キコ族の少女   作:SANO

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第2話「入団面接?」

 到着した流星街にある廃墟ビルの中で、俺はノブナガの影に隠れるようにしながら、ダラダラと冷や汗が流れ出ているのを背中で感じていた。

 

 

「へえ、その子が昨日拾ったとか言ってた女の子?」

「そうだ」

 

 

 肯定の返事をするノブナガの声を聞きつつ、俺と同じ目線になるように腰を落とす―――茶髪のなんというか出るとこが出すぎている女性―――パクノダ。

 顔は……うん。最初の頃の顔じゃなくて、美人に描かれ始めた後半の顔だ。

 いや、そんなことはどうでもよくて……今、注意すべきことは彼女の念能力である。

 

 もしも、彼女に記憶を見られたら?

 現在「私は記憶喪失で、気がついたらあそこにいました」という設定でノブナガと会話しており、ここに来るまでの道中に何か思い出すかもという前置きで、漫画では描かれなかった世界のことを聞いていた。

 そんな中で「今は何年ですか?」と聞いたところ「1995年だ」と答えが返ってきている。

 

 確か、2000年から物語がスタートするはずだから、今持っている知識は俺というイレギュラーな存在により変わるかもしれない可能性を考慮しても、知られては困る情報が満載だ。

 

 ゴンと彼の仲間は物語の最重要人物であり、特にクラピカに関しては幻影旅団とは深い関わりがある。

 そこを俺を記憶を使って変に改変されると、対キメラアント戦の流れが大きく変わってしまう。

 良い方向へかもしれないが、同じくらいに悪い方向へかもしれない。

 最悪、キメラアントの勢力基盤が安定してしまう状況になったら終わりである。

 

 ということで、パクノダから距離を取るためノブナガの体を盾にするようにして間違っても触れられないようにする。

 まあ、それだけが理由ではなく。

 他の団員……シャルナークやらマチ、フェンクスにフランクリン……初期メンバーの半分以上が、何故かここに集結しており、その視線すべてが俺へと注がれているため死角になるノブナガの後ろへ隠れるしかないのだ。

 ただ視線を向けられているだけなのに、重量のある何かが体全体を包み込んでいるような感覚。

 

 

「がはははっ、嫌われたなパク」

「……私ってそんなに怖いからしら?」

 

 

 いえ、貴女という人が怖いのではなくて貴女の念能力が怖いのです。

 ということで、ノブナガの庇護下に居る以上は、接点が多そうなので今後のために変な誤解をされてはと、首を左右に振って一応は否定しておく。

 それに結構好きなキャラだし……団員想いな所とか、非情になりきれない人間らしさとか、犯罪者だけどね。

 

 子供らしい行動による俺の否定に、パクノダが幾分か顔を和らげる。

 そして俺に近寄ることを諦めて、小さく手を振ってきたので、恥ずかしいが振り返した。

 やっと一息つけそうかと、思った瞬間。その声が響いた。

 

 

「珍しいな。お前が子供を拾ってくるなんて」

 

 

 後ろから聞こえたその声に、手を振っていた俺は一瞬で凍りついたかのように動けなくなった。

 そう、まさに蛇に睨まれた蛙のような……

 

 

「おっ、団長」

 

 

 嬉々とした声を上げつつノブナガが体ごと向きを変えた為に、引き摺られるかのように俺も声の主のほうへと体を向きが変わり、彼の台詞どおりの人物が俺の眼前へと現れた。

 

 こ、これが団長のクロロ!!

 オールバックにした黒髪と、額に十字架の刺青があるイケメンだ。

 前世(?)での女友達が大好きなキャラだと言っていたが……うん、実物を見て納得できる。確か現実にいたらアイツが惚れそうだ。

 そんな彼が、俺に品定めするような視線を遠慮なく送ってくる。

 

 ―――はっきり言って、死にそうです。

 

 キルアの言う通り、この人の視線を直には受けたくないです。

 顔が整っているイケメンだから、なおさらヤバいし怖いです。誰か助けて……。

 

 

「ん?こいつ……キコ族か?」

「キコ族?」

 

 

 団長の呟きを聞き取ったマチが疑問の声をあげた。

 フリーズ状態の俺にも聞こえたので、意外と余裕があったのか心の中で首を傾げる。

 

 そんな部族あったっけ?クルタ族ならクラピカの部族だと思うけど……キコ?

