ける者も多くなってきた。

 この状況を変えるには魔人族との戦争に勝つしかないだろう。だが頼みの綱だった勇者は問題行動ばかり。

 先行きが不安になることばかりだ。

 明日はハジメに会いに行こうと考えていた。彼の近くは癒される。自分の罪を自覚するもののそれ以上に彼の在り方は心を救われる。

 彼がいて良かったと、心の底から想って眠りにつく。

 

 彼だけは奪わないでくださいと、神に祈りながら。

 

・・・・・・

 

 そこは澄んだ空気、荘厳な建物で形成された神の居城。トータスのどこにも存在せず、しかしトータスの何処かではある神域。

 精巧な顔つきをした教会のシスターが一人、そこでひざまづいていた。それは敬虔な信者が神の言葉を賜るかのように。

 

『そうか。フェアベルゲンが落ちたか。帝国を残していて正解だったな。魔法も使えぬ弱小種族は所詮その程度か』

 

「本来であれば勇者一行が攻め落とす予定でしたが、いかがいたしましょうか?」

 

『構わん。あの勇者の力を肥え太らせるまでの余興として面白かった。それに帝国が強くなった方が本番も楽しそうだからな。このまま放置しておけ』

 

「は」

 

『だがしかし……。勇者は見ていて飽きんな。滑稽すぎる。愛憎、倫理観、正義と悪。ここまで心がグチャグチャな人間は見たことがない!そして欲塗れだ。醜悪さをよく示した、格好のサンプルではないか。こちらが何をせずとも暴走する。ああいう道化は何をするのかわからんからこそ面白い。クク、ベヒモス如きに敗走する人間種の救世主はお笑い種だったぞ?』

 

「恐れながら主よ。あのベヒモスは強くなりすぎました。今では私と互角の戦闘能力を保持しております」

 

『む?ノイントほど強かったか?突然変異種にしても強いな。……しかし、私の器になるのだ。ノイントは超えてもらわねば困る』

 

「私が鍛えますか?」

 

『まだお前というカードは残しておきたい。──勇者達のいた世界にはこういう言葉があるらしくてな?『三度目の正直』、だそうだ。わざわざノイントが出ずとも、ノイントと同格がいるのだろう?それをぶつければ良い』

 

「器は壊れないでしょうか?今現在の器はとても脆い。脆すぎます」

 

『ノイントは人間についてまだ造詣が深くないな。人間は戦争などの末期状態、危機に瀕すると強くなるのだ。勇者にもそういう仕掛けを一つ()()()()()。条件がいるが、まあ簡単に発揮されるだろう。本当なら本番で起こしたかったが、いささか魔人族を強くしすぎてバランスが崩れているからな。これくらいのテコ入れは必要だろう』

 

「ではイシュタルを動かしてオルクス迷宮へ行かせるように仕向けます」

 

『ああ。適当にベヒモスから逃げたことを流布させて逃げ道をなくせ。教会でも庇えなくなったという状況にすれば行かざるを得まい』

 

「すぐにでも」

 

 その場に一人しか居なかったはずなのに、二人が会話をしているようであった。ノイントと呼ばれたシスターはすぐに去り、教皇を動かす。

 次の遠征から帰ってきた後、勇者一行は再びオルクス迷宮を目指すこととなった。

 

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