ネモが、ペパーが、ボタンがいる!
スグリくんが優しい性格に戻ってる!
これでやっと楽しい林間学校ができる!
ゼイユ「キビキビー!」
絶対に許さん
時はユズリハがナンジャモに告白する前日に遡る――
ナッペ山を見るたびにため息が出る。
「………はぁ」
雪に覆われた真っ白な山頂が目に入るたびに気分が暗くなる……
思い出したくないのに、ナッペ山を見るといつも思い出す。
自分の夢が一瞬にして雪崩のように崩れたあの日、あの悪夢。スノーボードの選手として輝いていた僕がたった一度の事故でどん底に突き落とされたあの絶望を。
本当ならばナッペ山に行きたくもないのだが……新たに得た仕事の都合で行かなければならない。
怪我からの復帰後、スノーボード選手として復帰することは絶望的だと告げられた数日後にやって来たリーグ運営委員のトップである『オモダカ』と名乗る人物からスカウトがあった。
―――グルーシャさん、貴方のような人物を失うのは勿体ない。新たな活動でパルデアを盛り上げてみませんか?
悪意があるのか、全くないのか、こちらの話し合いに一切気にかけないで半ば強引にパルデアのジムリーダーとして就任されてしまった。
「……はぁ」
またため息が溢れた。山道へと進み、雪道を突き進むに連れて気が重くなっていく。
「………サムい」
ナッペ山から吹き降りる冷たい風が身を凍え震わせる。やっぱり帰ろう、オモダカさんに連絡して辞退しようか……
「クゥッ、クルルゥッ!」
ふと気づくとポケモンの鳴き声が聞こえた。鳴き声のする方へ目を向けると白くて丸っこいポケモン、アルクジラがポテポテと慌ただしく木の周りを歩きまわっていた。
一匹だけか……確かアルクジラは群れで行動しているはず。群れから逸れたのか、または誰かの手持ちで主と逸れてしまったかのだろうか。
「……ん?」
よく見ると誰か頭から突っ込んでイヌガミ家みたいな状態で雪に埋もれている人とポケモンがいる。ポケモンは尻尾からみてバンギラスだろうけど……なんでこんな雪山で。
なんだろう、関わったらいけないような気がする。そのままスルーしようと考えていたが、アルクジラがこっちに気づくとわたわたと手を振る。
「……はぁ、面倒だ」
ため息をつきながらもまずはイヌガミ家になってるトレーナーの足を掴んで引っこ抜く。
「うおっ!?なんだ!?」
引っこ抜かれて緑の迷彩柄のジャケットを着たライトベージュのポンパドールの髪型の男のトレーナーが驚く。いやこっちがなんだって言いたいんだが?
「……あんた、なにやってんの?」
どういう状況かわからずこんらんしていたトレーナーはぼくに気づくと不思議そうに首を傾げる。
「んん?おまえさん、どちらさん?」
いや質問を質問で返すな。まあいい面倒なことはさっさと済まして山を下りよう。
「ぼくはグルーシャ。で、あんたは何を」
「おーい出ていいぞー、ここにはなさそうだ」
「バギラッ」
トレーナーはぼくの質問をそっちのけでバンギラスを引っこ抜いた。いや人の話を聞けよ。
「で、どちらさん?」
「……グルーシャ。雪山で何してたのか知らないけど、あんたのアルクジラが心配してたよ」
よし、目的を聞かないでさっさと下山しよう。これ以上関わったら面倒なことになる。
「アルクジラ?」
「クゥー?」
トレーナーとアルクジラは顔を見合わせるとお互い不思議そうに首を傾げる。あ、嫌な予感が
「俺のアルクジラじゃないぞ?なんたって俺の手持ちはバンギラスだけだからなっ!」
「バギ、バギラッ」
トレーナーとバンギラスはドヤ顔で胸を張る。いやそこドヤ顔するところじゃない。ぼくはため息をついてアルクジラを見つめる。つまりこのアルクジラは群れから逸れた個体か……
「おまえ迷子かぁ……皆で群れを探してやるか」
え、みんな?それってぼくも数に入れてるつもりなのか?面倒事に巻き込まれるつもりはない。ここはさっさと去らねば。
「いや、ぼくは山を下りるから」
「おーし、そうと決まれば高みへどんどん登っていこうぜ!」
こいつ人の話を聞いてくれない!!ていうかこいつ誰だ!?
「あんた一人でやってくれ!ぼくは無関係だろ!」
「俺はアキギリ!んで相棒のバンギラス!これで縁ができたな!」
ああほんっっっっと面倒な奴だ!っていうか掴む力強っ!?
