買わねば……!
アカデミー最終学年になった時はボクとユズリハくんは別々のクラスとなった。
クラスは違えど休憩時間や放課後に度々会ってお話しすることはあったがそれ以外の時間に中々会えなくなった。
アカデミーの課外授業である『宝探し』が始まった時にはユズリハくんとは会わなくなった……ユズリハくんの事だからアカデミーの外へ出てパルデアの各地を冒険しているんだろう。
アマモちゃんも『宝探し』でアカデミーを出たようで彼女とも会うことはなかった。
アキギリは………えーと……わかんないや
ボクは外へ出ることを選ばずひたすらアカデミーで授業を受け、勉強をした。
ボクはやってみたいことを見つけた。その為にはたくさん学んで知識をつけなきゃ……
それからはボク達は出会うことなくアカデミーを卒業した。
月日が流れ……
「ここら辺なら見映えが良さそうだね……」
「ズビィッ」
相棒のズピカを連れて東3番エリアの高台からハッコウシティを眺める。
ここはパルデア十景がひとつ、『100万ボルトの夜景』。昼間はどこにでも見られるような建物が建ち並ぶ風景だが、夜になるとビルや建物の明かりとネオンの光による見事な眺めになるのだ。
そしていまボクとズピカがいる場所が人気のその絶景スポット。ここから見える夜景がとても映える。
「うーん…ここで最高の景色を映せばフォロワー数は上がるかな?」
アカデミーを卒業してからしばらくして、ボクは動画配信を始めた。
有名になりたい、っていう理由もあるが……あの時ユズリハくんが見せてくれた動画がきっかけかな。
ボクもあの動画が好きになって見続けたし元気をもらえた。だからボクもこの活動で誰かの元気に、いいねになりたいと思った。
だけど動画配信っていう世界は以外と大変だ。
配信活動を始める人は星の数ほどいても有名になる人はほんの僅か。再生数が伸びなかったり、誰にも見てもらえなかったり……挫折して諦める人がごまんといる。とても狭くて険しい道だ。
でもボクは諦めたりはしない。ここまで本気でやりたいという気持ちを初めて見つけたんだ。
動画配信を始める前にアルバイトして資金を稼ぎ、髪をピンクと水色のツートンカラーに染め、身だしなみも変え、ボイストレーニングやら力になるものは死にものぐるいで特訓した。
やってみたいやり続けたい『夢』なんだ。中途半端で投げ出すものか、絶対にやり遂げて皆が注目するインフルエンサーになってみせるんだ!
「とは言ったものの……うーん」
動画を始めて半月ぐらいかなぁ……再生数や登録者数はまちまち、動画の伸びはまだまだ低い。
「それにちょっとまだこの格好にも慣れないなぁ」
今はノースリーブのインナーウェアにオーバーサイズの黄色いコートと少〜し大胆な格好だ。
ダボダボの袖で所謂『萌え袖』はじめ属性増し増しの動画受けの服装にしたのだが如何せん恥ずかしさが出てきてしまう。
「おかげで最初の配信は恥ずかしくてうまく喋れなかったよ」
緊張感と羞恥心のダブルアタックで嚙みまくり。最初の配信は上手く喋れなくてひどいできだったな……
だけどもこの格好のおかげか登録者数が少しずつ上がり始めてきた。
こんなボクの動画を見てくれている人がいるんだ、諦めないで頑張っていこう。
「その為にはどう撮影しようか……」
「ズピピ」
ボクとズピカはどうしようか傾げた。動画の再生数を伸ばそうと思いついたのは『パルデア十景』を映そうという企画。そこから見る景色は綺麗ときいたので伸びると考えた。
まず手始めに近場にある『100万ボルトの夜景』。夜景の写真とかは人気だしこれはいけると思ったのだが、まだ昼間だしただ景色を映すだけで伸びるかなぁと少し心配になってきた。
「むむむ…いいアイデアが思いつかない……うん?」
気がつくと近くで口もとを黒いマスクで隠した黒いスカジャンを着た男女二人組がいた。ここの景色を見に来たカップルかな?
「あいあーい!!トウバとぉ?」
「ジャンバンのぉ~『カラッカラッチャンネル』ぅーっ‼」
スマホロトムを取り出して撮影を始めた。この人達もボクと同じ動画配信者か……あれちょっと待って。何処で見たことがあるような……
「さあ始まりましたー、おなじみゲリラ配信の時間だ!」
「今日も配信中の新人さんに激辛突撃しちゃうよー!」
思い出した!最近巷で問題になってる動画配信初心者狩りをしてる二人組だ!
新人さんの動画配信中にいきなり乱入し、無理やりポケモンバトルを持ちかけ容赦なく痛めつけるところを配信し、罰ゲームと称して身なりや道具を荒らして公開処刑し、撮影終了すると高い賞金を巻き上げるとんでもない輩だ。
それがきっかけで配信をやめる新人が続出。要注意人物だから気をつけて、とおとくなけいじばんに書かれていた。
ボクの手持ちはズピカだけ……まずい、絡まれる前に逃げなきゃ……!
