生き残るために秘密を明かせ   作:時村ニレ

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生き残るために秘密を明かせ・⑦

 

 人が呪力を持つかどうかは、その人の脳の構造で決まります。

 一方でどんな術式が使えるのかは、その人の身体に刻まれています。

 私は術式が潜在的に刻まれていた身体で生まれただけで、呪力は持たない脳のはずでした。鉄骨落下事故で頭に衝撃を受けるまでは。

 

 私の生まれつきの術式は、厳密な意味では時限式の『吸収』ではないかと推測されています。

 要は、自力で跋除(ころ)した敵の術式を、術者自身が吸収してしまう系統の術ですね。

 私の場合おそらく『初回発動時に限り、一定期間内に倒した相手の術を全て吸収してしまう』感じだった。

 

 人生初の呪いの撃破で、姉妹の術式をどちらも取り込んで、以後は二度と『吸収』は使えず、一方でその時取り込んだ術しか使えなくなるということ。

 6年前に私の身体で発生した事は、厳密に言えばそういう事でした。そのまま今に至ります。

 

 先ほど開示した、私の『名前を当ててほしい術式』は、元はお寺の三女のものです。

 次女の方は別のもので『モノとヒトの因縁を分析する片眼』、こちらの方は私の身体に別に存在しているもう一つの術式で、先ほどの開示とは関係ありませんし直接的な戦闘力にはなりません。

 

 あの鉄骨落下事故に遭って病院に担ぎ込まれて、治療がひと段落してから、これまで知らなかった呪術関係の色々なことを教えてもらいました。

 表面上はリハビリ名目で、呪術業界関係の病院に転院した扱いになった、後で。

 そこで、今日坊やが初めて教わった様なことも、鉄骨落下事故の背景も、私が強い呪力を持ったことも、色々なことを初めて知りました。

 

 色々知ってからしばらく経って、事の発端になった三姉妹の父親が、つまりお寺の住職が、病室の私に面会を申し込んできたんです。高専の関係者を通して。

 坊や、住職は私に何をしたかったんだと思いますか?

 

“……え、自分の娘のせいで酷い目に遭わせてしまったから、謝りに来た、とか?”

 

 ふつうそう思いますよね。違ったんですよ。住職は怒鳴り込みにきたんです。

「ただの警察のガキが、娘の術式を奪った事を謝れ。術式を継いだ子を産んで一族に返せ」って。

 

“そんな……。言いがかりだ。多知花さんはただの被害者”

 

 坊や、キレないで。

 呪術業界的にも非常識だったようで、住職は立ち会っていた高専の関係者に制止されました。

「この人は巻き込まれただけの婦警だろーが?」というニュアンスでした。

 

 私は、その場にあった見舞客用のパイプ椅子で、住職に殴り掛かりました。

 

  ◆

 

 1階 廊下奥、階段に上がる前の場所で、多知花は意図的に声を平板にした。

 都合よく事実を曲げることが、できるだけないように。

 

「住職の頭にパイプ椅子をぶつけて押し倒し、更に胸も左手で何発か殴ったんです。

 そして罵倒しました。『私は生まれつきの全膣欠損でどう頑張っても子供は産めない。警察に提出している診断書でも何でも、幾らでも調べればよろしい』

 高専関係者に仲裁されて引き剥がされましたが、結果として住職の頭蓋骨にヒビを入れてしまいましたし、肋骨も1本折ってしまっていました。

 呪術関係者しかいない時の出来事だったので、この一件は内々で済んでしまいました、が、……私は、もう警察には相応しくないということを、この時初めて実感した気がします」

 

「それは、うん……」

 

 佐藤警部補は否定しなかった。

 単純な話だ。激高して他人の頭やら胸やらを殴る者は、日本の警察には要らない。

 

  ◆

 

 私の右眼には、呪術師も呪いも、見た目が違うだけで中が同じ存在であるように見えました。

 外側が人であるかどうかだけで、どちらも中身は等しく呪いを抱えている。私自身も含めて。

 だとすれば、死ぬ時は呪いに跋除(ころ)されなければ、呪いを祓うように中の呪いを打ち消さなければ、死後に中の呪いが漏れるのではないかと、……素人の閃きにしてはよく出来た仮説でしょう?

 

 病院で住職を殴ったその日、私は仲裁して頂いた高専関係者にこの仮説を話しました。

 筋は通るそうで、大爆笑されて同意されましたよ。

 「それなら、僕ら代々続く呪術師の末裔はきっと呪いの煮凝(にこご)りだ」って。

 

“……笑えない”

 

 そうでしょうか。繰り返しますが、筋は通ってたそうですよ?

 私達呪術師は、決して、ヒーローではありませんから。

 イカれた感性と我の強さを抱えて、ただ呪い呪われ死んでいくだけの存在なのですから。

 いつか破綻するその日まで。

 

 私は、呪いによって殺されたいと思いました。死後に呪いに転じる死に方だけは嫌でした。

 死に場所を探して呪術師を志願して6年、死に損なって今に至ります。

 

 今ここは本気で死ぬ気で挑まないと、全く勝ち目の掴めない状況にいます。

 貴女方全員の生還は、そういう勝ち目を掴まなければ成立しません。

 ただ、より強い相手といつか相打ちするために、より強くなるために今は死力を尽くす。

 ……きっとそういう言い回しが、呪術の現場では適切なのだと私は思います。

 

  ◆

 

 階段の上から、祓う(ころす)べき相手がゆっくりと降りてくる。

 首と胴体が不自然に捻じ曲げられた、ゾンビのような、否、ゾンビそのものらしい、死んだ目のヒトだった何か。

 容姿は、聞いていたひったくり犯の情報に合致する。今は祓う(ころす)べき呪いだが。

 

(本丸は術式持ち確定。死者を傀儡にする系統で、おそらく結界も使える……?

 傀儡そのものの耐久も、それなりに硬そうな)

 

「呪術高専東京校所属、準一級術師 多知花ゆかり、参ります!」

 

(こいつは力押しで祓い、その(バフ)を維持し続けたまま2階へ上がって勝つ!)

 

 戦略を即決した。

 語ることで貯め込んでいた呪力を体内に解き放つ。警棒を掴んで階段を駆け上がった。




次回投稿までしばらく間が開きます。

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