アヤシシとハリーマンはヒスイでないと進化できない……どんどん進化条件が難しいポケモンが出てくる……
マリナードタウンの港にて停泊している船のデッキで海の向こうを眺める。
もう間もなく出港する時間だ。この船はシンオウ地方へと向かう。
いよいよパルデアを出る……忘れ物はないか今一度確かめておくか。荷物はカバンに纏めてある、道具は抜かりなく確かめた、バチンウニとノクタスは両親に預けた。
トップやチリさん達に挨拶はした。後は………頭で整理しているうちに、ナンジャモの顔が頭に過る。
「………」
本当にこれでよかったのか、俺は未だに迷い続けていた。
全部片付いたと心の整頓は済んだと思っていたが、アマモに殴られてから本当の気持ちがじわじわと込み上がってきていた。
本当はあの子のことが……
「……いいやダメだ」
俺は首を横にふる。あの子のために自分に嘘をついてまでここまで来たのだ……情けない。理想と現実が板挟みして優柔不断になっている。
悩んでいると汽笛の音が響いてきた。
出港の合図だ。船がゆっくりと動き始める。
もうここまで来てしまったんだ。後戻りする猶予はない……
「おっ、『ドンナモンジャTV』が復帰してるっ!」
忘れようか迷っていたその時、デッキにいた観光客の話が耳に入ってきた。
「いや〜ナンジャモが復帰してくれてホッとしたわ〜」
「どうして休んでたかわからないけど元気でいるならいっこうに構わん!」
「やっぱチリちゃんよりナンジャモちゃんなんだよなぁ」
俺もつられてスマホロトムで動画を確かめる。
『はいはーい!皆の者ー、待たせちゃってメンゴメンゴ!今日からバリバリ頑張るかんね、ロックオンして見ててねー!」
動画には元気ハツラツに振る舞うナンジャモの姿が映っている。あいつ、俺のことは忘れて吹っ切れてくれたのか……?
『さぁて、今日のハッコウシティは快晴!挑戦者氏とのバトルコートのオーシャンビューは最高の映えポイントだぞー!ここの名物スパイシーサンドイッチを食べながら見るのもオススメだよ!』
なんだかやたらとハッコウシティの名物とかバトルコートの話が長いな、挑戦者は待ちくたびれてんぞ?
『ほんといい眺めー……………シンオウ地方まで見えたらいいのに………』
「……⁉」
ナンジャモの独り言を聞いた俺は固まった。心臓を鷲掴みされたかのような衝撃が迸る。
ガチリと固まっている俺を他所に同じく彼女の配信を見ている観光客は楽しそうに笑っていた。
「面白いこと言うなぁ~!そっちの海じゃシンオウ地方は見れないって!」
「はぁぁぁぁ、ナンジャモちゃんの時めき顔もかわいいんじゃぁぁぁ」
もう一度、動画を見て確かめる。リスナーや観客達からはやくしろと急かされても気づいてないのか、ナンジャモはずっと海を眺めていた。
「……!!」
その彼女の辛さをこらえている顔を見た俺は全てを察した。
今あいつの顔は海の眺めを見て時めいているんじゃない……あいつは、待っている。
俺が来ることを待っている……!!
その時アマモが言っていた言葉が過る。そうだ、あいつは周りからどう言われようが全てを受け止める覚悟をしていたんだ。
なのに、俺はあいつの気持ちを聞かないで……突き放すように見て見ぬふりをした。
俺のバカ野郎が……なんで、なんで逃げ出し出たんだ!
「ヨノワワ……!」
「リキッ‼」
突然、ボールからヨノワールとゴーリキーが飛び出してきた。
「ヨノワール、ゴーリキー!?なんで……あだだっ!?」
ヨノワールが背中をバスバスと叩く。な、何すんだって!?
「ヨノワ……ヨノノ」
「リキキッ」
ヨノワールがゴーリキーに何か伝えると、ゴーリキーは頷いて俺が背負っているリュックを取って背負いだす。
「ご、ゴーリキー?」
「リッキ!」
ゴーリキーはウィンクしてサムズアップする。
「え……まさかはやく行ってこいって?」
「ゴリキキー」
「ヨーノ、ヨノワワ…」
ゴーリキーは頷き、ヨノワールは俺の背中を押す。おまえら……そうか、まだ間に合うんだな?
