二人は別に付き合ってはおりません、近所の幼馴染というだけです。あくまで現在は。
今後二人はどうなっていくのでしょうね? そんなお話です。
テーマはタイトル通り「クリスマス」です
ウタとルフィのクリスマスをお楽しみください
なおこちら梅雨様に描いていただいたイラストになります
雰囲気が最高ですので是非……!
↓リンク
https://twitter.com/2yu___akaunto/status/1606606863466123264
「みんな!! 元気!? ウタだよっ!!」
モニターの前に設置したウェブカメラに向かって手を振りながら、ウタは元気な声で言った。
ここは閑静な住宅街の一角。
時刻は、夜──といっても、まだ七時を回ったところ。
防音設備の整った自宅の“音楽部屋”で、ウタはライブ配信を開始した。
ちらりとモニターの下部に表示されている視聴者数を見て、ウタは驚いたように目を丸くした。
「うわー! ちょっと待って、まだ初めて数秒しか経ってないのに、リスナーさんがもうこんなに!? みんないいのかなァ? 今日、何の日だかわかってる?」
『ちゃんとわかってるぞ!』
『当たり前だ!』
『ウタちゃんのライブが最優先だよ!』
『プリンセス・ウタの配信を聞き逃す理由なんてねェよ!』
なんてコメントの山が、雪崩のようにモニターを駆け抜けていく。
「あはは、みんな、貴重な時間を割いてくれてありがとう」
笑顔でそう言ったウタの目が、偶々連続した二つのコメントを拾う。
『恋人と見てます!』
『家族で見させてもらってますー』
「…………」
ほんのコンマ数秒──だと思う。
少しだけそのコメントに表情を固めてしまったウタは、すぐさま意識を切り替える。
「どうやらご一緒さんもいるみたいだね!! みんな、色々事情とかもあるだろうけど、今日来てくれた全員がハッピーになれるように、わたし、張り切って歌うね!!」
じゃあ、とウタの普通の女子高生の表情が、歌手の顔へと切り替わる。
「UTAのクリスマスライブ!! 始めちゃうよ!! まずは一曲目──」
────
「ハァ……」
“音楽部屋”から早々に自室へと戻ったウタは、ベッドにダイブすると深い溜め息を吐いた。
表情も、どこか暗い。
普通のライブ配信であれば、まだ“音楽部屋”にいるタイミングだ。
その日のライブのコメントを見返して視聴者のニーズ分析を行ったり、歌唱の反省などをメモに起こしたり──。
しかし、今日のウタには、それをしている心の余裕がなかった。
配信を失敗したわけではない。
むしろ、クリスマスライブは大盛況の大成功と言っても良かった。何しろ、過去最高の視聴者数を叩き出したのだから。
きちんと準備していただけあって、喉の調子も万全で、歌唱に関しても、今日だけは自分に百点をあげてもいいくらい。
──それが、余計にウタの心を蝕んだ。
「…………いいなァ」
ごろりと寝返りを打ち、白い天井を見上げてぽつりと呟く。
『恋人と一緒に──』
『家族と──』
あのコメントと、そして類似したコメントたちが、ウタの脳内をひっきりなしに飛び交っていた。
ウタの心を端的に表すのであれば……。
(…………寂しい)
その単語を思い浮かべてから、ウタは再びうつぶせになり、布団に顔を埋めた。
「なんだよー! 子供じゃあるまいしさー!」
パタパタと布団を蹴り飛ばしながら、自分の心にある寂しさに文句を言ってみるも、それで寂しさが紛らわせられるわけもなかった。
今、ウタは家に一人だった。
一人暮らしをしているわけではない。
父親との、二人暮らし。
その父親も、母亡き後に立ち上げた企業で大成功をおさめ、いまや飛ぶ鳥を落とす勢いの敏腕社長だ。
そんな彼が、この繁盛期であり年末のクリスマスシーズンに、休んでいられるわけもなかった。
年末休みに入るまで、出張出張のオンパレード。
十二月に入ってからは、一度しか家に帰ってきていない。
もうここ数年、ウタはクリスマスのこの時期を、誰かと過ごした記憶がなかった。
「はァ……」
ウタはもう一度、溜め息を吐いた。
父親が忙しいのは、いい。娘の大学進学のための資金や、家のローン返済等、家族の為の忙しさなのを知っているから。
それでも。
「…………配信日、ずらせばよかったかなァ」
小さく零す。
インターネット上、仮想的にではあるが多くの人と繋がっていた分、それを終えてしまえば、揺り戻しで孤独感がより一層顕著になる。
それに、やはり誰かと一緒にいるなんてコメントを見ると、余計に──。
ピンポーン
不意に、インターホンが鳴る。
ウタはガバリと飛び起きた。
──あれわたし、配達か何か注文したっけ?