腕を掴まれたぼくは振り払うことができず、アキギリに連れられアルクジラと共にナッペ山を登ることになってしまった……
アキギリに連れ回されることかなり時間が経った。アキギリはあたりを見回しながらアルクジラの群れを探しつつ登っていく。
道中幾度かアルクジラの群れを見つけたのだが迷子のアルクジラは悲しそうに身体を横に振る。このアルクジラの仲間達を見つけるのは難しそうだ。
「見つからんなぁ……」
「山頂付近にはいないんじゃない?」
きっと下の方へ移動したに違いない。ぼくはさっさと彼に方向転換してほしいと願っている。なぜならこの先を登っていくとナッペ山のジムに辿り着いてしまうからだ。正直今は行くつもりはない……
「山頂付近までいきゃあ下まで見えるだろうな!もうひと頑張りだ!」
「クゥーッ!」
アキギリはぼくの期待を裏切るようにアルクジラを励ます。もうやだこいつ。
「グルーシャ、気分がすぐれてねぇみたいだが大丈夫か?」
珍しくアキギリが気にしてきた。人の話を散々聞かないくせに……いや、まてよ。これはチャンスでは……!
「ここはサムい……いち早く下山すべきだと思っ」
「この先にポケセンとジムが新設されたみたいだからさ、そこまで行ったら休憩しよっか」
なんでそっちに行くのかなぁ!?こいつは空気を読むこともできないのか!!
「ジムといえば……このナッペ山に新しいジムリーダーが就任されるようだぜ?この山の天辺でジム構えるたぁ相当面白いジムリーダーなんだろうな!」
いまあんたの目の前にいるんだが?
「うらやましいなぁ……実は俺、ジムリーダーを目指してたんだぜ?」
あんたが?藪から棒に何を言い出すんだろうか眉唾ものだ。
「俺よりも強ーいライバルがいてな、そいつにはアカデミーの時から敵わないんだわ。更にはそいつはチャンピオンにもなりやがったから、俺も負けてたまるかーって頑張ったんだ」
意外と負けず嫌いな性格をしていたのか、人の話を聞かないおかしな奴だけど。
「頑張って頑張って、ついにジムリーダーになれるかもしれないチャンスが来たんだ。そん時は超がつくほど嬉しかったー……だけど、負けちった」
彼が語るにはもう一人ジムリーダーになりたい人がいて、その人のポケモンバトルで負けてしまった。その人の方が思いが強くかったらしいと。
「まあ追いつきたい人がいる同士だったからそいつには頑張ってほしいと思ったが……挫折ってやつか?俺はジムリーダー目指すのやめた」
アキギリも挫折を味わったことがあったのか……だけどなぜだろう、こいつにはぼくが抱えてるような暗くて重いどんよりとした気持ちが感じられない。
「ってなわけで俺はナッペ山を登ってるわけ」
「いやいやいや!!意味がわからないって!」
話を変なところで終わらせるな。どこをどう繋げたらあんたがこの山を登るっていうか山にいるわけになるんだっ⁉
「つまりだなー……学者になるためにナッペ山で化石を探してるのさ」
「……は?」
話の脈略が全くないんだけど?
「他の地方には化石があったり、化石ポケモンがいたりするんだが……どういうわけかパルデアにはポケモンの化石おろか化石ポケモンがいねぇ。ナッペ山は古代は海底だった場所が長い年月をかけて隆起したものだ。だから見つかるかなーって探してんだ」
アキギリは楽しそうに語りながら辺りを見回す。
「ほんで見っけたら論文書いて……頑張って勉強して資格もとってすんげー学者になるんだ」
大雑把すぎるが……こいつはなんでこうも楽しそうにしているんだ。
「まあ本音言うと化石ポケモンがほしいだけなんだけどさ。他にもあれだぜ、卒業後もアカデミー通って『ポケモン学』履修しててな先生も目指してんだ」
『ポケモン学』、要は生物学の他にポケモンの生態だけでなく体調管理やケア、接し方が加わったものだ。ポケセンの女医やブリーダーやレンジャーを目指す人のための授業でもある。
「だけどナッペ山登ってもなかなか見つからん。もしかしたらエリアゼロとかにあんのかなぁ」
「……あんたは挫折したのになんでそんなに明るいんだ」
わからない。突然夢を絶たれたのに、挫折を味わい夢を諦めたのに、なんでこいつはこんなにも明るいんだ。
「んー……生きてりゃいろんなことある。悔しいことだって悲しいことだってある。でもその分いろんなことに挑戦できるんだ」
「……」
「夢は一つじゃない。新しいことにもチャレンジすることも夢だ」
新しいことにも、か………サムい、けど何か押された気がした。
「………って、ばあちゃんの親戚のばあちゃんが言ってた!」
いや誰だよ。
「あんたの言いたいことはだいたいわかった………」
「クゥー……」
アルクジラがぼくの後ろに隠れて怯えだした。気づいたらぼく達はニューラの群れに囲まれていた。
ニューラは群れで行動し時として群れから逸れたアルクジラを襲うこともある。すこしおしゃべりの時間が長かったな。
