「ねえ、スカーレットさん」
「なんですか?」
「私ね、クリスマスツリーになりたいの」
スピカの部室。
気だるい昼下がり、ダイワスカーレットの先輩であるサイレンススズカが訳の分からないことを言い始めた。
「な、なんで……」
「?」
「なんでクリスマスツリーに『なりたい』んですか……?」
スピカのメンバーが訳の分からないことをするのなんて日常だ。
カオスの権化ゴールドシップを筆頭に
世間知らずのお嬢様で突拍子もないことをするメジロマックイーン
やはり世間知らずのド田舎出身者で突拍子もないことをするスペシャルウィーク
そして、目の前の走ることしか興味がなくてかなり天然なサイレンススズカ
トウカイテイオーが一日何回「ワケワカンナイヨー」と叫べばいいのかわからないぐらい、スピカは刺激に溢れすぎている。
だが、それでも今のスズカの発言は突拍子のなさで言えばトップクラスだった。
クリスマスツリーを飾りたい、ならまだ訳が分かる。
「スピカの部室にクリスマスツリーを飾ろうぜ!!」と言い出したゴールドシップに、「じゃあ本場のモミの木が必要ですわね!!」とお嬢様ムーブをかましてプライベートジェットで北欧に飛んだメジロマックイーン。一生懸命オーナメントを作るスペシャルウィークといつも通りの騒動はすでに発生している。
現在マックイーンとゴールドシップは北欧で一生懸命もみの木を切り倒しているだろう。
だが、スズカの発言はそれ以上に意味が分からなかった。
「あのね、スぺちゃんが、クリスマスツリーって今まで見たことないからすごい楽しみにしてて」
「なるほど」
「で、スぺちゃんって私のこと大好きじゃない」
「否定はしません」
スズカの唐突の惚気程度ではスカーレットは動じない。
これがウオッカだったらすでに顔を真っ赤にして撃沈しているだろう。硬派を気取っているのに初心な生娘なのだ。そんな彼女は幸い、部室に居なかった。
「だから、好きなものと好きなものを合わさればスぺちゃんが喜ぶかなって」
「いや、いや、そのりくつはおかしい」
スカーレットは思わず突っ込まざるを得なかった。
単純すぎる足し算だ。自分がクリスマスツリーになるとはどういうことだ。
「おかしくないわ。一昨年ぐらいに、会長さんがクリスマスツリーになってたもの」
「え、どういうことですか?」
会長さんというとシンボリルドルフ会長だろうか。
確かに勝負服は緑色基調でどことなくクリスマスツリーカラーっぽい気もするが、クリスマスツリーになるとは言わないだろう。
一昨年というとスカーレットはまだ入学前だから何が起きたか全く知らないが、あの真面目な生徒会長がそんなふざけた格好をするとはとても思えない。
どうせスズカのことだから何かと勘違いしているのだろうと思ったのだが……
「ほら、これ」
「……」
スズカが差し出したスマホを見て絶句するスカーレット。
ある学園生のブログのようだが、そこには堂々とクリスマスツリーの被り物をしたシンボリルドルフの写真が掲載されていた。
隣に写っている憧れの先輩である副生徒会長エアグルーヴのサンタ姿が非常にかわいらしい。だが、そのかわいらしさすら喰らいつくすオーラを放つのが隣にいるシンボリルドルフだった。ポップな着ぐるみなのに顔がいつものアルカイックスマイル会長なのが、本当にやばい。
クリスマスツリーとは……
ウマ娘とは……
宇宙とは……
スカーレットはもう少しでたどり着いてはいけない真理にたどり着きそうになっていた。
「だからね、私もクリスマスツリーになろうと思って」
「……エアグルーヴ先輩に聞けばいいのではないでしょうか。先輩ならこの時のクリスマスツリーもどうやって作ったかわかっているかと」
もうこれ以上、このスズカに関わっていると自身のメンタルが持たない。
スズカのボケは我らが麗しき女帝エアグルーヴ先輩が担当なはずだ。
そう心の中で言い訳してスカーレットは敬愛する先輩にすべてを押し付けた。
「確かにそうね、じゃあちょっと走ってくるわ」
「行ってらっしゃい」
スズカが部室から走り去っていく。
今年のクリスマスも騒がしくなりそうである。
ルドルフツリーは衝撃でした