「………ヨノワール、ありがとな」
「ヨノ…」
相棒は腕を組んだまま軽く返事を返す。
「よし、いけっリザードン!」
___________
配信を再開してからの久しぶりのバトルだ。動画を見てくれる皆の者を待たせちゃったし、張り切っていかないとね!
楽しいバトりをして盛り上げなくちゃ。そうすれば………気がつけばまた海の方へ顔を向けていた。
――いま頃ユズリハくんはパルデアを出ちゃったかなぁ……
って、いやいやいや!何考えてるんだボクは!
アマモっちはああ言ってくれたけど、ボクはまだ迷っていた。
配信をしないでユズリハくんのもとへ行くべきだったのだろうか、本当の気持ちを押し殺して配信に没頭したほうがいいのか……
炎上しようが受け止める覚悟はあったのだけど……ユズリハくんはパルデアを出た頃かもしれない、今更バトりと配信切り上げて駆けつけて行こうにももう間に合わない。
ロトロトロト……
「うぇっ⁉で、電話!?」
突然、スマホロトムの着信音が鳴り出してボクはぎょっとした。
配信中に電話が鳴るはずがない。放送事故を起こさないためにもスマホロトムにはロックかけてたはずなのに……
まさか……チラっとバトルコートの方を見るとハラバリーと視線が合い、ハラバリーは視線を逸した。
は、ハラバリー!?なんでそんなことしたの!?ていうかできたの!?
あわわわ、リスナーが放送事故か、親フラかとたくさんのコメントしてる‼いきなり電話してきたのはいったい誰………
「……って、ユズリハくん!?」
配信中にも関わらずボクは彼の名を見て驚愕する。いやそんなまさか、彼はいま頃パルデアを出てる最中だしそんな暇は……
いやバトり中だし、配信中だし、観客や皆の者が見てる最中だし、色々まずいから通話を切らないと……!
「ムミャー!」
いきなりボールからムウマージが飛び出し、ムウマージが念力を使って通話開始のボタンを押しちゃった。
「む、ムウマージ!?」
な、なんてことをするんだぃ!?
『もしもし…!聞こえるか!』
わ、わぁ……この声は正真正銘、ユズリハくんだぁ……
「え、あー……ゆ、ユズリハ氏ぃ?今おかけにした電話にはボ……ナンジャモはいないでございますぅ」
『よかった……そのまま切らないで聞いてくれ』
よくないよ!今こっちは絶賛放送事故中なんだがぁ!?
あれ……よく聞いてみるとユズリハくんの電話からゴウゴウと風の音がするぞ?
『まず……すまなかった。お前の話を聞かず、自分のことばかり押し付けてしまって』
彼の話を聞いて胸が、心がズキリとした。今更船から電話してボクに謝罪かい?
「ひどいよ……あの時、すごく傷ついたんだからね……?」
『あれが互いに最良な選択かと思ったけど……最低だな、俺。お前を傷つけちまった』
一瞬、涙が込み上がりそうになりかけたが袖で拭って紛らわせる。
「ううん……もう気にしないよ。ユズリハくんのしたいようにすればいいんだ」
そう、彼はどんどん先へ先へと突き進んでいる。今や彼は遠い存在、ボクはもう追いつくことも並んで一緒にいることも叶うことはないだろう。
だからボクは彼を見送ることに……
『そうか……なら、もう一度……もう一度だけ話を聞いてくれないか?』
「え……?」
『あのさ……大事な話があるんだ。聞いてくれるか?』
どうして……どうして君はボクを混乱させるのだろうか。だけど腹正しさはない、どうしてそんな話をするのかという疑問と何故か込み上がる気持ちが駆け巡る。
「べ、別にいいけど……」
『じゃあ
彼はそう話して通話を切った。
え?
観客の一人が上を指差す。上空に何か飛んでてこちらにやって来ている。
目を凝らしてよく見ると………リザードンと、リザードンに乗っているユズリハくんの姿が見えた。
「は……嘘っ!?」
あ、あり得ない。ユズリハくんはパルデアを出る船に乗っていたのでは!?
バトルコートに降り立ったリザードンとユズリハくんにボクは驚きを隠せなかったが、ボクは全てを察した。
ユズリハくんがボクのところへ駆けつけてくれた……!
