君といると視線が痛い、物理的に 作:うぼぼぼ(絶望)
あなた方が見下したものを、
今になって必死に崇め媚びる様は、
至極どうでも良いのです。
藍山透と、鳥居大路一の距離は近い。
これは彼らの通う高校───私立博名高等学院では周知の事実であり、謎と不満を撒く種だ。
付き合ってるわけでもなく、しかし好意がありげな行動が多い。デートの誘い、物理的距離の近さ、会話の気やすさ…二人が「親しい」と断言出来る材料には事欠かない。
だが「なぜ」という声も多い。
いつそこまで親しくなったのか、どうして彼なのか。
明け透けに言ってしまえば、この「なぜ」には嫉妬の声も多分に含まれている。
ぶっちゃけた話───鳥居大路はクラスメイトからあまりよく思われていないのだ。
彼がどんな人間なのかと問えば、こう返ってくる。
「人の顔色ばっか窺ってるやつ」
「いつもしんどそう」
「暗いよね、地味顔だし?」
「楽しくなさそうなんだよな」
「じめじめしたやつ」
鳥居大路は社交的とは言えない少年だ。
決まって友人としか話さず、保健室によく行き、学校が終われば早々に帰宅する。
交友関係を広げる素振りはなく、自分がしたいことをするタイプだが、かと言って和を乱すことはなく、周りにはしっかりと合わせる。良くも悪くも「いてもいなくても変わらない人間」なのである。
だからだろうか、割と容赦のない言葉の槍玉に上がる。何を言っても気付かず、反応もしないからだ。
子どもというのは残酷であり、それを好奇と言わんばかりに多くのレッテルや罵詈雑言を貼る者がいても、珍しくはない。
そして総じて『鳥居大路一は、藍山透とは不釣り合いである』という意見に繋がるのだ。
そして、これを聞いて不機嫌になるのは藍山透だ。
しかし悲しいかな、周りはそれを気づかない。
単にそこまで気付けないのか、納得がいかないからか、それとも気に食わないのか。
ともかく、この話が彼女の耳に入ることはあまりない。
だがまるで呪詛のように学内からこの話が消え去ることはない。人の噂も四十九日と言うが、それを過ぎてもなおべっとりと。
時間は放課後。演劇部の活動中でも、私は早退したハジメが無事なのか気がかりだった。
気絶は彼にとって珍しくないこと。
運動と発話、認知や見当識にも問題がないこと。
だから大丈夫だと川田先生が保証してるし、タクシーも手配されたから、きっと無事なのだろう。
それでも私は心配が拭えなかった。
渡された台本を見ても、どうにも心ここに在らずで、集中出来ていないのが現状だ。
「トオルってさぁ、何でハジメ好きなの?」
「…いきなりだね、ミヅキ」
「本人早退したから、今なら聞けっかなーと」
友人で部活仲間の
私とは異なり長髪と可愛い顔を持つ彼女は、どうにも人間関係に対する詮索と把握を好んでいるらしい。
…彼女の言う通り、私はハジメのことが好きだ。
それは友愛でも親愛の情でもない。ちゃんと恋愛感情として彼を好いている。
「いきなり聞いてくるね、何で今更?」
「体調崩したハジメをトオルが運んだって話じゃん? そんで今割と荒れてる子いてさー、気になったんだよね」
「私が彼を好きな理由ねぇ」
ミヅキは良い友人だが、良い人とは言い辛い。トラブルに首を突っ込むことに躊躇がないし、詮索が憚れるようなことでも詮索してくるところがある。
本人も悪癖だと理解して、直そうと努めてはいるらしいが、好奇心が勝れば今の通りだ。
いつか刺されそうだと思う。
けど、どうしたものか。何から言えばいいだろう?
