紗夜さんに甘えたいっ!   作:柳芽帆奈

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第一話「プロローグ」

 俺の名前は淡路崇禅。ある一点を除いて至って普通の大学生だ。

 

 そしてそのある一点。それは……

 

「さよーつかれたー」

 

「はいはい分かってますよ」

 

「頭撫でてー」

 

「もう……仕方ないわね」ナデナデ

 

「ふぇ〜、疲れが吹っ飛ぶ〜」

 

(その腑抜けた顔、好きよ……もっと見せて♡)

 

 俺の彼女がプロのバンドのギタリストって事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Roseliaというバンドがある。ボーカルの湊友希那をリーダーとする、圧倒的な技術を擁した実力派バンドで、最近ではプロデビューを果たし、全国ツアーも決定するなど確実にスター街道を歩み始めている注目の存在である。

 

 そんなRoseliaのギターを担当するアイスグリーンの長髪をたたえた少女、それが氷川紗夜。

 

 彼女と俺は元々は同じ花咲川学園高校の学生で、たまたま席が隣同士だった。

 

 ある時は……

 

「氷川、悪いんだけど替え芯一本くれないか?ちょっと買い忘れちゃって……」

 

「……どうぞ」

 

 またある時は……

 

「氷川氷川、そっちに消しゴム落ちてない?」

 

「落ちてませんよ」

 

「困ったな……どこに落としたんだろ」

 

「……良かったら一緒に探しますよ?」

 

「いいのか?助かる」

 

 これまたある時は……

 

「ぐっ……ノートクソ重い。いくら男だからって全員分運ばせるってそりゃねぇよ……あっ、やべ!前に人が!」

 

 ツルッ

 

「ふぇ?」

 

 ゴチンッ!

 

「あだっ!?」

 

 バサバサバサ……

 

「痛たた……うっわ、どうしよこれ」

 

「あ、淡路さん!どうしたんですか」

 

「あっ、氷川……実は」

 

 事の顛末を話すと……

 

「はぁ、ちゃんと前を見ないと駄目じゃないですか!」

 

「面目ねぇ」

 

「もう……仕方ないわね。手伝いますよ」

 

 ガサガサ

 

「ごめんな、時間とらせちゃって」

 

「いえいえ、貴方のおっちょこちょいな所を見てたらついつい手伝いたくなるんですよ」

 

 とまあ、おっちょこちょいだった俺は几帳面な彼女に何かと世話になっていて、最初は冷淡だった彼女も次第に俺に頼りにされてるのに満更でもなくなってきた。

 

 こうやって彼女との繋がりが濃くなってくると互いの事を知る機会が増えていった。そんな時に紗夜がうっかり発した一言でさよひな氷河期を知った。最初は「貴方には関係ない事です!」と拒絶されてしまったが、食い下がり続けてたらやっと話してくれた。

 

「日菜が……妹が、怖いんです。妹は所謂天才で、何でもフィーリングで出来てしまうんです。私が何かを始めたら日菜もそれを始め、あっという間に私を追い越していく……私が積み重ねていった努力を一瞬でかき消してしまうんです!」

 

 話すたびに語気が強くなって、その目からは涙も溢れている。氷の風紀委員の異名を持つ彼女のこんな弱い所を見るのは初めてだった。

 

「だから日菜には最近ギターを始めた事は教えていなかったんです……でも、バレてしまってギターを始めてしまった。私には……私にはギターしかないのに!これ以上私から奪わないで……」

 

「……氷川」

 

 ギュッ

 

「!?」

 

「……氷川は氷川だよ。何者でもない。追い越されるのが嫌なら逸れたらいい。『氷川紗夜』にしか出せない音を追求したらいいんだよ。いくら天才とはいえ、個人の癖までは真似出来ないだろうし」

 

「……」///

 

「それに……ちょっと出しゃばりすぎかもしれないけど、妹さんとは話したの?」

 

「……いえ、最近は必要最低限の会話しか」

 

「そうか……なら一旦面と向かって本音ぶつけてみたら?もしかしたらその妹は氷川を傷つけてることに気付いてないかもしれないし」

 

「と、いいますと」

 

「実は俺もな、兄がいるんだよ。小さい頃、自分が出来ない事をやってのける兄を見て憧れたんだ。『お兄ちゃんのようになりたい!』妹弟なら誰しもが抱く憧れを。きっとその子はただ氷川に憧れてるだけなんだよ。それが気になるなら思い切って本音ぶつけてみようよ……」

 

「……」

 

「あ、何かごめん……こんなデリケートな事にズケズケ口挟んじゃって」

 

「本当ですよ……でも、なんだか気が楽になりました。淡路さんの事にも一理ありますし……日菜と話してみる事にします」

 

「そっか」

 

「淡路さん、今日はありがとうございました」

 

「こちらこそ、俺なんかにそんな事話してくれてありがとう」

 

「……あなただからこそですよ」///

 

「?」

 

「い、いえ!何でもありません……では、また」

 

 それから紗夜と日菜の仲は良好になった。それどころかそれまでの反動から超弩級のシスコンになったという。

 

 そして……

 

