生き残るために秘密を明かせ 作:時村ニレ
「それで、呪術師について認識を統一したところで、ひとつ確認させて下さい。
この場の行動の決定権は、専ら私にあると理解していいですか?
呪いの力絡みの事案ですから、警察と高専の協定で定められているはずです。
……つまり、術師である私の指示に従う限りにおいて、貴女方は責任からは守られる。
逆に、貴女方は提案はできても、決定するのは私。良いです?」
「はい」「うん」
佐藤美和子は即答し、コナン君も了解した。
なるほど指揮系統は明確化しておかないと不味かろう、刑事の立場でも納得する。
「では、まず1つ目の情報。
この建物の外に出られません、外への通信もダメです、更なる救援がいつ来るか分かりません。
助けに入ろうとした私が、建物に引き擦り込まれる瞬間だけは目撃されています。
私よりももっと強い呪術師が、どこかのタイミングで増援でやって来るはずです、が!
元々人手不足な業界なので、強い人を複数、万全の準備で送り出すのは結構な時間を要します。
私達は全滅したと思われているでしょうし、かなり希少な手練れの術師が来るはずで、……余計に即手配は無理があるし、半日後に助けが来たら幸運ぐらいの感覚でいた方がいいでしょう」
次いで、元同期の現職呪術師は、義手の指でピースして見せた。
「で、2つ目、人的被害について重たい方から行きます。
まず間違いなく死者1名、ひったくり犯はそこの廊下に倒れてはいませんでした。
私の眼で見る限り確信に近いですが、……その人、遺体が呪いになってしまって、襲った
「あー……」「……」
「貴女方がこうして生き残るに至った判断は最善だと思いますよ、今は3人が息してますから」
フォローされているのは分かるが、心の底から完全に納得できるかはまた別だ。
ひとまず「はい」と美和子は口に出す。
「それで、怪我人1名がそちらの巡査部長ですけれど、さっき言った通り結構不味いです。
怪我が呪いになっていて、受傷後4時間半経過の今時点で意識不明に片足を突っ込んでました。
今はヒトですけれど、正規で高専の増援がここに来るのを待った場合、……たぶん増援が来る前に呪いに成り果てる確率が大きいです。
私が巻いた黒布は呪いの力を睡眠に変える道具で、気晴らし程度に呪いの侵食を抑えています。
私の目算でリミットまで持って3時間、プラマイ1時間くらいですね」
(……!! 高木くんが呪いで死ぬ……!!)
コナン君が青ざめて絶句した。この子が庇われて高木くんが負傷したのだ、当然だ。
美和子の心臓も早鐘を打つ。
「あの、ちょっと、私の考えている事後案を聞いていただけますか。
呪術師は負の感情を抱えながらえげつなさを死ぬまで相手にする仕事ですので言いますが、……この巡査部長が助かるかもしれない、それはそれはえげつない博打、存在はするんです」
彼女は、外していた遮光グラスを眼鏡の上につけ直した。
すがるような美和子の視線は重ならない。
「私が今思いついているアイディア、A案とB案があります。
まずA案は比較的ローリスクで最低でも私含めて3人は助かる、『ここで増援の救護を待つ』。
この場合は高専の追加増援が来る前に今言ったリミットが来た場合、私の手によるその方の『処分』が絶対条件です。
呪術師として明言しますが、その時が来たら私の力で問題なく
――具体的には特殊警棒に呪力込めて頭を潰すしかない、廊下に引っ張り出してグシャッと」
「……!! じゃあ、もう1つのB案が博打……?」
「ええ、B案はハイリスクで全滅覚悟、『私ひとりが打って出る』。
たぶんこの事態をもたらした呪いの本体は2階にいます。
呪いと本気で
それができたら、とっとと脱出して専門家に治療してもらえばいいわけですね。
ただし、ネックになることがあって、……私の勝率は100%じゃないっていうことなんです。
相手は手ごわそうに見えまして、私ひとりの実力ではちょっと荷が重いんですよ。
そこに呪いになる寸前の重傷者がいますが、私が殉職したら巻いた拘束が外れますし、じきに貴女方を襲ってきます、間違いなく。
……それも、人の負の感情をそのまま形にしたようなとんでもない異形になって」
美和子は、布で拘束された状態で眠る後輩を見て、コナン君を見て、最後に多知花を見た。
多知花術師も遮光グラス越しに美和子を見ている、と、思いたい。
「非常用の短刀を持っているんです、私。
使った人間が必ず自決させられるという呪いがついてあるんです。
貴女方には最大限ここで私の戦力アップに協力して頂きます、が、それでも私が力及ばず殉職してしまった場合は、即座に彼をそれで刺し殺す事。
自動的な貴女の自殺が確定しますが、……その時に坊やをここの個室に押し込めておけば、坊やは生き残るでしょう」
「……多知花さん、本当にえげつない博打なんだね」
