生き残るために秘密を明かせ   作:時村ニレ

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あらすじにも記載していますが、この作品は、時系列と警察関係で独自設定を含みます。
予め御了解下さい。

12/29 1:34に一度この話を投稿しましたが、思うところあって12/29 10:45に差し替え改訂を行いました。後半部、鉄骨落下事故を引き起こした呪霊の情報を大幅に加筆しています。



生き残るために秘密を明かせ・③改

「!?」

 

 出入口のガラス戸を義手で開けて建物の中に一歩踏み込んだ瞬間、多知花ゆかりは、『切り替わる』ように空間の呪力が濃密になるのを感じた。

 外から見ていた時も呪力が多いのだろうと予想はできたが、実際の中身は想像以上の濃さだ。

 ガラス戸を持ったまま後ずさろうとする、が。

 

(後退できず、前に進むように強制する、か!)

 

 咄嗟にガラス戸を掴んだまま、特殊警棒を腰のベルトに挿して左手で印を組む。

 

「闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え!」

 

 己ひとりが収まるだけのごくごく狭いサイズの帳を、半球形にして自分の周りに下ろしてみる。

 視覚効果関係をうっちゃって術式効果に特化させた構成で、付与した縛りは『人間と所有物の出入りは自由だが、それ以外の出入りは不可』。

 とりあえず呪霊がすぐ襲ってこない・酷い呪力に侵されない程度の堅さにはなるもので、この条件だけは日頃から使い慣れていた。

 

「補助監督!! そこのお二方を連れ出して退避! 応援要請を!

 ……!! 『内から外への連絡を遮断する』か『建物内に閉じ込める』あたりの呪いだと思います!」

 

 振り返って出した声が、呼び掛けた先の彼等に通じているのかは分からない。

 ここの呪いに音声を遮断する効果があるのだろうか、多知花の目には、叫んでいるらしい補助監督の口元が、ただの口パクにしか見えないのだ。

 とはいえ、叫びながら左手で大きく描いたブロックサインの方は、おそらく伝わった。

 サインの意味は『全員逃げろ』『応援を呼べ』、正しく認識したであろう毛利探偵達が、次いで補助監督が回れ右して逃げていく。

 

(帳という結界が破られ、……いや、結界丸ごと中に入れようとしている、これ!?)

 

 帳の維持を目的とした力の綱引きでは、絶対に勝てないと感じた。

 直感でガラス戸を手放して『建物の中に入る』。

 『この空間』が、多知花の帳の表面を伸縮式のゴムのように凹ませた上で『全身が建物に入ったことを確定させた』。

 

 後方でガラス戸が閉まり切る音がする。

 途端に多知花の身体を引き込む圧力が消滅、帳に触れる呪力の濃さも相当に減った。

 前方は埃まみれの荒れた受付、その更に先に廊下。

 ほの昏く、呪力もまだそれなりにはある空間ではあるものの、呪霊も呪詛師も見当たらない。

 

 多知花が下ろした帳は壊れてはいない。

 ということは結界そのものを破壊するような術式に襲われたわけでなく、ただ『この場所に引き込まれた』だけ。

 この旧産婦人科という廃墟そのものが呪いなのか、下手人がこの廃墟を起点に効力を発揮する術式持ちなのか。

 どちらにせよ、この場はそこそこ強者の呪いの手の内だ。

 

 半球の帳に、本格的な視覚効果と音声効果を追加付与した。

 帳の強度は脆くなるが、ここで盗聴されたり盗撮されたりして手の内を晒す形よりはマシだろう。

 

(口を塞がれると弱いものね。私の術式)

 

 語るべきことを手早く考える。

 手短に強くなれる内容、すぐ思い出せるもの、語りやすいもの、えげつなく、秘すべき事柄の――

 

  ◆

 

 私が22から23になるその年度は、鉈使いの七海建人一級術師が高専4年生の年でした。

 

 巡査だった私が鉄骨を落とされて死にかけた時、たまたま手すきの七海術師がその場に派遣される方向でいたのだと聞きました。

 米花署付近で起きた多重人身事故について、呪いが絡んでいるらしいという通報があったから、だそうです。

 高専側は重要そうな任務だと分かっていても人繰りがつけず、何とか、学生の割に強い子を補助監督と共に繰り出したのだと伺っています。

 