「あなたがあの時助言してくれなかったら私は未だに日菜と向き合えなかったかもしれません……本当に感謝しています。そして、日に日に私の中であなたの存在が大きくなっていきました……」

 

「……え?」

 

「単刀直入にいいます。『氷川紗夜という一人の女性』としてあなたが好きなんです」

 

「……俺も氷川の事が好きだ。でも、本当にいいのか?こんな頼りない奴でも」

 

「ええ。というかそばについててあげないと危なくて見ていられないのよ……」

 

「そうか……これからよろしく、紗夜」

 

「!ええ、よろしくね。崇禅」

 

 そうして俺達は付き合う事に……え?もういいお腹いっぱい?嘘だろまだ6時間は話せるのに。

 

 まあ、その後氷の風紀委員と称されていた紗夜は冒頭みたいに、俺にだけは甘々になりましたとさ。今もバイトの疲れをハグで癒してもらってます!もう紗夜ママって呼んでもいいかな?(プライド消失)

 

「疲れ、取れた?」

 

「ん」

 

「それじゃあ、ご飯にしましょうか。何が食べたい?」

 

「そうだな……今日は寒かったし、鍋が食べたいな」

 

「分かったわ、それじゃあ貴方の好きなミルフィーユ鍋を作りましょうか」

 

「やった、俺も手伝うよ」

 

「それは嬉しいけれど、この前カレーを一緒に作った時、ご飯をおかゆにしたじゃない」

 

「うっ」

 

 そうだった……この前紗夜と一緒にカレーを作ってたんだけど、炊飯器の設定間違えておかゆにしちゃったんだった……結局その後はカレーうどんとおかゆという炭水化物オンパレードの食卓になったんだけど。

 

『女子大生に炭水化物をあんなに食べさせるのはどうかと思いますが』

 

 なんてド正論を吐かれたものだからめちゃくちゃしょげたんだけどな。

 

「じゃあ、鍋を煮るのは私がやるから崇禅は肉や野菜を用意して頂戴」

 

「おk」

 

 俺は冷蔵庫から豚バラ肉と白菜を取り出す。まずは白菜を一枚づつ剥がし、その上に肉を敷き詰め、さらにその上に白菜を重ねていく。

 

 ミルフィーユが完成したらそれを5cm角に切っていく。指を切らないように慎重に……

 

「紗夜、出来たよ」

 

「あら、意外とちゃんと切れてるじゃない。偉いわね」

 

「そ、それぐらい出来るし」

 

「おかゆにしたのは誰ですか?」

 

 それを出さないで下さい何も反論出来ません!

 

「はぁ……注意力散漫と甘え癖以外は普通にいい彼氏なのに……そこが最大のweekpointね」

 

「なんでそこだけ英語?後weekじゃなくてweakじゃないの?」

 

「あっ」///

 

「紗夜もなんだかんだ言ってお茶目だね」

 

「か、からかわないで下さい!ほら、野菜を入れますよ」///

 

 顔を真っ赤にした紗夜が俺からミルフィーユをひったくって鍋に敷き詰めていく。敷き詰め終わったら出汁と醤油、塩を鍋に入れていく。

 

「あ、コンロ準備して」

 

「ん」

 

 一方の俺は棚からカセットコンロを準備して机の上にスタンバイ。見慣れたオレンジのカセットボンベをセットして紗夜を待つ。

 

 そして鍋が五徳の上に乗っかった所でスイッチオン。ガス特有の青い炎が土鍋を介してミルフィーユを熱していく。

 

 それから数分、頃合いを見て蓋を外すと、中にはしっかり火が通った肉と白菜が姿を表す。ミルフィーユ鍋の完成だ!

 

「それじゃあ、食べましょうか」

 

「「いただきまーす」」

 

 取り箸を鍋に突っ込み、ミルフィーユを取り崩していく。以前の俺なら箸を区別せずにそのまま突っ込んでただろうけど、紗夜に「行儀が悪いです!」と怒られてしまってからは取り箸を使うようになった。でもわざわざ箸を変えんの面倒くさいんだよな……

 

「ダメですよ、ちゃんと取り箸使わないと」

 

「えっ、読めてたの今」

 

「伊達に貴方の彼女やってないのよ?それぐらい分かるわよ」

 

「そ、そうか(汗)」

 

「さぁ、早く食べちゃいましょう」

 

「ん」

 

 小さく切ったミルフィーユを口に運ぶ。つけだれのポン酢と出汁が染み込んだ白菜は特有の筋のある歯応えを残しながらも旨味を存分に含んでいて、豚肉もやわやわになりすぎず、しっかりと主張している。端的にいうとめっちゃうまい。御託をごちゃごちゃ並べるよりもうまいの一言で片付けた方がわかりやすいでしょう?

