1話から見て!!!(販促)
106.
「はぁ……はぁ」
あれからどれだけの時間が経ったのだろうか、いっそう激しさを増す雨の中佐原ヒユは立っていた。刀は血に塗れ、その血を啜った隊服は雨では落とせない程に赤く染めていた。
それに加えてヒユに刺さった矢などがさらに彼女がどれ程の激闘をくりひろげたのか、皮肉にも証になっていた。
「っ……」
霊子で作られた滅却師の矢を肩から引っこ抜き、即席の治療を施そう自らの隊服に手を伸ばす。そこでこの世界には鬼道があったことを思い出し、その事に苦笑しつつ行く手を失った手を肩へと向ける。
「……よし」
完璧とは言えずともひとまず傷が塞がったことに安堵しつつ、刀にこびり付いた血を払い再び戦場を走ろうとする。
「――――っ!?」
直後だった。再び動こうとした佐原ヒユの身体に凄まじいプレッシャーが襲いかかる。刀を構えようとする気力すら奪うそれは、やがてヒユの頭上を通過して行った。
「……炎?」
この雨の中、辺りの雨を蒸発させながら一点の方へと向かった炎を、ヒユは見た。
――――――――――――
「っ!」
炎を見た数分後、ヒユはそれを追い掛けて走っていた。途中にも数え切れない程の滅却師と鉢合わせたが全員もれなく余裕で退けた。
「たす、けて……」
「!?」
突如近くから聞こえた声に驚愕し、足を止める。声がした方向を向けば白い白衣のようなものに身を包んだ人が倒れて蹲っていた。その場所には夥しい程の血が流れ彼女の命がもう長くないということを悟らせる。
「大丈夫……?」
そっと怒りを堪えながら、微笑みを向けてその女性を抱える。大丈夫な訳がない。今にも泣いて叫び出したいはずだ。
だが抱いた瞬間の違和感――視線を動かせば、彼女の下半身は瓦礫に隠れて見えなかったが、既に亡き別れになっていた。
「っ……」
凄惨な身体に思わず目を背けそうになるヒユ。だが彼女は、虚ろな目を確かにヒユへ向けて口を動かした。
「技…術開発の皆が……く、くいんしーに、皆が…みんなが…たすけて、みんなを、おね、おねがい…」
その言葉を最期に、ヒユに伸ばされた手はぐったりと、べちゃりと音を立てて地面に落ちる。
「……」
痛かったろうに、苦しかったろうに、だが彼女は最期まで仲間を思い続け、動けない身体と今にも消えそうな意識を繋ぎ止め、助けを呼び続けたのだろう。
「……うん。わかったよ」
開いたままの目を優しく閉ざし、彼女の身体がこれ以上蹂躙されないように優しく隠す。
同時に辺りの霊圧を探る。彼女が言う技術開発局は思ってたよりも近く、そこで大量の霊圧が消えていくのを感じた。
「私が護るから」
直後、彼女の姿はその場所からフッと消えた。
「何やってんだ……兜丹坊ッ!!!」
尸魂界、技術開発局では、地獄のような絵面が展開されていた
だが目の前で起こっている事は、ただの侮辱と蹂躙だった。味方だったはずの者が仲間を襲い、滅却師が襲い、もはや誰が味方で誰が敵か、頭が狂いそうになる。
今現状、先程まで巨体を大きく動かし滅却師を蹴散らしていたはずの兜丹坊が、突如こちらを襲い、隊員を次々肉塊へと変えていく。
「クソ……」
様々な場所に傷を作っても尚その場から離れない十二番隊第三席――阿近は歯噛みする。敵の情報が少ない中、自分達は戦えない分全力で裏方に徹した。黒崎一護に変わる逸材も恐らくこちらに来ている。
敵に何時かはここがバレるということをしっかりと視野に入れている。
「全員バックアップはとったな!ここから離脱するぞ!」
「鵯州、テメェも逃げるぞ!――何やってんだ!」
冷静に考えつつ、滴る冷や汗を拭い共に生きて来た仲間である鵯州へと声をかけた。だが鵯州は鬼道を縫い合わせ前へと出る。
「てめぇも行くんだよ阿近。今お前がいなくなったら、誰が技術開発局を指揮するんだよ――」
次の瞬間、鵯州が横に立っていた味方に短刀で刺される。あの位置は致命傷だと、阿近は嫌でも理解する。