大事な事を背負ってるのに、それでもボクのところへ駆けつけてきた。
なのにボクは……自分の気持ちを押し殺して、配信で気を紛らせようとおくびょうになっていた。
「ナンジャモ……話を聞いてくれるか?」
もう自分の気持ちを、彼の気持ちを逸しちゃダメだ。本当の気持ちをぶつけるんだ…!
「も、もちろん!なんたってボクは寛大だからねっ!」
「ふ……そうやって見栄張っちまうんだから」
「む、むー!いつもはどんかんのくせにー!」
「悪い悪い……アカデミーで初めて会った頃は、お互いの事あんまり知らなくて最初は親友として話してて楽しかったよな」
うん、覚えてるよ……いじめられたボクを君が助けてくれたこと。あれからボク達は親友として親しくなった。
「アカデミー卒業して、会えない日々が続いたけどあの時再会できた時はすっごく嬉しかったな」
あの時も、助けてくれたね……卒業式スッポ抜かした時はムッとしたけど、会えた時は本当に嬉しかった。
配信を初めたばかりのボクをずっと応援してくれて、行き詰まった時も誹謗中傷で落ち込んだ時も、君が支えてくれた。
「ジムリーダーに就任したって聞いた時は驚いたし有名になるから俺なんかが会うのはどうか複雑になってたけど……本当は嬉しくてたまらなかった」
やっと追いついたって思っていたし、一緒に話して笑いあえるって思っていた……
「だけどさ、あの時からお前のためだと自分の気持ちに嘘ついて傷つけた……これは本当にすまなかった」
だから、とユズリハくんは話を続ける。真剣な眼差しでボクを見つめる。
「もう嘘はつかない。本当の気持ち、聞いてくれるか?」
ボクは静かに頷く。自分の心臓がバクバクと激しく鼓動して緊張しているけど……もう決めたんだ。どんな答えになろうとも受け入れる覚悟がある。
「アカデミーの時から一緒にいて、一緒に笑いあって……だんだんと惹かれていた自分がいた。配信者になって、今や夢をふりまく人になっちゃって、もう届かないかと思ったけど……俺のことずっと想ってくれてたんだって気づいたら……すっごく……いや、嬉しいどころじゃない、すっごく幸せだって感じたんだ」
ユズリハくんは次第にボクとの距離を縮めていく。ボクも自然と彼の方へと歩みを進めていた。
「上手く言えないけどさ……本当の気持ちを伝えないと」
あと少し進んだらぴったりくっついちゃいそうな距離までお互い近づいていた。
ユズリハくんも緊張してる……ごくりと息をのみ、ゆっくりと口を開く。
「お調子者でおっちょこちょい……だけど優しくて可愛くて……一緒にいてくれて、一緒に笑ってくれる、そんな素敵な君が……ナンジャモが大好き、だ」
これが……これが、ユズリハくんの本当の気持ち。
これがボクを好きでいてくるユズリハくんの伝えたかった気持ち。
不器用だけど……とってもあたたかくて、とっても優しい。
なによりもとってもうれしい
ユズリハくんは真剣になって伝えてくれたんだ……ボクも本当の気持ちを伝えないと
「ボ……ボグも゛……!」
気がついたら涙を流して泣いている自分がいた。
な、何やってるんだ。嗚咽で喋れなくなってる場合じゃない。涙と鼻水を袖で拭って、涙が止まらないけどボクは答えた。
「ボクも……ボクも、バトルは強いくせにどんかんでちょっと抜けてるところがあるけど……ボクのこと想ってくれて、ボクをずっと支えてくれた……一緒にいて、一緒に笑いあってくれる、そんな君を……ユズリハくんが、大好きだよ!」
やっと……やっと、本当の気持ちを伝えられた。
嬉しくて笑顔を見せるけど泣いちゃってるから変な顔になっちゃってるかも。
「ユズリハくん……!」
「……ああ」
本当の気持ちを伝えあったボクらはぎゅっと抱きしめ合った。
「必ず……必ず絶対に帰ってくる」
「うん……!どんなにかかろうとも、ボクは待ってるから……!」
誓い合ったボクらは顔を近づけあう。
絶対にユズリハくんは帰ってきてくれる。ボクに会いに帰って来てくれる。
だから、ボクはそれまで配信を
ん?