「それが仕事ですから。繰り返しますが、行動の決定権は、専ら私にあります」
つまり、美和子にもコナン君にも指示する権限はない。
死地に赴けと言う権限は美和子に無い、残酷だが、ある意味では楽だ、が……。
「多知花ゆかり術師、貴女の戦力をアップする方法も、えげつない内容なのですか?」
美和子は気が付けばそう聞いていた。
何故そんなことを聞こうとしたのか、自分自身でもよく分からないような声で。
「はい、その通りなのですよ、佐藤美和子警部補。
秘密を守って頂くという大前提でお話ししなければいけない事なのですが……」
◆
思い出せ。6年前、あの学び舎に踏み入れた日を思い出せ。
「君は何のためにここに来た?」
「死に場所を探しに。呪いによって死ぬために。
死後、呪霊に転じるような死に方だけは避けたいんです、私」
◆
呪術での殺し合いには、『術式の開示』という概念があります。
ざっくり言うと、どんな術を使えるのかを相手に喋ることで、術者が使う技の威力が増したり、術者自身がパワーアップしたりするんです。
逆に正確でない内容を相手に言ってブラフにしたり、相手の口を塞ぐかどうかで駆け引きになったりしますし、喋り過ぎることで相手に情報を与えすぎて墓穴を掘ったりすることもあります。
ですので、呪術師が行う殺し合いの本質を、『連想ゲームによる言葉遊びのぶつけ合いに、負の感情と体術を乗せたもの』だと言った人がいました。
私の場合は特にそうですね、私が使える術のうち戦闘力がある方の名前、特にダブルミーニングによる言葉遊びで命名されています。
術式の開示、第1段階目、言いますね。
まだざっくりとした説明になりますが、私の場合、『えげつない自分語りをするほどに、体力のステータスが上がります』かつ『自分語りの聞き手が多いほどに効果が出ます』、『相槌があればもっと効果が出ます』。
で、私、戦術の幅を広げるためにBluetoothのバイク用インカムを複数持ち込んでいます。
この建物の中であっても、インカム同士でやり取りができることを先ほど確認しました。
屋外で直線距離で1500m通信できることを謳った市販品ですから、遮蔽物がある屋内でもいけると思いたいですね。
だから私が打って出る場合、お二人にここに残って私の語りをずっと聞いて、雑談に応じる感覚で相槌を打ってほしいんです。
殺し合いの現場中継ですから、私の声は負の感情丸出しで滅茶苦茶に荒れますよ。
えげつない業界エピソードしか喋れませんし、私の声以外でも
ここは元々が産婦人科ですから、普通に泣いてる赤ん坊の声かもしれませんし、もっと心を抉る音かもしれません。
倫理観が溶けるようなやりとりをキレずに聞いて、相槌を打ち続ける覚悟が必要です。
で、術式の開示、第2段階目。
『術式の名前を他人に正確に言い当てられた時、私は、自分自身の怪我を回復させる術が短時間だけ使えるようになります』『縁が近い人より、縁が遠い人が言い当てるのがベターです』。
この術は、戦闘に使える残り時間を極端に短くするという副作用もあるんですよ。
ですので、言い当ててほしいのは、
必要な時は私が誘導しますから、ここぞという時に誘導に乗って言い当てて欲しいですね、特に初対面の坊やに。佐藤警部補は顔見知りですから。
術式の名前を言い当てるヒントを3つ言っておきましょう。
1つ目、『刑事裁判関係者なら絶対に知っている基本用語です』、2つ目『全部ひらがなだと7文字、漢字が混ざると5文字です』、3つ目は連想ワードで『自白』。
術式の開示、第3段階目がありますが、これは奥の手にしておきます。
身体が壊れる覚悟をしないといけないので今は無理ですね。
佐藤美和子警部補、私の責任での判断としてB案でいきます。
私の判断です、ダメだったら私が間違えた、それで良いんです。
殉職前提で飛び込んだ業界で、その時が来た、そういう事です。
短刀を、巡査部長の傍に、ここに置いておきます、本当に必要な時だけ手に取ってください。
不用意に触ると、呪いが発動しますから。
私が死んだら、この人の拘束の布が全部灰に変わります。
このBluetoothインカムの不具合で通話ができないのか、私が殉職したのか、それで見分けて下さい。
ひとつだけ、呪術師の立場で助言します。佐藤美和子さん。
呪いを振るう時、呪いの道具を使う時、どちらであっても他人を動機に持ち出すのはNGです、破綻した時にその他人を呪いながら死ぬ羽目になります。
破綻した時は、自分自身だけを想って即座に殺して死んで下さい。
それが、一番犠牲が少ない方法です。
多知花の『術式の名前』は分かりましたか?
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分かった
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分からなかった