眉間の辺りを指で刺激しながら、思考を巡らせる。
思いつくこと、当然だと認識してるもの。一つ一つを頭の中で整理しながら、私は口を開いていく。
そうだ、最初は外見的特徴からいこう。
「まず線が細い、かわいい」
「お、おう?」
小柄だが細くしなやかな肢体。
抱きしめれば折れてしまいそうな体。
庇護欲を駆り立てるそれは、制服越しでもしっかりとわかる。それと彼には、自分の腕を掴む癖がある。あえかな肩周りがよくわかるから、あれは好きだ。
「なのに意外と運動できる、ギャップ」
「あの?」
体育で男女が別になったことがある。女子がバレーで、男子がバスケ。ハジメは見た目からは想像できないけれど、運動は結構出来る方だ。
ただ、バスケのルールはいまいちわかってなかったのか、トラベリングやダブドリを頻発してた。
友達らしき男子が甲斐甲斐しく教えてたっけ。背丈の差もあって可愛かったな。
ああ、そうだこれも忘れられない。
「へにゃん、って柔らかく笑う顔が好き」
「あー、ちょっと待って」
そこで待ったが入る。何だろう、聞いたのはそっちなのに。なんて思っているとミヅキは手をわなわなわと震わせながら、大声を上げてこう言った。
「あたしが聞いてんのは〝なんで〟なの! ポイントじゃなくてリーズンを聞かせろリーズンを!!」
「いきなりルー○柴みたいに話すね」
「殺すぞ」
言葉遣いが一気にダーティになった。
そんなに嫌だったのだろうか。似ていたのに。
大声が響いたけど、誰も様子を見にこない。ここが空き教室なこともあるけれど、この時間帯のここら辺りは、演劇部の練習場になることも大きいんだろうなと思う。
しかし、それにしても───
「理由、かぁ。そんな気になる?」
「気になるでしょ、よく言われてんよ? 藍山と鳥居大路はどう考えても不釣り合いなのになんでだーって」
「へぇ?」
不釣り合い。
……不釣り合いねぇ。
それは外が決めることじゃないのに。
何ともおかしな話だなと思う。
そもそも私のことを外野から勝手に決められるのは、あまり良い気分じゃない。
私が何を好きでいようが、何を選ぼうが私の勝手で私の自己責任だ。とやかく言わないで欲しいものだ。
〝───いいじゃん、かっこよくて〟
少なくとも、彼の友達には及ばずとも、何も知らない周りよりも、高校で初めて一緒になった奴よりも、彼のことを知っている自負はある。
百歩譲っても、わちゃわちゃ言うのは私より彼を知ってからにして欲しいものだと切に思う。
「ねぇ、ミヅキ」
「あー…ごめん、トオルこの話きら───「たとえ相手が覚えていなくても」…トオル?」
だめだ、沸々と怒りにも似た何かが湧く。
私は美月の両肩を掴み、顔を間近にしながら言った。
声はどうにも震えっぱなしで、落ち着きから遠い。
思考なんて感情に飲まれて消えていく。
「今まで否定されてた生き方や好きなものを肯定してくれて、自分の今とこれからを変えた人を好きになるのは、そんなにも珍しいことかなぁ」
例え知られていなくても、私には十分な動機がある。それすら知らないのに、周りがうるさい。
勝手に思うなら良い、でも言葉にされるのは酷く気分が悪い。でも人の口は縫いでもしなきゃ動くもの、語るもの。いくら言っても、結局は不釣り合いだなんて話は流れるんだろう。
でも、それでも。
「王子様なんて役はいっぱいやったけどね」
「一瞬で現れて、一瞬で何もかも壊して」
「永遠に焼きついた彼こそが」
「
例え向こうが覚えていなくともだ。
でも吐いて、吐き出してから冷静になる。
僕は何をしているんだ。
ミヅキに当たっても仕方ないだろう。
謝罪と一緒に肩から手を離す。
ミヅキは驚いたように目を見開いて、崩れた制服を直しながら呆然とした声で言ってきた。
「…あんたそんな重い奴だっけ?」
「…あー、えっと〝神は、我々を人間にするために何らかの欠点を与える〟って言うじゃん」
「シェイクスピア多分そんな意味で言ってないと思うよ」
というか重いのは否定しないのね、と呆れの溜め息を吐いて苦く笑う
自覚はあるんだよ、一応ね。
感想と評価ありがとうございます。もっとあると喜びます(隠さない欲望)
鳥居大路一:マジで何も覚えてない(…?)
藍山透:逃さん…
堀内美月:「…待ってハジメってそんな柔らかく笑うの?」
シェイクスピア:重たい人から引用された