 七海術師の到着はギリギリ間に合いませんでした。

 本人の証言によると、補助監督の車に乗って移動中だったそうなのです。

 七海術師では呪力が届きようのない遠距離の車の中から、強い姉妹の呪霊が建築中のビルの屋上に居座っているのだけは確認していたそうです。

 

 その呪霊達は、その場のクレーンと鉄骨を持ち上げてパトカーへ落としました。

 七海術師は、落とす瞬間を車の中から見ていました。

 

 姉妹の呪霊は、元は中学生と小学生の姉妹でした。

 地方の呪術師家系の家の子で、女ばかりの三姉妹の二番目と三番目で、その時は夏休みだから、二人だけの冒険のつもりで、家族公認で米花の親戚の家に遊びに来ていて、米花署付近でダンプに撥ねられて死んだ子供達、でした。

 呪術的には大したことのない扱いの家の子でも、彼女達は呪術師でした。

 事故死だったから、呪いによって死ねなかったから、呪霊になってしまったんです。

 

 『走る車』と『家族』を出現のトリガーにして、出たり、消えたり、浮いたり、降りたりして、米花署付近で走る車と人を襲っていたのです。

 私は、この呪霊達の最初の凶行で殺された一家の、『家族』であったから。

 それで狙われて、潰されかけたんです。

 パトカーは鉄骨を避けようとして避け切れず、結果的に教官の全身と私の右手が潰れました。

 

 呪霊達は、ビルの屋上からパトカーの残骸に左横に降り立ちました。

 私狙いで。私を、直に殺そうとして。

 でも、術師のどなたかに対処される前に、私に、多知花ゆかりに敗れたのです。

 

 五条悟特級術師は七海術師の1つ上で、本来は任務に出なくともいいはずの貴重な年度でした。

 治安が悪いと評判の米花の街中を見てみようという思考で、つまり物見遊山のつもりの食べ歩きをしていて、七海術師よりは近い場所で、鉄骨が落とされる瞬間をたまたま見ていたそうです。

 

 私、左腰に警棒だけを装備していました。

 警察学校で呼び出された時、制服姿で警棒の訓練中だったんです。

 とにかく米花署に来るように言われた時、そのままの格好で、警棒を外すよう指示されることもなく、誰も私の姿を見咎めることも無くて、パトカーの助手席まで、そのまま。

 

 割れたパトカーの窓の向こうで、異形が、指先を(こちら)に向けてくるのを視たのです。

 頭がボーっとしていて、右手が動かなかったから、左手だけを使いました。

 本能的に警棒で払い除けただけの動作で、実は呪霊を2体とも祓った(ころした)扱いになったことを、後から知りました。

 

 最初から最後まで、意識が朦朧としていました。

 体力的な消耗だけでなく、きっと呪力の枯渇も重なっていました。

 それでも、右手を諦める形でパトカーから出されて緊急搬送される時に、若い男性の声だけが不自然に長く詳しく耳に届いたのです。

 

「夜蛾学長、ちょっといーい?

 米花の街中で婦警さんがパトカーごと死にかけててさ、死にかけた瞬間に呪力に目覚めたっぽいんだよね。

 僕の目の前で、2級以上っぽい呪霊を2体、うん、……警棒でフツーに跋除してたよ。

 七海もその瞬間は見てたけど、野次馬が周りに一杯だったから、僕等以外にも見てる呪術関係者はいるんじゃないかなー、ひょっとしたら呪詛師も含めて」

 

 濃いサングラスを掛けた、髪の白い背の高い男性でした。

 小さな帳を周囲に下ろしていました。

 中での話し声が、外で呪力を持つ人だけに聞こえる様に、そういう音声効果で帳を縛って、大きな声で学長と電話していました。

 

 それから、1年半と少しだけ高専の聴講生になりました。

 あの時電話を掛けていた若い男性が、私の高専時代の、特に後半の恩師になりました。

 五条悟特級術師が翌年度から高専の講師を始められるにあたって、私は、最初の教え子の一人に望まれたのです。





多知花の術式について、前話での本人の説明はかなりミスリードを含んでいます。
正確な内容を推測できる伏線は既に一部仕込んでいます。推理しながら読んで頂けると嬉しいです。

この作品が読みやすいかどうかを御回答ください。(数年ぶりの二次創作執筆につき、書き方を試行錯誤しています)

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