「今日のお相手はぁ〜……新人のナンジャモちゃんでーす!」
にげられなかった!
「ちょっと注目なニューカマー、これから人気がたきのぼりしそうだよね~?」
「だから私達がちょーっと配信の厳しさをレクチャーしてあげる」
顔は笑っているがスマホロトムをこっちに向ける視線はあくタイプのような怖さがみえた。
「あ、あの……こ、これから帰るところなんだけど…」
「さてここでご登場、ヘルガーちゃんと」
「ワルビアルちゃん!」
二人はモンスターボールを投げてヘルガーとワルビアルをくりだしてきた。
「ガルルルッ‼」
「グルルルッ‼」
「っ⁉」
2匹共唸り声をあげてギロリと睨み威嚇をしてくる。あまりの怖さにボクは足が震えて動けなくなった。
ここで酷い目に合うなら、せめてズピカだけでも逃げて……
「ズ、ズピィ……」
ダメだ、ズピカも怖くて動けないでいる…!
「うちのヘルガーちゃんとワルビアルちゃん、ちょっと運動不足なんよねぇ~」
「だからダブルバトルで運動不足を解消しちゃおっか!」
「ま、待ってよ!ダブルバトルって……⁉」
これじゃ一方的じゃないか!バトルじゃなくてやりすぎた暴力だ!
「おやおや〜?ナンジャモちゃんはズピカだけかなぁ?」
「強者感あるぅ~!それじゃ負けたら罰ゲームねっ!」
「負けたらまずはコートを脱いでもらおっか!みんなもみたいよねぇ~」
そんな…完膚無きまで叩きのめされ、辱めを受けられボクの配信が荒らされちゃう…そ、そんなの嫌だ!
「ズピカ逃げて!」
「逃すかよっ!ヘルガー、かえんほうしゃっ‼」
「ガルルァッ!!」
ヘルガーがボクのズピカに向けてかえんほうしゃを放ち、ズピカが炎に包まれてしまった。
「ズピカぁっ‼」
ボクのズピカが…ボクの大切な相棒が……!
二人組はあざ笑い、悔しさがこみ上げ涙で目が霞む。イヤだ……こんなところでボクの夢がぶち壊されるなんて……!
「……あれ?なんかいね?」
嘲笑っていた二人組の笑みが消えはじめる。涙を拭い目を凝らしてみると黒煙の中に何かがいた。
黒煙が晴れ次第にはっきり見えると……ズピカの前に包帯でぐるぐる巻きの姿をしたポケモンの姿が立っていた……!
「………マヨッ」
た、たしかあれって……ヨマワルの進化系であるサマヨールだ。
「おい!なんでこんなところにサマヨールがいんだ⁉」
「ちょ、ちょっと!こいつあんたのポケモン!?」
「ち、違う…」
パルデアにはサマヨールは生息していない。いたとすれば他のトレーナーの手持ちポケモンだ……ボクははっと思い出す。
まさか
「おいおい、ダブルバトルで2対1は動画受けしないだろ?」
懐かしい声が聞こえてきた。
声のする方へ向くと……相変わらずのムスッとした顔、赤い髪で白いシャツの上にベスト、黒いズボンの……見覚えのある人の姿が。
「ゆ、ユズリハくん……?」
「ハッコウシティのジムの視察帰りになんか揉め事が見えたんできてみたら……ナンジャモ、久しぶり」
ボクのそばに寄ってにっと笑う。ユズリハくんだ……いつもと変わらないユズリハくんだ…!
ボクは抱きつ
く前に思いっきりユズリハくんを叩いた。
「久しぶり……じゃないよ!卒業式にも会わなかったしどこほっつき歩いてたんだ!」
ああ違う!確かに久しぶりに会えて嬉しいんだけど!嬉しいんだけどその前に言いたいことがありすぎてプンスカしちゃう!
「いだだだ⁉叩くな叩くな!確かに悪いって思ってたんだけどやることがあってさ……」
「やることってなんだよ!ボクより大事なのかい‼」
「あだだだ⁉正直すまんかった!あ、その衣装とてもかわいいぜ!」
「かわっ……って、話を逸らすなバカっ!」
「こらぁっ‼ひとの動画でいちゃつくんじゃねぇっ‼」
あ、そうだった。動画配信初心者狩りに遭ってるんだった。
「さ、さて…ダブルバトルなら俺も参加していいよな?」
「この野郎……!調子に乗んなよ!」
「へっ…ゴーストタイプはあくタイプに弱いって知ってんのぉ?」
そうだ、ゴーストタイプはあくタイプが弱点だ。サマヨールじゃ相性が悪くて負けちゃう…!