そして、兜丹坊が、その大きな巨体をこちらへと向け……拳を阿近や鵯州に向けて構える。
(――ここまでか)
隊長は生きている。ネムも居る。自分がここで死んでも――――
目を瞑り、大人しく死を待つ阿近。
「……?」
だが、いつまで経っても受け入れたはずの死がやってこなかった。閉じていた目を開けて、前を見る。
「っ……!!」
目の前には、身の丈程の大刀で兜丹坊の攻撃を受け止めている少女の姿が目に映った。次の瞬間その華奢な身体の何処からか分からなかったが、兜丹坊が押し返され倒れる。
「お前は……」
「助けに来ましたよ」
声、凛とした声。それで全てを察する。彼女が――佐原ヒユだということに
「……そうか」
そして同時にその大剣が斬魄刀だということに気付く。始めてみる形状のソレに目が奪われそうになるが一先ず抑える。
「かなりやられた……もう誰が死んで誰が生きてるのか、誰が味方で誰が敵なのかわからん。恐らく敵の能力だが、ソイツが何処にいてどんな力で操るのか……それすら不明だ」
即座に思考を切りかえた阿近は、目の前に立つ紅く染まった少女に今持ちえる情報を伝える。
直後、ズゥゥンと音を立てて倒れていた兜丹坊が起き上がる。いつもは頼もしいパワフルさと粘り強さが今はとにかく憎い。
「あの人は、尸魂界の人なんですよね」
「ああ……だが今は操られて、そこら中の死体は大半奴がやりやがった」
「助ける方法は無いんですか?」
「……わからん。それにあいつ自身はもう――」
その先は言葉にする必要すらなかった。既に兜丹坊は絶命している。死んでも尚動き、ありえない身体の可動域、もはや侮辱だ。
「分かりました。ごめんなさい」
直後、大剣を携えた彼女は目の前の兜丹坊へと歩み寄る。
「はっ……!」
兜丹坊の殺人級の拳を易々とかわし、次の瞬間に刃は首元へ伸びていた。一閃、その言葉が似合う光景に阿近は息を飲む。
(なんて戦闘センスだ……情報に拠ればコイツはまだ戦い始めて数ヶ月も経ってないと聞いたが……!?)
倒れ込み、息絶える兜丹坊、彼女はそっと倒れた兜丹坊に手を添えて、小さく囁いた。
その横顔は、悲痛に染っていた
「おいおい、アイツやられたのかよ」
だがその彼女の心を踏みにじる様に、滅却師の男が現れる。
「……」
「今まで殺した雑魚とは違うなお前、丁度いい。お前の首を持ち帰り陛下に届けるとしよう。雑魚も狩り飽きた所だしな」
ヒユは何も話さず、後ろへと向いた。男は1人だった。もはや見飽きた白いマントの下にヒョウ柄の服を着用し、眼鏡をかけていた。
「俺は星十字騎士団シャズ・ドミノ、与えられた力は――」
直後ヒユは自己紹介をするシャズドミノの横へと瞬歩を使い移動する。
「死んで」
冷たく言い放った一言。それと同時に男の身体を真っ二つに斬り落とす。
「お前がな」
「っ!?」
だが男は死ぬどころか、斬られたはずの身体をくっつけ五体満足のまま立っていた。そのままクナイ型の武器を突き立てられヒユは驚愕する。何とか瞬歩を使い近接戦闘を回避する
「つっ……!」
肩に刺さったクナイを乱暴に抜き捨て、目の前の男を睨む。
「仕切り直しだ。女――俺は星十字騎士団シャズ・ドミノ」
男は眼鏡を動かし、真っ直ぐヒユを見つめる。両手にはクナイを三本ずつ構えていた
「与えられた力はスティグマ、テメェには一生俺を殺せねぇよ」
「っ!」
直後、佐原ヒユと、シャズドミノによる戦いが始まった。
「っ!!」
「ハッ!!!」
シャズドミノが使うクナイとヒユの大剣がぶつかり大きな火花を散らす。
(コイツ……中々やるっ!!)
本来力比べなら見た目からもヒユの方が圧倒的に有利のはずなのに相手は上手く力を逃がして受け止めていた。その間にも周りの雑兵が弓を放つおかげで1箇所に留まれない。
(それにあのクナイは遠距離も対応してる…数も恐らく無限にある……!!)
