──あぁ、僕は恐ろしい。こんな茶番に、付き合わせられていただなんて──

1人の魔法少女が、黒に染まった。仲間に見知られた、輝かんばかりの純白とはとは真逆。
この世全てを焼き尽くすようなその色を纏った彼女は、何処か鴉に似ていた。

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『レイヴン、直に作戦領域だが・・・調子はどうかな?』

『良好だよ』

『魔法少女の戦績を統合し、作り上げたオペレーション。無数の敵を屠り倒して来た、君の技術。そして・・・この魔装。これが負けるとは思えないけどね』

『君の望みは人類の覚醒と、神様の欺瞞の破壊、そして復讐。そう言う点では、僕達の利害は一致してる・・・
神様の作る箱庭の平和なんて、人間が組み込まれて良い世界じゃない』

『それを台無しにする為に、人間を辞めたと?』

『僕は変わらないよ。大切な友達を助けたいだけ・・・好きに戦い、理不尽に足搔く・・・それが僕だ。人間かどうかじゃない』

『ふむ。美しい友情、ってヤツなのかな?これが・・・まぁ良い。じゃあ、始めようか・・・!』


幻想の終止符、或いは、茶番の幕引き

「もうダメ!抑えられない!」

「クソッ!1匹抜けた!」

魑魅魍魎跋扈する戦場の最前線で、悲痛な叫びと悪態が飛ぶ。

可愛らしいメルヘンチックな衣装やドレスに身を包み、盾や剣、銃砲や戦鎚等、魔装と呼ばれるそれぞれの武具を振るう少女達・・・魔法少女と呼ばれる彼女らは、今正に窮地に立たされていた。

「うがぁっ!?」

大盾の魔法少女が、大鬼の棍棒に殴り飛ばされた。致命的な隙を曝した獲物に、下卑た笑みを浮かべた餓鬼が群がろうとする。

「ちぇえいッ!」

しかし、その首は悉く己の胴と泣き別れとなる。和装の魔法少女が、居合一閃に斬り払ったからだ。

「確りしてルーク!」

「ご、ごめんサムライソード・・・」

盾持ち(ルーク)は何とか持ち直すが、和装(サムライソード)共々、表情は苦々しい物である。

大規模侵攻(スタンピード)・・・魔物が数千単位の大挙を成し押し寄せる、現世にまろび出た地獄の一欠片。

今彼女達は、その大規模侵攻に立ち向かっているのだ。それも、1時間、休み無く戦い続けている。

最初の大規模侵攻は、僅か半年前。その際には、多数の殿と1人の魔法少女の犠牲によって、辛くも乗り越えた。しかし、今回そんな鬼札は無い。少女らは疲弊し、終わりの見えない戦いに涙ぐむ者も多かった。

 

─ヒュッ ドッ─

 

「がっ!?」

「サムライソード!?」

大鬼の攻撃を去なし、反撃に転じようとした瞬間。サムライソードの腕に、細く小さな矢が刺さる。そして数秒もせず、彼女は膝から崩れ落ちる事となる。

「大丈夫!?サムライソード!」

「か・・・ひゅっ、ひゅぅ・・・」

だらりと四肢を弛緩させ、半開きの口から不規則に空気を吐き出すサムライソード。腕に刺さったのは、神経を麻痺させる毒矢だった。

「グオォォォォ!!」

悍ましい叫び声を上げて、自慢の棍棒を振り下ろさんとする大鬼。ルークは大盾を構え割り込むものの、敵の圧倒的な質量に絶望した。

(嫌だ!死にたくない!死にたくないっ!)

