生き残るために秘密を明かせ   作:時村ニレ

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生き残るために秘密を明かせ・②

 

 ――特殊警棒使い、女性。おそらく右手が義手。高木や佐藤と同じくらいの年齢(とし)か?

 デニムの上着とGパン、黒いリュックサック、髪の束ね方が低いし雑だ。

 容姿に頓着するような性格の娘さんじゃあなさそうだな。

 サングラスは、……これ、眼鏡つけて上から遮光グラスを重ね掛けしているな。

 ってことは、『呪いの襲撃を防ぐために己の視線を隠す』っていうタイプかい。

 素人目にはそこそこ戦えるように見える呪術師のお嬢さん、だな。

 

 それが、小五郎が彼女の姿をパッと見た時の推測だった。

 遠い昔の刑事時代に秘密厳守という口止めと共に習った情報では、確か『呪術師は若死にが多く、主戦力の年齢層も世間より低め』だと言われたのでは無かったか。

 それから、『幼い内から能力を鍛えることを優先するために、強い力を持つ割に社会性が備わっていないケースが散見されがち』なのだとも。

 

 彼女はおそらく呪術高専(あちら側)の所有車から降りて、一瞥したこちら側のパトカーにほんの僅かに硬い顔を見せてから、呪術高専(あちら側)の裏方さんと一緒に目暮警部と話し込んでいる。

 その会話の内容は、パトカーの後部席に座した小五郎からは伺い知ることはできない、はずだった。

 

 だが、何度かやり取りを交わしたらしい警部は、意外にもその呪術師のお嬢さんと一緒にこちらに来たのだ。

 

「毛利くん、ちょっと良いかね?」

「はじめまして、呪術高専の多知花です。

 秘密を守って頂くという大前提の上で、これから何点かお話したいことがあるのですが、差し支えなければパトカーから降りて来て頂いてもよろしいでしょうか?」

 

 『社会性が無い』と聞いていたから覚悟していた割には、そこそこまともそうな口ぶりだった。

 

  ◆

 

 思い出せ。鼻を突いた鉄錆の臭いを思い出せ。血と、肉と、車のオイルか何かが混ざった腐臭。

 思い出せ。消えた右手の感覚を思い出せ。あったはずの肉塊の熱を思い出せ。助手席のこちらを引っ張ったのか引っ張られたのか、手を握ったまま圧縮された掌。

 思い出せ。朦朧とした視線で視たものと感じたものを思い出せ。振り返り血を流す右眼で視た、身じろぎした視線の先の、割れた窓の向こうに降り立った……。

 

  ◆

 

「呪術師についての知識は、どの程度ご存知でしょうか?

 使う術式が一人一人違うということは、お二人ともご存知ですか」

 

 多知花の問いに、目暮警部と毛利探偵の両方がうなづいた。なら話は早い。

 

「術式は、固有(ユニーク)で珍しいものから、そうでないものまで、色々とあります。

 あくまで私の場合は、ざっくりと言えば『えげつない自分語りをするほどに、体力のステータスが上がる』という私固有のものです」

 

 特殊警棒で現場を指差す。

 一般人でも禍々しさを感じているのかもしれない、産婦人科だった廃墟。

 

「現場の様子を見るに、私の突入は確定ですが、念のためある程度体力を上げておきたいと思っています。

 私がここで自分のことを話すので、普段の雑談を聞くように耳を傾けて頂けませんか?

 お二方の両肘を掴ませて頂けると効率が上がるので助かります。

 出来る限り万全の状態で、入って行きたいんです……」

 

 否は無かった。

 毛利探偵の肘に義手の右手を掴み、目暮警部の肘に左手を掴み、多知花は呪力を練りながら語り始める。

 

  ◆

 

 繰り返しますが、秘密を守って頂くという大前提の上で、私が呪術師になった経緯をお話しようと思います。

 6年前の夏、私は22で、警視庁のA採用の巡査で、警察学校の初任科でした。

 

 家族が全滅したんです。

 交通事故で、米花署の裏の道で、多重人身事故で、両親と妹が、車中で即死だったらしいです。

 

 『米花署が事故対応しているから、とにかく来い』と言われて。

 警察学校を緊急に発つように指示されて、パトカーに乗せられました。

 

 運転されていたのが教官で、私は助手席に居ました。

 米花署に向かう、途中の道でした。

 重機と鉄骨が降ってきて、運転席に重く当たって。

 潰されたんです。教官の全身と、私の右手首。

 

 私、死ななかったけど、頭を打ちました。

 パトカーの屋根、助手席の方もひどい状態になったから。

 呪いの力の有無って、脳の構造が大きく影響するらしいのですね。

 頭を打って、後天的に、私の呪力の有り無しが変わったらしいんです。

 

 それで、生き残ってしまった私は、呪いの力に目覚めていました。

 割と強い方の力だったから、高専にスカウトされました。

 警察を辞めるしかない状態でしたし、そうして、高専の呪術師になったんです。

 

 当時22歳、業界の中では異例の遅咲きだと言われました。

 

  ◆

 

「ねえ、えげつない自分語りでしょう?

 ご協力ありがとうございます。行ってきますね」

 

 振り返って微笑み、目暮警部と毛利探偵を見る。

 ハッとした二人は目配せして、……補助監督の「ご武運を」に続いて、同じように「「ご武運を」」と揃って言ってくれた。

 

「呪術高専東京校所属、準一級術師 多知花ゆかり、参ります」

 

 特殊警棒を持った上でのこの言葉は縛りの発動、更に体内を巡る呪力のギアを上げる。

 呪い渦巻く旧産婦人科跡へ、多知花ゆかりは踏み入った。

この作品が読みやすいかどうかを御回答ください。(数年ぶりの二次創作執筆につき、書き方を試行錯誤しています)

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