死神の幻想   作:エヌラス

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まるちゃん……(イベスト閲覧後の発作)


114.好きな人はいますか?

 

 

「ねぇ、それってどういう事?」

 

佐原ヒユは、ミユから差し出された手を即座に取ることはなく只々、純粋な疑問を投げ掛けていた。

 

何故目の前の彼女は、ヒユに力を与える所か、帰ることを推奨するのか。私達の居るべき場所とは何なのか……

 

今の一瞬で、ヒユは様々な疑問が浮かんでいった。

 

『ヒユちゃんはさ、セラフ部隊として死んだ時……その後自分がどうなってたか覚えてる?』

 

「うん……」

 

忘れるはずがない、忘れてしまえる訳が無い。

 

 

 

『……また、死んだのね』

 

毎日毎日、誰かの棺桶が運ばれてくる葬儀場に1人佇んでいた。誰かの命令を受けた訳でもなく、頼まれた訳でもなく、ただ、誰かに気づいて欲しかった。そして仲間を殺したキャンサーを討ち取ってほしかった。

 

 

自分達の後の部隊、葬儀場に来る彼女達とコンタクトを取ろうとしたこともあった。だが毎回尽く失敗し、いつしか彼女は自分から動こうとすることを辞めた。

 

『どうして私はここに居るの……?』

 

何故自分だけ仲間の所へ行くことは無くこの場所に留まらされているのだろうか。いつしかヒユはそれが自分に与えられた罰なのだと思うようになった。

 

隊長としてキャンサーを殲滅することも出来ず、未確定の情報で仲間を殺し、自分の命さえも落としてしまった自分に対する罰なのだと、ヒユは思うようになっていた。

 

 

 

そして部隊は31の代になった。それから数日したある日、ヒユはかつてないほどにザワつく胸を抑えるのに必死だった。

 

全てが見えている訳では無い、だが死に、誰にも気づいてもらうことすらない彼女は、自分の視界の半分を覆う光景にただ目を疑うばかりだった。

 

空座町という町、そこに存在する身の丈程の太刀を持ったオレンジ髪の少年。

 

ヒユは彼に可能性を感じた。だがどうやって接触すればいいのか、分からなかった。寧ろ彼が生きている場所は、本当にこの世界のものなのだろうか、それすら怪しいレベルだった。

 

『お願い――届いて――!!』

 

だからひたすらに、がむしゃらに、必死に、手を伸ばした。どんな手段でもいい、どんな道を辿ってもいい、彼をこの世界に呼べばきっと何か凄いことが起こる。

 

その自分の直感だけを信じて……

 

 

そしてそれは見事的中した、彼は31Bの柊木梢と出会い、彼女が持つ不思議な力と彼自身の秘めた死神の力が、彼女の消えかけていた魂をここに留めさせてくれた。

 

彼は話をしてくれた、今はもう覚えてないけど、たくさんの他愛もない話を。

 

今まで一人で悩み続けたヒユにとっては、誰かと会話できる事そのものに心を救われた。

 

今でも思い出す。隣に座る彼の、斬魄刀に触れた時の感覚。

 

そして彼らは見事ヒユ達の因縁を断ち切ってくれた。そしてヒユも思い残す事はないと思い、柊木梢の不思議な力によって役目を終えたはずだった。

 

 

「……そっか」

 

そこでヒユは小さく声を漏らした。横に立つミユが手を再び差し伸べる。

 

「行こう、ヒユちゃん。また皆で一緒に沢山話をしよう。私達も話したいことが沢山あるんだよ?」

 

差し伸ばされた手、小さくともその中には無限の勇気が秘められていると感じさせる。そんな不思議な手。

 

 

「ごめん」

 

「あ……」

 

 

 

だがヒユはその手を優しく振り払った。振り払った瞬間、悲痛な声がミユの口から発せられ、ヒユの心を大きく締め付ける。

 

 

 

「昔話したことあったよね。好きな人の話」

 

引き戻されそうになる心を懸命に押し戻し、ヒユは口を開いた。ヒユの言葉を聞いた彼女は手を元の位置に戻して、ただ頷いて聴いてくれていた。

 

「……うん」

 

「私は皆が好き、ミユ達ももちろんだし、ほかの部隊の人達も大好きだった」

 

 

「でもこの”好き”って気持ちはミユ達とは全く違うの」

 

「……」

 

 

 

「ミユ、私は今……好きな人がいるよ」

 

 

 

ひと呼吸入れ、優しく微笑みその言葉を口にするヒユ。

 

 

目の前に立つ彼女は今、とても輝いている。

 

 

 

「そっか」

 

その輝きの発端が、自分たちじゃないことにちょっと妬みながらも、ミユは頷いた。

 

「あの人が居る世界も好き。そしてあの人も好き、だから私は護りたい。あの人が私達の世界で私達の仲間を護ってくれているように、私も、護りたいの!」

 

拙いけど、心のままに言葉を伝えるヒユ。

 

 

(そんにまっすぐに言われたら、私はどうしようもないなぁ)

 

傷つく彼女をもう見たくなくて、彼女を連れ戻そうとして、自分はここに招き入れた。

 

だが彼女の言葉を受けて、ミユの心は大きく揺れ動いた。彼女を連れ戻そうとする意思は……彼女を最後まで見守りたいという意思に変わりかけていた。

 