 

─ドシュォ!─

 

大鬼の顔が愉悦に歪んだ刹那、空気を切り裂いて直上から何かが飛来する。

それは空中で1本から10本に分離し、大元の親機が大鬼を、散蒔かれた子機が周囲の敵を吹き飛ばした。

それは、分裂型ミサイル。絶望だけがあった戦場に、小さな空白を作り出す。

「っ!?こ、これって・・・」

『よく頑張ったね、ルークちゃん。後は任せて』

突如として通信回線に割り込んで来た、謎の声。しかし、ルークはこの声に聞き覚えがあった。

「まさか・・・!」

 

─ドワォウッ!!─

 

彼女が眼を見開いた直後、前方でライムグリーンの大爆発が起こる。近くに居た怪物は有象無象の区別無く蒸発し、巻き上げられた土埃が、周辺区域を覆い尽くした。

「まさか・・・シャイン、ホワイト?」

ルークが呟くのは、居る筈の無い親友の名。それに答えるように土埃が風に流され、声の正体が露わになる。

「なっ!?」

その姿は、ルークの知るそれとは対極であった。

 

魔法少女と言うには若干異質な、ロボットフレームのような純白の外装。

背中に口の広いV字型に配置された、高出力のスラスター。

モトクロスのそれにも似た、前後に延びたヘルメット。

そのヘルメットから飛び出し、大きくカールした髪を靡かせて、高速で敵の頭上を飛び回りアサルトライフルやミサイルで敵を蹂躙する。それが、魔法少女の仲間内で知られるシャインホワイトの姿だ。決して、今のような姿では無い。

 

煤けて染まったような、漆黒の機体。

肩や腰から伸びる、赤熱化したスクランブルケーブルのような何か。

猛禽類の爪のように変化した、バーニア付きのメカニカルブーツ。

露出した二の腕や太腿、首や脇腹に食い込むように走る、緑のライン。

何もかもが黒く染まった中で唯一、髪だけは白いままである。

「ホワイト、なの・・・?」

『うん・・・少し、待ってて。終わらせて来るから』

「終わらせるって、1人で!?無茶よ!」

『出来るよ。今の()()なら、ね』

 


 

其処からは、正に蹂躙だった。

普通の魔法少女では有り得ない魔力量から繰り出される、以前のそれを遥かに超えた暴風雨のような弾幕射撃。四方八方に発射される、散弾のような分裂型ミサイル。

更に、距離を詰めてブーツの先端で敵の身体を貫き、両手のレーザーブレードで4~5体纏めて切り払う。敵の遠距離攻撃は緑のバリアで防ぎ、その状態で敵にブースターを吹かして飛び膝蹴りで強襲。そのまま流れるようにバリアのエネルギーを全開放して大爆発させ、多数の敵を纏めて消し飛ばす。

万に届かんとする程の量がいた怪物達は、気が付けば総てが死に絶え、魔力粒子に転換され霧散していた。

「すごい・・・」

ルークに支えられ、サムライソードが呟く。麻痺毒も大方抜けて、何とか立ち上がれる程に回復していた。

『皆、生きてる?』

ゆっくりと降下しながら、魔法少女達を見回す黒色。その声色は、心から彼女達を心配しているものだった。

「シャインちゃん、なの?」

『うん・・・僕だよ、レグルス』

鉤爪の魔法少女に、黒は答える。ヘルメットを展開して素顔を晒し、両手の武器を腰にマウントしながら。

その丸みを帯びた眼の下には、涙にも似た緑に光るラインが喰い込むように浮かび上がっている。

「シロちゃん!今まで何所で何してたの!」

「心配したんだよ!?」

「その姿だって・・・」

 

───きけんです ことばをかわしてはいけません───

 

微笑ましい雰囲気から一変。魔法少女の脳内に、何者かの声が響く。

「神様!?」

「どういう事!?」

 

───そのものは あくまにせんのうされ ちぎりをかわしました われわれのてきです───

 

「敵!?」

「う、嘘でしょシャインちゃん!?悪魔と契約しただなんて!」

『・・・やっぱりさぁ・・・黙っていてはくれないみたいだね?』

『なぁに、想定の範囲内さ、レイヴン』

黒の胸部装甲が開き、拳よりも一回り大きい真っ赤な目玉のようなものが現れる。光りながら脈動するそれは血管のようなラインを伸ばしており、黒の全身各所に散ったそれは、途中からライムグリーンに変色していた。