配信………………
あっ
「ゆ、ユズリハくん……」
「どうかしたか?」
せっかくいいところなんだろうけど、ボクはあることを思い出した。
「えっと……いま、配信中、なんだよねぇ……」
「あ゛……」
ユズリハくんも察し、ボクらは周りを見回す。
口をあんぐりとあけてる人や、祝福の眼差しを見せる人や、脳を破壊される音を出したような顔をしてる人と色々といた……
あー……コメント欄は見たくないなぁ……
「ゲンガー、マジカルシャイン‼」
「ゲガーッ‼」
突然ボクらの前にゲンガーが現れてマジカルシャイン、眩しい光を観客達に向けて放った。
「ユズリハぁっ!今のうちにいきなっ!!」
眩しさで目が眩んでいる観客を押しのけサングラスをかけたアマモっちが飛び出した。
うん、確かにまずいよね‼熱烈なファンがユズリハくんにとびかかるかもしれない!
「アマモ…!」
「ほら‼ぼさっとしてると船が遠くまで行っちゃうでしょ!」
「サンキューな‼リザードン、急ぐぞ!」
「バギュアッ‼」
ユズリハくんはリザードンに乗り、リザードンは翼を羽ばたかせ飛び立つ。
「ナンジャモ‼大好きだからな!絶対に帰ってくるからな!」
「うん!待ってる!ユズリハくんのこと、大好きだからね!」
リザードンがユズリハくんを乗せて空高く飛び、船がある砲兵飛んでいった。
慌ただしい見送りになっちゃったけど……お別れじゃない。
大丈夫。ボクらは繋がり合ってる……
「さーて、アマモっち。ありがとうね!」
「どーも……はぁやっと伝え合ったと思ったら、あのバカ野郎やらかしてくれたわねぇ……お二人さんこの後の対処、めちゃくちゃ大変になるから覚悟しときな?」
アマモっちはああ言うけど嬉しそうにしていた。
なんのこれしき!ユズリハくんがいるから、どんなことだって乗り越えてみせるよ!
皆の者の炎上は覚悟してたけどチリ氏の真顔の説教はめちゃくちゃ怖かった。
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「んん……むにゃ?」
あれ……どれくらい寝ちまってたか。
目を覚ました俺はゆっくりと起き上がって欠伸をしながら思い出す。
パルデアに帰ってきて、ナンジャモと再会して……ああ今日はお泊りしてたな。
一緒のベッドで、隣で寝息をたてて寝ているナンジャモを見つめる。
あの日、配信中に乱入して愛の告白をした、という放送事故丿後は案の定大炎上し、ジムにファン達が押しかけたりし大変だったと聞く。アマモやチリさんが何とか場を収めた。
俺のところも動画を見ていたファンに祝われたり、いきなり勝負を仕掛けられたり、船の中は大変だったな……
ナンジャモが配信で何度も自分の気持ちを伝え続け、リスナー達は納得してくれたと聞く。
アマモはあれはリスナー達に砂糖を吐かせる地獄の配信だったと言っていたが……まあ騒動が大きくならずに済んでよかった。
まだすやすや眠るナンジャモの頭を優しく撫でる。
「んふぅ……にへへ…」
楽しい夢を見ているのだろうか、寝ながら笑ってる。見てると幸せな気分になる。
この幸せを、これからもこの先も分かち合える……俺は嬉しくてたまらずにいられない。
窓から見える日は高く上がっている。今日から新しい日々が始ま………
ん?
日が高い……だって?
俺は恐る恐るスマホロトムを確認する。
朝、とは言えない時刻。
たくさんの着信履歴。
たくさんのアマモとチリさんからのメッセージ。
「………おいおいおい、俺やべぇな」
どうしよう……ふくろだたきにされる……‼
急いで起きて支度をせねば
「えへへ……ユズリハくん……」
ナンジャモが寝言を言いながらこちらに寝返りうって腕をきゅっとつまんだ。
その瞬間、仕事よりもナンジャモのことでいっぱいになった。
「………今日は一緒にいよっと」
ベッドに寝転がり、向かい合うように眠りについた。
次の日、真顔のチリさんの説教をうけた。めちゃくちゃ怖かった………
やっぱりイチャラブは難しい(吐血
まだまだ話は続けます…