「ワルビアル!かみくだ……」
「サマヨール、れいとうパンチ」
「マヨッ…」
ワルビアルが動く前にサマヨールが一気に迫り、冷気を纏った拳をワルビアルの顔面にぶつけた。
「ワビャァッ!?」
強烈な一撃をくらったワルビアルはふっ飛ばされると大の字に倒れた。れいとうパンチでワンパンKOされたことに二人組はぎょっとする。
「は、はぁっ⁉」
(よくわからないけどたぶん)ドヤ顔をしているサマヨールにボクも驚く。でもなんとなくわかる、このサマヨールは強い。
「にゃろう……ヘルガー、バークアウトっ‼」
「ガルルァァァッ‼」
ヘルガーが大きな声で吠えて衝撃を放つ。するとサマヨールがズピカの前に立って攻撃を防ぐ。
ボクのズピカに当たらないようにしてる…!かえんほうしゃを受け、こうかばつぐんのバークアウトを受けてもサマヨールはピンピンしてる……なんという打たれ強さを持ってるの、ユズリハくんのサマヨールは……!
「そんなもんじゃサマヨールは倒れないぜ」
「ちょ、ちょっと⁉これヤバいんじゃ……」
「こ、このっ……ヘルガー、かみくだくだ!」
ヘルガーが大口を開けてサマヨールに向かって噛みつこうと迫る。
いけない…ボクも動かなきゃ。震えていた足はいつの間にか震えが止んでいた。
「ズ、ズピカっ!みずでっぽう!」
「ズピッ!!」
ズピカも勇気を振り絞って動き、ヘルガーに向けて力いっぱいにみずでっぽうを放った。
「ガルッ!?」
みずでっぽうをくらったヘルガーが不意打ちをくらって怯む。その隙をユズリハくんは見逃さない。
「サマヨール、あわせて」
サマヨールは怯んで動きを止めたヘルガーに迫り……
「シャドーパンチ」
「……マヨッ!」
紫色のオーラを纏った拳をヘルガーに放つ。
「ギャインッ!?」
一撃をくらったヘルガーはふっとばされ目を回して倒れた。タイプ相性をものともしない……このサマヨールはかなり鍛えられてる。
「ナンジャモ、ナイスアシスト」
「う、うん…!」
ニッと笑うユズリハくんに思わずドキリとする……久しぶりに会えたんだ。嬉しさがこみ上げてくる。
「ち、ちくしょう‼負けちまったぁ!」
「ど、どうするのよ⁉」
ダブルバトルで負けた初心者狩りの二人組は狼狽していた。自分達が負けるとは思ってなかったのだろう…
「動画見たけど確か…負けたら罰ゲームだっけ?」
「ひっ⁉」
「そ、そんなの冗談よ、ジョーダンっ!」
何が冗談だ、散々人に罰ゲームと称した公開処刑をやったんだ。
「うーん……何がいいか思いつかねぇや」
「そ、それがいいって!平和的に解決しよっ!」
「や、やる必要ないよっ!」
「だな……てなわけでチリさんにお任せします」
「「へ?」」
二人組が後ろを振り向くと……緑色の髪をしたスーツ姿の長身細身の女性がいた。その女性はにっこりと笑って二人組の肩を叩く。
「おたくら、確か話題の動画配信者なんやなぁ?」
チリさんと呼ばれた女性は独特な訛りで話しかける……笑顔だけど圧があって怖い……
「わ、話題って…お、俺たちそんな人気者じゃ……」
「た、たいした事してないわ……!」
「せやなぁ。他の配信者だけやのぅて、トレーナーに観光客、更にはアカデミーの生徒にも強引にバトルしてカツアゲしとるもんなぁ?」
ガッと二人組の肩を掴む手に力が入る。彼女の笑顔に二人組は恐怖した。
「そんなことしよったら他の人達の迷惑になる。だから……ちょーっとチリちゃんとお話、しよか?」
「「ヒィッ!?」」
あの人めっちゃ怖いんだけど
「チリさん、すみません」
「ほんまやで、まあ問題になっとることはほっとけへん。あとはチリちゃんに任しとき」
ユズリハくん……知り合いなのかな?ん…そういえばこの人もどこかで見たことがあるぞ?
「まったく、新人チャンピオンが四天王をこき使うたぁ人使い荒いなぁ」
「ち、チリさん!冗談はよしてくださいよ」
思い出した!チリっていう人は確かポケモンリーグの四天王の人だ!
ん?………新人チャンピオン?
「ゆ、ユズリハくん……チャンピオンって……」
おそるおそるユズリハくんへ視線を向ける。ユズリハくんは申し訳無さそうに頭をかく。
「あー………あの時『宝探し』でさ、ジムチャレンジしてな?そんでリーグ突破してなっちゃいました」
「」
はあああっ!?ユズリハくんがチャンピオンにっ!?
登場人物紹介……
トウバ&ジャンバン
『カラッカラッチャンネル』の配信者。
動画配信初心者だけでなく他のトレーナーや観光客、アカデミーの生徒にゲリラ配信してバトルを強引に持ちかけ高い賞金を巻き上げて問題になる
ユズリハとのバトルに負け、チリちゃんと『お話』して配信を辞める
その後は改心して激辛料理の屋台を始め、人気になる。
今現在はピケタウンで店を開いている