「……その人は羨ましいなぁ」

 

「……え?」

 

「なんでもない!」

 

不意に、ミユの口からそんな言葉が漏れる。ヒユには聞き取れなかったようだが、これは確かに彼女自身の本心だった。あんなに気持ちを寄せてくれる、黒崎一護はきっと幸せ者だ。

 

 

 

「――ヒユちゃん、私達がなんで斬魄刀の中に居るか、知ってる?」

 

「……」

 

崩壊していく見慣れた世界が、突如暗闇の空間へと変わる。そこにはヒユとミユの2人きり、そして光は……ミユの手の上にあった。

 

煌々と煌めくソレを――ミユは大事そうに持つ。

 

「”鍵”だよ」

 

「鍵……?」

 

「そう、私達はヒユちゃんと同時にこの世界に来た。ヒユちゃんは死神として……私達は斬魄刀の鍵として」

 

「じゃあ最初から……」

 

最初からずっと、私達は一緒にいた。それに気づいた瞬間、ヒユの胸に様々な感情が溢れ出る。

 

「うん……私達はヒユちゃんを護りたくて、この輝きの中にある力の鱗片を与えてきた。時に黒崎一護が1番初めに持った太刀のように、時にヒユちゃんがイメージした力のように」

 

「でも全てを私にくれた訳じゃ、ないんだよね」

 

ヒユの言葉に、ミユは小さく頷いた。その顔には、渡さないという結論に至るまでの葛藤が、押し込められている気がして……でもヒユは聞いてしまった。

 

「……どうして?」

 

「ヒユちゃんを、危険から、戦いから遠ざけたいっていう私達の気持ちだったの」

 

「……ミユ」

 

「この力の全てを渡してしまえば、ヒユちゃんはきっと大勢の人を助ける為に動く。その果てにどれだけ自分の身が傷つこうと、決して止まることはないと思う」

 

そう答えるミユの言葉に、嘘はひとつも無かった。そんな彼女の言葉を、ヒユはただただ黙って聞いていた。

 

 

「私達の世界でもあれだけ傷ついて、悩んで、悔いて、なのにまたこうして、ここでも貴女が傷付く所を……私達は見たくなかった」

 

「……ミユ、ごめん」

 

「ううん、謝ることじゃないよ。それに私達もこんな意地悪みたいな真似してごめんね」

 

「それこそ謝らなくていいの、もっと私がそれに早く気づいていれば……!」

 

その時だった、先程まで暗がりだった世界にピシッと音を立てて亀裂が入る。

 

「っ!?」

 

「……時間だね」

 

「時間……!?」

 

「そう、ヒユちゃんはまだ諦めてない。そして貴女の横にいる彼女も……ルキアさんもまだ諦めていない……呼ばれてる、彼女に」

 

 

 

「ルキアさん……っ!!」

 

 

 

ヒユの瞳の奥に、ズタボロのルキアが浮かぶ。今すぐに駆け出して行きたいが、目の前に居る彼女達に背中を向ける事が今のヒユには出来なかった。

 

 

 

何故なら――

 

 

 

 

 

 

「――ヒユちゃん、今の貴女は強い」

 

 

 

 

 

 

 

――彼女の身体もまた、下から順に崩壊を始めていた。

 

 

 

「お別れ……なの?」

 

 

 

本能的に、直感的にヒユは悟る。ミユはその問いに小さく頷いた。

 

「この光はヒユちゃんの斬魄刀の全て。それを渡せば必然的に鍵は空いて、私達も居なくなる」

 

「そんな……っ!」

 

「泣いちゃダメだよ、ヒユちゃん」

 

「どうして……、どうしてそんなに嬉しそうな顔をするのよ……ミユ!」

 

光を持つミユは、ヒユとは違って笑みを浮かべていた。今にも消えそうなのに、今こうしている間にも崩壊しているのに……

 

 

「ミユちゃん、貴女は強くなった。その成長を私……私達はずっと傍らで見守る事ができた。1番近い場所で」

 

「っ……」

ヒユの視界が涙で揺らぐ。目の前で消えていく彼女を最後まで見届けようとしても、次から次へと溢れてくる涙が邪魔をする。何度も拭っても、それが消える事はない。だが少女は何度も拭う、一瞬でも視界に入れる為に

 

「私達が持つこの光は、ヒユちゃんの力の全て。貴女はもう……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一人で戦っていける。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言った瞬間、目の前にいたミユの身体は完全に消え、光の粒子となって宙を漂っていた。

 

『受け取って、ヒユちゃん』

 

「……っ!」

 

目の前に漂う光を手に取る。指先に触れた瞬間、優しい温もりを感じたヒユが、堪らずにそのまま胸へと寄せる。抱き寄せるようにヒユに触れた光は、やがてヒユの中へと入っていく。

 

 

 

 

『そこに、ヒユちゃんの力の根源があるよ』

 

 

 

最後に聞こえたのはミユの声、ヒユは胸の内にある光が大きく脈動するのを感じながら目を伏せる。

 

 

――かつての記憶が、ヒユの脳内に溢れ出す。





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突如、佐原ヒユの脳内に溢れ出した…存在しない記憶。
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