キコ族の少女   作:SANO

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第26話「お気に入り登録」

 ノストラードファミリーとは?

 組頭の娘、ネオンの能力“未来予知”を顧客に有償で提供することで得た多額の活動資金で、片田舎にある小さな組から十老頭直系組に匹敵するまでに急成長した組織である。

 しかし、幻影旅団の団長クロロにネオンの能力が盗まれたことで、彼女の能力に依存することで得た地位だったために組織は崩壊していった。

 俺の記憶だと、クラピカが若頭となって“緋の目”集めをしていたような気がする。

 

 さて、何の前触れもなしのこの説明であるが、これにはちゃんとした理由がある。というか分かりやすすぎる前フリだから分かっていることだと思うが……。

 

 エミリアが世話になっている資産家というは表の顔で、本当の顔はノストラードファミリーなのである。

 マフィアとの繋がりを持ってるとか、エミリアの両親はいったい何者なんだ?という疑問があるが、今考えたところで意味がありそうにも思えないから横に置いて、これからの事へと目を向けよう。

 

 契約の際に、エミリアの庇護下に入るという一文があったのだが、彼女もまたノストラードファミリーの庇護下にいるために、半自動的に俺も彼らの庇護下に入ることになった。

 というか、エミリアはそれを狙って俺との契約の際に、庇護下云々の一文を入れたのだと入院中の雑談で教えてもらっていた。

 居候の身でそんな勝手が許されるのか?と思ったのだが、ネオンの相手をしていることで多少の事は目を瞑ってくれているとのことで、そういえばワガママ娘で周囲が苦労している場面があったなと原作の内容を思い浮かべて納得した。

 

 これによって、俺を狙うということはノストラードファミリーを敵に回すという図式が出来上がった。

 

 まあ、原作どおりに進んでいくと2000年9月にヨークシンシティで開催されるオークションを頂点として、組織の力は急降下して崩壊していくことになるだろう。

 となれば、今は1999年3月だから1年半という有効期限付きの庇護となるが、同時にマフィアが壊滅的な被害を受けるので俺を狙う輩は今よりもずっと少なくなっているだろう。

 もしくは、フェイタンが盗んできたグリードアイランドにでも修行を兼ねて逃げ込めばいいだろう。実際に、指名手配犯が逃げ込んでいるしね。

 

 

 といった感じの現状理解を終えたところで、エミリアが拾ったタクシーでノストラードファミリーが所有する屋敷へと向かっているのだが、屋敷に入る前にボディガードからの取り調べを受けることになっている。

 十数分ほどで、テレビでしか見たことのないような広い庭を有する豪邸の門の前まで到着し、車から降りたと同時にどこからか4匹のドーベルマンが現れて俺を取り囲んだ。

 そんな俺の状況からタクシーの運転手は何を感じ取ったのか、エミリアから料金を引っ手繰るように受け取ると、挨拶もそこそこに甲高いエンジン音を響かせながら逃げるように走り去っていった。

 

 

「……随分と可愛らしい歓迎ですね」

 

 

 名前は忘れたが、確か犬を使役する男の操作系能力者がボディガードの中にいたから、これは彼の仕業だろう。

 変装中はフードの中に隠れていたテトが、今は俺の足元でドーベルマン相手に全身の毛を逆立てながら威嚇し返しているのを眺めつつ、余裕のある風な台詞を吐いてみる。

 

 

「こいつらに囲まれて、そんな台詞を吐ける嬢ちゃんは少し可愛くないな」

 

 

 門を支える柱の陰に薄っすらと感じた気配が、急に濃くなるとともに額に豆のようなポッチをつけた顔の濃い長髪の男が、ラフな格好に似合った軽い口調で登場した。

 そして、彼の顔をトリガーとして俺の記憶から、ノブナガに首を撥ね飛ばされる彼の姿や、女に股間を踏まれて喜ぶ姿などが閃きのように浮かび上がった。

 

 

「ドMっぽい人」

「ブッ……」

「……言っておくが、俺にそんなケはないからな」

 

 

 蘇った記憶に乗せられてポロリと零れた独り言に、隣に居たエミリアは何のツボに入ったのか分からないが、口を押えて防ごうとしたものの間に合わずに吹き出した。

 一方、俺にドMと呼ばれた男は一瞬だけ唖然とした表情を浮かべたものの、子供の挑発と受け取ったのか大人の対応として少し引きつった笑みだが、一言注意を言ってから「ボスの元へ案内すると」傍に別のドーベルマンを従えてから屋敷に向けて歩き出した。

 

 さすがに失礼過ぎたので失言であったとして謝罪をしてから、未だに口を押えて何かに耐えているエミリアを促しつつ、足元で威嚇を続けているテトを抱き上げてから彼の後を追った。

 

 

「ダルツォルネだ」

「ユイ=ハザマです」

 

 

 エミリアからの口添えがあったからか、門でのやり取りによる結果なのか分からないが、屋敷へと通された俺は、そこでエミリアと別れて執務室のような場所に通されると、厳ついオッサンと侍女二人が出迎えてくれ、先の発言となった。