記憶を手繰るが、該当するもの見当たらない。
首を傾げながらも、ウタはベッドから降りて階段を下り、玄関へと向かう。
「はーい、今行きまーす」
がちゃり。
「うわ、寒っ!」
ドアチェーンをした玄関を開いた瞬間、隙間から吹き付ける叩きつけるような風に、思わずウタは身を竦めた。
そして──
「…………あれ?」
玄関周りを見渡してみるが、誰もいない。
悪戯だろうか?
こんな寒い、しかもクリスマスの夜に?
ウタは顔を顰めて、玄関を静かに閉じた。
──寂しさに加えて、気分も悪い。
今の一瞬で冷えてしまった手に息を吹きかけながら、ウタは二階の自室へと戻る──。
「よォウタ!」
その声に、ウタはドアノブを握ったまま三センチ程飛び上がる。
そこにいたのは、黒髪の少年。
屈託のない笑みを浮かべて、当たり前のようにウタの勉強机の椅子に座り、その背もたれに腕を乗せて体重を預けている。
怪しい人物ではない。
「ルフィ!?」
何故なら、彼はウタの幼馴染であり、近所に暮らしている人物だから。こうやってウタの部屋に来るのだって、もう数えきれない程になっている。
しかし──。
「あんたどうやって家に入ったの!?」
「にっしっし! 裏口から!」
「え、裏口も鍵かかってたよね!?」
「ん? ああ、シャンクスから鍵預かってんだ。『娘に何かあったら頼む』ってよ!」
「はあ!?」
父親の行動に、ウタは思わず絶句する。
例えば、ルフィの父親のドラゴンに頼んだのであれば、話はわかる。
しかしいくら仲がいいからって、ルフィに頼むのは意味が解らない。
──だってルフィだよ?
いや、それよりも……。
「……もしかして、さっきのドアホン鳴らしたのって」
「おれだぞ! ウタを驚かせてやろうと思って!」
やっぱり!
つまりルフィは、ドアホンを鳴らしてウタを玄関にくぎ付けにし、その隙に裏口から入りウタの部屋にやってきたと──。
ウタはわなわなと拳を震わせる。
ルフィが部屋に来るのはいつものことだし、悪戯を仕掛けてくるのも珍しい話じゃない。
だが、三センチばかり心臓を飛び上がらせたことに、どうオトシマエを付けさせてくれようか──。
「ウタ、さっきのライブ聞いてたぞ! やっぱりウタの歌は最っ高だなァー!!」
多分、家族以外で初めてのわたしのファンのその言葉に、ウタは怒りの矛先を失ってしまう。
「…………ありがと!」
つっけんどんに言って、ウタは自分のベッドにドスンと腰かけた。
「でもさ、配信に来てくれるなんて珍しいじゃん」
今まで、特にルフィから配信の感想を聞いた事のなかったウタは、口を尖らせて言う。
しかしルフィは、不思議そうに「何言ってんだァ?」と首を傾げた。
「予定が重なってない配信は全部聞いてるぞ? 生で聞くのと違ってカッコよく聞こえるから、配信のほうも好きだなァー」
うんうんと一人頷くルフィ。
褒められたウタも、悪い気はしない。
「…………いつもご視聴いただきありがとうございます」
配信の時の声色を使って、ウタがルフィにお礼を言う。
「あはは、やっぱ似合わねー!」
「ルフィ!!」
褒められているのか、からかわれているのか。
思わず声を荒らげながら思う。
──感情はジェットコースター。でも、ルフィと絡んでいる時は楽しい。
今日、こうやってルフィが顔を出してくれてよかった。
あ、そうだそうだ、とルフィが言う。
「なに?」
「ほら、これ!」
ルフィはウタの机の下から、六十センチほどの白い大きな袋を取り出した。
「メリークリスマス!! ウタにクリスマスプレゼント!」
ししし、と幼馴染が笑った。
世界が凍る。
心臓が、止まる。
ルフィが?
クリスマスプレゼントを?
わたしに?
……あの、ルフィが???
