紗夜さんに甘えたいっ!   作:柳芽帆奈

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第一話が結構好評だったので二話目を書きました!
冬のバンドリ祭り、そして2022年の最後にふさわしい話なので是非お楽しみください。


第二話「越年」

 〜大学〜

 

「おーい、崇禅」

 

「ん?あぁ、維澄か」

 

 俺が午前の講義を終えて学食に行くと、俺の友人である佐野維澄(さのいずみ)に会った。こいつとは入学するまでは接点が無かったが、鉄道という共通の趣味をきっかけに知り合って今ではちょくちょく一緒に飯に行くほどの仲になっている。

 

「今日は何食う?」

 

「そりゃあ、あれ一択っしょ」

 

「だな」

 

 合流した俺らは券売機のボタンに手を伸ばす。『名物・チキンカツ定食』。特製ソースがたっぷりかかった大判のチキンカツに大盛りご飯と味噌汁、日替わりの小鉢が入って350円という食堂の経営が心配になる程のリーズナブルぶりを誇る一番人気である。

 

 数分して運ばれてきた定食を抱えて机につくと、ちょいちょいと維澄が絡んでくる。顔はムカつくニヤけ顔だ。殴っていい?

 

「ごめんってだからその右手をしまって下さいお願いします」

 

「お前にプライドはないのか(困惑)」

 

 入学以来こんなやり取りを何度続けてきた事か……まあ、そんなヤツに惹かれた俺も俺なんだが。

 

「それで、早速なんだが年末って空いてる?」

 

「年末?お前また何か変な所に連れて行くんじゃなかろうな」

 

 この前は迂闊に首を縦に振った瞬間、いきなり秋田に連れて行かれたからな……そん時はあいつをタコ殴りしたんだがまだ懲りてなかったのか。

 

「違う違う!」

 

「んじゃ何だ。答えによっては俺の右腕がお前の顔面にめり込むぞ」

 

「いいから話ぐらいは聞け……崇禅はさ、アイドルって興味あるか?」

 

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うーん、結局貰っちまったな……」

 

 あの後、俺は一枚のチケットを貰っていた。そのチケットには『Pastel*Palettes COUNTDOWN LIVE in conifer forest』と印字されている。まあその名の通り、パスパレのカウントダウンライブのチケット……しかも結構良い席を貰ったわけですよ。

 

 何でも本来は維澄の友達が持ってたけど、バイトの予定とブッキングしてあえなく断念。もったいないから維澄に渡したはいいものの、当の本人はアイドルに興味なし……という経緯で俺に渡ってきたそう。どうしようかな……あっ、そんな事考えてたら家着いちゃったよ。

 

 ガチャッ

 

「あら、おかえり崇z「ただいまさよー」きゃっ!?」

 

 家に帰ると彼女の胸に飛び込むエロ男(20)。一億回ぐらいファンに◯されたらいいと思う。

 

「さみしかったー甘えたーい」

 

「節操はないのかしら?」

 

「だって大学では全然話しかけてくれないじゃん!話しかけてもめちゃくちゃ他人行儀だし!」

 

 そう、家ではこんなに甘えまくっているものの、実はRoseliaのメンバーと家族以外には付き合ってる事を公言していない。外で会ってもうっすい挨拶を交わすだけ。というのも、入学した時点で紗夜はその美貌で注目を集め、数々の男子が告白してそれを悉くフっていくという事態が起きていたんだが、彼氏がいるという噂が流れて学内がパニックになったんだよ。それで卒業するまでは言わないようにしようということになった訳。説明終わりっ。

 

「もう……仕方ないわね。気が済むまで甘えていいわよ」

 

「わーい」

 

 了承をもらって俺は顔を埋めまくる。やらかーい、さいこー(幼児退行定期)

 

(よしよし……♡)

 

 甘えられて満更でもないのか、紗夜が頭を撫でてきた。その表情はまさに母親が子供に向けるそれである。

 

「……あら?崇禅、それは?」

 