完璧に数の差で不利だ。それにヒユをさらに不利にしている条件があった。
「早く行かないと死んじまうぞぉ!!」
「危ない……っ!!!」
技術開発局の隊員達だった、怪我した者や恐怖によりその場から動けない者が残るこの戦場で、他人を見捨てられないヒユは圧倒的に不利になる。
そして戦い始めてすぐその弱点はシャズドミノにバレてしまっている。
「はぁ……はぁ……」
一方的に消耗させられる。考えようとしても雑兵による攻撃、そしてシャズドミノ自体もかなりの手練。
(――卍解を)
未だ霊圧は不安定だが、卍解をすれば恐らく一気にカタをつけられる。初動の時に身体を真っ二つにしても直ぐに再生していたのが気掛かりだが、それなら再生するよりも先に全て切り取らせばいい。
「お前、さては情報にあった異分子だな」
ふと、ヒユの動きが止まる。
「……だったら何」
「そんな冷たく反応するなよ、傷つくだろ?」
飄々と、だが横柄な態度のシャズドミノに正直ヒユはイラついている。それに先程までの行動など全てが不愉快だった。
(落ち着け私)
息を整え、辺りの霊圧を探る。幸い後ろには阿近がまだ居た。彼ならきっと少しの情報も逃さないような気がする。ヒユは何となくだがそう感じていた。
「……」
不愉快な敵、だが今は少しでも情報が欲しい。アイツの言うダーテンというものがなんなのか。気になることは色々とある。
(情報を引き出す、少しでも……っ!!)
「今度はそっちから来るか!!」
暫しの休憩を終え、今度はヒユが責め込む。上から振り下ろした大剣をシャズドミノは腕を斬り落とし回避。斬り落とす対象を失った大剣は地面へと突き刺さり辺りの地面がえぐれる。
「おお……怖い怖いっ!!」
「っらぁ!!!」
失ったはずの腕を即座に再生したシャズドミノが今度はクナイを刺そうとする。だがヒユはそれを年頃の女の子らしからぬ声と共に回避。
女性の身体の柔らかさを盛大に利用した蹴りがその手にぶつかり、骨が折れる音と共にクナイが転がり落ちる。
「さすが異分子、アイツら死神みたいに馬鹿正直な手段でしか戦わない訳では無いなぁ!!」
「なんでそうバカにすることしか喋れないの!!」
言葉と言葉、刃と刃がぶつかる。
「馬鹿みたいだよな、不意打ちは卑怯とか!!陋劣だのなんだの!!」
「っ!!このっ!!」
雑兵が弓を放つ。それを瓦礫を巻き上げ盾にしつつ後は大剣を振り回した際に起こる風圧で全てへし折る。
その瞬間に懐にシャズドミノが潜り込んでいた。
「俺達がやってんのは戦争なんだよ!!果たし合いじゃねぇ!!」
「っ!!」
クナイが腕に刺さり、痛みで怯みそうになる。だがそれを歯をかみ締め堪えそのままシャズドミノを斬る。
「……っ!!」
「何度やっても無駄だ、なんでそれを理解しないかな!!」
1本、2本と、彼女の身体にクナイが突き立てられる。
「っ……うあああっ!!」
痛みを全て怒りへと変え、目の前の男に斬魄刀を振るう。だが今度は両断では無く――静血装により受け止められてしまう。
「良く狙って斬れよ!」
「おごっ……!?」
まるで舐めプをするかの如く、手に持ってるクナイでは無く肘でヒユの腹部を殴り飛ばす。華奢な身体が後ろへと吹き飛び瓦礫を撒き散らかす。
「げほっ……」
血を吐き出し再び立ち上がるヒユ。だがシャズドミノは追撃してこなかった。
「そうら、死んじまうぞッ!!」
だがその代わりに、瀕死の技術開発局隊員目掛けクナイを放り投げる姿が見える。
「危ないっ!!」
考えるよりも身体が動いてしまい、回避も防御も間に合わずその身体にさらにクナイが刺さる。
「っ……ごぼっ……」
「お、俺のせいで……」
さらに血を吐き出すヒユに、守られた隊員が後悔の声を漏らす。
「大丈夫……大丈夫だからっ!!」
直ぐに彼を抱えて阿近の元へと瞬歩で移動する。
「お前、このままだと死ぬぞ……!」
隊員を少しずつ避難させている阿近は、ヒユのその戦い方にいてもたっても居られなくなってしまう。
今も、どの道この隊員は助からない。それは彼女自身も分かっていたはずなのに自らを犠牲にして助けた。
彼女の根元は、戦いに向いていない。恐らく仲間が居れば彼女の刃は鈍るのだろう。
「皆を護るって、約束したんです。私が――」
まるで呪縛の様にも見える彼女の言葉、再び前線に向かおうとするヒユの肩を掴んで阿近が止める。
「っ!!」
次の瞬間、ヒユの頬を阿近が盛大に叩いた。
恐らく案外意外な対戦カードだと思われてると思うんですよね。
俺も最初、もし兵隊以外をぶつけるなら誰かなぁと、そこで思いついたんですよね。
黒崎一護に瞬殺されたこいつ使えばよくねと、本来なら力の名前もスティグマでは無く、ちゃんとしたやつでやりたかったんですけど、ハーメルンとかだと文字にできなかったみたいで…仕方なくカタカナに…無念です。
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