 いや、存在はしてるけど紹介されてなかっただけかもしれない。

 

 

「ヨークシンを中心に遊牧民生活をしていた少数部族で、町の開発と共に部族は消滅したはずだが……」

 

 

 そういって、俺に近づいてくるとゆっくりと俺へ手を伸ばしてくる。

 ただ、手を伸ばしているだけなのにクロロからは異様なほどのプレッシャーというか圧力が俺へと圧し掛かってきて、無意識に目を瞑り、最初から掴んでいたノブナガのズボンを破けるほどにしがみ付くと、体を硬くさせる。

 幻覚と分かっているはずなのに俺を軽く握りつぶせるほど巨大に感じる彼に、意識が飛びそうになり、目端から涙が溜まっていくのが感じられる。

 

 

「怖がるな。別に取って食うわけじゃない」

 

 そういうと指先で俺の顎持ち上げて、恐怖で固まりつつも恐る恐る目を開いた俺の顔を覗き込んだ。

 その際、フードが外れてしまい今まで隠れていた顔が全員の視線にさらされることなり、より一層体を硬くさせることなる。

 

 

「……間違いないな。”ダイヤの瞳”と呼ばれる右目に、闇に溶けるような黒髪。キコ族の特徴だ」

 

 

 顎から手を離すと、今度は露になった俺の頭を軽く押し撫でる。

 少々乱暴な感じがするが、逆にそれが少し気持ちよくて、硬くなっていた体が少しほぐれると共にノブナガが出かける際に言っていた「目立つ」の意味が理解できて、少し顔が綻ぶ。

 まあ、それも次の会話を聞くまでの短い間だったが

 

 

「で?ノブナガはこいつをここに連れてきて、どうするつもりだ?」

「団長、今すぐにじゃねぇがこいつを入団させねぇか?」

 

 

 ……Why?

 俺を幻影旅団へ入団させる?……待って待って待って!!何その死亡フラグ!!

 というか、ちょっと念が使えるかも程度のガキを入団させるなんて何考えてるの!?あ、自分で言って少し傷ついた。

 

 

「……理由は?」

「こいつは育てれば絶対強くなるね」

「根拠は?」

「……勘」

 

 

 やめてー!!勘で俺の将来を決めないで!!

 助けてくれたのは嬉しいけど、それとこれとは別だから!!

 

 

「おい」

「ひゃいっ!?」

「強くなりたいか?」

「ぁ……ぅ……」

 

 

 撫でていた手で俺の顔を自分の方へと向かせたクロロからの突然の質問に、俺は変な声をあげつつ何を言っているのか理解できなかった。

 更に、やっと開放された視線の重圧が再び襲ってきて、ただでさえ緊張で混乱している思考が更にヒドイ事になっていく。

 それでも、答えないと危険と言う脅迫概念に圧されるように無意識に聞かれた内容を考える。

 

 強くなりたいか?

 当然だ。キメラアントに殺されたくないから、強くなりたい。

 でも、なぜ俺の意見を聞く?

 俺の意思確認?そんな馬鹿な

 じゃあ、何で俺の意見を聞くの?

 俺の意思確認?……まさか、ありえない

 じゃあ―――――――

 

 

「どうなんだ?」

「っ!……つ、強くなりたいです!」

 

 

 グルグルとループしていた思考がクロロの一言で、即決されると同時に、俺の口から決定された内容が悲鳴のような声で響く。

 

 

「……ノブナガ、言ったからには責任もて」

「!!、悪りぃな団長」

 

 

 あ、あれ?

 もしかして、俺の一言で入団が決定?ちょっ、嘘だろう!?

 ……あ、目の前が……

 

 このビルに到着してからの重圧やストレス&入団という強烈な一撃で俺は意識が薄れ、その場に崩れ落ちた。

 

 

 

**********

 

 

 

 時折、夢の中で「これは夢だ」と自覚できるときがある。

 結構なスピードで走る車の後部座席で、外の景色と窓に映る自分の……少女の顔を見ながら「今がそうだな」と思った。

 

 そんな俺を乗せた車はしばらく走り続けた後に街の光を背にして、ある場所で停車した。

 

地下鉄のプラットホームへと続く階段

 

 都心では見慣れたものだが、入り口に「立ち入り禁止」と書かれたプレートがあるだけで、それは別の何かに見えた。

 その風景に少し萎縮していると、俺のすぐ脇にあったドアが開き外の魚が腐ったような悪臭と、肌を刺すような寒さが俺を襲った。

 

 

「―――、着いたわよ」

 

 

 ノイズのかかった声を聞いて無意識に相手の顔を確認しようとするが、ピンボケした写真を見ているように霞んでいて相手がどんな顔か分からない。

 服装と声から妙齢の女性とは分かるが、それまでである。

 「誰?」と聞こうと口を開くよりも早く、体が勝手に動き車から降りた。

 

 

「こっちよ」

 

 

 そう言って歩き出す相手の後を追って、またもや勝手に歩き始める自分の体。

 突然の事態にパニックを起こしそうになるが、これは夢の中だということを再確認して安堵すると共に、事の成り行きに身を任せてみようと抵抗を諦めた。

 

 俺の妨害などあってないようなものだったので、少しも変わらず体は勝手に動き続けていき、階段の手前まで移動すると先頭を歩いていた女性が振り返った。

 すると、いつの間に手にしていたのか小さな鞄を俺へと差し出す。

 

 俺(の体)は、一言も声を出さずに鞄を受け取ると進入禁止のロープを躊躇なく潜り階段を下っていく。

 

 不気味な風の音と、闇に溶けていく自身の体に、自然を身震いをしてしまう。

 しかし、俺のそんな状況を無視して階段を下りていく体はどんどんと闇へと飲み込まれていき……。

 古いブラウン管のテレビの電源を切ったときに聞こえる”ブツン”という音と共に意識が途切れた。


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