「え?」

 

 と、紗夜がカバンの中のチケット袋に気がつく。

 

「何かしら……あ、これパスパレのチケットじゃない」

 

「何か友達がくれたんだよ。いらないから貰ってくれって」

 

「珍しいわね、パスパレのカウントダウンライブなんてそうそう手に入る物じゃないのに。確か今年はコニファーでやるって言ってたわね……」

 

「へぇ、詳しいね」

 

「……!い、いえ、日菜が所属しているものですから……」///

 

 あっ、顔真っ赤になってる。

 

「でも、俺アイドルのライブなぞ行ったことねえんだよな……」

 

 何かTwitter見てたらどこぞのライブでUO?を投げ込んだり(一体UOってなんすか俺最初見た時ネギまを思い浮かんだんすけど)、家虎とか言うよくわからん単語が出てきたりとかして全くの未知の世界なんだけど。

 

「じゃあ、一緒に行きましょうか?」

 

「え?」

 

「実は私、パスパレのライブには何回か行った事があるんです。ちょっとした指南なら出来ますよ」

 

「マジか。じゃあ、一緒に行ってくれるか?」

 

「ええ、それじゃあ早速チケット取っちゃうわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜大晦日〜

 

「紗夜さーん、まだっすか?」

 

「もうすぐ用意終わるから待って頂戴」

 

 そうして迎えたライブ当日、大晦日。俺は部屋のドアの前で恋人の支度を待っていた。そろそろ来るんじゃないかな……

 

 ガチャッ

 

「準備出来たわ」

 

 おっ、来た来た……ん!?

 

「さ、紗夜……?」

 

「どうしたんですか?」

 

「いや、その服よ……」

 

 下はジーンズなのはいいとして、上にはパスパレのロゴがデカデカと描かれたTシャツ、上に重ねたコートとシャツの間には何やら法被のようなものまで羽織っている。しかもワンポイントもパステルグリーンのリストバンドやショルダーバッグ、パスパレの缶バッジ(しかもやけに緑色が多い)が貼っついたキャップまで……

 

 クルックルッ

 

「何もおかしいところはないじゃないですか」

 

「ツッコミどころが満載なんですけど!?」

 

「時間が惜しいです、早速行きましょう」

 

「おーい、紗夜さーん!?」

 

 こういう時だけは人の話を聞かない氷川紗夜さん(20)でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、着いたわね」

 

 やって来ました、コニファーフォレスト!間近で見ると富士山デカいなー、白金の『ゴチンッ』痛い痛い何をする氷川殿。

 

「貴方今失礼な事考えてたわね」

 

 ひどいよ!まんまるお山(意味深)を思い浮かべてただけだろ!

 

「はぁ……もう、行きますよ」

 

「紗夜先生、よろしくオナシャス!」

 

「ふふっ、なにそれ」

 

 チケット提示、手荷物検査を済ませて会場内に入ると、椅子が整然と並ぶその先には足場で組み立てられたステージが現れる。想像してたよりデカいな……

 

「崇禅、デカさに感心するのはいいけど、まず行くところがあるわよ」

 

「行くところ?」

 

「ええ、いらっしゃい」

 

 すると、紗夜が手を引いて連れて行く。連れられた先は物販スペース。それぞれのメンバーカラーに彩られたグッズが至る所に陳列されていて、人がたくさん集まっていた。

 

「みんなここでグッズを買ってるんだ」

 

「ええ、そのフェス限定の商品も出ているからファンにとっては飽きない仕様になってるのよ。サイリウムとかもここで売ってるから欲しい物あったら買っちゃいましょう」

 

 言ってグッズを手に取っていく。俺は何にしようかな……

 

「あら、丸山さんのグッズを買ったのね」

 

「うん、何かあの人にはシンパシー的なものを感じるから好きになれるんだ」

 

 丸山はクラスは違ってたけど同じ高校だったし、ちょくちょくドジやってたのは俺のクラスでも有名だった。ドジの俺としては何となく応援したくなるんだよな。

 

「あ、勿論一番好きなのは紗夜だよ?」

 

「なんか取ってつけたように聞こえるわね……でも、そう言って貰えるのは嬉しいわ。ありがとう、崇禅♡」

 

 ギュッ

 

 あ、ちょ、こんな所で抱きつかないで!?