 

 チョンチョン

 

「ん?」

 

「はい、あーん」///

 

 目の前には顔を真っ赤にしながら箸でミルフィーユを食べさせようとする恋人の姿が。

 

「あーん」

 

 こんなん見せられたら食いつかない奴なんていないよなぁ!?という訳で間接キッス。

 

「お、美味しい?」///

 

「」グッ

 

「そ、そう?それなら良かった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、ごちそうさま」

 

「お粗末様でしt」

 

 ピピッ、オフロガワキマシタ

 

「……風呂入ってくるよ」

 

「分かったわ」

 

 俺は徐に立ち上がって脱衣場に向かい、服を脱ぐ。ここ最近の電気代の高騰のせいでろくに暖房をかけられず、寒気が身に染みていく。

 

「寒っ……早く入ろ」

 

 掛け湯、洗髪、洗体、流し湯。

 

 一通りの所作を終えていよいよ湯船にdo the dive!

 

「あぁ^~心がぴょんぴょんするんじゃぁ^~」

 

「何やってるのよ……(呆れ)」

 

「あったかいんだから仕方ないよ、さy……」

 

 …………え?

 

「紗夜ォッ!?」

 

「はい、貴方の紗夜です♡」

 

「いやいやそうじゃなくてぇ!」

 

 ナズェココニイルンディスカ⁉︎

 

「……たまには一緒に入ろうと思ったのよ。お邪魔だったかしら?」

 

「い、いや、邪魔じゃないけど」

 

「そう……」

 

 言って紗夜が湯船に入ってくる。あんまり詳しく書くとR18になるので言えないが、とにかくいろんな所が見えている。要は全裸です、ハイ。

 

「興奮しているの?私の裸なら何度も見てたじゃない」

 

「うっせ」

 

「別にいいのよ……私なんかに興奮してくれてとっても嬉しいわ」

 

 と俺の顔に紗夜が手を添えて正面に向かせる。

 

「好きよ、崇禅……ちゅっ♡」

 

「!?」

 

「んちゅ♡ちゅるっ♡んんむっ♡はぁっ♡……フフッ、二人でいっぱい温まりましょう?」

 

 もうその後は察してください……ここには書けん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後ヤる事ヤって髪を乾かし、寝巻きに身を包んで部屋でくつろいでいた。紗夜はロングなので時間がかかっ……あ来た来た。

 

「それじゃあ、お風呂も入ったし寝ましょうか」

 

「ん」

 

 俺は寝室に移動してベッドに入る。紗夜も一緒に入ってきた。

 

 ボフッ

 

「ふふっ、それ好きね」

 

 え?何してるんだって?紗夜の胸に顔埋めてんだよ!もんくあっかー!

 

「でも、私なんかの胸でいいんですか?大きさなら今井さんや白金さんの方が……」

 

「紗夜のがいいんだよ。適度な大きさで息苦しくないし。それに風呂ん時も『私なんか』って言ってたけど、好きな人、しかも有名ガールズバンドのギター担当と一緒に過ごせるなんてこんな嬉しい事はないよ」

 

「……もう、バカ」///

 

 ギュッ

 

「!?」

 

「そんな事言われたらもっと愛してあげたくなっちゃうわよ……♡」///

 

 紗夜が俺の頭に腕を回してきた。そのおかげで顔全体に温もりが伝わってくる。布団と紗夜に包まれ、俺の意識は闇の中へと落ちていった。

 

「……あら?寝ちゃったわね……ふふっ、本当に気持ちよさそうに寝て……私もそろそろ寝ようかしら」

 

 チュッ♡

 

「おやすみ崇禅。愛してるわよ♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん」

 

「おはよう、崇禅」

 

 あっ、もう朝か……寒いな。

 

「ご飯冷めちゃうわよ、早く顔洗ってきなさい」

 

「分かった……ふわぁぁ」トテトテ

 

(なんて可愛いの♡これを毎日見れるなんて私は幸せ者ね♡)

 

 何か後ろの視線が熱いんだけど気のせいっすか?

 

 洗面所で顔を洗い、目を冴えさせてリビングを向かうとそこにはご飯に味噌汁、目玉焼きとザ・日本の朝食といえる料理が並んでいた。紗夜はご飯党の俺に合わせていつも朝にお米を炊いてくれるのだ。本当に感謝してもしきれない。

 

「「いただきます」」

 

 朝ご飯を食べ終わったら大学に向かう準備を始める。紗夜は今日はRoseliaの練習があるらしく、講義は取っていないとのこと。そんな……紗夜がいない大学は楽しみ半減なのに!

 

「そんなしょげた顔をしないで下さい。家に帰ったらいっぱい甘えていいですから、ね?」

 

「ん……分かった」

 

 やった!これで今日も頑張れる!

 

「じゃあ俺、行ってくるよ」

 

「ええ、いってらっしゃい」

 

 ドアを閉めようとすると紗夜は笑顔で手を振ってくれた。うん、マジで可愛い。

 




いかがでしたでしょうか?
大学生紗夜さんとオリ主の同棲ものは先駆者様がたくさんいるんで、ダブらないシチュを探すのは大変でした……!(これ書いてる時に他のやつで紗夜さんが鍋をつつく話出てきて絶叫したのは内緒)
一応短編小説の扱いですが、好評なら続きを投稿したいと思います。もし良ければ感想くれたらとても嬉しいです!それでは次回(?)、またお会いしましょう。
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