「……た? ……―い、ウタ? ウタ!?」
「はっ!!?」
ルフィの声に、ウタの心臓が再び動き出す。
「え、あ、うん!! でルフィ、なに? どうしたの?」
急に稼働したせいで、思考が遅れてやってくる。
不思議そうに首を傾げたルフィが、もう一度、
「だから、ウタにクリスマスプレゼントだって」
そういって、ずいとその袋をウタに向かって突き出した。
「……わたしに?」
「ウタに」
何度聞いても、やはりそれはウタ宛てのクリスマスプレゼントのようだった。
「あ……ありがとう」
どうにも信じられない事態に、ウタはおずおずとお礼を言って、ルフィからその大きな包みを受け取った。
大きさの割に、重くはない。
かといって、別に軽いわけではない。
程よい重さのそれは、手に取って見るとその輪郭で、中身が何かの予測が付けられそうだった。
──え、これ、本当に?
ウタの胸が、期待に踊る。
「ねえルフィ、開けてもいい?」
逸る気持ちを抑えながら、ウタがルフィに尋ねる。
「ウタの物なんだから、好きにしていいと思うぞ!」
ニコニコと笑いながら、ルフィが言う。
じゃあお言葉に甘えて、とウタが包みをほどいた。
中から出てきたのは──。
「うわーっ!!! わーっ!!!」
「ああ、それは──」
「うそ!! ホント!? わーっ!!!」
半分ほど包みをほどいたところで、ウタは言葉を失ってただ歓声を上げる。
中から出てきたのは、クマのぬいぐるみだった。
そこらに売っている安物ではなく、“トンタ工房”というブランドの、今人気のティディ・ベアシリーズ。
中でも大人気の赤毛モデルだ
職人が手作りで縫い上げているそれは、生産量が需要に追い付かず、予約を取ることすら困難と言われるほど。
以前からこのぬいぐるみが欲しいと思っていたウタにとって、それは最高のサプライズだった。
袋から取り出したそのぬいぐるみを、まるで子供のようにはしゃぎながら、抱き上げて、抱きしめて、布団の上を転がって喜びに悶絶する。
──だけどわたし、ルフィにこれが欲しいって話、したっけ?
ふと疑問が頭をよぎるが、今のウタの脳みそは、それに構っている余裕などはない。
大事なのは、ルフィがクリスマスプレゼントをくれたこと。
あのルフィが、内容まで百点満点のクリスマスプレゼントをくれるなんて、いったいどういう風の吹き回しだろう──。
手放しで喜ぶウタを見て、ルフィが嬉しそうに言った。
「いやー、シャンクスからのプレゼント、そんなに喜んでくれると、おれも頑張って黙ってたかいがあるなァ!」
ぴしり。
ししし、と笑いながら言うルフィの言葉に、喜びに満ちていたウタの脳みそに亀裂がはしる。
「え? ……どういうこと?」
がばりと起き上がって、ウタは疑問符を投げかける。
相変わらず笑顔のままで、ルフィが言う。
「こないだシャンクスが帰ってきた時あったろ? そん時、自分はクリスマスの時に渡せないから、って預かってたんだ! ほんで、こうやってサプライズで渡せば、ウタは絶対喜ぶぞーってよ!」
よかったよかった、とルフィが笑いながら言う。
(………………なんだ)
さっきまでの幸せいっぱいだった心は、一瞬で霧散してしまう。
残ったのは──。
「うわっ、痛ェ!? ウタ、どうして蹴るんだよ!!?」
ウタはベッドに座ったまま、黙ってルフィにローキックを食らわせる。
どうして?