 目の前の厳ついオッサンの顔と名前を脳が理解した瞬間に、埋もれていた記憶が閃きのように浮かんでくるが、今度は意識して口を閉じることで門の時のような失言を抑え込むことに成功した。

 

 

「さて、早速だが眼帯を外してもらおうか」

「……分かりました」

「……ほう」

 

 

 抱えていたテトを足元へと置くと、右目を隠していた眼帯を外して“ダイヤの瞳”と呼ばれているキコ族の特徴の一つを目の前にいる三人へと晒した。

 ダルツォルネは感情のこもっていない溜息のような一言だけで済ませたものの、両脇に控えていた侍女の二人は大きく目を見開いたりして素直に驚きの感情を表した。

 

 

「確かに記録通りの特徴を有しているようだな」

「……」

「調べても天空闘技場以前の情報が出てこない事と関係はあるのか?」

「流星街で暮らしていたからだと、思います」

「流星街だと?」

 

 

 探るような視線を向けてくるダルツォルネに、俺は真正面から応えるように視線を投げ返す。

 嘘は言っていない。ただ幻影旅団の元で暮らしていたという真実を、語ってないだけである。

 俺の情報がない理由を聞いたのだから、それに対して簡潔に答えただけなのだ。どこも問題はないのだ。

 

 

「お前は―――」

「おっそーい!!」

「ひゃん!?」

 

 

 俺への更なる質問を投げようとしていたダルツォルネの言葉を遮るかのように、ドアが乱暴に開け放たれる音共にエミリアと同じ年齢ぐらいの少女の声が部屋中に響いた。

 人の気配を感じては居たものの、まさかノックもなしに入ってくるとは思わなかったので、思わず肩をビクつかせるとともに口から見た目相応の小さな悲鳴が零れてしまう。

 慌てて口を塞ぐも時すでに遅し、聞こえてしまったらしい侍女の二人から生暖かい視線を向けらてしまい、そこに含まれる感情を察して、頬が熱を持ったように熱くなるのが分かった。

 

 

「エミリアが連れてきた子、早く連れてきてよ!」

「ボス。まだ話を聞いてる最中で――――」

「あっ、この子がそうなの!?」

「……初めましt―――」

 

 

 ダルツォルネと会話をしつつも彼の返答を遮るかのように言葉を重ねながら俺へ近づいてくると、顔を見るためにしゃがみこんだ少女は、原作で見ていた顔より幾分か幼いが、ノストラードファミリーで組頭以上の重要人物ネオン=ノストラードだろうことが一目で分かった。

 

 先ほどの会話から、俺に対してそれなりの興味を持っているようなので、初対面の相手への基本として挨拶の為に頭を少し下げたところで横から迫ってきた手に、頭をホールドされてしまう。

 もちろん手の主は目の前にいるネオンであり、彼女は俺の頭を固定するとグイッと顔を近づけてきた。

 可愛らしい顔が目を輝かせながら、少し俺が前に顔を出せばキスできてしまう距離まで迫ってくるのだ。異性だ同性だなど関係なく、顔を真っ赤に染めてしまった俺は普通の反応だと言いたい。

 決して、ロリコンではないのだ。

 

 甘酸っぱい香りがするなとか、柔らかくてスベスベした手だなとか、まつ毛が凄い長いなとか……

 

 そう、そんな不埒な事は思ってはいないのだ。

 

 

「わー、きれーい。本当にダイヤみたいな輝き方をするのね」

「あ、あの……」

「髪の毛もすっごくキレイ。こういうのって漆黒っていうんだっけ?」

「……ぁぅ」

 

 

 右目をいろんな角度から見るために頭をシェイクされるかのように振られ、髪の毛を見るためにクルクルと独楽のように回転させられて、新しい玩具に夢中になる子供のように……あっ、名実ともに彼女は子供か。年相応な感じで、俺を振り回す彼女を止めてくれる者はいない。

 原作でのワガママぶりを知っている俺としては、変に抵抗して機嫌を損ねてしまったことで、庇護の話を取り消されては困るので抵抗らしい抵抗をすることが出来ない。

 俺を取り調べていたダルツォルネは、ひどく疲れた表情で何処かへと連絡を取っているようだし、横に控えていた侍女たちは巻き込まれないようにと、微妙に距離を取られてしまっている。

 

 結局、ネオンが一先ずの鑑賞終了ということで、区切りをつけてくれるまで俺は振り回され続け、終わったころにはグロッキー状態の俺は自力で立つことが出来ずに、その場で崩れ落ちるかのように座り込むことになった。

 

 

 ちなみに、ネオンの乱入前まで俺の足元にいたテトは俺を助けるためにネオンを攻撃しないようにと、部屋の外で待機してたスクワラの手によって、捕獲されていたらしい。

 事後に解放された彼は、グロッキー状態で座り込んでしまっている俺を元気づけようと、肩まで一息に上ってくると頬を必必なって舐めることで元気づけようとしてくれる。

 それで幾分か気分が上向きになってきたが、満足げな表情をしたネオンからの言葉で再び沈むことになった

 

 

「私、この子が気に入っちゃった」


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