「うおっ、いつの間に囲まれてたんだ!?」
「あんたの話が長いからだ」
「そっかなぁー、ここはバンギラスで追い払ってやるか!」
アキギリは張り切ってバンギラスを繰り出した。
「バギラッ!!」
「ニュッ……」
バンギラスに睨まれたニューラの群れは様子を窺う様に後ずさりする。しかし相手はぼく達の隙を狙っているので中々去ろうとはしない。
「さっきは話が途切れたけど……ぼくは事故でスノーボーダーの夢を諦めて挫折していた」
「え、おまえスノーボーダーだったのか!?」
……さてはこいつぼくを知らないな?こう言っちゃ何だけどそこそこ名はあるとは思うんだけど。
「諦めて何もする気はなかった……だけど少しやる気がついた」
モンスターボールを投げてポケモンを繰り出す。アルクジラよりも大きい白いポケモン、ハルクジラ。
「ハルクジラ、アイススピナー」
「クオオォォッ‼」
ハルクジラが独楽の様に回転しながらニューラの群れに突撃する。何匹かのニューラが跳ね飛ばされ、他のニューラ達が動揺しだす。
「………あんたの言う通り、新しいことにチャレンジしてみるよ」
「よーしナイス!バンギラス、ストーンエッジだ!」
「いやそこは人の話を聞いて⁉」
ぼくの話を聞かないでバンギラスに指示をする。バンギラスが強く踏み込みニューラの群れの足元から岩の槍を突き出す。高く打ち上げられたニューラ達はドサドサと落ちると慌てふためいて逃げ出していった。
「いっちょ上がり!グルーシャのハルクジラも中々やるじゃん」
「これでもバトルは強い方……」
ハルクジラを撫でてぼくは少し自信がついた。やってやろうか、まずはパルデアで一番強いジムリーダーを目指してみようか。
「クゥー…」
どっしり構えるハルクジラにアルクジラは目をキラキラと輝かせる。
「……群れに置いていかれたなら、ぼくのところにくるかい?」
「クゥッ!クゥッ!」
アルクジラは嬉しそうにピョコピョコと跳ねる。
「……さてと、ぼくは先にジムに戻ってるから」
少し遅れてきたことは運営委員のスタッフ達に謝らないと。どういうことかアキギリは不思議そうに首を傾げている。こいつ、ぼくがジムリーダーだってことまだ気づいてないのか。
「あんたには少し感謝してる……皮肉にもね」
「まあまあそう褒めるなって、みんなからよく言われる」
誰かこいつ殴ってくれないかな……でもひと押ししてくれたのは事実。
「お礼だけど……ひとつ教えてあげる。化石ポケモンがほしいならガラル地方の冠雪原に行けばいい」
「ガラル地方の?」
「昔、スノーボードの強化合宿で行ったことあるけどあそこには化石ポケモンが生息してるようだよ」
「まじか!サンキューな!そうとなりゃナッペ山の化石探しはひとまず置いといて、ガラル地方に行かなきゃな!」
「バギラッ!」
そう言うやいなやアキギリとバンギラスは猛ダッシュで山を下り始めた。
「ありがとなグルーシャ!おまえさんの新しいチャレンジ、応援してるぜー!」
「はいはい……」
遠くからアキギリのやかましいくらいの声が響いた。はぁ、よくわからない奴だけど……
「あまりサムくはなかった……」
_______
「ってのが、グルーシャとの出会いってわけよ!おいアマモ、ユズリハ、聞いてんのか!」
アカデミーでばったり会ったあたし達になんでアキギリが先生になったか、経緯を食堂で熱弁していた。
「いやあんた話が長すぎるのよ!」
「だからガラル地方に行く予定だったのに俺が船に乗ってるの見かけたから急遽行き先を俺と同じシンオウ地方にしたのか」
「まあ旅は道連れ世は情けってやつだ。まあおかげでつながりのひもの論文も書けたしな!」
ガハハとやかましく笑う。まあほんとポジティブな奴よね~
「アマモも色んな人と出会ってみたらどうだ?」
なんでこいつあたしにマウントとってる気になってんのか……いや、まてよ?
「……あんた、もしかしてグルーシャを気にしてる?」
「最初は気が付かなかったが中々の美人さんだな!今度メアドでも交換しよっかな~ってな!」
「「あー……」」
「おい、なんだ二人してその反応は」
「確かに、初見は誰だって間違うもんな。でも普通は気づくよな」
「ユズリハ、こいつのことだから気づいてないって」
「おい、二人して可愛そうな目で見てくるなよ」
「アキギリ……グルーシャはね、『男』なの」
事実を教えた直後、食堂に悲しいハイパーボイスが響き、夢が無惨に砕けて挫折したアキギリの姿があった。
アキギリ
自称ユズリハのライバル。真っ直ぐすぎる性格でよくアマモにラリアットされる。
現在は教員免許を取得、新米教師として奮闘中。『ポケモン学』を教えている
現在の手持ちは
ゴローニャ、ギガイアス、オムスター、ユレイドル、アーケオス、バンギラス。
ダブルバトルが得意。