ウタにもその理由はわかっていなかった。
ただ──、なんだろう、この胸のモヤモヤは。
別に、プレゼントを黙っていたことに怒っているだとか、シャンクスからのものだったことにがっかりしたとか、そういうわけではない。
腕に抱えた下ろしたてのぬいぐるみの頭に口を埋める。
なくなってから気が付いた、さっきまで確かにあった胸の高鳴りと。
その代わりに出現した、胸の奥を蝕むようなもやもやした感覚。
それの理由がよくわからず、ウタはただルフィの足を小突く。
「……珍しくルフィがプレゼントをくれた! って内心褒めてたわたしがバカみたいじゃん!!」
捩じり出したその理由を口に出すと、どうにもその胸のもやもやの原因はそれだったような気がして、少しだけ胸が楽になる。
足を蹴られて痛い顔をしたルフィが、待て待てと慌てたように言った。
「おれからもあるから! だからもう蹴るなって!」
「……ホント?」
ウタが再びぬいぐるみに口を埋めて、疑うような目でルフィを見る。
ホントだって、と言って、ルフィは椅子を反転させると、丁度ウタから死角になる位置に置いてあった小さな袋を手に取って、ウタにも良く見えるように掲げた。
「ほら、一週間くらい前の帰りに言ってたろ? ここのチョコケーキが食べたいってよ!」
そう、ウタにはルフィの持っている袋に見覚えがあった。
通学路から少しだけ外れたところにあるケーキ屋“カラメル”の袋。
最近新作のショコラケーキが出たということで、ウタはいつ食べようか今食べようかと気にしていたのだ。
「────言った。……丸いやつ?」
「丸いやつだぞ! 二つ買ってきたからよ、一緒に食べよう!」
ふう、と小さく息を吐いてから、ウタはぬいぐるみをベッドに置いて、すくりと立ち上がった。
「じゃ、お匙持ってくるね!」
そう言って、ウタは自室を後にする。
──胸のモヤモヤはなくなったけれど、まったく、今日は心の落ち着く隙がない。
────
ケーキに舌鼓を打った後、ウタたちは特に何かをするでもなく、のんべんだらりと駄弁っていた。
当たり前のようにルフィがウタのベッドに座っているが、今更ウタがそのことを気にするはずもない。
ウタはそんなルフィの隣に座り、雑談に花を咲かせる。
甘くてビターなケーキに心も落ち着いたウタは、ふと思いついたようにルフィに言った。
「そういえばさ、わたしばっかプレゼントもらって、ルフィになにも返せてないよね?」
ん? とルフィは目線を上に上げると、頬を掻いて言った。
「いや別にいいよ。一緒にケーキ食えたし」
「だーめ! わたしが気にするの!」
体を反転させてルフィの鼻を人差し指で押して、ウタが言う。
「お返し、どうしよっかなァ」
今から──というにはもう時間が遅い。また今度、何かを買って返そうか?
ああ、それならよ、とルフィが思いついたように言う。
「なんか歌ってくれよ! ライブで歌わなかったやつ!」
そのルフィの提案に、ウタはにやりと笑った。
「贅沢なヤツ!」
「お前がお返ししたいって言ったんだろ!?」
ルフィのその反応に、ウタはくすくすと笑ってから、「ちょっと待ってね」と言う。
少し選曲の為に考えて、真っ先に思い浮かんだ曲に決める。
少しだけルフィの方へと体を傾けて、ウタの口が静かにメロディーを奏で始める。
「──── ────♪」
──わたしの曲ではないけれど。
往年のヒットソング『恋人がサンタクロース』を、ウタは口ずさむ。
何しろ、自分の持ち曲の内、クリスマスや冬に関わるものは全部ライブで使ってしまっているのだ。
せっかくのこの日、クリスマスプレゼントのお返しは、やっぱりクリスマスにちなんだモノじゃないと。
「──── ────♪」
“音楽部屋”ではないから、ウタは声を張らずに歌う。
しっとりとした優しい声が、彼女の自室に響く。
「──── ────♪
──── ……?」
ふと、隣に座るルフィの呼吸が変わったことに気が付き、ウタはそちらを見た。
「……寝ちゃったし」
歌うのをやめて、ぽつりと呟く。
カクリと倒れて来たルフィの頭が、ウタの肩に乗る。ウタの頬を撫でた黒い髪の毛から、ほんのりと石鹸の香りがした。
(……あ、そっか)
ウタはようやく思い出す。
ライブを見てくれたということで失念していたが、ルフィは今日、部活動の日だったはずだ。
つまり、部活を終わらせ、急いでケーキを買いながら帰り、ライブを見てから、しっかり汗を流してからウタの家に来たということ。
──汗を流して行けっていうのは、サボかエースの入れ知恵かな?
ともあれ、そんな過密スケジュールをこなしたルフィが、疲れていないはずがないのだ。
「……ねえルフィ──、ありがと」
忙しいのに、わざわざ来てくれて。
寝息を立てる幼馴染に、ウタはぽつりとお礼を言った。
ふふ、と微笑んだウタは、幼馴染へのお礼を再開する。
「──── ────♪」
先ほどよりも、もっと優しい声が、眠りを誘うように暖かく響く。
それにしても、とウタは考える。
さっきのプレゼントの時に芽生えた、胸の高鳴りやもやもやは何だったのだろう? 今まで、そんなの感じたこともなかったのに。
──まァ、いいか!
歌いながら、ウタは無防備な顔で眠る幼馴染の頭を撫でてから、小さく微笑んだ。
──ありがとう。
いろいろと心が揺さぶられて大変だったけど、ルフィのおかげで今夜はもう、寂しくなんてないや。
お読みいただきありがとうございました。