 

「紗夜!みんな見てるよ!?」

 

「………!ご、ごめんなさい。ちょっと熱くなってしまったわ」

 

「気をつけてよ〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして時刻は11時。

 

「みなさーん、こんばんはー!Pastel*Palettesでーす!」

 

『ワァァァァァァァァッ!』

 

 丸山の一声でハコの中の観客は一気に沸き立つ。これから2時間、年を跨いだ宴が始まる。

 

「早速行きましょう、まずは『しゅわりん☆どり〜みん』!」

 

 〜♪

 

「おぉ、すごい手振ってくれるじゃん」

 

「パスパレはファンサービスが旺盛な事でも知られてますからね。コールにも比較的多様なんですよ?」

 

「コール?」

 

「あれですよあれ」

 

パン、パン、パン、パン、ポケモンパン

 

 フレッシュブレッド、伊藤パン

 

 松たか子、松たか子

 

 ヤマザキ春のパン祭りぃ!

 

 紗夜の指差す先にはピンク色のサイリウムを振り回すファンの姿があった。あ、あれだ、オタ芸ってやつか。

 

「そういや、日菜もファンサ多そうだな。しかも紗夜が見に来てるのなら尚更」

 

「ええ。あの子といったら何故か私のいる場所を正確に特定して反応してくるの。他のお客さんの目につくから控えめにして欲しいのだけれど……」

 

 そう言って苦笑する紗夜。あの頃に比べたらだいぶ柔らかくなったね。

 

『しゅわしゅわ

 

 氷のダイヤに揺れながらそっと小さなfu fu!

 

 泡をfu fu!

 

 弾ませてるワクワク!』

 

 曲もいよいよ大サビに入って客席のボルテージも上がっていく。

 

 チラッ

 

 あれ?何か今日菜と目があった気がするけど……あれ!?なんかこっちに近づいてくる!?目がさっきよりもキラキラし始めてるぞ!

 

「ま、まさか特定したの……!?」

 

 うわ、紗夜が絶望したような顔してる……

 

 その後も紗夜の気配を察知した日菜が鬼のようなファンサをかましてくるのだった……

 

 そしていよいよその時が訪れる。

 

「もうすぐカウントダウン始めるよ!」

 

「もうそんな時間か……」

 

『10!』

 

「ふふっ、思えば今年も色々あったわね」

 

『9!』

 

「そうだな……湊や今井にも彼氏が出来たみたいだし、あいつらも人生謳歌してんのな」

 

『8!』

 

「……なあ、紗夜」

 

『7!』

 

「ん?何かしら?」

 

『6!』

 

「こんな俺と付き合っててくれてありがとな」

 

『5!』

 

「ふふっ、何よそんなに改まって」

 

『4!』

 

「いや……」

 

『3!』

 

「来年も、再来年も」

 

『2!』

 

「紗夜にずっと甘えててもいいかな?」

 

『1!』

 

「……ええ、勿論。人生かけて貴方を甘やかしてあげるわ」

 

『ハッピーニューイヤー!』

 

 会場が一つになって紡がれる声とともにステージの後ろから幾重もの光が空へ向かって延びて、新たな年を祝う大輪が富士の空を彩る。

 

 その瞬間の俺の記憶は朧げだったけど、ただ一つ、口元の柔らかい感触だけは鮮明に刻まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみにその後、「崇君ばっかりおねーちゃんとイチャイチャしてズルい!」と妹御がやけにご立腹だったのはまた別のお話。

 




いかがでしたでしょうか?
とりあえずこれ以降の話は未定としておきますが、好評だったらまた不定期に帰ってくるかもしれません。
それではまたお会いしましょう。
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