『ご機嫌よう、哀れで白痴な魔法少女諸君?』

目玉はキュルキュルと音を起てて、首を傾げるように傾く。その仕草、喋り方、何方も胡散臭く、人の神経を逆撫でるものだ。

「悪魔ッ!?」

「アンタがホワイトをッ!」

『あぁ、ご名答。僕が悪魔だ。ボロ雑巾のようにくたばり掛けていたシャインホワイトと融合、蘇生し、新たな力をくれてやった。強さは、まぁ見ての通り』

「テメェ、シャイン先輩を返しやがれッ!」

『返せ?おかしな事を言うね。僕はシャインホワイトの《死にたくない、助けて》と言う願いに応え、死の淵から彼女を救った。命1つと言う大きな願いには、相応の対価がある筈だろう?』

「このッ、外道ッ!」

『大いに結構。盲目の傀儡よりも、自由な外道の方が・・・僕にとってはよっぽど良いさ』

「貴様ッ・・・!」

『止めよう』

悪魔の煽り文句に一触即発となる魔法少女陣営だったが、それを黒の声が遮り止める。

『もう良い。君の言葉は、端から対話の意味を成さない』

『ふむ。では、精々黙っているとするよ』

「・・・シャインちゃん。本当に、敵になってしまったの?」

『ううん・・・僕は、皆と戦いたくなんて無い』

「だったら戻ろう!?神様だって、皆でお願いすればきっと・・・」

『無理だよ』

先程までの優しさを滲ませた声色から一転、冷たく吐き捨てるように否定する黒。その眼には、深い失望と恐怖が浮かんでいた。

───そのものをすくうほうほうはありません いますぐたおすのです あくまのてごまとなったもののことばにみみをかたむけてはなりません───

 

「でも、神様!ホワイトはあんなに、神様に祈りを捧げていたじゃありませんか!誰よりも戦って!」

『何を言ってるかは知らないけど、僕を倒せとか言ってるんでしょ?でも、ダメだよ。みんな、こんな下らない茶番に付き合っちゃダメだ。今すぐ逃げて、早く』

「そ、そんな・・・」

 

─バシュオッ─

 

躊躇いが強く残っている面々が困惑する中、黒を目掛けて1本の矢が撃ち込まれる。

バリアに防がれ砕ける矢を射掛けた射手に、黒は眼を向けた。

「チッ、面倒臭ぇなぁバリアなんざよぉ。とっととくたばれっつーの」

「こら、はしたないですよ」

マスクで覆われた口から悪態を吐く忍装束風の弓持ちを、西洋僧侶の衣装を纏った魔法少女が窘めるように叱る。そして穏やかな表情で、冷え切った眼を黒へと向けた。

『ホーリーベント・・・やっぱり、君はそう来るよね。』

「裏切り者と交わす言葉などありません。さぁ皆さん?神様が倒せと言ったのです。其処に疑問など持ってはなりません。神様は絶対正義なのですから」

しゃりんと錫杖を鳴らし、石突きを地面に打ち付ける。すると光の円が広がり、魔法少女達を包んだ。その中にいる魔法少女達は眼が虚ろになり、各々の魔装を構え始める。

『洗脳能力を持った支援特化(バッファー)、しかも狂信者か。全く、便利な駒を手に入れたじゃあないか』

皮肉っぽく吐き捨てる悪魔。対して黒は口元を歪め、眼に哀愁を宿した。

『ホーリーベント。僕はもう、祈る事は出来ない。その祈りを踏み潰す程に、《恐怖》を知ってしまったから・・・

ジェネレータ出力再上昇。オペレーション、パターン2・・・』

ヘルメットのマスクが再び眼から下を覆い隠し、両腕は適切な力でライフルを握る。そして背中の翼から毒々しく輝くライムグリーンの粒子を噴き出し、上空に浮上した。

『目標、()()()()ホーリーベント、及び狙撃弓手(レンジャーアロー)

『殺すのかい?魔法少女を』

『あの子達だけは、確実に。でも、他は殺しちゃダメ』

『全く、無茶な注文をする鴉だ。まぁ、君の技量とこの魔装なら、或いは・・・しかし、彼女らと戦うのは怖いだろう?銃口がブレなければ良いけどね』

『怖い・・・そうだ、僕は恐い。全部知ってしまったんだもん、そうだ、畏怖(こわ)いよ。

でも、僕の仲間が、大好きな友達が、()()()()()に巻き込まれる方がずっと恐怖(こわ)い。だって─────』

 

 

 

─────総ては、幻想(ちゃばん)なんだから


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